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君までもう少し 1
銀時←ヘタレ土方




俺は、いつもその銀色を遠くから見つめることしかできない。



本当はその銀色を俺の腕の中に閉じ込めてしまいたいのに。



だが今日も俺は、すれ違うその眩いばかりの銀色に目を細めることしかできないのだ。



その銀色に触れたいのにー―



*****
あいつのことをいつ好きになったのかなんて、今ではもう良く分からねぇ。気に食わなかったはずなんだ。だが気が付けば、あいつのことを、四六時中考えちまうようになってて、江戸の街を巡回する時は、無意識にあの銀色を探してしまうようになった。


そこで俺は分かった。…自分の気持ちが何て呼ばれるものなのか分かっちまったんだ。



俺は、銀時のことを好きになっていた。銀時に振り向いて欲しい。俺の隣で笑って欲しい。そんな想いが日増しに強くなっていった。だがそんな俺の心とは裏腹に、体は言うことを聞いて動いてはくれなかった。銀時に声を掛けることも、どこかに誘うことも碌にできなかった。ただ街中ですれ違うあいつを振り返って眺めるだけ。ただそれだけしかできなかった。


…本当に情けねぇ。何やってんだ、俺はよ。動かなけりゃ何も始まらねぇのに。分かってはいるのに、俺は結局何もできない。あいつに話し掛けても、緊張でまともに顔を見る自信がねぇし、それに何よりも俺が話し掛けて銀時に嫌な顔をされたら…って考えちまったら、怖くて足が動かなくなってしまう。


俺はどうすればいいんだよ。このままただ銀時を目で追ってるだけじゃ、もう嫌なんだ。



*****
俺は自室の布団の上で、酷い二日酔いと戦っていた。ズキズキと痛む頭を押さえて、昨日の夜のことを必死に思い出そうとする。だがそれは断片的にしか蘇らず、俺は嬉しさや、やっちまったという思いで一杯だった。





昨日は非番だったので、俺は馴染みの飲み屋に向かった。その店は通りから奥まった裏道にあり、通の奴らが訪れるだけで、あまり客の来ない俺のお気に入りの場所だった。


静かな店内で、いつものカウンター席に座って一人酒を楽しんでいた俺は、暖簾をくぐって入って来た人物に視線が釘付けになった。


「…万事、屋。」

「うわ、土方だ。何でここに居るんだよ。今日はゆっくり一人酒しようと思ったのに。」


俺は予想もしていなかった銀時の登場に心臓が止まっちまうかと思った。実際グラスを持つ手は小さく震えていて、俺は動揺し過ぎだろと自分を恥ずかしく思った。銀時はそんな俺に気付くこともなく、俺から離れた席に座った。…この偶然を無駄にする訳にはいかねぇ。今日こそ動かねぇと、本当におしまいだ。俺は決心すると、銀時に呼び掛けた。


「なぁ、万事屋。良かったら…その…一緒にどうだ?」


俺の一世一代ともいえる誘いに銀時は、どうしようという顔をしたが、俺の奢ってやるよという言葉を聞くと、目を輝かせて俺の隣に座り直した。


わりぃな、土方。奢ってもらっちゃって。そう言って美味しそうに串焼きを頬張る銀時に、俺は胸が一杯だった。こんなに近くに銀時が居るなんて、俺は幸せな夢でも見てるんじゃねぇのか?そう思えるほど銀時は俺の近くに居た。自分から誘っておきながら、この状況に耐えきれなくなっちまって、俺は目を逸らすように酒を飲み続けた。


酒でも飲んでないと、正気でいられねぇ。俺は大丈夫か?と尋ねてきた銀時を無視して酒を煽り続けた。銀時が隣に居るというあり得ない状況は、結果としていつものペースを狂わせることとなり、俺はかつてないほどの酷い酔いに襲われた。目の前に居る銀時の顔がぐにゃりと歪んで見え、俺は思わずテーブルに突っ伏した。銀時が俺を呼ぶ声が聞こえたが、俺の意識は泥のように沈んでいった。





気が付けば、俺は自分の部屋の布団の上に転がっていた。どうしてここに居るのか全くと言っていいほど覚えていなかった。…俺、銀時と飲んでたよな?やべぇ、覚えてねぇ。


俺が布団の上で頭を抱えていると、突然部屋の障子が音を立てて開けられた。隙間から差し込んでくる朝日が眩しくて俺は目を細めた。


「土方さん、大丈夫ですかィ?…一応近藤さんに言われたんで、仕方なく胃薬持って来やした。」


総悟が嫌そうな顔で、薬と水が入ったコップを持って立っていた。俺は総悟に昨日のことを恐る恐る尋ねてみた。すると総悟は、覚えてないんですかィとニヤリと笑った。


「土方さん、あんた、昨日べろんべろんに酔って旦那に肩借りて帰って来たんですぜィ。本当に旦那に感謝するこった。…俺だったら、その辺に捨てて帰るんですがね。」


ちゃんと薬飲んで下せぇよ、俺の仕事が増えるんで。そう呟いて総悟は廊下に消えていった。


「…俺、やっちまった。…あいつに何て所見られちまったんだ。」



銀時が隣に居ることで、嬉しさのあまりに緊張した挙げ句、みっともなく酔って醜態を晒しちまうなんて…



俺は顔に手を当てると、深い溜め息を吐くしかなかった。

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あきゅろす。
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