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不機嫌の理由
バレンタイン×土銀な小ネタです




「3倍返しな。…俺、お菓子作ったりとかそういうの得意だし、一応手作りしたんだからさ。」


嬉しい。本当に嬉しかった。今すぐ誰かに自慢したいと思うくらいに。顔がにやけそうになるのも仕方がないだろう。恋人からバレンタインデーに手作りのチョコレートを貰うなど、何歳になろうが男ならば嬉しいに決まっている。だが嬉しさがじわじわと胸に広がる一方で、土方は酷く困惑してもいた。チョコレートを渡してくれたというのに、銀時が怒っているというかどこか不機嫌そうに見えたからだ。他人が見たら別に不機嫌でも何でもない、いつもの気だるげな表情に見えるのかもしれない。だが自分は恋人として銀時と一緒に過ごすようになって、彼の些細な表情の変化が分かるようになった。だから今、銀時が不機嫌になっていることを見逃さなかったのだ。けれども何故銀時がそんな表情になったのか土方には皆目見当もつかなかった。もしかして気付かない内に何か怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。とりあえず尋ねてみた方がいいだろうかと、土方は躊躇いがちに口を開いた。


「銀時、その…俺、最近何かしたか?」

「はぁ?何、突然そんなこと…」

「いや、何だかお前が不機嫌そうに見えたから…」

「……別に、不機嫌なんかじゃねぇし。」


銀時は先ほどよりも明らかにムスッとした表情になっていた。これはどう見ても確実に機嫌が悪い。甘い物が苦手な自分でも食べられるようにしたからと、ビターチョコのトリュフが詰められた箱を慌てて目の前のテーブルに置くと、土方はどうしたものかと狼狽えた。今日が恋人達にとって特別な日であろうとも、真選組の副長である土方は相も変わらず仕事で忙しい。今だって仕事の合間を縫って万事屋に来たのだ。もしかしたら銀時は自分と一緒に過ごせないせいで、こんな風に不機嫌になっているのだろうか。そうなのだとしたら、これほど嬉しいことはない。そうであって欲しいと僅かな期待を込めて、土方は隣に座る銀時をじっと見た。


「なぁ、銀時。もしかしてお前、せっかくのバレンタインなのに少ししか俺に会えねぇのが寂しくて、機嫌わりぃのか?」

「そんな訳ないじゃん。ちゃんとこうやってお前にチョコ渡せたんだし。」


銀時はそれはないよと即答する。恥ずかしがったり照れているようには見えず、どうやらその言葉に嘘はないようだった。無理に決まっていたが、俺は今日1日ずっと銀時の側に居たかったんだけどな。土方は心の中で小さく呟いた。銀時が自分と同じように寂しいと思っていなかったことは少し残念ではあったが、だったら何に不機嫌になっているというのだろうか。今日は恋人達がお互いの愛を確かめる日なのだ。だから銀時にはそんな顔で居て欲しくはない。優しい笑顔で笑い掛けて欲しいのに。


「銀時…お前がそんな風だと、せっかくチョコ貰っても、何だか嬉しくなくなっちまう。」

「土方…」


グッと眉根を寄せた恋人を黙って見つめていると、土方から目を逸らして観念したように小さく息を吐いた。銀時は少しだけ俯き加減になると、言いたくなかったのにと、ぽつりと呟いた。


「…昨日、そのチョコの材料をスーパーに買いに行った帰りにさ、お前にチョコを贈るとか頑張って手渡しするとか話してる子を何人も見掛けて…俺が今日渡しても、お前は他にもたくさんの子から貰ってるのかなって思ったら、何かイラついたんだよ。…あぁそうですよ、俺は機嫌が悪かったんです。…お前に、俺以外のチョコは食べて欲しくなかったんだよ。…悪い?」

「そんな訳ねぇだろうが。心配しなくてもな、俺はお前以外からチョコなんざ貰ってねぇよ。」

「え…?」

「銀時以外から貰いたいなんて思うかよ。お前のだけでいいに決まってんだろうが。」


銀時の頬がうっすらと朱に染まっていく。そんな可愛らしい恋人に目を細めて、土方はふわふわと跳ねる髪を撫でた。銀時に会いに行こうと屯所を出る時、たくさんの女性がチョコレートを手に自分のことを待ち構えていた。だが土方は、彼女達から1つも受け取ることはなかった。銀時以外から貰う気などさらさらなかったからだ。愛しくて大切な銀色の彼以外からは。


「そんなことを心配して不機嫌になってたのかよ。本当に銀時は可愛いくて堪んねぇよな。」

「うっ…だって、お前、俺と付き合ってても相変わらずモテるし、たくさんチョコ貰うのかなって思ったら、何か俺…」

「いいか、お前は俺の恋人なんだ。…だから、これからも恋人以外に貰う気はないってちゃんと言ってやったから安心しろよ。俺だってお前のチョコしか食べたくねぇからな。…このチョコにはお前の愛が目一杯詰まってんだろ?それを俺だけが独占できるって訳だ。」

「…そんな嬉しそうな顔すんな。格好良過ぎて照れるじゃんよ。」


だから黙っておこうって思ったのに。赤い顔で恥ずかしそうに呟く銀時の肩を引き寄せると、そのま優しく抱き締めた。銀時は腕の中で恥ずかしそうに身じろいでいたが、そっと土方を見上げた。

「あのさ、俺があげたチョコなんだけど…良かったら仕事終わってから食べて欲しいっていうか…疲れた時には甘い物っていうじゃん?…土方、まだこの後も仕事だろ?」

「そうだな、分かった。仕事終わった後にお前のことを想いながら食べるから。」


いや、別にそこまでしなくてもいいんだけど…と銀時は困ったように口を尖らせたが、まぁ俺の想いを詰め込んだから、それは感じて欲しいかもね、と土方に小さく笑い掛けた。勿論だと強く頷いて、土方は銀時と彼から貰ったチョコレートを愛おしむように見つめた。






END






あとがき
バレンタインデーにご機嫌斜めな乙女銀ちゃんと、そんな銀ちゃんが半端なく可愛いと思ってしまった土方さんでした。乙女な銀ちゃん大好きなので、こんな感じになりました(´`)


個人的には銀ちゃんはケーキが作れるのならば、絶対に土方さんに手作りチョコをあげるだろうと思っています!


読んで下さいましてありがとうございました♪

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あきゅろす。
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