いつもいっしょ
りーや様から110000HITリクエストで頂いた 『幼馴染みな仔土銀』のお話です
春のふたり
俺の名前は土方十四郎。小学2年生だ。将来の夢は街の皆をまもるけいさつ官。あと、銀時を嫁にすることだ。
俺と銀時は家が近所のいわゆる幼なじみってやつだ。俺の両親は俺が今よりもっと小さかった頃に事故で死んじまった。だから今は兄さん夫婦の家に引き取られてくらしている。銀時は松陽先生という人と一緒に住んでるが、その人とは血はつながっていないらしい。お前の家庭の事情はふくざつだと前に誰かに言われたこともあるが、兄さんたちは俺にうんとやさしい。それに毎日が楽しいから別につらくもなんともない。だって俺には銀時がいるから。あいつが俺のとなりで笑ってくれるから、俺はうれしくて楽しくて仕方ない。保育園から一緒で初めてあいつを見た時、顔が熱くなって図書館で色々調べて、俺はそれが「ひとめぼれ」というものだと知った。それからもうずっと俺は銀時が好きなんだ。
「とうしろー、なぁ、ここぜんっぜんわかんねェんだけど。」
銀時がえんぴつをくるくる回しながら俺の方を見る。じいと俺を見つめるその顔にはもうお手上げですと書かれていた。俺は宿題の用紙から顔を上げると思わずはぁとため息をもらした。
「それ今日習ったばっかのとこだろ。」
今日は学校から帰ったら俺の家で銀時と2人で宿題をやることにしていた。国語、理科と片付けて今は算数の問題をやってたんだが、銀時は苦手な算数の宿題を早くも投げ出してしまったよう だ。
「お前、先生の話聞いてなかったのか?」
「校庭の桜がきれいだったから、そればっか見てた。」
だってしょうがねェだろ。すげーきれいだったんだもん。そう言ってくちびるをとがらす銀時の目元がふんわりとゆるんでいる。俺は銀時のそういうところがすごく好きで。その笑った顔もすごく好きで。
「そうか。春だし、たしかにきれいだよな。」
本当は学校の桜の木なんかよりもこいつの方が何倍もきれいだと思う。俺は机をはさんで向かいに座っている銀時に手をのばした。えんぴつを持ってない左手をつかんで上からぎゅっとにぎりしめる。俺と銀時は背がほとんど変わらない。それに2人で道場に通っていて剣道をやってるから身体はしっかりしている。でも銀時は好物のお菓子をたくさん食うからなのか、俺よりほんの少しだけふにふにしてる。俺より柔らかなその手を大切なものにふれるように包み込む。 銀時が俺と自分の手を交互に見て不思議そうな表情を浮かべた。
「銀時。」
「うん。」
「宿題、教えてやってもいい。」
「まじでか!」
俺の言葉に銀時が目を輝かせる。俺が大きくうなずくと銀時はやったーとうれしそうな声を上げた。
「ただし条件がある。」
「じょーけん?」
「教えてやるんだから、お前には礼をしてもらう。」
お礼?お菓子はやんないけど、それ以外なら何でもするよと即答が返って来る。俺は心の中で大きくこぶしをふり上げた。よし、これで「げんち」というやつは取れた。
「じゃあ、俺にちゅーしろ。」
「え?」
「それがお礼だ。」
「は?え?ちゅー!?」
あわてふためく銀時の顔がみるみる桜色に色付いていく。ああやっぱりこいつの方がずっときれいだ。
「…っ、ちゅーとか、そんなの無理だから!」
「宿題教えてほしいんだろ?それにお前何でもするって言ったよなぁ?」
ちょっと意地が悪いかもしれないが、俺だって色々必死なんだ。銀時はぐっとのどをつまらせて静かになった。様子をうかがっていると、あーとかうーとか言葉にならない声を出していたが、 最後には分かったと小さくつぶやいた。
「ぜったい目ェ開けんなよ!」
「ああ。」
銀時が長机を回り込んで俺の方に来るのを確認してからそっとまぶたを閉じる。それからすぐにほっぺたにふわふわの髪が当たった。ああだめだ。にやけてしまいそうになるのをがまんして、 俺はその時が来るのを待った。柔らかくて温かな銀時のくちびるが俺のそれと重なるのを。不意に俺の右のほっぺにやさしい何かがふれた。続いてちゅっとかわいらしい音が耳に届く。たしかに銀時は俺にちゅーをしてくれた。だけどこれじゃあする場所がちがうじゃねェか。いや、 これはこれですげーうれしいんだけれども。
「こ、これでいいだろ、とうしろう…」
その声にうながされるように目を開けて飛び込んできた光景。耳まで真っ赤になった銀時だ。かわいくてかわいくてどうしようもなくて。だからまぁさっきのはあれでゆるしてやる。俺が大きくなった時にお前が「こしくだけ」になるやつをしてやるから、だからそれまで楽しみに待ってろよ。
夏のふたり
毎日毎日暑い日が続いている。1学期の終業式が終わって夏休みが始まった。夏休みに入ってから俺は銀時を数回図書館に連れて行った。そんなのあとでまとめてやればいいじゃんとごねる銀時を引きずって、街で一番大きい図書館に通いつめた。後回しにする気満々だったらしい宿題に手を付けさせ、みっちりしごいた俺のがんばりのおかげで銀時の宿題については今年は何とかなりそうだった。
そういうわけでここ数日はずっと宿題とにらめっこだったから、今日は息抜きの休みだ。俺は銀時をセミとりにさそうことに決めていた。俺たちの家から少し歩いたところには小さな山があって、緑の森が広がっている。だから虫とりにもってこいの場所がすぐ近くにあるんだ。
「銀時!セミつかまえに行こうぜ。」
「めんどくさいしあっちぃからやだ。」
玄関の戸を開けて出て来たやる気のない銀時は開口一番にそう告げるとすぐに戸を閉めようとした。おい、ちょっと待て銀時お前。少しは俺に付き合えよ。お前の宿題見てあげたの俺だよ?俺は背を向ける銀時の腕をつかんだ。
「なるほどな、俺に負けるのが嫌なんだろ?」
「……」
銀時の肩がぴくりとゆれた。ゆっくりとこっちに向き直ったこいつの顔ときたら。
「は?何言ってんの?俺がお前に負ける?そんなのありえねーから。よし、そこで大人しく待ってろ!」
そう宣言して家の中に引っ込んでからきっかり5分後。麦わらぼうしをかぶって肩に青の虫かごを提げ、右手にたもを持って出て来た銀時がにやりと俺に笑いかけた。
「セミとり勝負!」
「受けて立つ!」
照り付ける太陽とうるさいくらいのセミの大合唱の中、俺たちはどちらがたくさんつかまえられるか競い合った。自分の背よりも長さのあるたもをふり回して、とにかく相手より1匹でも多くつかまえてやろうと。がむしゃらにセミを追い続けていたら銀時が他の虫も数に入れようぜとか言い出して、ちょうちょやカマキリやバッタなんかもつかまえ始めて最終的にはただの虫とり合戦になっちまった。わーわーさわぎながら勝負を続けていたら、いつの間にか夕方になっていた。俺は麦わらぼうしの先を軽くたたいてそろそろ終わりにしようかと声をかけた。虫かごを近付け合って透明なかごの中で動き回る虫の数を数えた。
「全部で27匹。」
「俺も。」
「ってことは。」
「くっそー引き分けか!」
ぜったい俺が勝つと思ったのにーとむうとほっぺたをふくらませる銀時にそれは俺のせりふだと言い返したら、なぜか思いきり笑われた。
「何がおかしいんだよ。」
「んー、楽しかったなと思って。とうしろうと2人でいると、俺すげー楽しいの。そんな風に思えるの、お前だけだよ。」
「銀時。」
また遊ぼうなと言ってふにゃっと笑うこいつのことが誰よりも大好きで。俺もそうだよとうなずいて、銀時と手をつないで夕焼けの道を歩いた。
秋のふたり
ひんやりとした風が通学路に植えられたいちょうの木の枝をゆらして流れて行く。最近は朝も夜も寒くなってきて、もうすっかり秋だなと思う。これから冬に向かってますます寒くなるんだろう。同じ速さでとなりを歩く銀時の横顔を見た。俺と同じように竹刀を肩にかけ、防具入れを両手で持ちながら腹へったなーとのんびりつぶやいている。
俺と銀時は道場に通ってて、そこで剣道を習っている。真っすぐに生きる武士のような強い男になってほしいと兄さんに言われた俺は、剣道をやることに決めたんだ。小学1年生の時に銀時に お前も俺と剣道を習わないかと誘ってみた。大体何でもめんどくせェと言ってやる気を出さない銀時が道場通いには乗り気だったから俺はびっくりした。何か理由があるのかと話を聞いてみれば、銀時の親代わりをしているあの先生も剣道をやっていたらしい。松陽のような強い奴になりたいから俺も習うと笑顔でうなずいてくれた。
『それにさ、お前と一緒に強くなれんならうれしいし。』
銀時は最後に俺の心をわしづかみにすることも忘れなくて。本当にずるい奴なんだ。
家が近所の幼なじみだし背もそう変わらねェから力もほぼ同じで。だから俺たちは競い合うように強さをみがいていった。兄に言われて始めた剣道だったが、俺自身がのめり込んでしまって竹刀を持つのが楽しくて仕方がなくなった。剣道は俺にとって自分の心を強くするためだけのものじゃなくなった。そう、大切な銀時をまもれる男になる。その強さを身につけるために俺はがんばっていたのに。
「お前また強くなったな。」
自分でも信じられねェような低い声だった。銀時がぱちりとまばたきをひとつした。白うさぎのようなこいつの目。俺はぐっと目に力を込めて銀時を見つめ返した。試合形式の練習で今日俺はこいつに負けた。今までだってぎりぎりの勝負だったんだが、とうとうこいつは完全に俺の上を行っちまったんだ。俺がこいつをまもってやりたい。ただひたすらそう思っていたのに。
「別にお前にまもってもらう必要とかねェだろ。俺男だし。」
銀時が変な顔をした。どうやら俺の思いは顔に出ちまっていたようで。やべェと俺はあせった。お前をまもると俺自身に決めたことをこいつに言ったことはなかったから。
「俺はお前にまもってもらわなきゃなんねェ奴になんかなりたくない。俺はお前と並んで歩いていきてェなって思ってるんだ。」
銀時がふわりと笑う。まるで春の花みてェにきれいな顔で。それは反則だ。なぁ、お前はあとどれだけ俺がお前を好きになれば気がすむんだろうか。これ以上ないってくらいにお前のことが好きなんだぞ。
「つうか俺の方が強いんだからさ、俺がお前をまもってやるよ、とうしろうくん?」
たった今見せてくれたほほえみはどこに消えたのか。それはそれは意地の悪い顔で銀時が笑む。にんまりという効果音がぴったりの。
「なっ…調子に乗るんじゃねェぞ、銀時!」
「きゃー土方さまご乱心!」
きゃらきゃらかわいらしい声を出しながら銀時が走り出す。秋の風に揺れる銀時の髪が夕焼けの色に重なった。
「おい、銀時!」
追い付いてつかまえようと思ったら、反対にぎゅっと手をつかまれた。そのまま近付いてくる銀時はどこか嬉しそうだった。
「大丈夫だよ。お前は強くてかっこいいんだから。」
耳元でささやかれて。顔と耳がぶわっと熱くなった。ああもうだから本当にお前のことどれだけ好きにさせるんだ!
冬のふたり
十四郎、着がえが終わったら外に出てみてごらん。1月のある土曜日の朝、布団の中でうとうとしていたら兄さんにやさしく起こされた。わざわざ起こしに来るなんて何かあったんだろうかと思いながら、俺は着がえて外に向かった。玄関の戸を開けてそのままぴたりと足が止まる。目の前に広がるのは一面の銀世界。
「すげェ、積もったのか。」
昨日の夜のニュースで深夜にかけて雪が降るだろうって言ってたが、こんなにたくさん降ったのか。太陽の光できらきらかがやいて見えた。いつもとちがう白い世界に自然と俺の胸は高鳴った。それと同時に思い出した顔。
「銀時。」
俺は急いで引き返すと自分の部屋に戻って出かける準備をした。2階の部屋から階段を下りて居間の前を通りすぎようとしたところで十四郎と声をかけられた。兄さんは俺がどこに行くのか分かってる顔をして、あたたかくして行くんだよと俺の頭をなでた。それに大丈夫だと答えて、俺ははずむ足取りで家を出た。
「さそってくれてありがとな。俺もちょうどお前ん家行こっかなーって思ってたんだよ。今日、雪、すげーから。」
銀時の家に着いたらタイミング良く外にいたので、ようと声をかけてみると赤い目を細めて出むかえてくれた。こいつも俺をさそおうとしてくれたことが分かって、そりゃもううれしくなった。じゃあ近くの公園にでも行こうと言う銀時に俺はうなずいた。外を歩き回って風邪をひかないように俺たちはいつもよりしっかり着込んでいる。俺は黒の毛糸のぼうしと手ぶくろ。銀時は白の毛糸のぼうしと手ぶくろ。俺たちのは色ちがいのおそろいで 、義姉さんが銀時の分まで作ってくれた物だった。
「寒くねェか?」
「ん、へーき。」
これしてっからあったかいよと笑って銀時が白につつまれた手をひらひら振ってみせた。
ひざ下まである雪に足をとられつつ、それでもいつもとちがう面白さを感じながらたどり着いた公園はまだ朝も早いからか、だれもいなかった。
「ここも真っ白だな。」
白い息が冷たい冬の空気に溶けていく。足あとひとつすらない、どこまでも白い白い世界。俺は隣に立っている銀時をちらりと見た。鼻の頭を真っ赤にして、きらきらの目を丸くして。だれよりも何よりも、やっぱり俺にはこいつが光って見えて。俺は横を向いたまま動けずにいた。桜も月ももみじも雪も全部が銀時に似合って、その全部よりも銀時の方がきれいで。俺はこいつが大好きで。だからずっと一緒がいいと思った。
「大人になったら、銀時、お前は俺の嫁になるんだからな。」
誕生日だとか、特別な日でも何でもないのに言葉がするりとこぼれ落ちていた。
「よ、嫁って何いきなりお前…」
雪見てて何で嫁の話になんの?意味わかんねェとぼやく銀時の横顔はりんごのように真っ赤で。俺も同じように顔がぶわっと熱くなって。
「あのさぁ、さすがに嫁ってのは無理だろ。お前俺より頭いいのに時々意味わかんないよね?」
雪景色を見つめたまま銀時があきれたような声で俺にぐさりと刃をつき立ててくる。分かってらァ、でも俺はお前がいいんだよ。
「……嫁はだめだけどよォ、お前とずっと一緒ってのは、悪くないかもとは…思うわけで…」
だからそんなにしょぼんとすんなよ。俺の手をぎゅっとにぎって銀時が照れくさそうに笑う。あぁ、俺はこいつが好きで一生そばにいたいと思う。
「銀時、ずっと一緒にいような。」
白い世界でかわした小さな約束はその日から俺の大切な宝物になった。
昨夜はこの腕の中に閉じ込めて抱き締めて眠ったはずだったのに、瞼を開けたら惚れている顔が目の前にあった。どうやら寝顔を見られていたらしい。土方くんは寝顔も男前だねと優しい手つきで髪を撫でてくる恋人は今朝も可愛くて仕方がなかった。
「お前ってさぁ、20年前の約束半分叶えちまうんだもんなぁ。」
「……何だいきなり。」
まだ少しだけぼうっとする頭で問い掛けてみると、小学生の頃の夢を見たのだと言われた。あれだよ、しかも小2のちょっとませた土方くんな、と続けられて僅かな羞恥心が込み上げた。
「警察官になって俺を楽させてやるとか、嫁になれとか、よく言ってたじゃん。で、今格好良い刑事で俺を養ってくれてるから半分は叶えてるなって。」
もう戻ることはない、遠い日を懐かしむような瞳で銀時が俺の髪を梳く。偉いぞ、十四郎とからかうことも忘れずに。だから俺も口角を上げた。
「そういうお前はよく教師になれたよな。」
「俺は大器晩成型のやる時ゃやる人間なの!」
えへんと胸を張る姿は幼い頃から変わらない。そうして俺を見て柔らかく笑ってくれる。ずっと前から好きな、俺の銀時だ。
「銀時。」
「ん、何?」
「勘違いしてるみてェだから言っとくが、俺ァもう半分の約束も忘れちゃいねェからな。」
銀時の淡い色の瞳がゆっくりと見開かれていく。あぁ、今日も綺麗だった。
「嫁に来い。それで俺とずっと一緒に生きてくれ。」
銀時の身体を引き寄せて耳元で囁く。たっぷりの愛を込めて。わぁ、真っすぐで熱烈ですこと、なんて茶化すように言って、それでもぎゅっと抱き締め返してくれるこいつのそれが俺への確かな答えだった。
END
あとがき
仔土銀と四季を絡めてお話を書いてみました。子供の頃から仲良しで、そうして大人になってもずっと一緒の2人、なんてとても可愛くて素敵だなぁと思います!そんな気持ちを込めて書いてみましたので、少しでも気に入って頂ければ嬉しいです(*^^*)
外で仲良く遊び回ってるのも将来の約束をするのも2人が子供だとまた違った萌えがありますね!
りーや様、この度は素敵なリクエストをどうもありがとうございました!
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