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君までもう少し 2
(銀時視点)




あいつってさ、あ…土方のことなんだけどね。


あいつは周りから、頭が切れて冷静沈着な「鬼の副長」なんて言われてるみたいだけど、俺にしてみれば絶対に違うと思う。


…なぁ、土方。俺が気付いてないとでも思ってる訳?最近街をぶらりとしていると、お前の視線を感じるんだ。


最初は俺に後ろからガン飛ばしてんのかなって思った。お前の気配は痛いくらいだったから。だけど段々それは違うことに気付いた。


土方と目が合った時、あいつはすぐに仏頂面で俺から視線を外したけど、何だか切ないような顔をしていたように見えた。…多分俺の気のせいだとは思うんだけど。



だからさ、土方、お前の視線の意味を俺はもうずっと計りかねていた。



*****
今日は久しぶりの依頼があって、まとまったお金が入った俺は、せっかくだからと飲みに行くことにした。たまには1人でゆっくり飲むのもいいんだよな。俺は、裏道にある隠れ家のようなお気に入りの飲み屋に行くことにした。


店内に入って、真っ先に目に入った黒に俺は驚いた。土方が1人で静かに酒を飲んでいたから。…俺は別に、土方のことが嫌いな訳でも何でもない。ただ俺に対する視線の意味が良く分からなくて。だけど本人に聞く訳にもいかないから、何となくこの状況をどうしようと思った。


土方は俺をチラリと見ると、俺に一緒にどうかと尋ねてきた。……お前ってさ、俺と話す時は俺の目を見ないんだな。じっと遠くから見つめるだけじゃ、俺はお前の考えなんて分かんねぇよ。土方が俺を見ないことに何となく胸の痛さを感じてしまって、俺は頭を振った。あれ?俺、何で悲しい気持ちになってんの?…あ〜、考えるのはやめだ。せっかくの酒がまずくなるよな。



俺は今は目の前の酒だと、土方に礼を言って隣の席に腰掛けることにした。



*****
こいつ、大丈夫かよ?…ちょっと飲み過ぎじゃね?俺の心配をよそに、土方は次々とビール瓶を空けていく。黙々とビールを飲む土方の隣で、俺も黙って串焼きをかじっていた。


土方の奴、さっきから飲んでばっかりで、全然会話がねぇ。…うぅ、何か気まずいんだけど。ここは何か話さないと…そう思って口を開こうとした俺の隣で小さな音がした。土方を振り返って俺はどうしたもんかと溜め息を吐いた。


「お〜い、土方。…大丈夫かよ。」


土方の肩を軽く揺さぶってみるが、こいつはテーブルに突っ伏したままで反応がなかった。あんなにがばがば飲んでたら、そりゃこうなるよ。俺はもう1度土方を起こそうと手を伸ばした。


「……き、だ。ぎん…」

「…え?」

「好き、だ。…銀…時。」


土方の言葉に伸ばしかけた腕が止まった。



…あぁ、そうか。そうだったんだ。


土方の視線の意味が、今漸く分かった気がした。


「土方…俺が、好きなんだ。」


俺の中で土方の言葉は、ストンと胸に落ちた。俺は心のどこかで無意識だろうけど、考えていたことがあった。―ー俺と土方は良く似ているんじゃないかって。


俺達は、お互い大切なものを守りながら生きている。俺は神楽や新八、俺の周りの奴ら。土方は真選組。俺も土方も大切なものの為なら、自分のことはどうだっていいとすら思ってる。守りたいものを守れなかったら、俺もお前も死んだも同じだって思ってるはずだ。それに俺もお前もこの先、家族を持つことはないだろうなぁとも思うんだよね。身軽でいる方が気楽だし、お互いもう家族みたいな存在が周りに居るからな。


俺はうつ伏せのまま静かに寝息を立てている土方を見た。


お互いの欠けているものを補うように寄り添う関係もいいだろうなって思うけど、似た者同士が同じ思いを分かち合う関係も悪くないと俺は思う。土方と一緒に居て、そんな関係になるのも案外楽しいんじゃねぇの、と俺には思えた。だから、土方の言葉を俺はすんなりと聞くことができた。



こいつと一緒なら、素の自分で居られる気がするんだ。なぁ、土方。お前もそうなんだよね?



*****
俺は泥酔状態の土方の肩を担いで、真選組の屯所まで送ることにした。


さっきの言葉と、土方の視線に込められた意味を理解してしまえば、もう嫌でも土方を意識してしまっていた。


「…顔が、近ぇんだよ。…本当、俺も単純だよな。」


土方のことを認めてしまえば、顔の近さがやけに気になった。…多分今、俺の顔、真っ赤だろうな。さっき隣で飲んでる時は全然平気だったのに。俺の歩みに合わせて土方の頭が小さく揺れる。


土方、さっきの言葉が嘘じゃないなら、俺の目を見てちゃんと伝えろよ。もう遠くから俺を見つめるだけなんてことしないでくれ。ちゃんと俺の所まで来てよ。



月明かりに照らされながら、俺はそんな祈りを込めて目を閉じた。

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