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君と幸せクリスマス
クリスマスイブのお話です

大学生な白骸です




「今日はクリスマスイブだっていうのにさ、どうしてお客さんと店員として会わなくちゃならない訳?全然意味分かんないよ。」


本当にすみません、24日はアルバイトが入ってしまいました。数日前に突然聞かされた言葉を思い出しながら、白蘭は木製のテーブルに頬杖をついた格好で不満げに唇を尖らせた。注文したケーキを口に運ぶことなく苛立ちを表すかのようにフォークでつついてみせると、すぐ側に立って接客をしてくれている恋人はばつが悪そうな顔をした。


「…仕方がないではありませんか。綱吉君にどうしてもシフトを代わって欲しいと頼まれてしまったんですよ。今日は彼女と大切な約束があるそうで。」

「いやいやいやちょっと待って!そんなの骸君だって同じじゃん!僕と付き合ってるんだから。…綱吉君、僕と骸君のこと知ってたよね?」


ええ、そうです、と骸は当たり前のように頷いたものの、それから歯切れが悪そうに言葉を続けた。


「…今にも泣きそうな顔で、頼まれてしまいまして。」

「でも普通そこはさ、」

「僕、彼には昔から色々とお世話に…」

「友達だからって、君は彼に甘いよ!あー、もう!僕と骸君の幸せなイブが…綱吉君コ ロ ス!」

「白蘭、冗談でも僕のアルバイト先でそのような物騒なことを口走らないで下さい。」

「えー、だって!」


大切な友人の頼みであろうが、これは酷いと誰もが頷くであろう。白蘭はここ数日間溜まっていた不満な気持ちを抑えきれずに文句を続けようとしたが、白蘭、と名前を呼ばれて我に返った。


「僕は、こうしてあなたが会いに来てくれただけで嬉しいんですよ。」

「骸君、君はさ、いつもいい子すぎるよ。そんな優等生発言しなくていいんだから!」


白蘭の指摘に骸は口を開こうとしたが、不意に首を動かして周囲を見渡すと、少しだけ屈み込んで席に座っている白蘭に視線を合わせた。


「ですが、本当のこと、ですし…少しの時間でも、僕はあなたと一緒に過ごせるだけで楽しいんです。幸せです。」


すぐ近くで赤と青の瞳が宝石のように煌めいていた。そんな顔、されたら。


「骸、くん…」


目線を合わせようと屈んでいるせいで白磁の頬に影を落とすようにかかってしまっている髪に指を伸ばすと、白蘭は艶やかな一房をそっと掬い取って骸の耳に掛けてやった。ここは壁際の一番端の席であり、骸の背中のおかげで周りの客達からは死角になるので、これくらいのことはしても大丈夫だろう。離れていく白蘭の指が頬に当たったのか、骸はくすぐったそうに目を細めた。


「僕の気持ち、分かって頂けますか?」

「君にそんな風に言われたら……ああもう!僕、このまま閉店まで居座っちゃうからね♪」


一緒に過ごせるだけで幸せなのだと蕩けるような微笑みを見せられてしまったら、敵うはずがない。不満だった気持ちはあっという間にどこかに消えてしまって、心にはふわふわとした心地良さだけが残った。白蘭だって同じなのだ。今この瞬間を骸と過ごすことができる、それは何よりも幸せなのだから。じゃあ、とりあえずカフェラテおかわりお願い!と骸に片手を挙げて、白蘭は満足そうな笑みを浮かべた。



*****
駅の通りにある小洒落たカフェということで、骸がアルバイトをしているそのオープンカフェは通常でも遅い時間まで営業しており、今日は恋人達の日であることも相まってか、店内はいつもより多くの人で賑わっていた。


24日に予定を入れていたのは綱吉だけではなかったようで、人手不足のせいか、骸の仕事が終わったのは閉店ギリギリになってからだった。白蘭はといえば、あれから何杯か美味しそうな飲み物を注文し、爽やかな白いシャツに長い足を隠す黒いエプロンを身に着けたギャルソン姿で熱心に働く骸を目で追うことで、可愛い恋人を心行くまで堪能した。その後は骸が私服に着替えて出てくるまで店の外で待っていた。ダウンベストのポケットに両手を突っ込んで時折強く吹く風に負けじと立っていたが、ハーフ丈のダッフルコートの裾を揺らしながら愛おしい人が自分に向かってくるのが見えて、自然と口元が綻んだ。


「お待たせしました。寒かったでしょう?大丈夫ですか?」

「へーきへーき♪」


骸のことを考えていると幸せな気持ちで満たされ、外の寒さなど気になりはしなかった。


「それにこの白いマフラーも巻いてるしね。」


白蘭は骸ににっこりと笑むと、首に巻いている毛糸のマフラーにちょんと指で触れてみせた。


「でも骸君が心配してくれるなら甘えちゃおっかなー♪」


白蘭は一歩近付くと骸と肩を寄せ合うように歩いた。骸の肩が一瞬ほんの少しだけ跳ねたが、今日は恋人の好きにさせてあげようと思ったのか、その温もりが離れることはなかった。


「骸君を近くに感じられて心がぽかぽかだよ。」

「大袈裟ですよ、あなたは。」


困ったような口振りだったが、街の灯りに照らされた横顔には嬉しそうな淡い笑み。目が離せなくて、まるで心を全て奪われるような感覚に白蘭の胸は甘く疼いた。こんな気持ちになる時はいつも思ってしまう。本当に彼のことが好きなのだと。


「…イルミネーション、楽しみです。」

「うん、そうだね。僕も超楽しみ!」


骸に応えるように白蘭は弾んだ声を出した。そう、これから2人で駅のイルミネーションを楽しむのだ。やっと恋人との時間を楽しむことができる嬉しさに嫌でも胸が高まる。駅の正面玄関を彩るイルミネーションを見に行こうと提案したのは白蘭だった。骸のアルバイト先からも近い上に、イブの日にイルミネーションを見るなんて何とも恋人らしいイベントじゃないかと思ったのだ。本当は骸を自分の部屋に呼んでケーキを食べて、そしてそれから…そんな甘いプランを前々から考えていたのだが、骸の突然のアルバイトのせいで予定が狂ってしまったのだ。だが、こんなクリスマスイブもたまにはいいかもしれないと思えた。結局の所、骸が隣で笑ってくれていればそれでいいのだから。





ああ、幸せだ。白蘭の頭にはそんなありきたりな言葉しか浮かんで来なかった。隣で珍しく目を輝かせる恋人が愛おしくて堪らない。


「綺麗ですね。幻想的といいますか…」

「キレイだね。まるで空から零れ落ちた星達がここで輝いてるみたいだね。」

「あなたって理系なのに時々そのような文学的なことを言いますよね。」

「素敵な物には何でも心が震えちゃうってことだよ♪」

「ええ、そうですね。その気持ちは僕も同じです。本当に綺麗だ。」


たくさんの常緑樹の低木がテディベアの形に刈り込まれ、首元にリボンを巻いているそのテディベア達が色とりどりに輝いている。彼らはおしゃべりをしているように向かい合っていたり、切り株に座って読書をしたり、花に囲まれながらヴァイオリンを弾いていたりと楽しそうだ。白蘭と骸の周りには同じようにこのテディベアをモチーフにしたメルヘンチックなイルミネーションを見に来た恋人や家族連れで溢れ返っていた。キラキラと輝く一面の光は、まるで日常をほんの少しだけ忘れて可愛らしい童話の世界に入り込んでしまったかのような気分にさせてくれた。


「やっとデートっぽいことができたね。」

「確かにそうですね。白蘭、今日は本当にありがとうございます。素敵な夜になりました。」

「喜んでもらえて良かった!」


2人並んで目の前の輝きに見入っていると、くしゅんと小さな可愛らしいくしゃみの音がした。ああもうどうして君はそんなに可愛いんだろうと思いながら、白蘭は首元に巻いていた白のマフラーを外して骸の首に優しく巻いてやった。


「気を遣わなくていいですから。」

「だーめ。風邪引いたら大変じゃん。だから使って♪」

「…ありがとう、ございます。じゃあ使わせてもらいます。」


骸はマフラーに触れると、あなたの体温で既に温かいです、と微苦笑した。彼は困ったように笑っていたが、少しだけ目を伏せてマフラーにそっと顔を埋めた。その仕草は白蘭に自ら頬を寄せる時と同じ甘さを伴っており。堪らずに白蘭はポケットから右手を出すと、そのまま骸の左手を優しく握った。


「これでもっとあったかいね。」

「びゃく、らん…」


少しだけ上擦った声はきっと驚きと照れと恥ずかしさが混じったものだろう。骸から制止の声が上がったが、皆イルミネーションに夢中だから大丈夫だよ、と笑って、白蘭は骸の手を優しく包み込んだままだった。


「そうだ、メリークリスマス、骸クン!大好き!」

「白蘭…」

「また来年もさ、こんな風にイルミネーションを見るのもいいかもね。あ、だけど、今度はもうバイト入れたら駄目だからね。僕を寂しくさせないよーに。」

「それは、気を付けます。…僕はあなたと過ごせるだけで幸せですが、やはり、少しでも多くの時間を一緒に居たいと思いました。だから、来年は絶対にシフトは入れませんよ。」


いつも以上に真剣な瞳を向けて、それから静かに握り返してきた骸に白蘭は嬉しさを隠せないまま大きく頷いた。僕だって1秒でも長く君を感じていたいんだ。僕も君と同じ気持ちだよ。この気持ちが伝わりますようにと想いを込めて、白蘭は愛おしい恋人の手をもう一度だけ強く握った。






END






あとがき
3回目のイブのお話は予定と違うイブを過ごすことになった2人にしてみました。どうしても甘くしたかったので、骸のキャラ崩壊が酷くてすみません;イブの日くらいはデレてくれてもいいと思います(^^)


お話の中のイルミネーションは私が以前見たことのある物をモデルにしました。可愛らしいイルミネーションは見るとテンションが上がりますよねv


白蘭はイルミネーション綺麗だねー♪とか言っていますが、骸君の方がずっと綺麗に決まってるけど!とか思っているんでしょうね、ほんと白骸可愛い(*^^*)


甘い2人を少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。読んで下さってありがとうございました!

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