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愛しいあなたとの距離 10(完結)
ゆっくりと店内に入って来た人物が誰なのか分かった瞬間、俺は心臓を掴まれたみたいな苦しさを感じて、立っているのがやっとだった。


何で?…どうして土方がここに居るの?引っ越して来たこの町にも漸く慣れてきて、もうこれからずっと土方に会わずに生きていけると思ってたのに。小さな隣町に引っ越してまたのんびりとバイト生活してることは土方には伝えてないから、絶対に知らないはずなのに。…何で俺の前に居るんだよ。どっか行ってくれ。そうじゃなけりゃ、俺の決心が鈍るだろ。本当は、大好きなお前の側に居たいって叫びたくなっちゃうんだよ。


動揺している俺と同じように、土方も信じられないという表情をしてコンビニの入り口に立ち尽くしていた。土方は俺の名前をポツリと呟くと、レジに立っている俺のすぐ目の前に来た。


「銀時、仕事が終わるまで待ってる。」


強い光を放つ瞳がじっと俺を見ていた。土方の射抜くような視線に絡め捕られて、俺の心はもう駄目だった。土方のことが好きで好きで堪らないと泣き叫んでいた。


「やめてよ、そんなこと…」

「待ってるから。」


迷惑だから帰れよ。そう言ってしまえばこの苦しみも何もかも全て終わるのに、俺は何も答えられずに俯いた。待ってると言った土方の言葉が俺の胸に響いて、俺は泣きそうになるのを必死に抑えていた。



*****
今日のシフトが終わるまで、俺は土方のことが気になって気になって、はっきり言ってバイトどころじゃなかった。とてつもなく長く感じられた仕事も漸く終わり、俺はバイトの制服を脱いでコートを羽織るとそっと外に出た。その瞬間、コンビニの駐車場の端の方に夜風で頬が赤くなっている土方の姿が見えて、俺の視界がじわりと滲んだ。


「何で帰らなかったんだよ!…俺のことなんて、ほっとけばいいじゃん。」


そんなことなんてこれっぽっちも思ってないけど、こうでも言わないと俺は自分を保てそうになかった。だけど土方はお前の言うことなんて聞けるかよ、というような顔をして静かに口を開いた。


「ほっとける訳ねぇだろうが。いきなり何も言わないまま引っ越して…もう二度と会えないって思った。だが、こうしてまた会えたんだ。…好きな奴はもう離したくないって思うに決まってるだろ。」


好きな奴…?今、土方は何て言った?土方の言葉を反芻しようとしたけどそれはできなかった。俺はそのまま土方に強く抱き締められていたから。煙草の香りと土方の匂いが俺を包んでいて、幸せ過ぎて辛かった。…夢じゃないんだよな、俺は今、土方に抱き締められてる。


俺を待ち続けてすっかり体が冷えてしまっていた土方に俺の温もりを少しでも分けてあげようと、俺は土方に体を寄せた。そっと土方の方を見ると嬉しそうな顔と目が合ってしまい、俺は恥ずかしさを隠すように巻いていたマフラーを取ると、そっと土方の首に巻いてあげたんだ。



*****
コタツって、何だろな…本当に温くて幸せだよな。一度入ったら、もう絶対出られないもん。出る気もないんだけど。俺は、すぐ隣で同じようにコタツに入って雑誌を読んでいる土方を見た。


「土方〜、やっぱコタツっていいよね。あったかくてさ。」

「銀時、お前今、すげ〜幸せそうな顔してるぞ。」


土方は雑誌から顔を上げると、微笑みながらそっと俺の頭を撫でた。…そんなの幸せに決まってんじゃん。お前と一緒に暮らしてんだから。


あれから俺は、土方と一緒に住むようになった。元々俺の部屋には何もなかったし、隣町に引っ越す時もほとんど何も持たずに出て来た。だからまさに身一つで土方の部屋に来た訳だった。アパートの部屋は決して広くはないけど、土方と体を寄せ合うように暮らすのは悪くはなかった。うん、すげ〜幸せだった。


土方の部屋に住むことが決まった時、俺は土方からどうして何も言わずに勝手に引っ越したのかと思い切り問い詰められた。まぁ、怒るのも無理ないよな。土方を傷付けちまった訳だから、俺は大人しく白状するしかなかった。で、結局は俺1人のとんだ勘違いだった。あの人は土方の会社の先輩で、あの日は一緒に営業に出てたんだって。土方とあの人の弟が仲が良いらしくて、だから土方にとってあの人は、お姉さんみたいなもんらしい。しかももう結婚してるから、どうにかなる訳ねぇよ、と笑われてしまった。そんな風に誤解が解けたことで、俺達の絆はぐんと深まっていった。


「…ちょっとビール取って来る。銀時も何か飲むか?」


土方は読んでいた雑誌を閉じると、コタツから立ち上がった。俺は何もいらないよ〜、と頬杖をついて答えた。土方が台所に向かったのを確認すると、俺はコタツから出てリビングの隅に置いてあるスポーツバッグの前にしゃがみ込んだ。この中には普段良く使う物を色々詰め込んでいて、すぐに取り出せるようにしている。俺はバッグの中を漁ると小さな箱を取り出した。その中には土方に渡そうと思って買っておいて、だけどまだ渡すことができていない物が入っていた。いい加減渡さないとだよな…


「銀時…何だよそれ?」


不意に耳元で響いた土方の声に俺の肩が大きく跳ねた。やっべぇ、土方に見付かった。…うぅ、これはもう渡すしかねぇよな。俺はゆっくり立ち上がると、綺麗にラッピングされた白い箱を土方に手渡した。


「本当はさ、クリスマスに渡してお前を驚かせたかったんだけど…結局うやむやになっちゃったから今渡すわ。…はい、ど〜ぞ。」

「…銀時、もしかしてバイト掛け持ちしてたのって…」

「な、何勘違いしてんの。お前のプレゼントはついでだよ。…俺が欲しかったのはエアコンだもん。まぁここに住んでるから、もういらねぇけど。」

「銀時、ありがとな。」


照れた顔で土方は礼を言うと、そっと箱の中身を取り出した。土方は自分の瞳と同じ色の天然石があしらわれたネクタイピンに目を輝かせていた。それ、シンプルだけど、結構高かったんだぜ。土方には内緒だけど。


「銀時、俺…今嬉しくて堪んねぇ。幸せだ。」

「…そ〜かよ。」


土方の顔は赤く染まっていて、それを見た俺の方も何だか照れくさくなって頬が赤くなってしまった。土方は箱をコタツのテーブルの上に置くと、俺をギュッと抱き締めた。


「銀時、俺さ、お前が居なくなってすげ〜へこんじまって、何もプレゼント買ってないんだ。だから…来年のクリスマスは期待しててくれるか。」

「しょ〜がないな。楽しみにしといてやるよ。」


土方の顔がそっと近付いてきて、俺はそれに応えるように目を閉じた。


今までアパートの隣同士でしかなかった俺達の距離はどんどん縮まっていって、俺は今、土方のこんなに近くに居る。これからもずっと土方の側に居られるんだ。それって最高に幸せだよな。そして多分、土方も俺と同じ気持ちでいてくれてる。静かに目を開けると、目の前には優しく微笑む土方が居て、俺は嬉しさに目を細めた。





END






あとがき
ベタ過ぎる隣人パロにお付き合い下さってありがとうございますm(u_u)m


土方さんの一目惚れ、銀ちゃんの勘違いからの引っ越し、最後は一緒に暮らすというベタな流れが書きたくて詰め込みました(^^;)


現代隣人設定、本当に楽しかったですv銀ちゃんの着流しは、絶対その方が色っぽいよねと思いまして着てもらいました♪

ここまで読んで頂き、どうもありがとうございました(^^)

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