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白雪の花 1
死ネタです




帰ったら必ずお前に伝えるから


だから待っててくれ



*****
「え、今何て言ったの?」

「3日後に江戸を発つ。北に遠征することになっちまったんだ。攘夷浪士の過激派の一派が近々決起するらしい。上からの命令で真選組も出陣しろだとさ。」

「っ、そうなんだ…」



*****
俺には好きな奴がいる。そいつ、銀時のことは初めて会った時から何となく気になっていた。いつもふらふらふわふわしてて、近くにいても掴めそうで掴めない。


街中ですれ違う度、綺麗な銀色の髪を目で追うようになっていて、いつの間にか俺は銀時に恋しちまったことに気付いた。


それから、1人でふらっと立ち寄った居酒屋で銀時に会うことが多くなった。俺は意識しすぎちまって、銀時の顔なんかまともに見れなかったが、銀時はそんな俺の気持ちに気づくはずもなく、「この酒うまいよな〜」とか「食べないならそれちょうだい」と俺に絡んできた。ほろ酔い状態の銀時は本当に可愛いくて、俺はいつも隣にいることが嬉しかった。


だけど時々銀時は今にも消えてしまいそうな、見ているこちらが切なくなるような顔をして、ぼんやりとどこか遠くを見ることがあった。俺はそんな顔を見て、こいつを守ってやりたい、こいつの心を幸せにしてやりたいと強く思うようになっていた。



*****
「というわけで、俺達真選組も北方の遠征に加わることになった。いつもなら話はこれで終わりなんだが…今回はいつも以上に厳しいものになりそうでな。皆には覚悟しておいて欲しいんだ。」


俺達は定例の集会の為、屯所の広間に集まっていた。近藤さんの話を聞いて隊士達からは息を飲む声があがる。…驚いた、近藤さんから近々出陣するとは聞かされていたが、思った以上に事態は深刻みたいだな。


「それで皆には親しい人に挨拶とかしておいて欲しいんだ。俺もこんなこと言いたくないんだがな…」


親しい人と挨拶を済ませておくようにという近藤さんの話を聞きながら、俺は愛しい1人の顔を思い浮かべていた。



*****
こんなとこに来ちまって、どうすりゃいいんだ…俺は万事屋の通りの前でうろうろしていた。



昼間の巡回も終わり、書類整理も済ませた俺は、いつもの着流しに着替えてあてもなく歩いていた。歩いていたはずだ、なのに気づけば万事屋の前に立っていた。ここ最近、近藤さんの話が頭から離れなかったせいだろうか、自分でも気づかない内に銀時に会いたくて仕方なかったようだ。正直な自分に苦笑しつつも、このまま帰ってしまってはいけないと自分を叱咤する。


もしかしたらもう戻ってこれねぇかもしれねぇ、だったら後悔しない為にも一目でもいい、銀時に会いたい。心ではそうは思っても、なかなか目の前の階段を上がることができなかった。


考えてみれば、自分は銀時のことが好きだが、銀時はどうなのだろう?自分と彼はたまに居酒屋で飲みはするが、それ以上の親しい間柄という訳ではない。昼間すれ違っても向こうが気づかなければそのままだ。自分は一方的に彼のことが好きだが、彼にとっては…



「あれ?土方?どしたの?」


声がした方に振り向くと、そこにはスーパーの袋を提げた銀時が居た。珍しいという顔してこちらを見ている。


「よぉ、万事屋。あ〜、たまたま近くを通りかかったんでな…」

「そっかぁ、じゃあさ、折角だし家に来ない?今日神楽、お妙んとこでさ。たまには家飲みもいいじゃん?」


まさか銀時の方から誘ってくれるなんて…俺には断る理由なんてないし、話したいことがあったから銀時の後について万事屋の玄関をくぐった。



*****
「適当にソファーにでも座ってていいから〜。俺おつまみ作るからさ。」


俺は客間のソファーに腰掛け、銀時が来るのを待った。それにしても好きな人が料理を作る姿は見ていて温かい気持ちになる。これが幸せって言うんだろうなぁ。ずっと側で見られたらいいのにな…





銀時は缶ビールや料理が盛られた小鉢を持って俺の目の前に座った。だが俺がいつの間にか真剣な顔をしていたのだろう、何かあったんだろ?俺で良ければ話聞くよ、と微笑みかけてくれた。俺は今すぐにでも銀時を抱きしめたい衝動に駆られた。そして2人でどこか遠くに行けたらいいのになと一瞬だけ思った。


「…折角テメェが作ってくれたんだ。食べてから話してもいいか?」

「うん、土方の好きにしていいよ。」


銀時の料理は美味くて俺は何度もおかわりした。酔った時にお菓子とかケーキとかまぁ何でも作れるんだぜ〜♪と言っていたのは冗談ではなかったようだ。銀時のことを知る度に愛しさがますます溢れていく。このまま何事もなかったように銀時とずっと一緒にいられたらいいのにな…俺は一度だけ目を瞑ると、今回のことを銀時に話し始めた。





「っ、そうなんだ…」


銀時は心なしか辛そうな表情をしていた。そりゃあ、そうだよな。出陣して帰ってくることができないかもしれないなんて聞かされたら、誰でも嫌な気分になっちまって当然だ。


「すまねぇ、胸クソ悪ぃだ…「土方なら大丈夫だよ。だってお前強いじゃん。あ〜何だよ、もっとヤバい話かと思ったじゃんか。」


銀時はふわっと笑うと、あ〜心配して損したと自分の料理をつつきだした。俺はそれを遮るように、

「帰ったら万事屋、テメェに話したいことがある。」

「別に今すぐにでもいいけど…」

「いや、帰ってからでいい。これは俺のけじめみたいなもんだから。」

「土方がいいなら…」


銀時の顔が見られて、思いがけず手料理も食べられて、伝えたいことも告げられて。俺は満足していた。今日銀時に会えて俺は救われた。もう北の地に向かうことは悲しくはない。





帰り際、銀時はちょっと待っててと奥の部屋へ引っ込むと、机の引き出しから何か引っ張り出した。


「これ、お守りか?」

「いつかのかわかんないから効果なんてないけどさ、持ってて欲しくて。」

「すまねぇな。」


銀時の瞳と同じ色のお守りを胸元にしまい、玄関を出ようとすると、

「〜っ、待ってるからっ。」


銀時が恥ずかしそうに小指を出した。俺が何だ?と見つめていると、

「指切り!土方も小指出してよ!」


指切りなんて子供の頃以来だ。銀時の気持ちが嬉しくて、俺はその綺麗な小指にそっと自分のそれを絡めた。



帰ってきたら、銀時、お前に俺の気持ちを伝えたい。だから、それまで持っててくれねぇか。

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