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優しい手の温もり 1
銀ちゃんが猫になっています




たまには1人でのんびりするのもいいものだと、銀時はソファーに横になっていた。新八と神楽はお妙と一緒に1週間の旅行に出掛けており、万事屋には銀時1人だけだった。銀ちゃんに美味しいお土産買ってくるネと、楽しそうに言う神楽を先ほど送り出したのだった。


そうだ、あそこの甘味屋に行って特製パフェでも食べようか。いや、パチンコもいいよなぁと、これからの予定を考えて頬が緩む。今なら糖分の取り過ぎだと新八に注意されることもないし、神楽にダメ人間という目で見られることもない。よし、まずはコンビニに行ってアイスだよなと、ソファーから体を起こそうとすると、宅配便が届いた。



*****
テーブルの上には美味しそうなホールのケーキが置かれていた。そのケーキは珍しい桃色のような薄いピンク色のクリームで飾られ、見たことのないフルーツが盛られていた。


「辰馬の奴、タイミングいいよな。」


銀時は目の前のケーキに目を輝かせている。そのケーキは銀時の友人の坂本辰馬から送られて来たものだった。何でも仕事で立ち寄った星で、珍しい材料で作られたスイーツを見付けたので、銀時に食べさせてあげたいと思ったらしい。普段はちゃらんぽらんなのに、やっぱりいい奴だなと彼に感謝して、ケーキを頬張る。その瞬間、口の中でクリームがふわっと溶けて甘さが広がる。そのあまりの美味しさに銀時は目を見開いた。


本当に子供達が居なくて良かった。特に神楽がいたらやばかったなと、銀時はケーキを食べ続けた。食欲が満たされると、自然と眠くなってくるものだ。銀時も同様で段々睡魔が襲って来たので、ちょっだけ昼寝でもするかと、再びソファーに寝転んだ。



*****
あれから30分ほど眠ったようだ。まだ眠い目を擦って銀時は起き上がった。


あれ?何かいつもと目線の高さが違うような…違和感を感じたまま、頭を掻こうとして目に入った自分の手を見て、銀時はソファーから転げ落ちそうになった。


な、何だよ、これ…。俺、猫になってる…?だぁぁあ、訳分かんないんだけどぉ!と叫んだつもりだったのに、部屋にはにゃあと、高い鳴き声が響いただけだった。


もしかしてあのケーキのせいなんじゃ…銀時は目の前の完食済みの皿を見た。原因を考えても、その他に心当たりなどなく、もうそうだとしか思えなかった。あのもじゃもじゃ野郎、今度会ったらただじゃおかねぇ。絶対1発殴る。そう心に誓ったが、その一方でどうしようと頭を抱える。


幸い子供達はまだ当分旅行中だ。それにこのままずっと、猫の姿のままだとは思えない。多分数日中には元の姿に戻れるはずだ。家で大人しくしていればいい。まぁ何とかなるかと、今は楽天的に考えることにした。



*****
猫になってしまったからなのか、段々じっとしていることが辛くなってきた。


いつもならばジャンプを読んでごろごろしたり、買い物ついでにパチンコに行って時間を潰すことが可能だ。だが猫になっている今では、そんなことは容易にできない。うぅ、このまま部屋に居たら暇で死にそうだ。駄目だけど、ちょっとだけ外に行きたい。我慢できなくなり、銀時はついに部屋の窓から飛び降りて、通りに出た。もし外を歩いている時に元の姿に戻ったら、大変なことになるという思いが一瞬脳裏に浮かんだが、その時はその時だと考えて今は自分のしたいようにすることにした。





あ〜、暑い。夏だから分かってるけど。猫って不便だよな。太陽の光が降り注ぐ中を銀時はてとてと歩く。地面からの照り返しも強く、次第に喉も渇いてきていた。


アイス食べたい、コンビニで涼みたいと思いながら歩いていると、道の反対から銀時の良く知っている2人組が歩いてきた。土方だ。相変わらず暑苦しい格好しちゃって。あ、沖田君アイス食べてる。いいなぁ。どうやら巡察の帰りらしく、仕事終わりのアイスは美味しいですぜィと言う沖田を土方が注意しているようだった。


何となくだが、2人には気付かれたくないなと思った。彼らは自分だと分かるはずはないが、銀時としては猫になっている今、どう接していいか分からなかったからだ。ここは路地裏にでも隠れようと身を翻したが、

「土方さん、あそこに綺麗な猫がいやすぜ。ちょっと触っていきませんか。」


沖田の言葉に足が止まる。2人が近づいてくるのが分かり、銀時は逃げることを諦めた。


「すごく綺麗な猫だと思いやせんか?土方さん。銀色の毛並みですし、旦那を思い出しやすよね。」


沖田の言葉に、俺はいいからと言って少し離れて見ていた土方の肩が揺れた。そして沖田に撫でられてじっとしている銀時の近くに来てしゃがみ込んだ。何か恥ずかしい。そんな優しい目で見るなよ。銀時は土方に見つめられ、段々ドキドキするのが分かった。だがどうしてなのかは良く分からない。土方は銀時を見つめながら、

「なぁ、総悟。この猫、首輪がないってことは野良だよな。…だったら俺達で預かってもいいよな。真選組は江戸の皆を守る組織だろ?」

「えぇ?どうしたんです?まぁ多分野良だとは思いやすが。土方さん、その猫気に入ったんですかィ?」


沖田は驚いた表情で土方を見ていた。だがそれ以上に銀時の方が驚いていた。何言ってんの、土方!俺を連れ帰るって。これは本格的にまずいよな…銀時が逃げようとする前に、土方がそっと自分の胸に抱き寄せて持ち上げる。


ふわりと、土方の愛用している煙草の匂いが銀時の鼻を掠めた。土方と偶然会って何度か飲み屋で飲んだ時に、酔って歩けなくなり、肩を貸してもらったことがあった。その時に香った煙草と同じ匂いが再び銀時を包んでいた。



土方にいたわるように優しく抱きかかえられていることに、少しだけ心地良さを感じてしまい、俺、何かおかしいのかもと思いながらも、銀時はその腕から逃れることができずに土方に連れられて、真選組の屯所へと向かうことになったのだった。

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あきゅろす。
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