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愛しいあなたとの距離 7
何となくなんだが、最近銀時がどこかよそよそしい気がする。俺の気のせいかもしれないが。…俺、銀時に何かしたか?別に避けられるようなことなんざ、してねぇはずだ。だから何もしてねぇ…そうだと言いたいんだが、1つだけ心当たりがあるっちゃ、あるんだよな。



もう2週間以上も前の話だ。銀時と一緒に飲んだあの日のことを、俺は全くと言っていいほど覚えていなかった。多分一緒に酒が飲める嬉しさから、自分の許容量を超えるくらい飲んじまったんだろうな。カーテンから射し込んでくる朝日の眩しさに目を開け、俺はあれからフローリングの床で寝てしまったことに気付いた。まだ酔いが抜けず、ぼんやりとした頭で辺りを見回したが、当然そこには銀時は居なくて。俺が勝手に寝ちまったから、もしかして怒って帰ったのかもな。せっかく夏風邪の看病のお礼にって誘ってくれたのに。悪いことしちまったな。銀時に会った時にちゃんと謝ろう。そんな風に考えながら、テーブルの上に残っていたおつまみの袋を片付けようとして目に入った時計の時刻に、俺は慌てて会社に行く準備をしたんだった。


それから数日経って、早朝のゴミ出しの時に偶然銀時に会った。もうすっかり秋も深まり、朝晩冷え込むようになっていたから、銀時は寝間着代わりの甚平の上に厚手のカーディガンを羽織っていた。このアパートに引っ越して来て銀時と親しくなってからは、こんな風に会うと、俺は必ず銀時に話し掛けるようにしている。


「おはよう、銀時。」

「…はよ。」


銀時は小さな声で答えた。いつもならば、おはよ〜さん、土方、と手を挙げて元気良く挨拶してくれるんだがな。やっぱり一緒に飲んだあの日のことで機嫌わりぃのかな。俺は、ゴミ袋を収集場所に置いて帰ろうとする銀時を呼び止めた。


「…銀時、ちょっといいか。」

「…何?」

「あのさ、この前一緒に飲んだ時、その…勝手に寝ちまって悪かった。俺、飲み過ぎたみたいで、あの日のこと全然覚えてなくて…せっかく銀時が一緒に飲もうって言ってくれたのに、台無しにしちまったよな。…謝るから…機嫌治してくれないか?」


銀時がじっと俺を見て、何か言いたそうな顔をした。俺が銀時の言葉を待っていると、銀時はそのまま俯いてしまった。


「俺、別に怒ってないし、機嫌も悪くないから…き、気にすんなよな。」


下を向いたまま銀時は小さく呟くと、すれ違い様に会社遅れんなよ、と俺に声を掛けて部屋に戻っていった。機嫌は悪くないとは言っていたが、何となくいつもの銀時と違う気がした。いつもならちゃんと視線を合わせて喋ってくれるのに、あまり俺と目を合わせてくれなかった気がする。…俺の考え過ぎなのか?その時は銀時の変化をそれくらいにしか感じなかった。



*****
やっぱり、俺の勘違いなんかじゃねぇ。俺の疑念は確信に変わっていた。あれから銀時は俺と会っても俺の目をちゃんと見てくれないし、話し掛けようとしてもすぐに部屋に戻ってしまうようになった。つまり、確実に俺は避けられていた。銀時のよそよそし過ぎる態度は、俺の心にこれ以上ないというくらいにダメージを与えていた。





今日も仕事の疲れと、銀時とまともに話せていない焦りを抱えたまま、俺はアパートに帰って来た。自分の部屋に向かっていると、コンビニ帰りというようにビニール袋を提げた銀時が部屋に戻ろうとするのが見えた。俺は何も考えずに声を出していた。


「銀時!」


俺に背を向けていた銀時の肩が小さく揺れる。俺は銀時の所まで走って、逃がさないようにその腕を掴んだ。


「銀時、最近ずっと…俺のこと避けてるよな?」

「な、何言ってんの?…俺、土方のこと避けてなんか…」


俺に背を向けたままで銀時が答える。何でこっち向いてくれないんだよ。俺を見ろよ、銀時。


「銀時、ちゃんとこっち向け。」


俺は銀時の腕を強く引っ張った。俺に腕を引かれ体勢を崩した銀時が、ゆっくりと俺の方に顔を向けた。その瞬間、俺は目の前の顔に視線が釘付けになっていた。その顔は赤く染まっていて、思わず銀時の腕を掴む力が緩んだ。銀時はその隙に俺の腕から逃れると、おやすみっ、と早口で告げて玄関のドアを閉めてしまった。



*****
部屋に帰った俺は、スーツを着たままソファーに座り込んでいた。先ほど見た朱に染まった銀時の顔が、いつまでも俺の頭から離れてくれなかった。


「熱出してる、とかじゃ…ねぇよな…」


銀時は咳き込んでもいなかったし、風邪を引いているようには見えなかった。……だったら、俺が触れたから、あんな風に赤くなったのか?


「…そんな訳、ねぇよな。」


だが、だとしたら何で銀時は赤くなってたんだよ。やっぱり…俺が触ったからなんじゃねぇのか?そう考えた瞬間、俺の顔は熱を持ったようにカッと熱くなった。もしかしたら、銀時は俺のこと…


「…俺と、同じ気持ちなんじゃ…」


そうであって欲しい。もしそうならば、俺は嬉し過ぎてどうにかなっちまう。


「銀時…」


俺は愛しい愛しい想いを込めて、銀時の名前をそっと音に乗せた。

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