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幸せ日和
「どうすっかなぁ…今年のプレゼントは…」



自分1人の静かな部屋の中で、小さな溜め息が溶けて消えていく。今日の分の書類仕事が終わった土方は、畳に体を投げ出すように寝転んだ。


寝転んだまま机の上に置かれたカレンダーに目をやる。愛しい人が生まれた日付には大きな丸印。もうすぐ大切な恋人の誕生日だった。そういう日こそ、格好良い所を見せたいというのが男という生き物であり、土方も銀時が喜ぶような物をあげたかった。


「…だけど、あいつに何あげたらいいんだ?」


指輪はもうすでに付き合った記念に渡してしまっていた。さすがにまたプレゼントする訳にもいかないだろう。だから土方は以前銀時に、それとなく欲しい物を尋ねたことがある。あくまで話の中で自然に、だ。


銀時が望む物は何でもプレゼントしてあげたかったから、土方は銀時の言葉を待った。銀時はう〜んと考え込むと真面目な顔で土方を見て、金がいい、お金ちょ〜だいと言ったのだった。


あの時のことを思い出して、土方は何となく悲しくなった。一応自分達は付き合っているはずであるのに、どうなのだろうかと思ってしまう。でも銀時は、ああいうこと平気で言う奴だしな、と納得できてしまう部分もある、切ないが。


「あ、そういや、あの時確か銀時の奴…」


別れ際の銀時の言葉が、土方の中で不意に蘇った。



『あのさ、さっきの話だけど…手作りとかいいよな。その人の気持ちが詰まってますって感じでさ。…そういうの貰ったら、俺すげぇ嬉しいかも。』



少しだけ恥ずかしそうにしていた銀時の顔を思い出し、土方の頬が緩む。手作りの物か…案外いいんじゃねぇのか。銀時の言う通り、自分の想いを込めることができるし、手作りの物を渡した方がより強く思い出として残るように感じる。


手作りの物など自分の柄ではないかもしれない。だが銀時が少しでも喜んでくれるなら、挑戦してみるのも悪くはないと、土方には思えた。



*****
誰も居ない深夜の屯所内の食堂の片隅で、土方は自分には一生縁がないと思っていたお菓子作りの本と格闘していた。



「何が『誰でも簡単』だよ!…全然上手くいかねぇじゃねぇか。」


土方はトレーに並べられた焼き上がったばかりのクッキーを睨み付けた。どこかで分量を間違えたのか、クッキーは上手く膨らまず、全く美味しそうには見えなかった。


「くそっ、今日もまた上手くいかねぇか。」


土方は甘い物が大好きな銀時に、プレゼントとして手作りのクッキーを作ってやろうと考えたのだ。クッキーならば、甘い物で手作りであるので銀時の望みに応えることができる。さらに誰でも簡単に作れるので、土方にとってもありがたいものに思えた。


だから簡単にいくと思っていたのに、土方の予想を裏切ってクッキー作りは難航していた。剣や隊の作戦を考えることは簡単にできてしまうのに、こういったことは自分は全然駄目のようだ。


銀時は俺と違ってこういうの、本当に上手いんだよな。いつか銀時が自分に手作りのケーキを見せてくれたことがあった。銀時はお菓子作りは勿論だが、家事全般も得意なのだ。あいつが嫁なら本当に助かるだろうな。一緒に暮らしても、安心して家のことを任せられそうだ。そうか、銀時が俺の嫁か…にやにやしそうになる自分を叱咤すると、土方は再びクッキー作りを再開することにした。


銀時の誕生日まであと少ししかないのだ。それまでに何とか上手く作れるようにならなければ。俺はどうしても銀時に喜んでもらいたい。土方はクッキーの生地で汚れた手で、流れ落ちる汗をそっと拭った。



*****
途中で総悟に見付かって冷やされながらも、銀時の誕生日当日の朝に土方は何とかクッキーを完成させた。自分の気持ちはたくさん詰め込んだが、所々茶色く焦げて、形も歪なそれを見ていると、本当にこんな物で銀時は喜んでくれるだろうかと土方は不安になった。


だからだろう。土方は先ほどまで居た綺麗な店を眺める。その店は江戸で人気の高級洋菓子店だった。色とりどりのリボンで丁寧にラッピングされたお菓子と、透明のラッピング袋の中に無造作に入れられた自分のクッキーを見比べた。近くにあったゴミ箱にクッキーを捨ててしまおうかとも思ったが、銀時の綺麗な笑顔が浮かび、土方はそのまま洋菓子店の紙袋の底に隠すようにクッキーの袋を押し込んだ。



*****
銀時は夕方まで新八の家で万事屋の家族と共にパーティーだったので、土方は夜になって銀時を訪れた。



「土方、来てくれて…ありがと。」


部屋に入るなり、銀時が甘えるように土方の首に腕を回した。土方も優しく銀時の腰を抱く。何かくすぐったい、銀時はそう呟いて土方の肩に顎を乗せた。


「土方、その袋って、もしかして…プレゼント?」


土方が手にしていた紙袋を見付けたのだろう。銀時が弾んだ声を出す。


「あ、あぁ…今年は忙しくてこんな物しか…」

「これ、今江戸で有名な超高級店のやつじゃん!土方、俺本当嬉しい!」


銀時は、土方の手から紙袋を取り上げると、机に置いてさっそく中身を物色し始めた。不意に袋の中を見ていた銀時の手が止まり、あのさ、と土方に声を掛けた。


「せっかく土方に貰ったから、今食べてもいい?」

「別に構わねぇが…」


じゃあいただきま〜す。そっと微笑んで、銀時は紙袋の中から所々焦げて歪なクッキーの袋を取り出すと、その1枚を口にした。


「おい、銀時…それは、」


やっぱり捨てときゃ良かった。土方は後悔しそうになって、そのまま目を見開いた。


「このクッキー、すげぇ美味しいよ。…ありがとね、土方。お前の気持ちがすごくすごく伝わってくるよ。」


花が咲いたような笑顔で銀時が土方を見ていた。その嬉しそうな顔に我慢できなくなり、銀時を強く抱き締める。銀時は腕の中で小さく身じろいだ。でも俺の方がもっと上手く作れるけどね、今度教えてやろ〜かと耳元で少々意地悪い声がする。だが銀時の耳は朱に染まっており、土方は嬉しさで一杯だった。そのまま少しだけ銀時の体を離すと、土方は目の前の愛しい人を優しく見つめた。


「銀時、生まれてきてくれてありがとう。…そして俺と出会ってくれて、一緒に居てくれてありがとな。」

「うん…土方。俺、今幸せだ。皆にたくさん祝ってもらったけど、やっぱりお前に言われるのが1番嬉しい。今日が人生最高かも。…本当に幸せだよ。」


少しだけ泣きそうな顔になった銀時を再び引き寄せると、土方は大切な物に触れるようにそっと口付けた。


「銀時、俺も幸せだ。」

「うん…」




大切な大切な人がこの世界に生まれた日。それは幸せな日に決まってる。これからも喧嘩したり、冗談言い合ったりしながら、ずっと銀時と一緒に居て、またこんな風に銀時の誕生日を祝いてぇな。土方はそんな想いを込めて抱き締める腕に力を込めた。






END






あとがき
銀ちゃんお誕生日おめでとう♪ということで、誕生日のお話です。


土銀ぽくなかったかもしれませんが、土銀です〜( ´`)銀ちゃんの為に頑張る副長さんを書いてみたくて、こんな感じになりました(^^)


銀ちゃんを好きになって随分経ちますが、これでもかというほど好きです(*^^*)これからも土方さんと幸せで居て欲しいです!


読んで下さいまして、本当にありがとうございましたv

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あきゅろす。
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