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今夜くらいは
佑依様から110000HITリクエストで頂いた 『パー子のドキドキ!クリスマス大作戦!』のお話です




向こうの方でざわざわと何やら隊士達が騒がしい。副長、今日が何の日だか分かってますかと口々にぼやいて皆一様にやる気のない顔でそれぞれの持ち場に立っていたというのに。おい、お前らたるんでんじゃねェぞ、今は仕事中だ、と喝を入れてやってからまだ30分も経っていないのに今度はこれだ。江戸を護る警察組織が情けない話だが、ここはもう一度注意した方がいい。眠らない街の明かりでどこか霞んで見える星空を振り仰いで土方はそう決めた。くゆる紫煙が真冬の風に流されて夜の黒に溶けていく。


今日は12月24日だからなのだろう、年末の特別警戒地域に指定されているこのかぶき町はいつにも増して派手派手しい光がそこかしこに溢れている。腕を組んで仲睦まじく歩く着飾った男女。ホストの男やキャバクラの女の客引きの声が耳にうるさいくらいだ。そういう浮わついた雰囲気に中てられてしまったのだろうか。隊士達の高揚したざわめきは尚も土方の耳に届く。それがあまりにも続くものだから、土方は眉を顰めた。


「……」


いや、もしかしたら何か事件が発生したのか。隊士達が騒がしい可能性としてはそれも十分にあり得ることなのだ。土方は指先に挟んでいた煙草を携帯灰皿に押し込むと、喧騒がする方へと足早に進んだ。 そして飛び込んできた光景に、あ、と声を上げて瞳をはためかせた。足はその場に縫い止められたように動かなくなる。事件と言えばそれはある意味事件だと言ってもいいのかもしれなかった。


「銀…」


駆け寄った先、盛り上がる隊士達の輪の中心に恋人が立っていたのだ。恋人が土方の仕事場に来るなど初めてのことだった。真選組の仕事にはあまり興味を持っていない印象があったから予想外だった。だがそれ以上に土方を困惑させる光景が目の前にある。彼の頭の先から爪先まで上から下へ順に視線を移動させ、土方は瞬きを繰り返した。それは確かに事件だった。恋人が仕事中の土方に会いに来た、それも普段とは180度違うとんでもない格好で。


「24日もお仕事で可哀想な副長さんの為に出張サービスに来ちゃいましたぁ。」


銀色の愛らしいツインテール。蠱惑的な女らしく見える猫目の化粧。膝丈の赤いワンピースのそれは子供達に贈り物を届ける異国の老人を模した服装だ。その服とお揃いで纏っている赤いケープは白くて丸いファー付きのリボンが胸元で揺れている。そして長い脚は白いニーハイソックスで覆われ、 黒の編み上げのブーツがその魅惑の脚線美を演出するのに一役買っていた。どこからどう見ても完璧に似合っていて 、多少背丈はあるが酷く可愛らしい。ただそれを手放しで喜んでいい訳がなかった。目の前の人物の性別を考えれば。


「お前またその格好…」

「パー子でーす!」


普段よりも少し高めの甘い声。平隊士達に混じってひらひらと手を振る仕草は実に楽しそうだ。旦那綺麗です、可愛いですと褒めそやす声に艶っぽい笑みを向けている。そんな銀時と対照的に土方は苦い表情になってぐっと眉根を寄せた。


「ん?だって24日と25日は時給がいい感じに上がんだよ。ちなみに今日明日はミニスカサンタ強化デーだからね。」

「何だそれ。あの店はそれ以上何を強化するんだよ。」


吐き捨てるように言わなければ、銀時に見惚れてだらしがなくなった顔を周囲に晒してしまうところだった。先ほどからもうずっと目のやり場に困っている。そう、非常に困るのだ。艶めかしい脚線にくらりと眩暈がする。普段は着流しの中に隠されているそれが白いニーハイソックスを履いているとはいえ、惜しげもなく眼前に披露されているのだ。土方は深い溜め息を吐くと防寒用に着ていたコートを脱いだ。そしてそれを頭からすっぽりと銀時に被せた。


「これ着てろ。」

「は?」

「んな格好してたら誰に見られてるか分かったもんじゃねェだろうが。」


それからお前らもさっさと戻れと低い声で唸れば、こちらの様子を窺っていた若い隊士達は蜘蛛の子を散らすように一様に持ち場に戻って行った。黒のコートに渋々といった風に腕を通しつつ、今度は銀時の方が大きな溜め息を零した。


「あのさぁ、自分で言ってて複雑な気分にはなんだけど、こんな格好の俺見て変な気起こすのお前だけだよ?」

「お前に欲情する奴が居ねェとは限らねェんだぞ。」

「あーはいはい。ま、でも。」


鬼の副長様はパー子に優しいんですねぇ。そう言って銀時が猫のようにするりと腕を絡ませてきた。密着した身体からふんわり甘い匂いがする。だからそういうのはやめてくれ色々と身が持たんと叫んで頭を抱えたくなった。


「くそっ……山崎!」

「はい、お呼びでしょうか、副長。」


辺りを見回して名前を呼べば、この地味だが優秀な監察はすぐに駆け付ける。命令待機の為に姿勢良く立ち止まった彼を一瞥してから土方は再度口を開いた。


「こいつ送ってくからしばらく戻らねェ。何かあったら電話で報告しろ。」

「分かりました。お気を付けて。」


山崎に軽く頷いた後、土方は銀時の手首を掴んで歩き出した。周りの目に今の自分達はどんな風に映っているのだろう。そんなことがちらりと脳裏を過る。けれども今は早く2人きりになりたかった。手のひらからじんわりと伝わる自分のものではないもうひとつの熱。この場から銀時を連れ出すことだけを考えながら、土方は夜の街の喧騒の中を足早に歩いた。






「あれ?」


冬の夜風を受けながら土方に手を引かれて辿り着いた場所、そこは全くの予想外だったので銀時は首を傾げて訝しんだ。


「万事屋じゃねェの?」


送っていくと言われたのでてっきりかぶき町の我が家だろうと思っていたのだが。銀時が今立っているのは新撰組の屯所、土方の自室だった。何でお前の部屋なのと訊ねてみたら、別に深い意味はねェよとぶっきらぼうに返された。


「で、何でそんな格好で会いに来たんだ。」


続けて少しきつい口調で土方が問う。責めている訳ではないと思うが、きっと困惑してはいるのだろう。それは分からないでもない。だがこちらにだって理由はあるのだ。


「…俺だってよォ、一度くらいはお前と…」


土方と恋仲になったからといって別に特別なことがしたい訳ではない。酒を飲んだり、どこかに出掛けたり、時々じゃれ合うみたいに抱き合って一緒の布団で眠ったり。これからもそういうことがこの男とできるならば、とても幸せだ。そう、何も特別なことがしたい訳ではない。だから普通の恋人同士のように12月24日に顔を合わせたいと思っただけだ。だが今夜会いたいと仕事中の恋人の所へ押し掛けるには坂田銀時にはハードルが高かった。


「パー子のテンションだったら大丈夫じゃね言えるんじゃねって思ったんだよ。24日だし、今夜会いてェなとか、そういうこと考えたりとか…」


何だよ悪いかよと続く言葉は尻窄みに萎んでしまう。自分でも呆れるくらい馬鹿なことをしている自覚はあった。けれどもこうでもしないとこの日に会えないと思ったのだ。少しの時間でいいから今日この日に会ってみたいと思ったのだ。


「こんな酷ェ姿で勝手に職場に来て悪かったな。嫌な気持ちにさせたと思うし…」

「嫌じゃねェからそんな顔すんな。」

「だってお前パー子の格好した俺見るといつも不機嫌になるじゃん。」


さっきだって嫌そうにむすっとしていたと指摘すると、そりゃ当たり前だと頭を小突かれた。


「いたっ、土方おめーいきなり何すんだよ。」

「分かってねェようだから教えてやる。お前に色目使う奴らが大量発生するから、俺ァいつもそれに苛つくんだ。別にお前の女装が気に入らねェとかそういうことじゃねェよ。女の格好なんざしなくともいつものお前で十分可愛いし綺麗だからそれでいいんだが、」


土方が言葉を切る。深い蒼の瞳がゆらりと揺れたように見えた。


「でもまぁ出張サービスしてくれんならありがたく指名させてもらうがな。」


伸びてきた腕に攫われて両腕の中に閉じ込められる。背丈の変わらない恋人を見上げるように見つめれば、目尻にそっと口付けを落とされた。そのままゆっくりと着ていたコートを脱がされる。期待に小さく喉が鳴った。この距離だ、こくりと鳴った音なんてきっと気付かれてしまっただろう。


「ひじかた。」

「銀時。」


雄の空気を纏わせた整った顔が目の前に広がったその瞬間、大きな電子音が部屋の中に鳴り響いた。突然のことに2人して大きく肩を震わせる。土方の隊服から止むことなく鳴り続けるそれは土方の携帯電話に着信を知らせていた。


「…電話鳴ってんぞ。」

「分かってる。」


いいところを邪魔されたとばかりに舌打ちをして土方が隊服の内側に手を突っ込んだ。取り出した携帯電話の画面を見つめる瞳は明らかに温度が下がっていた。


「山崎お前な、今かけてくるんじゃねェ!何?休憩から戻って来た総悟が今すぐ電話しろっつったのか、くそっ何でこうあいつはいつもいつも…」


休憩をしていてちょうどあの場に居なかった彼は詳しいことは知らないだろうが、こういう勘は異様に鋭いらしい。沖田くんすげえやと銀時は瞠目した。土方に嫌な思いをさせたり困らせたりする為の察知能力がずば抜けている。


「え?酔っぱらいの奴が?ああ、そうか、分かった。」


山崎から何か別の報告があった以上、このままこうしている訳にはいかないだろうことはぼんやり成り行きを見守っていても理解できた。少しの時間でも一緒に居られると思ったのだが、自分達は何故かなかなか上手くいかない。ま、こんなもんかなと小さく笑った銀時はがしがし頭を掻いて、土方くん、と呼び掛けた。


「仕事行って来いよ。俺も一旦かまっ娘倶楽部に戻るわ。」


勝手に抜けて来ちまったしよ。怒られる前に店に戻った方がいいからさ。畳の上に脱ぎ捨てられた黒のコートを拾って渡してやろうと先に立ち上がったら、ぐいと腕を引っ張られた。


「ちょ、何…」

「終わったら店行くから。」

「え…?」

「まだ最後までサービスしてもらってねェ。」


むすりとした不満満載な顔。大切なおもちゃを取り上げられた小さな子供のようなそれがどうしようもなく可愛くて愛おしくて。土方の頬を両手で包み込んで引き寄せた。


「早く来てくれないと寂しくてパー子どうにかなっちゃうからね。」


にこりと微笑んで。土方の薄い唇に自分のそれを合わせ、深く食むように口付けて。名残りを惜しむように土方の上唇を啄みながら唇を離した。そして土方が何かを言おうとするより先に振り返らないまま部屋を出た。去り際に障子戸の向こうから可愛すぎだろと呟く声が耳に届いた。その声は確かに嬉しさに震えていて。


「頑張って良かったんじゃね、俺!」


屯所を出て幾らか歩いたところで銀時はにやつく頬を緩めたままに、やったぞと喜びを顕にした。今は女装中であることもすっかり忘れて拳を大きく振り上げる。今夜2人で過ごせるならばどんな格好だろうが気にならないほど嬉しさが心に溢れていた。


「パー子、張り切って頑張っちゃうから!」


聖なる夜の帳が落ちたかぶき町への道を銀時は鼻唄でも歌い出しそうな気持ちで楽しげに歩き出したのだった。






END






あとがき
恋人達の日にもお仕事している副長さんの所へ押し掛けちゃえ☆がパー子ちゃんの作戦でした。


パー子の格好をしている時の方が素の銀ちゃんよりも積極的なのが好きなので、こんな風になりました^^パー子はとても可愛いので土パーが書けて楽しかったです♪


佑依様、この度は素敵なリクエストを本当にありがとうございました!

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あきゅろす。
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