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愛しいあなたとの距離 1
現代隣人設定です
1話毎に視点が土→銀と交互に入れ替わっています




ドアが開いた瞬間、目の前の人物に一目惚れしてしまう。そんな漫画みたいなことをまさか自分が体験するなど、俺、土方十四郎は昨日まで考えてもいなかった。



「あのぉ…土方さん、だっけ?わざわざ挨拶に来てもらっちゃった上に、そうめんまで…でも、今の時期は本当助かるわ。ありがとね。」


引っ越して来た挨拶にと、俺が手渡した高級そうめんの箱に目を輝かせながら、その人がふわりと微笑む。銀色の髪が白い肌に良く似合っていて、俺の瞳はずっと彼に釘付けだった。


「…これから色々とご迷惑をお掛けすることもあると思いますが、よろしくお願いします。」

「別に敬語なんて使わなくていいって。俺達年も近そうだし。…あっ、俺は坂田銀時。よろしくね。」

「よろしく、坂田さん。」

「銀時でいいよ。周りの奴らは皆、俺のこと名前で呼ぶし。」


彼は俺に顔を近付けると、楽しそうに笑った。縮まった距離に鼓動が速くなる。彼はああ言うけれど、一目惚れした相手をいきなり名前呼びなんてできるかよ、と俺は思ってしまう。だけど、銀時と呼んでみたい気がするのも確かで。


「分かった。……じゃあ、銀…時って呼ばせてもらう。」

「おう、それじゃあ…お前のことは、土方って呼ぶね。」


さすがに俺のことは下の名前で呼んじゃくれなかったけど、彼が土方、と呼ぶ度にどこにでもある名字なのにすごく特別のように思えてしまった。


*****
俺達はそれから簡単にお互いの話をした。銀時は俺より1つ年上、今はフリーターでアルバイトをして生活しているのだという。俺の方はというと、一応会社員でそれなりに仕事も任されている身だ。最近、通勤時間が長く掛かってしまうことに嫌気が差してきていて、思い切って会社の最寄り駅の近くにある、このアパートに引っ越した訳だ。だけど、こんな嬉しい出会いが待っていたなんて思いもしなかったんだがな。



「せっかく土方から貰ったから、今日はそうめん作るよ。…それにしても何か今日は、本当に暑いよね。」


別れ際、銀時は俺にそう言うと、少しだけ襟元を寛げた。そう、そうなんだ。目の前の銀時は、今時の若者には珍しい着流し姿だった。白地で袖口と裾の部分に水色の渦巻き模様があしらわれた着物を着ており、夏らしく涼しげだった。着流し姿の銀時があまりに妖艶で考えないようにしていたが、襟元から覗く白い首筋が目のやり場に困って仕方なかった。


「…着流しって、今時珍しいな。」

「そうかもね〜。でも風通しが良くて、結構涼しいんだぜ。まぁ、さすがに今日みたいなすげ〜暑い日はちょっと着崩さないとだけど。…俺、大抵夏はずっとこれだよ。たまに甚平とかも着たりするし。」


日本人なら夏は着流しっしょ。銀時がうんうんと頷く。その姿が年上なのに微笑ましくて、俺は小さく笑った。


「…すごく、銀時に似合ってると思う。」

「え…?」


俺の紡いだ言葉に銀時は目を見開き、それからその言葉の意味を理解したのか、ありがとな、と照れたように呟いた。もう駄目だ、俺。銀時のことが可愛くて仕方ねぇ。会ったばかりだっていうのに、好きだという気持ちが溢れ出して止まらなかった。


「それじゃあな、土方。」

「あぁ、銀時。」



銀時が部屋のドアを閉めても、俺は少しの間その場から動けなかった。頬が緩みそうになるのを必死に我慢する。ここに引っ越して来て、本当に良かった。先ほどの銀時の顔が瞼の裏に浮かび、俺の胸は甘く疼いた。隣に銀時が居る。これからの生活を考えて、俺は胸躍らせながら漸く自分の部屋へと戻ったのだった。

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