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今宵はあなたと
眠れずにふと窓から見上げた月が、夜の暗闇の中で白く、それは綺麗に輝いていて。



俺と同じように、この月を見てるんじゃないかって気がして。



気が付いたら着替えてブーツを急いで履き、玄関を駆け出していた。



*****
人通りも随分と少なくなった真夜中の道を、銀時はある場所を目指して早足で歩く。約束もなしにこんな時間に会いに行ったら、土方の奴、びっくりするかな。…でももう寝てるかも。


土方の顔を思い浮かべながら、期待と少しの不安を胸に暗い中を進む。先ほどあまりに綺麗で思わず見とれてしまった月の光が、音もなく自分に降り注ぐように感じられた。


やっぱりあいつなら起きてるって。こんなに綺麗な月の夜なんだ。銀時は小さく頷くと、大切な人のもとへと駆け出した。


*****
溜まっていた仕事を片付け、煙草を吸おうと障子を開けたその瞬間。月が夜の暗闇の中で銀色に、それは綺麗に輝いていて。


まるで銀時の髪の色と同じだと思ってしまって。


こんな夜は、月を愛でながら酒を飲むのにもってこいじゃねぇか。



それからほどなくして土方は、焼酎を手に自室の縁側に腰掛けて夜空を仰いだ。



*****
自分以外誰も居ない、音のない静かな世界で酒を飲みながら愛しい人のことを考える。


自分を照らす柔らかな月の光が、銀時のふとした優しさのように感じられ、土方はそっと微笑む。こんな時、銀時が側に居てくれたら。一緒に酒、飲みてぇんだけどな。



「やっぱり起きてた。よぉ、土方。」


突然遠くから響いた声に土方は驚いた。庭の向こうの塀から、たった今思い浮かべていた人物が頭を覗かせていたからだ。


「銀時、お前…」

「いやぁ、入り口の門が閉まってたから、仕方なく…」


銀時は、わりぃなと小さく笑うと、ひらりと身軽に塀を飛び越えた。そしてそのまま庭をゆっくりと歩いて土方のすぐ目の前まで来た。


「おっ、月見酒?…風流だねぇ、土方。」


銀時は土方のすぐ隣に腰掛けると、土方が手に持ったままだった御猪口を奪い、そのまま一気に飲み干した。


あ〜、上手い。やっぱり真選組に置かれてる酒は高いやつなんだな。嬉しそうな銀時の横で、土方は戸惑っていた。今、こいつ、俺の御猪口で飲んだよな…ってことは、つまり…間接キスじゃねぇか。それに突然連絡もなしに来るのも珍しいし。


横目で銀時を見ると、何〜?土方、と銀時が顔を覗き込んだ。先ほどまで会いたいと思っていた恋人が、今隣に居るのだ。ただそれだけで良かった。何でもねぇよと呟いて、愛しい人の頬に手を伸ばして微笑んだ。



*****
土方はやはり、自分と同じようにこの綺麗な月に誘われていた。



土方の手が大切な物のように頬に触れるのを、銀時はくすぐったいような心地良いような、何ともいえない気持ちで受け止めていた。


もう駄目だ。銀時は土方の手が離れた瞬間、体を寄せて土方の肩に頭を乗せた。密着した彼の体が小さく揺れるのが感じられた。


「…俺だって、恋人には甘えたいんです〜。…最近お前、忙しかったじゃん。銀さんだって、優しくされたいんだよ。」


恥ずかしくて、すぐ近くにある土方の顔をまともに見ることができず、銀時は体を預けたままだった。


「俺だって…同じだ。」


黙っていた銀時に土方の小さな声が届いた。


「え?」

「わりぃな、銀時。…ちょっと酔っちまったみてぇだ。」


土方は言うなり銀時の膝の上に身を横たえた。所謂膝枕の状態に、銀時は真っ赤になった。心臓が破裂しそうなほど脈打ち、それが余計に銀時の羞恥心を煽った。


「土方、お前酔ってないだろ。何やって…」

「あの月…お前の髪と同じ色だ…本当に綺麗だな。」


その言葉に銀時の思考が止まる。土方はこれ以上ないというくらいに優しい顔で銀時を見上げると、そのまま腕を伸ばして銀時の髪に指を絡めた。ふわふわだな。嬉しそうに目を細める土方に銀時は胸が締め付けられて、嬉しいのに切なかった。


ふと土方と視線が合う。彼は銀時の着物の襟を掴むと、自分の方に寄せた。彼の望まんとすることが分かって銀時もそっと身を屈めた。



音もない静かな世界の中で、2人の影が重なった。



*****
「なぁ、今日はこのまま泊まらねぇか?…その、このまま帰したくねぇんだ。」


土方が銀時の耳元で甘く囁く。自分と同じように彼も恋人には甘えたいのだ。


「神楽が起きる前には帰ってないといけないからな…ちゃんと起こしてくれる?」

「あぁ、勿論だ。」

「それなら大丈夫。俺もまだお前と一緒に飲みたいし、その後…一緒に朝まで眠りたい。」


土方が自分の名前を呼びながら、強く抱き締めてくる。銀時も嬉しくて同じように抱き締めた。



月が綺麗だから。自分と同じようにその月を眺めている気がしたから。


そんなものは、もしかしたらただの口実で。



本当は、恋人に会って甘えたいだけだったのかもしれない。その顔が見たかっただけなのかもしれない。


だけど何でもいい。こうして土方と居て、俺すげ〜嬉しいんだもん。



仄かな月明かりだけの世界で、2人は酒を酌み交わし、愛を囁き合うのだ。






END






あとがき
夜の月と土銀は、本当に良く似合うと思います。しっとりとした雰囲気を目指したのですが、結局お互い甘えたがりだったという(^▽^;)


私の中では年上銀ちゃんの方が、土方さんに会いたいとか甘えたいと思っていると可愛いなぁというものがあります^^



読んで下さいまして、ありがとうございました。

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