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確かにここにある想い
銀時←土方




本当に土方の奴のこと、誰かどうにかしてくんねぇかなぁ。俺、本気でそろそろ耐えきれなくなりそうなんだけど、マジで。最近、銀時は街を歩く度に偶然なのか、果たしてそうでないのか分からないが土方に会うことが多かった。会うだけならば、すれ違い様に少しだけ口喧嘩もどきのようなことをしてそれで終わりだ。なのに土方は真剣な瞳を銀時に向け、真面目な顔で自分のことを好きだと言ってくるのだ。初めは何の罰ゲームかと思った。どうせ沖田君辺りに何か弱みでも握られたクチだろ〜、と銀時も真剣には取り合わなかった。だが毎回会う度に好きだの、俺と付き合ってくれねぇかだのと言われ続け、さすがに銀時もひょっとして土方は冗談じゃなくて、本気なんじゃ…と思うようになっていた。そんな風に思うようになって、いつだったか、確かパチンコの帰りに巡回中の土方に会った時だったと思うが、銀時は思い切って土方に言ったのだ。告白されても付き合う気はないと。


「…だって俺、男だよ?お前に限ってあり得ないと思うけど、例え女に困ってたとしても、男に手なんか出したら駄目だろ。土方君もそこまで馬鹿じゃないでしょ〜。」

「俺は銀時が好きだ。男とか女とか関係ねーんだよ、俺には。…銀時、お前だから好きになっちまったんだ。理屈とかじゃねぇ。…だから俺と付き合ってくれ。」

「だから、土方、無理だって…俺は…」


別にお前のこと嫌いって訳じゃねぇけど、付き合うってなると話は違う。何度も自分に想いを告げてくる土方に諦めてもらおうと思っていたのに、土方の剣幕に押されて結局銀時は強く言うことができなかった。そしてそれは今現在も続いていて、土方に愛を囁かれ続けている訳だ。何となくだが、今ならお妙の気持ちが理解できる気がする。好きでもない奴に毎回好き好き言われたら、そりゃあ殴りたくなるって。あんなのはゴリラだけで十分だっつの。ここ最近の銀時は土方の扱いに困り果て、持て余している状態だった。


「…本当に今度会ったら、しつけ〜って殴ってやろっかな。」


万事屋の居間のソファーに寝転んでジャンプを読んでいたのだが、土方のことを思い出してしまった銀時は、はぁ〜と溜め息を零すと、静かな部屋の中でそっと片手で顔を覆った。



*****
通りの向こうから見知ったというより、会い過ぎてもう夢にまで出て来そうな人物が歩いて来るのが見えて、銀時は思わずげっ、と上擦った声を出してしまった。新八に暇で部屋でジャンプを読んでいるくらいなら買い物にでも行って来いと言われたのだ。こんなことなら意地でもジャンプを読んでいれば良かったと、銀時は激しく後悔していた。


「銀時…何だ、買い物帰りか?今日も相変わらず綺麗な髪だな。」


土方が気付いて駆け寄って来る。銀時は今さらながらに、どこに居ても目立つ自分の銀髪を恨みたくなった。これでは土方を無視して帰るのは無理そうだ。銀時は観念したようにそうだけど、と頷いた。銀時と会えて嬉しそうにしている土方はいつもの窮屈そうな隊服ではなく、着流し姿だった。非番の日にまで会うって、俺どんだけ運ないんだろうな。銀時は土方にばれないようにこっそり溜め息を吐いた。


「なぁ、銀時。今大丈夫か?もし良かったら、この近くの団子屋にでも行かねぇか?奢ってやるよ。」

「え…?」


銀時は一瞬だけ迷った。今はちょうど午後も過ぎていて小腹が減っている頃だった。糖分大好きな自分には団子は魅力的だ。だが土方について行ってしまえば、勘違いさせてますます行動がエスカレートするかもしれない。銀時は頭の中で団子と土方を天秤にかけようとした。


「あっ、おい、土方…」

「迷ってんなら、付き合えよ。評判の店らしいし。」


気が付けば土方に腕を掴まれ、早足で後ろを歩いていた。銀時は恥ずかしくて土方に手を離すように訴えたが、綺麗な男らしい手はそのまま銀時の腕から離れることはなかった。





土方に案内され、2人は通りにある和風な佇まいのこぢんまりとした店の前に来た。時間が時間なので、店には休憩がてらに団子を頬張る客がたくさん居た。土方はみたらし団子皿に一杯頼む、とぶっきらぼうに初老の店主に告げると、銀時に店の外に誂えられた即席の席に座るように促した。2人掛けの長椅子のような席には赤い敷布が掛けられ、大きな番傘が日除けのように立てられていた。大人しく座る銀時のすぐ横に、さも当然というように土方が座ろうとしたので、銀時は自分と土方の間にすかさず持っていた買い物袋を置いた。土方が自分を見るのが分かったが、銀時は譲れなかった。これ以上近くに来られたら色々と心配だった。土方が何か言い掛けようとしたが、店主が小皿に山盛りになったみたらし団子を運んで来たので、銀時は皿に手を伸ばした。


「…本当だ。このみたらし団子、すんげ〜上手い。」

「そうか、上手いか。」


自分のことのように嬉しそうに目を細める土方に何も言えなくなってしまい、銀時は小さく頷くとみたらし団子を味わうことに集中した。一応少しは食べる?と聞いてみたが、土方は甘い物は苦手だと言って結局全ての団子を銀時に食べさせてくれた。銀時が食べている横で土方は終始楽しそうにしていて、銀時は調子が狂って仕方なかったのだった。



*****
ここ1、2週間は街に出ても土方に会わない日が続いていた。部屋でぼんやりとテレビを観ていた時に、つい先日真選組とどこかの攘夷浪士のグループとの間で、大捕物があったというニュースを見た。副長だから、多分事件の後処理なんかで忙しいんだろ。土方の奴に会わなくて済むから、こっちとしちゃあ好都合なんだけど。だが何となく銀時は変な気分だった。一緒に団子を食べたあの日に見た土方の顔が何故か頭に浮かぶ。楽しそうで嬉しそうで、だがどことなく困ったような眉尻が下がった笑い顔。初めて見る顔だった。好きだと告げる真剣な顔しか知らなかったから、あんな表情をされたら戸惑いが大きくて、どうしていいか分からなかった。




パチンコ帰りにいちご牛乳でも買って行くかと、コンビニのある道を歩いていると、久しぶりに感じる黒髪と隊服が目に入った。向こうも自分に気付いたようで、よぅと片手を挙げて近付いて来た。


「久しぶりだな、銀時。」

「うん、久しぶり…」


いつもならすぐに好きだ、とか今日も綺麗だな、なんて言ってくるのに土方はじっと銀時を見つめたままだった。これじゃあ何もできない。いつもみたいに何か言えよ。そしたら俺だって、何馬鹿なこと言ってんだよって普通にできるのに。銀時が下を向いてそう考えていると、無言のまま土方の腕が伸びて、銀時の手首を掴んだ。突然の土方の行動に銀時は驚いたが、そのまま土方が人気のない路地裏を進んで行く内に、さすがにこれから自分に何をしようとしているのか分かって青ざめた。土方の手を振り解こうとしてもびくともしない。どうしようと焦っている内に、銀時の体は路地裏の壁に追い詰められていた。


「銀時、好きだ…好きなんだ。」

「やめ…土、方…」


少し掠れた声が耳元で響く。土方の吐息をすぐ近くに感じ、銀時は動揺した。土方はそのまま銀時の体を抱き締めると、黒いインナーの中に手を差し入れた。自分に好きだと告げる時の照れくさそうで真剣な顔や、団子屋で見た時の優しい微笑みとは違う土方の男の顔に銀時は体が震えた。嫌だ。怖い。こんなの俺の知ってる土方じゃない。


「ぐっ…」


気が付けば無意識に土方の鳩尾辺りを殴っていた。小さく声を上げ、腹部を押さえて土方がしゃがみ込む。銀時は乱れた服を整えながら土方を見た。だが土方はしゃがみ込んだままだった。ちゃんと手加減はしたし、そんなに強く殴ってなんかねぇんだけど。不意に銀時の脳裏に数日前に見たニュースが浮かんだ。もしかして、土方の奴…銀時は地面にうずくまったままの土方の腕を掴むと、そのまま路地裏を抜けて万事屋への道を急いだのだった。



*****
帰って来ても、居間には誰も居なかった。新八はスーパーを梯子するから夕方まで帰らないと言っていたし、神楽も一旦遊びに行ったら暗くなるまで帰って来ない。銀時は安心したように息を吐くと、土方をソファーに座らせた。ほとんど訪れたことのない部屋を前に土方はそわそわしているようだった。


「おい、土方…脱げ。」

「え…?銀、時?」

「いいから隊服全部脱げって言ってんの。それでさっきのことはチャラにしてやるから。」


突然の言葉に土方が大きく目を見開いた。これではまるで自分が土方を襲っているみたいだったが、銀時は構っていられず土方を促した。土方も戸惑いつつも隊服を脱いでいく。白いカッターシャツのボタンが外され、現れた男らしいしなやかな体に巻き付いている包帯に銀時は眉根を寄せた。


「…やっぱ怪我してんじゃん。」

「ちょっとな。この前の攘夷浪士の大量捕縛の時に弾が掠っちまって…これくらい別に…」

「血、滲んでんじゃん。」

「本当はもう少し安静にしてろって医者に言われたんだが、俺にはやらなきゃならねぇことがたくさんあるんだよ。」

「…お前、本当に馬鹿だろ。」


銀時は土方の目の前に立っていたが、ちょっと待ってろと告げると、急いで居間を出て救急箱を取りに行った。そのまま土方の隣に腰掛けると、土方の腹部に巻かれていた包帯を解き、新しい包帯を巻き直した。黙って包帯を巻く銀時を土方も黙ったまま見ていたが、不意に小さく呟いた。


「手慣れてんだな。」

「…昔から慣れっこなんだよ。こういうことには。」

「白夜叉だったしな。伝説の攘夷志士の…」

「ちょっと、元だからね。元だから!」

「銀時…」


土方に真剣な声で名前を呼ばれ、銀時は息を飲んだ。


「何だよ。」

「言われなくても知ってるって話だが、俺はいつ死ぬか分からねぇ道を歩いてる。…明日もどうなるか知れない。だから、お前に会う度好きだって伝えちまうんだ。突然会えなくなって後悔したくねぇから…」

「土方…」

「だから、銀時、俺は…」

「…今度さ、こんな風に怪我した時は…俺んとこ来いよ。」


自分でも何を言っているんだという自覚はあったが、もう止まらなかった。土方が信じられないという表情で銀時を見つめる。銀時は困ったように視線を逸らすと腕を組んだ。


「い、言っとくけど、タダじゃないからね。それ相応の甘味を奢ってもらうからな。」

「銀時!」


土方が幸せそうな顔になって銀時を優しく抱き締めた。抱き締めてくる腕を振り払おうとして上げかけた腕を下げると、銀時は大人しく土方の胸の中に収まった。


「…絆されちゃったのかなぁ、俺。」

「銀時、何か言ったか?」

「何でもね〜よ。」


腕を回したまま顔を覗き込んでくる土方にそう答えると、少しだけ土方の体にもたれ掛かった。土方の香りと煙草の香りが銀時を包み込む。その香りにどこか安心してしまっている自分が居て、まぁこんなのも悪くはないのかもな、と銀時は自分を包み込む腕に応えるようにそっと手を添えた。





END






あとがき
みたらし団子と、土方さんの想いに絆されちゃった銀ちゃんです♪


土銀の2人はサウナや温泉などで綺麗な上半身を見せていますが、色々怪我した痕もあるよね、と思って少しだけ銀ちゃんに土方さんの手当てをさせちゃいました。怪我をする度土方さんは銀ちゃんのことを大切に思い、銀ちゃんはそんな土方さんをどんどん好きになればいいと思います!


読んで下さいましてありがとうございましたv

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