還る場所 3(完結)
本当は今日は、土方とデートのはずだった。少し前まで久しぶりのデートをすごく喜んでる自分が居たのに。だけど、無理じゃんね。あんなの見たら無理に決まってる。
俺は土方とのデートの今日、1日中部屋の中でだらだらして過ごした。テレビを見たり、昼寝をしたり、まぁそんな感じで。午後になって何度か黒電話が鳴って俺の意識を浮上させた。土方に違いないって分かっていたけど、俺は電話を無視し続けた。そしたらその内、電話も鳴らなくなって、俺はまたソファーで微睡んだ。
「分かったアル、銀ちゃん。でも1人で大丈夫アルか?」
夕方になって遊びから帰って来た神楽に、俺は新八の所に行くように告げた。もしかしたら今日、怒った土方が家に来るかもしれないと思ったから。神楽につまんねぇとこなんて、見せられないしな。
「何言ってんの、神楽ちゃ〜ん。俺はもう立派な大人なんだよ。」
わざとからかい口調で神楽に言った。だけど神楽は心配そうな顔をしていた。
「最近銀ちゃん、何か辛そうだったヨ。…マヨに何かされたアルか?銀ちゃんを泣かしたら、私があいつボッコボコにしてやるネ。」
「ありがとな、神楽。…本当に大丈夫だからさ。」
ニコリと笑う神楽に俺もそっと微笑み返した。こいつに心配掛けちまうなんて、俺、家族失格だな。
神楽は、まだ少しだけ心配そうにしていたが、俺に頷いて玄関を出た。神楽を見送った俺は、力なくその場に座り込んだ。神楽に取り繕っていた表情も簡単に崩れていく。
「…ごめんな、神楽。銀さん、もうとっくにあいつに泣かされてんだわ。……土方、俺達もう駄目なのかな。…俺はまだお前が好きなのに。」
考えたくなかったことが頭をよぎる。土方、俺はお前が俺の恋人だって思ってた。お前もそう考えてるって思ってた。だけどそうじゃなくて、あの人が本当の恋人だったんなら。俺はあの光景を見て、お前が浮気したと思ったけど、本当は俺の方が浮気相手なのだとしたら。
「俺、どうすりゃいいんだよ。」
どうすれば、土方は俺の隣で笑い続けてくれる?
*****
神楽を見送ってほどなくして、玄関を強く叩く音が部屋の中に響いた。土方だ。話さなきゃいけないことは十分過ぎるくらい分かっているのに、会いたくなかった。会うのが怖かった。自分を保てる自信が、今の俺にはこれっぽっちもなかったから。
だけどこのままという訳にもいかず、俺は玄関を叩く音に促されるように、ゆっくりと扉を開けた。そして部屋の中に土方を招いた。
「銀時…今日デートの約束してたよな?…何で来なかった?心配したんだ。」
「…わりぃ。」
土方の顔が見られなくて、俺は俯いたままそう言うのがやっとだった。
「事件とかじゃなくて、まぁ良かったけどな。今度は連絡くらい入れろよ。…本当は会いに行こうと思ったんだが、山崎の奴が急に仕事入れやがって。…だから俺の方も来るのが遅れちまった。悪かった。だから埋め合わせは今度…」
「もういいから。お前とは…もう終わりでいいから。」
自分でも驚くくらい冷めた声だった。俺は俯いたままだったけど、土方がどんな顔をしてるのか想像できた。
「お前、何言ってんだよ。終わりって…俺と別れるって言うのかよ。」
土方と目が合う。群青色の瞳が、信じられないとでもいうように揺らめいた。
「そうだよ。もう終わり。…誰かの代わりなんて、俺はまっぴらごめんなんだよ。」
あの日見た2人が目に浮かぶ。悲しくてやるせなくて、俺は息をするのも苦しかった。土方が好きなのに、どうすることもできない自分がただ惨めだった。
「代わりってどういうことだ?…ちゃんと説明しろよ。」
土方が俺の腕を掴もうとしたが、俺はその手を振り払うように叫んでいた。自分でも女々しいなんて分かっていたのに、気持ちが抑えられなかった。
「見たんだよ、俺。…見たんだ。お前が綺麗な姉ちゃんと笑ってる所。どっかの家で楽しそうにさ。」
「銀時、お前…あの家、見たのか?」
土方の表情が変わった。ほらな、やっぱりお前は俺なんかより…だったらさ、もう俺のことはほっといてよ。俺に構わないで。そう土方に言ってやるつもりだった。だけど俺は、土方に強く抱き締められて、思考が停止した。頭の中が土方で一杯になって、もう何も考えられなかった。
「あれは、俺とお前の家だ。」
本当はまだ黙っておくつもりだったんだけどな。お前に見付かったんなら隠せねぇし。耳元で土方がそっと囁いた。俺と土方の家?何言ってんの?意味分かんない。
「何それ?どういうことだよ?…だったら何であそこに、あんな綺麗な…」
「お前多分すげ〜勘違いしてるみたいだから、説明する。だからちょっと黙っとけ。」
混乱する俺を宥めるように、土方がぽんぽんと俺の頭を触る。たったそれだけなのに、あんなに逆立っていた俺の心は落ち着いた。土方の温もりは俺の安定剤なんだ。
「あの人は、あの家を管理してくれるじいさんの孫なんだ。…じいさんがぎっくり腰になっちまって、治るまで代わりに色々やってもらってたんだ。」
「孫…?…でもお前、隣で嬉しそうに笑ってたじゃん。それに、楽しそうに2人で街を歩いてたって…」
「お前それも見てたのかよ。…街で見たのは多分、そのじいさんの見舞いの帰りだ。…女1人だと危ないから送っていったんだ。本当にそれだけだ。それと、嬉しそうに笑ってたってのは…お前のことを褒められたからだ。」
「えっ、俺?」
困惑する俺に土方がそうだと首を縦に振る。そして恥ずかしそうに話を続けた。
「あの日は、頼んでおいた庭の作庭が終わったって連絡貰って、見に行ったんだよ。俺の中でお前は白のイメージがあるから、白い花が咲くような庭にしてもらってさ。そしたら、白い花のイメージなんて俺の恋人は、さぞかし綺麗な人なんだろうなって言われた。心も綺麗なんだろうってさ。…恋人が褒められたら、嬉しいに決まってるじゃねぇか。」
お前は魂まで綺麗なんだからよ。そう言って土方は、さらに強く俺を抱き締める。そっか、土方はあの人に微笑んでたんじゃなくて、俺を想って嬉しそうにしてたんだ。そうだと分かったら、急に顔が熱くなって胸もドキドキしてきた。あぁ俺も現金だな、土方の言葉1つでこんなに幸せになれるんだからな。
「銀時、その…機嫌治ったか?」
腕を離して土方がおずおずと俺の顔を見る。もう大丈夫だよ。俺はお前と別れるつもりなんてないもん。俺は、さっきは感情的になって悪かったと謝った。俺の言葉に安堵する土方を見て、俺はこいつと離れたくないって改めて感じた。
「…ここはメガネやチャイナが居るし、屯所も総悟が居て、なかなか俺達だけでのんびりできる場所ってなかっただろ?だからあの家を買ったんだ。」
土方が真剣な顔をして俺を見る。俺も土方を見つめて、続きの言葉を待った。
「これから先、年取ってお前が万事屋辞めて、俺も副長じゃなくなった時、2人だけで過ごせる場所が欲しかったんだ。あの家でいつか一緒に暮らしたいって。」
何だよそれ、それって死ぬまで一緒ってことじゃん。土方はいいの?俺で本当にいいの?俺の気持ちはいつの間にか顔に出てたみたいで、絶対離さねぇからな、と土方が再び俺を抱き締めた。
「土方、俺…お前が大好きだよ。」
いつも恥ずかしくてなかなか言えない言葉も、今は簡単だった。本当に俺、お前が大好きで堪らない。
「そんなこと最初から知ってらぁ。」
幸せそうな土方の声に俺は何度も頷いて、その胸に顔を埋めた。
*****
太陽の光に反射して輝く新緑の青さに目を細めて、俺は隣に座る土方に寄りかかった。
「まさか、総悟の奴、銀時に俺のこと調べさせてたとはな。…本当にあいつどうにかしねぇと。」
「まぁまぁ、そう怒るなよ。沖田君のおかげよ?俺達の愛がもっと深まったのって。…それに神楽にも喜んでもらえたし。」
「チャイナがどうかしたのか?」
ん〜、こっちの話と適当に相槌を打つと、俺はそのまま綺麗に整えられた庭を眺めた。残念ながらこの庭が白で彩られるのは、もう少し先らしい。
「あっ、そうだ。この前沖田君に俺達のこと喋っちゃったから。本当は黙っておこうかなって思ったけどさ、俺、お前の恋人だからよ。居ないって何か変じゃね?って思って。こうしてお前の隣にちゃんと居るんだしさ。…沖田君、俺にはおめでとうって言ってくれたけど、多分お前、いじられるんじゃね〜の?」
頑張ってね、と少しだけ意地悪く笑ったら、お前らしいなと困ったように土方は微笑んだ。そんな俺達の間をさらさらと優しい風が吹き抜けていく。
「土方…こういうのが幸せなのかな。」
俺は土方の肩に頭を乗せてそっと尋ねた。すぐ側であぁ、そうだなと優しい声が響いた。
「じゃあ、俺今すごく幸せだ。」
「俺もだ、銀時。」
俺達はどちらからともなく手を繋いだ。柔らかな陽射しが2人をそっと包んでくれている気がした。
万事屋。真選組。俺の居場所。お前の居場所。それはきっとこれからも変わらない。
だけどこの場所は、俺達2人の場所。
俺達だけの、還る場所。
END
あとがき
このお話は、土方さんがプライベートで銀ちゃんと過ごす為だけに秘密の家を購入していたら萌えるなぁと思いまして書いたものです(*^^*)裏タイトルは、銀ちゃんの土方さん恋人調査顛末記といった感じでしょうか。
土方さんが毎回街を巡回しているかどうかあやしいですが、このお話の架空設定ということでお願いします。
2人だけの場所で、土銀の2人で幸せな時間を過ごしてもらえれば、私はそれだけで満足ですv
ここまで読んで下さってどうもありがとうございました(^^)
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