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心に沁みる
『わりぃ、今年も無理そうだ。本当にすまねぇと思ってる。』


もう毎年恒例のことなのだから、わざわざ律儀に家に電話なんかしてくれなくていいのに。本当に土方は真面目な奴だよな。銀時は受話器を置くと、窓越しに寒そうな夜空を見上げた。クリスマスの時期はただでさえ世間が浮かれ立つ。その機会を狙って不逞浪士やテロリスト達が暗躍するかもしれない為、真選組はいつも以上に巡回や取締りで忙しく、銀時は土方とほとんどまともにクリスマスを過ごしたことはなかった。


「あ〜、やっぱ思った以上に切ねぇわ。…1人のクリスマスって。」


自分以外に誰も居ない部屋は、寒さも相まってか、しんとしていてどこか物悲しい。今頃新八達は楽しくやってるかな。銀時は今ここには居ない子供達の顔を思い浮かべた。本当は銀時も新八の家で開かれるクリスマスパーティーに誘われていた。けれどその誘いを断ってここに残った。もしかしたら今年くらいは…そんな淡い期待がなかったといえば嘘になる。だがそのほんの僅かな期待も、先ほどの土方からの電話で虚しく散ってしまったのだけれど。


「くそっ、こうなったらコンビニでクリスマスケーキ買いまくって、やけ食いしてやる。」


銀時は拳を振り上げて叫ぶと、早速出掛ける準備をしようとした。だがそのまま足が止まってしまう。今日は世間では恋人達が愛を確かめ合う日であるのに、何が悲しくて1人寂しくケーキを食べなければならないのかと思ってしまった。自分だって本音を言えば土方と一緒に居たい。いっそのこと屯所に押し掛けてやろうかとも考えていたが、真剣に仕事に取り組む恋人の邪魔はしたくはなかった。1人で祝うのはいつものことなのだから平気だと言い聞かせて、銀時は白い耳当てと、その耳当てとお揃いのマフラーを身に着けて玄関の戸を開けた。


「うぅ、寒いっ。…死ぬ。」


スカジャン姿では耳当てとマフラーをしていてもやはり寒い。銀時はさっさとコンビニに行ってケーキ買って帰ろうと階段を降りようとして、通りに立っていた黒髪に視線が釘付けになった。


「土方!?…何でここに居んの?」

「無理言って少しだけ抜けてきた。お前にどうしても会いたかったから。」

「土方!」


今日土方が会いに来てくれたことが嬉しくて堪らず、銀時は土方の所まで急いで走った。土方はこの寒空の下なのに隊服姿だった。コートはどうしたんだよ、と尋ねると、銀時に会いたくて急いでいたから忘れちまった、と笑顔が返って来た。


「これ、使って。…少しくらいはマシになるだろ?」


寒そうなその姿に、銀時は自分の首に巻いていたマフラーを外すと、そっと土方の首に巻いた。


「あったけぇ…何だかお前に包まれてるみてぇだな。」


土方が目を細めて嬉しそうにマフラーに触れる。それだけで銀時の心もふわりと温かくなったように感じた。


「銀時、お前はマフラーなくて大丈夫なのかよ。案外寒がりだろ?これから出掛けるつもりなら…」

「大丈夫〜。前にお前から貰った青いマフラーがあるから、後で取って来ればいいし。」


銀時の言葉に土方がそうだな、と小さく微笑んだ。去年のクリスマスの時に、銀時と土方は時間を見付けてお互いにマフラーをプレゼントし合っていた。銀時は赤いマフラーを土方に、土方は青いマフラーを銀時に贈っていた。自分達の瞳の色のマフラーにすれば、マフラーを見る度に相手のことを思い出せると考えたのだった。だが銀時は、実は土方から貰ったマフラーをあまり使ってはいなかった。土方には内緒であるが、恋人から貰った物を汚したくなくて、大切に取って置いている。


「ちゃんと返しに来いよ。…俺、待ってるからね。」

「おぅ、分かってる。…銀時、俺、もうそろそろ行かなきゃならねぇ…もっとお前とゆっくりしたかったんだが。」


土方が離れがたいという表情で、名残惜しさを表すように銀時の頬に触れた。冷たい手に思わず目を瞑ってしまった隙に、銀時は土方に口付けられていた。ケーキのことなど一瞬霞んでしまうほどに、土方とのキスには幸せな甘さがあった。唇と唇がゆっくりと離れ、満たされた気持ちから2人で笑い合った。


「…気を付けて帰れよな。あと、お仕事頑張れよ、お巡りさん。」


別れ際に土方の背中を叩くと、見てて思ったんだが、その耳当てモコモコしてて可愛いお前に似合ってるな、と照れくさそうに言われてしまった。じゃあな、と土方は背中を向けるとそのまま急いで通りを歩いて行ってしまった。可愛いとか言われちゃったよ、べ…別に嬉しくね〜し。銀時は心の中で呟いたが、その頬はほんのりと朱に染まっていた。


「…土方、今年は素敵なクリスマスをありがとな。」


さぁ俺もケーキ買って来よっかな。銀時は通りの向こうに消えて行く土方をもう一度だけ見やると、まずはマフラーだなと小さく微笑んで万事屋へと続く階段に向かった。





「土方さ〜ん、近藤さんに無理言ってちゃんと旦那のとこに行って来れましたかィ?」

「チッ、うるせぇな、総悟。」

「そのマフラー、もしかしなくても旦那からのプレゼントですかィ。こっちは土方さんのにやけ顔なんて本当に見たくないってのに。…見せ付けてくれますねィ。」

「御託はいいから、さっさと持ち場に戻りやがれ。」

「はいはい。」


絡んで来る総悟をあしらうと、土方は置きっぱなしにしていたコートを羽織った。多分今日は巡回で忙しくて寝る暇もねぇだろうな。銀時に会って来て良かった。街の中心部の待機場所で土方は静かに銀時のことを思い出した。銀時が貸してくれたマフラーは、彼の温もりのように温かくて幸せな気持ちだった。どうせ俺があげたマフラーは勿体なくて使えねぇとかなんだろうな。本当に可愛い奴。土方は今隣に居ない恋人に小さく笑って、こりゃあ正月は思い切り甘やかしてやらないとな、と少し先に待つ恋人との甘い時間に思いを馳せた。






END





あとがき
クリスマス×土銀です。らぶらぶなクリスマスも勿論大好きですが、仕事で忙しい土方さんと少しだけの逢瀬も良いかなぁと(´`)


銀ちゃんに耳当ては萌えだと思います!耳当て銀ちゃんは土方さんへのささやかなプレゼントですね♪


読んで下さってありがとうございました(*^^*)

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