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白ずきん ぎんとき
110000HITリクエストで頂いた童話パロのお話です

おかしな所が多々ありますので、広い心でお読みください^^;




昔々、とある国の小さな村に可愛い白ずきんを頭にかぶった銀時という青年が母親と2人で暮らしておりました。


「なぁなぁ、一旦ちょっと待ってくんない?白ずきんって何?赤じゃなくて白?赤ずきんじゃなくて白ずきんとかこれってさぁ、見た目もうただのてるてる坊主だからね?しかも俺20代後半だし、周りからそろそろおっさんとか言われたりする年齢だよ?可愛い白ずきんとかほんとないわ。こんなのやめた方がよくない?」


文句は言わないで下さい。お話が先に進みません。


「仕方ねェな…じゃあ衣装白パーカーのフードに変更してくれるっつう話で手を打ってやってもいいけど。どうする?」


分かりました、要求は飲みましょう。主役のあなたが機嫌を損ねたままではいけませんからね。それでは仕切り直しまして。昔々、とある国の小さな村に白ずきん(便宜上)を頭にかぶった銀時という青年が母親と2人で暮らしておりました。


「なに便宜上って。まぁ今ので何か勝手に俺の服が白パーカーに変わったのはいいんだけど。でも結局名前は白ずきん銀時のままなのかよ。」


そこは変更しません。このお話は童話なのですから。


「へいへい分かりましたよ、俺は白ずきん銀時でいいですよー。」


ある日、白ずきん銀時は母親から用事を頼まれました。森で松下村塾を開いている松陽先生へお届け物をするのです。


「うわ、いきなり話始まりやがった。…まぁ一応やるだけはやりますかね。」


母親が銀時に参観日の出欠表を渡します。授業参観って…いやいやだったら10代まで年齢を戻すべきじゃねと銀時は内心思いましたが、この童話は何でもありなのだと結論付けて深く考えるのをやめました。


「銀時よ、これをちゃんと先生に届けるのだぞ。提出日の締め切りが近いから手渡しでな。」

「あー、うん。お前が母親役なのね。」

「母親じゃない、桂だ。」

「うん、そういうの今は間に合ってるから。」


大きな溜め息を洩らしつつも、銀時は森の中にある学校に向かうことにしました。この森にはうさぎや鹿、小鳥などたくさんの動物が皆で仲良く暮らしています。銀時は森の小道をのんびりと歩きながら空を見上げました。今日もとても良いお天気です。空は絵の具を溶かしたように青く、太陽の光が優しく降り注ぐので心までぽかぽかな気分になりました。森の広場で切り株を枕にゆっくり昼寝でもしたいなぁと思っていると、ふと何かが後ろからついて来ているような気がしました。銀時は小さな頃から気配には敏感なのです。白ずきん(便宜上)を深くかぶり直し、そろりと周囲を見渡しました。


『いいか、銀時、森にはエリザベスや定春くんのように優しくて可愛い動物がたくさん住んでいるが、怖い動物も隠れて住んでいるのだ。奴に襲われてしまわぬように道中くれぐれも気を付けるのだぞ。』

『怖い動物って何よ。』

『狼だ。』

『…狼ねぇ。あの白い無表情お化けが森ん中歩き回ってる方がよっぽど怖いと思うけど。ま、一応気を付けるわ。』


お家を出る時に交わした母親との会話をぼんやりと思い出しながら、銀時は木々の隙間に視線を向けました。その時です。不意にがさりと大きな音がしました。何かがこちらに向かって来る音が背後から聞こえてきます。距離を取りつつ後ろを振り返った銀時は、あ、と声を上げました。


「お前、いい匂いがするな。」

「は?え?」


銀時は突然目の前に現れた相手に視線が釘付けになってしまいました。背丈もそう変らないその相手をじっと見つめました。銀時の髪と正反対の、さらさらとした緑の黒髪の中から深い漆黒の色をした三角の耳が生えています。目が離せなくなったのはその耳だけではありません。彼の足の隙間からはふさふさの大きな尻尾が見えました。切れ長の深い海色の瞳は瞳孔が開いてらんらんと光っています。黒い上下の服に身を包んだそれは恐ろしい狼です。ですがその狼はとても整った顔立ちをしていました。


「腹が減ったし、本当は森で寺子屋開いてる松陽って奴を食っちまおうと思って来たんだが……もっといいもん見つけた。」


綺麗な顔をした狼が我慢できないとばかりに舌なめずりをします。その野性味溢れる表情に銀時はごくりと喉を鳴らしました。


「お前の方がいい。お前に決めた。」


どうやら自分はこの狼に獲物として狙わてしまったようです。これはまた面倒なことになったと銀時は心の中で舌を打ちました。


「おいおい、お前さぁ、俺と初めて会った時にみてェに瞳孔やばいことになってますよ。鏡見てみ?」


一歩一歩ゆっくりと近付いてくる端麗な容貌の黒い狼。焦った銀時はとりあえず落ち着こうよと白ずきんの下から笑顔を向けました。ですが、それはこの狼には逆効果だったようです。ちゃんと顔を見せろと吠えられて一瞬だけ怯んでしまったその隙を突かれ、そのまま強い力で腕を掴まれてしまいました。


「ちょ、おい…てめー何すんだよ!」


狼は銀時を大きな樫の木に縫い付けるように押さえ付けました。その細身の身体からは信じられない強い力で捕らわれてしまい、押さえ込まれるままにずるずるとしゃがみ込んだ銀時は狼の腕の囲いから逃れられず、樫の木の根元に追い詰められてしまいました。


「何してんの、いいからさっさと離せって…!」


銀時は負けじと声を張り上げて抵抗しようとしました。ですが樫の木は茂みに囲まれているので、2人の姿は緑に隠されてしまいました。誰かが助けに来てくれるのは難しそうです。焦った銀時はじたばたともがきましたが、狼は整った顔に余裕の笑みを浮かべるだけでした。


「や、あのさ、ここはちゃんと赤ずきんちゃんの話の流れに沿って…俺じゃなくて先生のとこに…ってそれもやっぱまずいな…ああもうとにかくお前いい加減俺から離れろ…!」


嫌だね、お前の言うことなんざ聞くかとばかりにすんすんと鼻を鳴らして狼が銀時の首筋に顔を埋めます。くすぐったさに身を捩る銀時に向かって狼が言葉を紡ぎました。


「俺は狼の土方十四郎だ。お前、名前は?」

「……」


答えなければこのまま頭からがぶりと食べられてしまうかもしれません。銀時の唇から小さな吐息が零れ落ちました。


「……俺は、白ずきんの銀時。」


銀時か。耳元で囁かれた甘さの伴う低音に嫌でも鼓膜が震えます。土方と名乗った狼は銀時の目線の高さに合わせてその腕を伸ばすと銀時の頭を覆っている白い布を取り払ってしまいました。


「へぇ、綺麗な髪だな。」


その髪と瞳の色だと白うさぎみてェだな。実に楽しそうな声色でした。狼は目を細めて銀時を見つめます。何だよと睨み返してやると相手はくつくつと喉の奥で笑いました。土方は長い指を銀時の髪に差し入れると銀の毛先に絡ませてくるくると弄びました。


「お前、いいな。」


その声はどこまでも艶やかで銀時を離そうとしません。このままではうっかり流されてしまいそうです。銀時は護身用にと持たされていた腰の木刀に手を伸ばすと掴んだそれを勢い良く振り下ろしてたこ殴りに殴り付けました。


「痛っ…お前何しやがる…!」

「それはこっちの台詞だ馬鹿野郎!」


狼の腕の中からからくも逃げ出した銀時は一目散に駆け出しました。このままこの狼と一緒に居ては自分がどうなってしまうのか分からない不安に襲われたからです。


「俺は諦めないからな、銀時!」


黒の狼、土方の必死な声が銀時の背中に追い縋りましたが、銀時は後ろを振り返ることなく松下村塾へと続く小道を走り続けたのでした。



*****
松陽先生への用事だけではなく、お昼ご飯の後の散歩や買い物の帰り道でも銀時はあの狼と出会うようになりました。最初の出会いが最悪だったので銀時は彼に対していい印象を持ってはいなかったのですが、彼は心を入れ替えたようで偶然二度目に会った日に素直に反省してくれたのです。この前のあれは悪かったと銀時に謝った時には耳と尻尾が力なくぺたりと垂れ下がっていたので、しおらしい彼の態度がおかしくてつい笑ってしまいました。


土方は銀時が甘い物に目がないと知ると、森で採れる木苺や小瓶に詰めた花の蜜をくれるようになりました。銀時がお礼を言って受け取ると土方はいつもその群青の瞳を輝かせてこう言うのです。


「俺はお前が欲しい。」


こんなにも真っすぐに誰かから求められたことなど今まであったでしょうか。胸がきゅんとしました。一体どうしたことでしょうか。狼と一緒に過ごす内にいつの間にか彼に絆されてしまったのかもしれません。


「おーい、ナレーション!何がきゅんだよ。俺別にこいつにきゅんきゅんなんてしてないからね。」


そうは言いますが、山ももの実と共に土方から手渡された白い野の花を見つめる白ずきんの瞳は恋する乙女のそれと同じでした。


「誰が乙女だ!」

「銀時。」


土方が笑い掛けます。この狼がふっと笑うと何だか心臓の辺りがむず痒くなるような気分になるのです。今までに感じたことのない感覚。ですが何故かそれは悪くはないかもしれないと思えるものでした。


「な、何だよ。」

「今日も可愛いな、お前。」

「男に可愛い言うな!」


もう何度目になるのか分からないそのやり取りをその日も銀時は狼と繰り返したのでした。



*****
「銀時、お前最近森の狼とよく一緒に居るらしいな。幕府の狗と仲良くしおって。」


お前に話があると切り出した母親の声は爽やかな昼下がりには似つかわしくない硬質なものでした。部屋で漫画雑誌を読みながらごろごろしていた銀時は驚きました。


「おーい、お母さん。設定守って。狼もイヌ科だけど犬違いだからね。あっちでは黒いわんこのおまわりさんだけども。つうかいきなり何突然そんなこと…」

「そんな訳で腕利きの猟師を呼んでおいた。」


母親は銀時の話に聞く耳を持たず話を進めてしまいます。お前、昔からそういうとこあるよねと銀時が溜め息を吐いたのとほぼ同時にがちゃりとドアが開く音がしました。


「旦那、俺が来たからには一発で狼土方を仕留めまさァ。」


栗色の髪の、これまた整った顔立ちの青年が現れたのです。彼は柔和な笑みを浮かべていますが、その優しそうな雰囲気を裏切る大きなバズーカを抱えていました。嫌な予感しかしませんでした。


「俺のこれは最新の連射式なんで、必ずあの世に送ってやれますぜ。」


猟師の青年が底意地の悪い顔でにやりと笑います。銀時の脳裏に嫌な想像ばかりが浮かびました。あんな大きな武器で狙われてしまったら、土方は。銀時、と名前を呼んで優しく笑う男の顔を思い出した瞬間、銀時は家を飛び出していました。


「土方…!」


銀時は土方を捜して森の中を走り続けました。心臓が苦しくて息が切れかけた頃、ようやく土方を見つけました。小さな名もない花が咲く野原に土方は居て、どうやら銀時に手渡す花を選んでいたようでした。


「土方!」


名前を呼べば、こちらに気付いた黒い狼がぱあっと顔を輝かせて近付いて来ます。銀時はぎゅっと拳を作って土方を見つめました。


「お前、猟師に狙われてるからもう俺と会わない方がいい。」

「…何言ってやがる。お前に会えなくなるだと?そんな勝手なお願いは飲めないな。それに俺が狙われているだとか、そんなことどうでもいい。だから俺はこれからもお前に会いに行く。」

「どうでもいいって…」


どうでもよくないに決まっています。もしかしたら死ぬかもしれないんだぞ。そう言って食い下がりましたが、土方はどこ吹く風とばかりに銀時の話を聞き流してしまいました。何だよ、その態度は。俺はお前のことを心配しているのに。文句でも言ってやろうかと口を開きかけた瞬間、土方に強く抱き寄せられました。


「土、方…」

「俺のことを心配してくれてるんだな。」

「そりゃ…」

「そんなお前に言いたい。ずっと言おうと思ってた。銀時、俺の番いになってくれ。」

「つ、つがいって…お前、こんな時に…」

「一目惚れだったんだ。なぁ、銀時、俺はお前がいい。」


熱烈な告白と包容に逃げ場などありません。土方の言葉が頭の中でいっぱいになって、ああもう駄目だと銀時は悩ましげな吐息を洩らしました。


「それにな、何度も言うが俺のことは本当に心配しなくていい。」

「けど…」

「総悟とは昔から何度も闘り合ってきた仲だからな。対処法もちゃんと心得てる。だから大丈夫だ。それにあいつは俺と遊ぶのが楽しいらしいから、そう簡単にくたばらせちゃくれねェだろうし。」

「そっか。」


狼がそう言うのですからきっと大丈夫なのでしょう。彼が居なくなるようなことはないと分かってそれについてはほっとしました。


「あー…だからよォ、返事をくれないか。」


土方が遠慮がちに言葉を紡ぎました。ぱたぱたと忙しなく尻尾が揺れています。銀時はそんな彼の姿を見て、あ、可愛いかもと思ってしまいました。


「えっと、それね…そのつがい、とかはあれなんだけど…お前と一緒に居るっつうのは存外悪くないかなーとかね、」


土方の身を案じて家を飛び出したあの時に銀時の中で答えは出ていたのです。もう認めてしまわなければならないと銀時は心に決めました。


「銀時!」


初めて出会った日に感じた温もりが再び銀時を包みます。ふわふわと心地が良くて、やっぱり悪くはなくて。そっと目を閉じた銀時も土方の背中に腕を回しました。


抱き締め合う2人を母親と猟師がこっそり木の影から覗き見ていました。


「やっと素直になりおったか。」

「ほんと世話が焼けますねィ。」

「ま、めでたしめでたしということだな。」


それから白ずきんと狼はお互いをそれぞれの大切な番いとしていつまでも仲良く一緒に居ました。






おしまい






あとがき
童話パロということで私だけが楽しいお話になってしまって申し訳ありません。あれです、狼な土方さんが見たかっただけです。狼な土方さんに迫られる銀ちゃんが見たかっただけです。どこかほんの少しでも気に入って頂ければ幸いです(*´ω`*)


この度は素敵なリクエストを本当にありがとうございました!

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