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白雪の花 2(完結)
「土方さん、今旦那のこと考えてたでしょう。顔に出てるぜィ。」



総悟の言葉にハッとする。図星だったので何も言わないでいると、

「俺も旦那に会いたいでさぁ。あ〜早くこんなかったるい仕事終わらせちまいましょうや。」



総悟の言う通りだ。俺達が北の地に布陣して3ヶ月ほどが経った。戦況は敵の方に分があるようだった。天人との密約で入手したであろう最新兵器にはさしもの真選組も苦戦を強いられていた。ここ1週間は膠着状態が続いており、上から総攻撃の命令が下るのも時間の問題のように俺は感じていた。



銀時…、あの日貰ったお守りを胸元から取り出すと、「待ってるから」と銀時の声が聞こえた気がした。



*****
その日は雪が降っていた。通りで寒いはずだ。何もこんな日に総攻撃とはねぇ。



昨日の軍議で近藤さんから、上層部より総攻撃が命じられたことが伝えられた。いよいよか…俺はただ目の前の敵をぶった斬って、銀時の、あいつの所に帰るだけだ。


「雪か…あいつみたいだな。」


出陣の準備をしながら外に目をやる。白い雪の花は銀時のことを思い出させた。銀色のふわふわした髪、透き通るような白い肌、儚くて綺麗な笑顔。



俺の大切な人。



*****
俺は戦場を駆けていた。総攻撃が始まって大分時間が経った。俺や総悟達隊長クラスは数人の部下を連れて戦っていた。敵を次々になぎ倒し、辺りには血と硝煙の臭いが立ち込めていた。伝令の連絡によると、この奇襲のような攻撃は功を奏したようで、こちらに勝機が見えてきたらしい。総悟達も奮闘しているようだ。やはり真選組は伊達じゃねぇよな。俺はほっと息を吐いた。



「うわぁぁぁ!!」


突然の叫び声。声のした方に駆け寄ろうとすると、部下の隊士が浪士に斬りつけられようとしていた。


「チッ、まずいな…」


俺は隊士を助けようと走り出した…が、突然脇腹に鈍い衝撃と痛みを感じて、膝から崩れ落ちた。脇腹にそっと触れると、手の平にはベッタリと赤が張り付いていた。


「こりゃあ、やべぇな…」


どうやら撃たれちまったみたいだな…段々意識が朦朧としてきたのか、自分を呼ぶ隊士達の声が遠くに聴こえる。俺は最後の力を振り絞って、隊士達に俺を置いて他の隊に合流するように命じた。俺を守って無駄死になんかしたら意味がない。1人でも多く生き残って、1人でも多くの敵をなぎ倒せ!


俺の気迫に従わざるを得ないと感じたのか、泣き顔のまま隊士達は俺に敬礼すると、駆け出していった。そうさ、それでいい…



*****
俺は1人で空を見上げていた。相変わらず雪は降り続いていて、ここが戦場であることも忘れるくらいに白く輝いていた。脇腹からは血が流れ続け、もう視界も霞んで良く見えねぇ。



「結局、約…束、守れ、なかった、な…あいつ、怒り、そうだな…」


こんな状態だというのに、銀時のことを考えると微笑ましい気持ちになった。


真選組の剣として生きたことに後悔はしていない。侍である以上、戦場で死ぬことも心得ている。だが、1つだけ願いが叶うのだとしたら。もう1度だけ、1目だけでいいから、銀時に会いたい。会いたいんだ。俺は動かない腕を無理矢理空へと伸ばし、瞼の裏の幻の銀時に触れた。あいつはこっちを見て、恥ずかしそうに笑っていた。


もう、これからこんな風に銀時に触れたり、自分の気持ちを伝えることもできないのか… ならば、せめて。


「…ずっと、言え…なかったが、銀…時、俺は、お前が好き…だ、愛し、てる。」


暗くなっていく視界の隅に、銀時の笑顔が見えた気がした。



銀時、お前はそこに居てくれるんだな…



*****
(銀時視点)



「…土方?」


俺は土方に呼ばれたような気がして振り返った。


「居るわけ、ないよなぁ。」


土方と最後に会ってから、もう3ヶ月が過ぎていた。買い物から帰ると、玄関の前に沖田君が立っていた。江戸に帰ってきたばかりのようで、所々包帯が見えていた。


「今回は…大変だったみたいだな。怪我は大丈夫なの?」


大丈夫でさぁ、心配してくれてありがとうございやすと言って沖田君はにこりと笑ったが、その後切ない表情になって、大事なことを伝えに来たと、俺をじっと見つめた。





「う、嘘…土方が…」


俺は沖田君の言葉が俄かに信じられなかった。土方は俺に話したいことがあるから、絶対に帰ってくると言っていたし、約束だってしていたのに。


「これ、土方さんが最後まで持っていた物でさぁ。」


そう言って沖田君は、俺にお守りと小さく折り畳まれた便箋を手渡した。どちらも血で赤黒く汚れていて、あぁ本当にもう土方はどこにもいないんだということを俺に教えてくれた。


「そのお守り、旦那があげたんでしょう?」

「え、あぁうん。」

「俺達が土方さんを見つけた時、土方さん、そのお守りを大切そうに握り締めて笑っていたんでさぁ。見てるこっちが恥ずかしくなるくらいの笑顔で。…きっと旦那の想いは土方さんに届きましたぜィ。」


そう言うと、沖田君は小さく笑って帰っていった。



*****
『銀時へ

お前がこれを読んでいるということは、俺はこの世にはいねぇな。この手紙は俺がずっと持っとくはずだったんだけどな。総悟が余計な気を回して、お前に渡したんだろうな。本当はこんな手紙、書くつもりなんてなかった。だけど、戦況が俺の思った以上に芳しくなくて、もしお前との約束を破っちまって、お前に会うことができなくなっちまったらって思ったら、どうしても書き残しておきたかったんだ。お前はヘタレだなぁとか思うかもしれねぇな。俺はどうやらお前のことになると、臆病になっちまうみたいだ。だけどそれだけお前のことが大切なんだ。



銀時、俺はお前が好きだ、愛してる。いつまでも一緒にいような。』



ポタッ…ポタッ…


「あ…?」


どんどん涙が溢れ、視界が滲んで、土方の綺麗な文字が読めなくなっていた。俺はぐしゃぐしゃな顔のまま床に突っ伏した。


「土方、土方ッ!」


涙が溢れて止ままらないのに、脳裏には色鮮やかに土方の姿が浮かんだ。誰もが振り返る端正な容姿、煙草を吸う時の仕草、俺を見て照れくさそうに笑う顔。数えられないほどたくさんある。


土方がそうだったように、俺もお前に惹かれてた。最初は気に食わないやつだと思っていたのに、一緒に連むようになってから、お前のことをどんどん知りたくなって。一緒に飲んでる時、いつもすげ〜緊張してたんだぜ、俺。


あの日、お前が俺ん家に来た最初で最後の日。お前なら大丈夫だよって軽く言ったけど、本当はすごく心配だった。だってあんな真剣な顔、初めてだったから。結局、お守りはお前を守ってはくれなかったけど、俺の気持ちはちゃんと届いてたんだな。


「土方、俺もお前が好きだ、これからも愛してる。…ずっと言えなかったけど。でもこれでおあいこかな。手紙のことは気にしなくていいよ。だってずっと俺の宝物だから。」



俺は土方の手紙をそっと抱き締めた。



*****
土方、俺にはまだここで、守らなくちゃならないものがある。お前が大切にしていたものもな。



だからそっちに行くのちょっとだけ待っててよ。


また会えたら、その時は俺の大好きなお前の笑顔で出迎えてよね、土方。






END






あとがき
人生初の小説が土銀副長死ネタです。片思い→ハピエン、甘々、死ネタが大好きなので、書けて満足です。でも途中でデータが飛んで、本当泣きそうになりました。最初と考えていた結末が違うような気もする作品になりましたが、土銀は本当に最高です。この一言に尽きます!!

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