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漆黒の月 4(完結)
銀時と土方が悲しい別れをしてから、月日が流れた。



土方は銀時のことを必死に探した。どんな小さなことでもいい。手がかりが欲しかった。だがそんな土方を嘲笑うかのように、銀時の居場所は掴めず、気が付けば1ヶ月が過ぎようとしていた。


今日の市中の巡回でも、総悟にたるんでいると馬鹿にされた。察しの良い総悟のことだ。多分自分と銀時の間に、何かあったのだと分かっているのだろう。敢えて何も聞いてこない所に少しだけ彼の優しさを感じた。





見回りから戻り、午後になって土方は自室で書類の整理に追われていた。廊下に気配を感じて、書類に目を向けたまま話し掛ける。


「何だ、山崎。急用か?」

「副長、大変です!椿が…椿が現れました。」


土方は持っていたペンを落としそうになった。ドクドクと心臓が脈打ち、動揺が隠せなかった。山崎の報告によると、椿の枝が置かれていたのは、幕府の官僚とも懇意にしている獏という名の天人の商人だった。


獏は江戸で手広く商売をし、大豪邸に住んでいるらしいのだが、彼には違法な人身売買を仲介しているという黒い噂があった。勿論、ただの噂に過ぎなかったが、椿が彼を狙うのならば…土方は、もしかしたらその獏という商人が、1枚噛んでいる可能性も捨てきれないように思えた。そしてその獏の要請で、真選組も獏が私的に雇った警備員と共に今夜、彼の屋敷を警護することになった。


銀…俺、お前に会ったらどんな顔すりゃいいんだよ。どんな顔してお前と向き合えばいいんだ?



最後に見た銀時の悲しそうな切なそうな顔が浮かぶ。胸の苦しさに土方は、クシャリとシャツを握り締めることしかできなかった。



*****
月明かりが淡く銀時の髪を照らしていた。彼は今、ターゲットの屋敷から少し離れた茂みに身を隠していた。2人は今頃上手くやっているだろうか?先ほど無線で会話をしてから、連絡がなかった。


銀時が記憶喪失になっていたということで、屋敷への侵入、及び人身売買の為屋敷内に幽閉されているであろう子供達の救出は、桂と高杉が行うこととなった。銀時には、裏口で真選組や警備員を引き付けておく役目が与えられた。だから今こうして茂みに隠れて、機会を窺っているのであった。


全てを思い出して戻って来た銀時を、桂も高杉も温かく迎えた。幼い頃からずっと一緒の3人は、仲間であるのは勿論だが、お互いを家族のように思っていた。これからも自分達は仲間であり、家族であることに変わりはない。


だけど。土方の端正な顔が、銀時の脳裏に浮かんだ。お互い相容れない立場にいることなど分かりきっているのに、銀時は土方との関係を最早なかったことにはできなかった。俺は今もお前が好きなんだよ、土方。…なのに、お前と再び会う時、俺とお前は、逃げる者と捕まえる者だ。一緒に居ることなんて絶対にできない。


泣きそうになりかけた時、銀時の耳に掛けられた小さなイヤホンから声が響いた。


「銀時、俺だ。今、子供達を解放した。じきに屋敷から出て来る。」


桂の声に混じるように、そろそろずらかるから、銀時、テメェは狗共の相手して適当な所で捲けよ、と高杉の声も聞こえた。分かった。銀時は彼らに返事をすると、茂みから身を踊り出した。遠くで子供達の声が聞こえたので、良かったと胸をなで下ろし、屋敷の裏口へと回ろうとした。



「…やっぱりお前なら、ここだと思った。俺1人で来て正解だった。」

突然背後から声がした。振り向かなくても分かる。もう何度も隣で聴いた声だ。


「土方…」


銀時はゆっくりと振り返った。目の前にはあの時と同じように、腰の刀に手を掛けた土方が立っていた。彼は苦しそうな表情で銀時を見ていた。


「銀…いや、銀時だったな。…お前に俺の苦しみが…分かるか?好きな奴に刀を向けなきゃならねぇ俺の気持ちが。」


土方が吐き捨てるように呟いた。彼が真選組の副長である以上、捕縛対象となっている銀時を私情で逃がすことなどあってはならない。そんなことなど銀時も痛いくらいに分かっていることだった。


「…俺だって、苦しいよ、土方。…好きな人と戦いたくなんてないよ。」


銀時も土方も一歩踏み出し、間合いを詰めた。雲の隙間から覗く月の光以外に、2人の間には何もなかった。また一歩2人は間合いを詰める。一陣の風が吹いたのを合図のように、土方が刀を鞘から抜くと、銀時に向かった。銀時も桂から借りた刀を構え、土方に走って行く。


2人の刀が激しくぶつかる音が響くはずだった。だが聴こえたのは、ガシャンと2つの刀が地面に落ちた音だった。



「銀時!」

「土方、土方…」


2人は刀を捨て、お互いを強く抱き締めていた。


「俺には…無理だ。銀時を捕まえるなんて…」

「土方、俺、まだお前が好きだ。だから離れたくない。」


2人は離れていた時間を埋めるように抱き合って、口付けを交わした。お互い自分の気持ちに嘘を吐くことは、もうできなかった。


「銀時、何とかしてお前らを逃がしてやる。俺は自分の気持ちを曲げたくねぇ。お前が好きだから。」


土方が真剣な声で告げた。銀時は土方の気持ちが死ぬほど嬉しかったが、彼を危険な目に遭わせたくはなかった。どうすればいいのだろう。土方の腕の中で考えていると、屋敷の裏の扉が突然開いた。


「探しやしたぜィ、土方さん。勝手に消えちまうんで、こちとらどれだけ探したか…あれ?旦那じゃねぇですかい。」


土方を探していたらしい総悟が2人の前に現れた。彼は銀時に気付いて、何故ここに居るのかと目をぱちくりさせた。


「驚くかもしれねぇが、銀時は椿の1人だったんだ。」


銀時を自分の背に隠すようにして、土方が伝えた。さすがに総悟も驚いた顔をしたが、すぐに表情を戻した。


「土方さん。その椿の件ですが……説明するの面倒なんで、近藤さんから聞いて下せぇ。」


総悟はのんびりそう言うと、近藤さ〜んと扉を開けて、扉の向こうに居るのであろう近藤を手招きをした。



「近藤さん、椿のこと土方さんに教えてやって欲しいんですが。」

「トシ、椿のことなんだがな…あれ?何か美人が居るんだけど…誰?トシの恋人?」


まぁ、そんな所だ。気にせず続けてくれ、と土方は近藤に話の先を促した。銀時が不安そうな顔をしていることに気付き、土方はそっと銀時の手を握ると、心配するなと微笑んだ。


「まず俺達が警護してた獏様…もう獏って呼ぶけど、獏が人身売買の仲介の容疑で逮捕された。それでさっき上から命令が来てな、椿の捕縛は…取り消しだそうだ。」


土方の横で銀時が小さく息を飲んだ。近藤が、トシお前、もともと椿の捕縛に乗り気じゃなかったろ?良かったなと土方の肩を叩いた。


「近藤さん、どうして取り消し命令が…」

「俺も詳しく知らんが、解放された子供の中に、幕府の官僚の子供が居たらしくてな。その官僚が、感謝して椿の捕縛を取り消すように訴えたらしい。それが通ったってことだろう。」


椿も形は違えど、江戸の市民を守るという強い信念を持ってるからな。近藤がうんうんと頷いた。近藤の話を聞いて、銀時は喜びに震えていた。今にもその場に倒れ込みそうになる足を踏ん張って支える。もう悲しまなくていいんだ。胸を張って土方と一緒に居てもいいんだ。銀時は先ほど土方が繋いでくれた手に力を込めた。



「その話は本当か?俺達の捕縛が取り消されたというのは。」


銀時達の背後の林から声がしたかと思うと、ガサガサと茂みを掻き分けて桂と高杉が現れた。


「ヅラ、高杉!」

「ヅラじゃない桂だ。銀時、無事か?」

「俺達もその林で話聞いてたんだがよ、どうやら本当みてぇだな。」


高杉がチラリと土方と近藤を見た。すると、1人離れていた総悟が、近藤さん、俺達はお邪魔みたいなんで、あっちで事件の後処理してやしょうと近藤を引っ張っていった。


「沖田君、ありがとう。」


銀時が感謝を伝えると、今度一緒に団子でも食べましょうや、とひらひらと手を振って扉の向こうに去っていった。



*****
その場には土方と銀時、桂に高杉の4人が残された。沈黙を破ったのは高杉だった。


「銀時。さっき俺とヅラで話したんだがな。俺達はこのまま江戸を出て…京都辺りに行こうかって考えてる。もう江戸でも十分働いたしな。今後はそこの幕府の狗に頑張ってもらうって訳よ。で、テメェはどうする?」


銀時は桂、高杉を順に見た。彼らは自分の大切な仲間であり、家族だ。これからも椿として生きる2人を支えたい気持ちはある。けれども。銀時は土方を見た。土方は銀時を愛おしむような目で見ていた。2人のことは勿論大切だ。だけどそれ以上に俺にとって土方は、かけがえのない大切な存在なんだ。ずっと一緒に居たいって思うんだ。



「俺…ここに残る。土方と一緒に居たいから。」

「テメェならそう言うと思った。銀時、元気でいろよ。」

「俺達は離れていても、銀時の幸せを願っている。そのことを忘れてはいかんぞ。」


桂と高杉は小さく笑うと、銀時に背を向け、夜の闇へと消えた。銀時は遠くなっていく2人を、その姿が見えなくなるまで見つめ続けた。





「あいつらについて行かなくて…本当に良かったのか?」


今まで黙っていた土方が静かに呟いた。


「家族はどこに居ても家族だろ?だからいいの。…俺は土方がいい。土方とずっとずっと一緒に居たいんだ。その気持ちは変わらない。」


銀時の言葉に土方も込み上げる感情を抑えきれず、再び銀時をその腕の中に閉じ込めた。銀時、銀時、俺もだ。耳元で何度も土方が呟いた。その声は震えていて、もしかして土方は泣いているのかもしれないと感じた。


「まぁ…ヅラと高杉は続けるとしても、俺は椿廃業だな。」


土方の肩に顎を乗せて、銀時はそっと話し始めた。


「でさ、考えたんだけど、何でも屋?…万事屋っていうのかな?とにかく便利屋みたいな仕事しようかなって思うんだ。やっぱり俺、江戸の皆の役に立つ仕事がしてぇもん。ばあさんに頼んで、あのまま2階使わせてもらってさ。…土方はどう思う?」


土方は黙って話を聞いていたが、がばりと銀時の体を離すと、顔を近付けた。


「なぁ、その万事屋の依頼、俺が最初にしていいか?」

「勿論、俺も最初なら土方がいい。でもどんな依頼?」


土方は近付けていた顔を銀時の耳元に寄せると、飛びきり甘く囁いた。


「俺の依頼は、銀時がずっと俺から離れないことだ。…いつまでも俺と一緒に居てくれ。」


耳朶を擽るようなその甘い囁きに、銀時は全身が熱くなった。土方はずるい。俺はもうとっくに土方が居ないと生きていけないくらい、お前のこと愛してるんだよ。


「そんな恥ずかしい依頼するなよ!土方の馬鹿。」


銀時は恥ずかしさのあまり土方の胸倉を強く叩いた。土方がふらついた際、彼のポケットから黒い布がひらりと落ちた。


「これ、俺の…」

「あぁ、お前が川に落ちた後で拾ったんだ。…あの時から銀時のこと、すでに気になってたんだよな。…この布、お前のだから返すぜ。」

「ううん、もういらない。欲しかったら土方が持ってていいよ。俺は今日からもう万事屋だもん。」


土方が見惚れるほどの綺麗な笑顔で銀時が笑った。


「あぁ、そうだな。」


土方も銀時に笑い返した。




月の光が2人に降り注ぎ、その笑顔をきらきらと輝かせていた。






END






あとがき
このお話は、記憶喪失になってしまう銀ちゃんを書きたくて、勢いで書いてしまったものです(^^;)


銀ちゃん記憶喪失→原因は?→土方さんに追われて怪我して…だと萌える→だったら銀ちゃんと土方さんを立場的に敵同士にしたらもっと萌える


という感じで、できあがりました^^「椿」というまたも微妙なネーミングですみません(>_<)


それから書いてて何となく会話が高銀ぽくなりましたが、私は銀高スキーですv高杉さんは銀魂では受けの頂点に立つ御方だと思ってます(^^)/


そして銀ちゃんのお母さんみたいなお登勢さんも書けて満足です♪



色々無理矢理設定で、おかしい部分も多々あると思いますが、ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました(^^)

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