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再会メモリーズ 2(完結)
まだ1ヶ月あると思っていた同窓会の日は、あと3日後に迫っていた。だからといっても、銀時は別にそこまで焦ってはいなかった。女の子のように綺麗に着飾る為の準備も前もってする必要もないので、バイト先に休みの申請だけを忘れないようにするくらいだった。勿論土方のことが気にならない訳ではなかったが、来るか分からない現状ではジタバタしても仕方ないよなと、どこか割り切ってもいた。





3年振りに会う級友達は、とにかく懐かしかった。会わない内に随分と雰囲気が変わった者も居れば、そのままで大して変わらない者も居た。貸し切り状態の居酒屋内は、テーブルごとに既に幾つかのグループができあがっており、高校生の時の思い出話や最近の近況に花を咲かせていた。銀時は適当に相槌を打ちながら仲間達の話を聞いていたが、酔った彼らから離れるようにテーブルの端の方に移動して、静かにカクテルを飲むことにした。同窓会と称したこの飲み会が始まってそれなりに時間が経っていたが、土方が現れることはなかった。やはり今でも好きな相手であるから、できれば一目会いたいとは思う。だがその一方で自分がしてしまったことを思い出して、土方がこのまま来なければいいのにとも思えて仕方なかった。銀時が何杯目かの甘いカクテルの味を舌の上で味わっていると、不意に入り口付近で歓声がした。振り向かなくても分かった。誰が来たかなど。


「土方〜、来るのが遅いぞ。やっぱりイケメンが主役じゃないとな〜。」

「わりぃな、遅れちまった。」

「いいっていいって。さぁ飲もうぜ。」


銀時の背後で、記憶の中より少しだけ低くなった声が聴こえた。じっと耳を澄ましていると、土方がそのまま入り口付近のテーブルに座る気配がした。部屋の奥のテーブル席に座っていた銀時は、勇気を出してゆっくりと後ろを振り返った。だが土方は、級友達に囲まれ話に盛り上がっているようで、銀時の視線に気付いた様子はなかった。


「土方…」


聴こえてしまわないように小さく呟いた。久しぶりに見た土方は付き合っていた頃よりも随分と大人びて格好良くなっており、黒のジャケットが良く似合っていた。パーカーにジーンズ姿の適当な自分とは大違いだ。自分と土方との間に確かな時間の隔たりを感じて、銀時は泣きそうになるのを笑って誤魔化した。先ほどまで飲んでいたカクテルも急に味気ないものになり、銀時はこのまま同窓会を抜けて帰ろうと思った。本当は土方と話をしてきちんと謝って、自分の気持ちを分かってもらいたかった。けれどもいざ土方に会ったら、そんな気持ちも萎んでしまった。好きだけど無理なものは無理なのだ。だって自分は傷付くことが怖いただの意気地なしなのだから。


銀時は席を立つと、偶々近くに居た幹事の女の子に用事があるからこのまま抜けることを伝えた。彼女は残念そうな顔をしたが、また皆で集まる時は絶対に来てねと笑顔を向けてくれた。銀時も笑顔で頷くと、土方を見ないようにして俯きながら、彼から距離を取るようにして足早に居酒屋の玄関へと向かった。多分周りの皆はトイレに行ったくらいに思っただろう。ほっと息を吐いて居酒屋を出ると、早春だからか外はまだ少し寒かった。銀時は持っていた薄手のコートを羽織ると、これからどうしようかなと居酒屋の前で思案した。このままアパートに戻ろうか、それとも近くのファミレスでパフェでも食べるか。やはり今日はもうこのまま帰ろう。何だかすごく疲れている。銀時はアパートへの道を歩き出そうとしたが、突然肩を掴まれ誰かに振り向かされた。そして目の前に立っていた人物に驚いて大きく目を見開いた。


「このまま帰るつもりかよ、銀時。」

「っ、それは…」


銀時、と名前を呼ばれ、何も言えなくなってしまっていた。あの日別れを口にした時にはすらすらと喋ることができたのに、今の銀時は口を開いたまま声を出すことができなかった。そのまま押し黙っていると、土方が銀時と再び名前を呼んだ。


「お前、今一人暮らしか?」

「え?あ、うん。…ここから歩いて10分くらいのアパートに住んでるけど。」

「お前が帰るなら、俺も一緒に行く。…話があるからな。」

「なっ…土方は戻れよ!せっかくの同窓会だろ。」

「お前と話すことの方が大切だ。」


頑として譲らない土方に結局どうすることもできず、銀時は土方と一緒にアパートに帰ることになった。土方も自分も終始無言だった。好きな人がすぐ隣に居て胸が締め付けられる感覚と、これからどうすればいいのかという混乱で、銀時はその場から逃げ出したくて堪らなかった。



*****
アパートの玄関のドアを閉めた後、銀時は最初自分の身に何が起こったのか分からなかった。すぐ目の前には昔よりずっと整った土方の顔が広がっており、自分は彼に腕を引かれてそのままキスされているのだと理解した。土方は銀時の体をドアに押し付けるようにして強引な口付けを続ける。土方とのこんなキスは初めてで、銀時は無意識に土方の腕に縋った。


「ん…ひじ、かた…」

「銀、時…」


長いキスから漸く解放されたが、銀時は突然のことに足の力が抜けて、そのままずるずるとしゃがみ込みそうになった。だが力強い腕が伸びて、銀時の体を抱き締めた。優しく腕を回されてしまえば、全てがもうどうでも良かった。このまま時間が止まればいいのに。銀時は土方の腕の中でそんなことを考えた。


「話があるって言った癖に、お前の顔見てたら…やっぱり我慢できなくなっちまって…」

「土方は…土方は、俺のことなんてもうどうでもいいはずだろ。だって高3の…」

「どうでもいい訳ねぇし、嫌いにもなってない。」


射抜くような視線を向けられ、銀時の心が震える。自分の中に生まれた嬉しさや戸惑い、期待を誤魔化すように、このまま玄関じゃあれだろと銀時は土方を部屋に案内した。炬燵を片付けて少し広く感じるリビングのソファーに向かい合って座った。しかしいざ向き合うと、何から話していいのか分からなくなってしまったかのように、お互い静かになった。どうやって話そうと思っていると、沈黙を破るように土方がジャケットのポケットから煙草の箱と携帯灰皿を取り出した。


「煙草、吸うんだ。…そういえばさっきのキス、ちょっと苦かったし。」

「まぁな。…銀時は今も甘いモンばっか食ってんのか?」

「勿論。週イチパフェ〜。」


煙草を吸おうとした手を止めて、お前は変わらねぇな、と土方が目を細めた。


「会わない内に煙草吸ってるし、格好良くなってるし…俺の知らない部分もあると思う。けど、やっぱり土方だって変わってなかった。その笑った顔は一緒に居た時と変わってない。…俺、何怖がってたんだろ。何であの時土方を傷付けるようなこと、しちゃったんだよ。」


あの日の別れの後悔や辛さが鮮明に蘇って、耐えるようにグッと唇を噛んだ。土方の顔を見ることができなくなり、俯こうとして、再び全身に優しい温もりを感じた。あの時、お前の気持ちに気付いてやれなくてすまなかった。離れてから、俺も何度もお前に会いに行こうと思った。けど、また拒絶されたらって思うと怖かったんだ。本当にすまねぇ。耳元で熱い吐息と共に土方の声が響いた。土方の言葉に、遠回りしてしまった自分達がやっと戻って来れたと感じた。土方は全然悪くないと伝えようと、銀時は抱き締められたままふるふると首を振った。


「銀時、俺の話なんだが…」


土方が少し体を離して銀時に向き直る。どこか改まった土方に銀時もつられて背筋が伸びた。


「お前、このまま地元で就職するつもりだよな?」

「え…?うん、一応そのつもりだけど。」

「俺も向こうの大学卒業したら、こっちに帰って来ようと思ってる。…それで、卒業したら、一緒に暮らさねぇか?…もう銀時と離れたくない。」

「ちょっ、それ…」


あまりにも嬉しくて、じわじわと頬に熱が集中していく。土方も少し恥ずかしいのか、うっすら耳が赤くなっていた。


「ああ、プロポーズと思ってくれていい。…だから待っててくれ。」

「仕方ないな〜、なんてね。……ありがとう、土方。俺のことずっと好きなままでいてくれて。」

「当たり前だろ。俺がお前のこと忘れたり、嫌いになんてなる訳ねぇ。だから、必ず迎えに来る。」

「うん、待ってる。俺の大好きな土方のこと。」


約束の指切りの代わりのように、どちらからともなく唇を重ねた。瞼の裏に居たはずの土方は、銀時が見とれるほどになって、すぐ目の前で優しく笑い掛けてくれていた。ただ幸せで、それがこれからも続いていく未来を思い描いて、銀時は嬉しさ一杯の笑みを浮かべた。






END






あとがき
金魂篇の銀ちゃんの同窓会シーンに萌えてしまいまして、土銀でやってみました(´∀`)何の捻りもないですが、楽しく書けました。


学生土銀の妄想もやっぱり良いですねv同窓会で再会しても銀ちゃんは可愛いままであまり変わってないと思いますが、土方さんはイケメン度が上がっていそうです。土方の奴、格好良くなってるとか、銀時…すげー綺麗になってんじゃねぇか、とお互いドキドキしていれば良いですよね♪


読んで下さいまして、どうもありがとうございました!

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あきゅろす。
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