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afternoon drive
今日の新台は当たるといいんだけどなぁ。どうだろ。そんな風にぼんやりと考えながら馴染みのパチンコ店への道を歩いていた俺の背後から、ゆっくりと車が近付いて来る音が聴こえた。そして急に着物の裾が引っ張られたような気がして何だ?と横を見ると、見慣れた顔とこれまた見慣れたパトカーがあった。


「よぉ、銀時。」

「土方…窓から腕なんか出して着物引っ張んなよ、びっくりしたわ。」

「お久しぶりですねィ、旦那〜。」

「あっ、沖田君。わりぃ、助手席に居たのね。」


土方達は巡回の帰りらしくて、偶然俺を見付けて声を掛けたらしい。だったら普通にしろよ、普通に。俺がパトカーの横に立ったままでいると、土方が助手席の沖田君を横目で見た。


「おい、総悟…今すぐ降りろ。」

「あ〜はいはい、そういうことですかィ。…後で覚えてろィ、土方。」

「ちょっと、土方。沖田君に酷くない?」


俺が土方に文句を言うと、旦那は気にしなくていいんで、と沖田君は笑ってパトカーを降りた。そして土方を睨み付けると、俺には手を振って大通りを歩いて行った。


「銀時、乗れよ。」

「いや〜俺、今からパチンコしに行くんだけど。」

「昼間からパチンコかよ。…いいから乗れ。」


土方はパトカーの窓越しから真剣な瞳をじっと俺に向けてくる。俺は土方のそんな瞳に滅法弱くて。それにこのままだったら、まるで俺が職質受けてるみたいだし…パチンコはまた今度でいっかな〜と考えて、俺は沖田君が居なくなった助手席に乗り込んだ。


「うわっ、何かすっげ〜煙草臭いんだけど。」

「隣に総悟が居たからな。勝手にサボって乗って来たから、イライラしてついつい吸っちまったんだよ。」


パトカー内に備え付けられた簡易灰皿には煙草の吸い殻が山盛りで、俺は土方の体が心配になりつつも、まぁ仕方ないよね、と溜め息を吐く。そのまま俺がシートベルトをするのを確認すると、土方はゆっくりとパトカーを走らせた。


「それにしても、急にどうしたよ?俺をパトカーに乗せたりなんかして。」

「最近…俺が忙しくて、なかなか会えなかっただろ。今日偶然会えたし、そのままドライブもいいかと思って…」

「でもこれパトカーだけど。土方、大丈夫な訳?」

「ああ、気にするな。どうせこのまま屯所に帰るだけだったし、少しくらい寄り道したって構わねぇよ。…お前と居たいし。」

「まぁ、うん。俺達一応付き合ってるしね。」


土方に一緒に居たいと素直に言われて、俺は嬉しさを誤魔化す為にそんな風に答えた。だが土方は、おい、一応って何だ!俺達ちゃんと付き合ってるだろうが、と真面目に返してきた。本当に土方って俺のこと好きだよね。


「でもさ〜、恋人とのドライブに真選組のパトカー使うって職権濫用じゃね?」

「しょっちゅうじゃねぇんだから別にいいんだよ。」


土方は悪そうに笑ってアクセルを踏んだ。土方がそう言うんなら、いいってことなのかな。それに俺だって、やっぱり土方と少しでも一緒に居たいもんな。結局俺は、土方との束の間のドライブを楽しむことにした。



*****
江戸の街の中心部にあるターミナルが遠くに見える。俺達を乗せたパトカーは海岸沿いの湾岸道路を軽快に走っていた。窓を開けると、初夏の風が俺の髪を揺らしてサラサラと流れて行った。隣の土方は楽しそうにハンドルを握っている。俺は運転している土方を改めてじっと見つめた。うん、やっぱり格好良い。真剣な横顔とかさ、反則ってくらいイケメンだよ。本当に俺には勿体ないよなぁ。だからって誰にも渡したくないんだけど。


「どうした?銀時…」

「えっ、いや…運転してるお前って、やっぱり格好良いなって思って…」

「なっ…」


土方の顔がみるみる赤くなっていく。俺は別にほんとのこと言っただけなんだけどな。そんなに照れるとこっちまで恥ずかしくなるじゃん。


「ありがとな。」


ハンドルを握りながら、土方は左手を伸ばして俺の頭をふわりと撫でた。愛おしむように撫でられて、俺はくすぐったいのと心地良さに目を細めた。




ちょっと歩こうぜ。そう言って土方は海岸脇の道路にパトカーを停めると、俺に降りるように促した。海岸なんて歩いたら、帰りのパトカーの中が砂だらけになるんじゃ…と俺は心配したが、土方は汚れたらそんなの隊士の奴らに掃除させればいいんだよ、とジャイアニズムを発揮して俺の手を握ると気にせずに歩き出した。


「土方、ちょっと…」

「人も居ねぇし。いいだろ?…最近銀時に触れてなかったじゃねぇか。」


切ない瞳で我慢できないと言われたら、俺もその手を振り解けなかった。ブーツが砂の中に僅かに沈む感覚がする。何となく土方の顔を見ることができなくて、俺はそのまま目の前に広がる海を見た。太陽の光にキラキラと輝く海は土方が隣に居るからかなのか、すごく綺麗に見えた。


「…土方に連れて来てもらって、良かったかも。」

「そうか、そりゃ良かった。」


土方が小さく微笑んで眩しそうに俺を見た。繋いでいる手が急に熱く感じられて。だけどやっぱりこのまま繋いでいたくて。俺もいい歳した大人なんだけどなぁ。そんなことなんて分かっているけど、俺は土方の手を強く握り返して輝く海に視線を向けた。



*****
土方は万事屋の前まできちんと俺を送ってくれた。あともう少しだけ一緒に居たかったんだけどな。さすがに恥ずかしいからそんなことは口には出さず、俺はパトカーから降りた。


「存外楽しかったよ。ありがとね、土方。」

「おぅ。」

「あっそうだ。今日パトカーに乗せてもらったから、今度は俺のスクーターにでも乗せてやろうか。」


俺の冗談に土方は一瞬考える素振りを見せた。いやぁ、土方ってほんと律儀だよな。だけどすぐに首を振った。


「銀時が俺にしがみつくのは堪んねぇが、俺が銀時にしがみついてる所なんざ総悟に見られたら…」

「ははっ、確かに大変かも。」

「とにかくお前に喜んでもらって良かった。…また仕事の合間にでも会いに来るからな。」


土方は、分かったと答えようとした俺の腕を掴んで引き寄せると、俺の唇にキスをした。ちょっと何しちゃってくれてんの、土方。ここ、普通に往来だよ。俺はそう抗議をしようとしたけど、嬉しそうな土方を見ていたら、今日のドライブに免じて目を瞑ってやるかぁなんて思ってしまった。


「じゃあな、銀時。」

「あ〜うん。仕事頑張れよ〜、ほどほどにな。」


窓越しに片手を挙げる土方に頷いて、俺は遠ざかっていく愛しい人を乗せたパトカーをいつまでも見つめていた。






END






あとがき
普段は土方さんはザキ辺りに運転させていると思うのですが、自分で運転してる時ってすごく格好良いです(`・ω・´)隣に座っている銀ちゃんも絶対に惚れ直しちゃいますよねv


あの後屯所に戻った土方さんは総悟に思い切り冷やかされるんだと思います。土銀の2人のほのぼのドライブも良いですよね。


読んで下さってありがとうございました!

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あきゅろす。
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