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君までもう少し 3(完結)
このままじゃ駄目だといつも思ってた。


銀時のことをただ見てるだけじゃあ何も始まらねぇなんざ、自分が1番良く知っている。


だけどやっぱり俺は、何も変われない。変わりたいと思うのに。あいつに手を伸ばしたいのに、遠くから見ているだけ。


不意にふわふわと揺れる銀色が目の端に映って、俺は小さく呟いた。


「銀時…俺はお前が…好きだ。」



通りの反対側に見えたその銀色は、俺の方を振り返ることなく、人の波に流されて行った。



*****
街中をくわえ煙草でのんびりと歩く。そんな俺の後ろを半歩遅れて総悟がついて来ていた。


「土方さ〜ん、仕事中に歩き煙草は関心しやせんぜ。」

「うるせぇな。巡回はもう終わって、あとは帰るだけじゃねぇか。…ちょっとくらいいいだろ。」

「これだからニコチン中毒者は…」


総悟といつものようなやり取りをしていた俺は、目の前に現れた人物を見て、あり得ないくらいに動揺して目を見開いた。


銀時が立っていた。俺をまっすぐ見て。だが、その顔は怒っているような、いや、泣きそうじゃねぇか?…とにかくそんな何とも言えない複雑な表情だった。 俺が何も言えずに立ち尽くしていると、銀時は下を向いて俺の腕をぎゅっと掴んだ。


「ちょっ、ぎん…万事屋?」


俺の言葉など聞こえていないように、銀時は無言で俺の腕を掴んだまま、路地裏へと引っ張っていく。


予想外の状況に俺はとっさに総悟の方を見たが、奴は土方さん、男を見せる時でさァ、頑張って下さいよ、と手を振って俺に背を向けたのだった。


*****
路地裏を随分と奥まで進んだ所で、銀時は俺の腕を離した。人通りから離れた狭い道は通りの喧騒も遠く、俺達以外に人の気配はなかった。


銀時と2人きり。本来ならば、俺にとっては嬉しくて仕方ねぇ状況だ。この前の飲み屋で偶然会った時だって、銀時が隣に居て緊張したが、やっぱり嬉しかった。だが、今はどうだ。銀時は俺のすぐ目の前で、俺をじっと見つめている。怒ったような顔をして…


俺は銀時が何故そんな表情をしてるのか、全く分からなかった。黙ったままの射抜くようなこいつの視線に、段々俺は耐えきれなくなり、銀時から目を逸らそうとした。それより早く、まるで俺にそうさせないとでもいうように、銀時が俺の胸ぐらを強く掴んだ。壁に押し付けられた俺は抗議の声を出そうとしたが、睫毛が触れそうなほど近くに銀時の顔があって、そのまま言葉を飲み込んでしまった。


銀時の顔が俺の目の前に広がった。俺は驚きや嬉しさや何やらで、今何が起きたのか信じられなかった。



唇と唇が触れるだけのふわりとしたキス。



俺が銀時の唇の甘さを感じる前に、銀時は掴んでいた隊服から手を離した。その顔はキスする前と同じで俺には怒っているように見えたが、1つだけ違っていた。…すげ〜真っ赤だった。暗がりの路地裏でもはっきり分かるほどに。多分耳まで赤いんじゃねぇか、あれは。


「…俺の方から行ったら、何だか…負けみたいで嫌だったのによ。お前、全然俺の所まで来てくれないじゃん。…待っててもずっとお前は、俺のこと見てるだけ…」


絞り出すような声で銀時が呟く。その肩は震えていて、俺は胸が苦しくなった。


「万事屋…」

「この前、飲み屋で一緒になった時、土方は酔ったままだったけど、俺のこと…好きだって言ったんだぜ。…俺も色々考えて、お前と一緒に居るのも悪くないかもって思ったんだ。」


なのに土方は、前と全然変わらない。俺が好きなら、俺の目の前で言ってみろよ。…強引に連れ去るくらいして欲しいんだよ。銀時は自分の着物の袖を握り締めて、俺を見た。俺は銀時の言葉に、頭が追い付かなかった。俺はみっともなく酔った上に、知らず知らずに告白までしちまってたのか。穴があったら入りてぇ。……でも今は、そんなことはどうでもいいと思えるくらい重要なことがある。俺もお前もお互いが大切だってことだ。


このままでいいのか、俺。…良くねぇだろ。今変わらなくて、いつ変われるっていうんだよ。銀時はこんな俺の所まで来てくれた。…だからもう見てるだけは、今日で終わりだ。


「…銀、時。今までずっと見てるだけで、勇気が出なかった俺を許してくれ。……お前が俺を選んでくれて、今泣きそうに幸せだ。」


俺の腕の中で隊服に頬を寄せながら、銀時が遅せぇよ、馬鹿土方と嬉しそうに笑った。


あぁ、俺はお前のそんな顔が見たかったんだ。遠くから見てるだけじゃ、絶対に見ることなんてできない俺の心を癒やしてくれるその笑顔を。俺は銀時の頬に手を当てると、自分から口付けた。さっきのキスじゃ俺もお前も満足しねぇだろ?



銀時との優しいキスに酔いながら、俺はこれからの銀時との未来を考えて、心がじんわりと温かくなるのを感じていた。






END






あとがき
今回は、なかなか好きと言ってくれないから、もうこっちから行くしかない!という肉食系とまではいきませんが、強気な銀ちゃんにしてみました^^


銀ちゃんが好きだけど、嫌われたくなくて、好きと言えずに、ただ見てるだけな土方さんを書きましたが、こんな土方さんはやっぱりイヤですね〜(^^;)格好良い副長さんの方が素敵ですよねv


ここまで読んで頂きありがとうございました(^^)

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