[携帯モード] [URL送信]
廻りめぐる 4(完結)
初めの頃の緊張でちょっぴりぎこちなかったやり取りが嘘のように、あれから僕と骸君の距離はどんどん近付いていった。朝、教室で会ったら必ず挨拶を交わすようになったし、お昼は勿論一緒に食べる。放課後も駅まで一緒。でも骸君は僕と一緒に居るのに時々だったけど、どこか遠くを見るような目をすることがあった。だからもしかしたら骸君は仕方なく僕と過ごしてるのかもしれないと思うこともあった。だけどそれでも僕は、骸君と居るのが楽しくて嬉しくて幸せだった。骸君はまだ僕に全部の心を見せてくれた訳じゃないんだろうけど、嬉しそうにはにかんでくれることもあって。だからさ、もしかしたら骸君、僕のことを好きになってくれるかもしれないって思ったんだ。可能性が0じゃないなら、僕は骸君のことを絶対に諦めない。


そんな風に思いながら、骸君との毎日を過ごしていって。僕はある日、学校帰りに思い切って骸君にデートのお誘いをした。まぁ、デートだと思ってるのは僕だけだよ、残念だけど。骸君とは前よりずっと仲良くなれてるとは思ってるけど、恋人関係にはほど遠いし。友達同士で週末に遊びに行くってのがぴったりなんだよね、悲しいけど。


「という訳で、デートしない?」

「デート、ですか。」


勇気を出して骸君を誘ったものの、嫌ですって断られたらどうしようって一瞬だけ考えた。僕の真剣な剣幕に骸君は驚いていたからね。だけど骸君はその後に、いいですよ、と静かに頷いてくれたんだ。本当に嬉しかった。一緒に出掛ける約束を何とかこじつけることができた僕は、骸君と駅で別れた後も1人有頂天だった。


「骸君とデートだよ、デート!ああどうしよう!僕このまま死んでもいいかも…あ、駄目駄目そんなの、死んじゃったら骸君に会えないじゃん!もう僕の馬鹿!」


駅のホームで電車を待っている間も僕はにやにやした顔でそんな風に1人で自分にツッコんだりしていた。きっと骸君が見たら、酷い顔です気持ち悪いって呆れちゃっただろうな。それくらいにね、僕は嬉しくて堪らなかった。



*****
骸君を誘った日から数日後の週末。僕は待ち合わせ場所の駅に向かっていた。待ち合わせの時間までまだまだ十分にある。実は僕には骸君に会う前に行きたい所があった。大通りを歩いて目的の場所に辿り着くと、僕は弾んだ気持ちでその店に入った。


「わー、たくさんあるなぁ。」


色とりどりの花を前に、僕はどれにしようかなぁと目移りしていた。せっかく骸君が僕と一緒に出掛けてくれるんだから、彼に何か花を贈りたかったんだよ。花でも贈って、カッコいい所を見せたかったってのが本音だったりするけど。彼にはどんな花が似合うかな、ああどうしようかなとなかなか決めきれないでいると、ふと、ある花が僕の目に留まった。


「この花…」


何でだろう、何故だか全然分からないけど、綺麗な紫色のその花に惹き付けられていた。花の名前を確認するとプレートにはアメジストセージと書かれていた。僕はその花が気になって手を伸ばそうとした。その瞬間、僕の頭の中に見たことのない光景や、覚えのない感情が氾濫する川のように次々と流れ込んで来たんだ。



*****
本当は今日、骸君に話さなきゃいけないって思ってたんだけど、いざ話そうとしたらさ、どうしても恥ずかしくなっちゃって、結局3日後にしちゃった。骸君に伝えなきゃいけないことがあるんだよ。他人は何だそんなことかって思うだろうけど、僕にとってはすごく大事なことなんだ。


ああ、3日なんてあっという間だったよ。この3日間で、それなりに心構えができると思ってたんだけどな。僕は深呼吸をすると、街の通りにある可愛らしい花屋に足を踏み入れた。店内を見渡して目的の花を見つけた僕は、真っすぐにその花の所に向かう。可憐な紫色をしたアメジストセージの花。どうしてもこの花が欲しかったんだ。アメジストセージは見て楽しむだけじゃなくて、ポプリなんかにも利用できる実用性のある花なんだ。だけど勿論、それが理由じゃない。この花言葉が僕には重要だった。


『骸君、僕と家族になろうよ。家族になって、ずっとずっと僕と一緒だよ。』


今日、絶対に骸君に伝えたい言葉。僕も骸君も男だから、結婚なんてものはできない。だけど、僕は骸君とそれ以上の強い絆が欲しかった。家族になれば骸君と恋人以上に繋がることができるじゃん?今でも骸君が隣に居て十分幸せだけど、僕はものすごく欲張りなんだ。


アメジストセージを買ったら、すぐにいつもの丘に行こう。骸君に早くこの花を渡したいから。そして僕の想いを伝えるんだ。もう完全にプロポーズだよね、これ。そうそう、アメジストセージの花言葉は、家族愛なんだ。これからの僕達にぴったりの言葉だと思わない?2人でもっともっと幸せになるんだ。


僕は若い店員さんに頼んで、アレンジを加えた小さな可愛い花束を作ってもらった。丁寧にリボンが巻かれた花束を受け取って舞い上がった気分になった僕は意気揚々と店を出ようとした。だけど僕の足はすぐに止まった。店の入り口付近に全身黒ずくめの男が立っていたからだ。


「お前、ミルフィオーレファミリーのボス、白蘭だな…?」


暗い色のスーツを着た目の前の男が低い声で僕に尋ねた。完全に気配を殺していた男を前にして、呆れちゃうくらいに嫌な予感しかしなくて、僕は男に答えず黙っていた。そのまま男を警戒しつつ、距離を取る。すると男が服の中からサイレンサー付きの小型の銃を取り出した。


「…っ、」


まずい。僕は身を守る物を何も持っていなかった。仕事で取引相手や他のファミリーに会う時には、ちゃんと護衛も付けるし、それなりの武器を隠して持って行く。だけど今日は仕事を抜け出して骸君に会う日だったから、武器になるような物は何も持っていなかった。


「そんな物騒なモノなんか持っちゃってさ、一体どうするつもり?」


どうしよう、どうすればいい?この状況を何とかしようと、僕は表面上は余裕ぶって見せていたけど心の中で必死になって考えようとした。その時、突然背後から悲痛な叫び声が上がった。思わず僕が振り向くと、先ほど花束を作ってくれた店員の青年が真っ青になって呆然としていた。マフィアのボスである僕にとっては普通でも彼にとっての非日常的であるこの状況に耐えきれなくなったのか、恐怖に顔を歪めて逃げ出そうと走り出した。それを見て男は下卑た笑いを浮かべると彼に銃口を向け、ゆっくりと引き金を引こうとした。一般人を巻き込む訳にはいかない。僕の体が動いた。


「……ドジ、踏んじゃった、な。」


青年を庇うように前に出た僕の左胸の辺りから、鮮やかな赤い血が流れ出すのがスローモーションのように見えた。手にも足にも力が入らなくて、僕はそのままうつ伏せに倒れ込んだ。男がそのまま足早に店を出て行くのと、店員の青年が泣き顔で僕に駆け寄ってくるのがぼんやりと分かった。だけど段々目の前が霞んで、何も見えなくなっていく。薄れゆく意識の中で、最後に骸君の顔が浮かんだ。僕の愛しい愛しい人の笑顔が。


むくろ、くん。



*****
「気に入られたのでしたら、花束もお作りできますが?」


近付いて来た店員の声で僕は我に返った。随分と長い間、僕の知らない記憶を見ていたような気がしたのに、それはほんの僅かな時間だったみたいだ。僕の頭はまだ酷く混乱していて何も考えられなかった。促されるように簡単な花束を作ってもらってもらうと、僕はふらつく足取りで花屋を出た。


「…あれは、一体…」


花を買っても骸君との待ち合わせまでまだ少し時間があったから、僕は通りの途中にあった白いベンチに座り込んだ。さっきのあれは一体何だったんだろう。彼は僕によく似ていた。僕がもう少し大人びた感じで…そうだ、まるでもう1人の僕みたいだった。それに最後に見えた『骸君』は、僕の夢の中で泣いていたあの彼だった。


「…うっ…」


自分が体験した訳じゃないのに、急に左胸に痛みを感じた。それと同時に悲しい気持ちも僕の胸に広がっていく。もしかしてこの記憶は、僕じゃない僕の、それこそ前世の僕の記憶とかじゃないのかと思えた。テレビや本なんかで見たことがある。自分ではないもう1人の自分の記憶。何故か分からないけど、急に前世の記憶が蘇ってしまったみたいだ。それに多分だけど、前世の僕が愛していたという彼は、骸君の前世なんじゃないかと思う。今まで夢の中で泣いている後ろ姿しか知らなかったけど、最後に見えた顔は骸君にすごく似ていた。考えたら名前まで同じだし、多分そうに決まってる。


「思い出しちゃったみたいだね。」


風に乗って不意にどこからか声が聞こえたような気がした。だけどそれはあまりにも一瞬のことだった。だから多分僕の勘違いに決まってる。だってまだ混乱してるんだから。そりゃそうだよね、前世の記憶だなんて、普通に生きてたら知るはずなんてないんだ。でも。僕は脇に置いていたアメジストセージの花束を手に持つと、勢い良くベンチを立った。前世の記憶が僕に教えてくれたんだ。僕が骸君を好きになったのは、安い言葉かもしれないけど、まさに運命だったんだって。それこそ前世から決められた。僕はセットした髪が乱れるのも構わずに、待ち合わせ場所まで走った。今すぐ骸君に会いたかったから。



*****
待ち合わせ場所にしていた駅前の噴水広場にはもう既に骸君の姿があった。僕は乱れた息を整えると、骸君に声を掛けようと近付いた。彼が僕に気付いて軽く会釈してくれた。だから、今日は来てくれてありがとう、笑顔でそう言おうとしたのに、僕の口は勝手に全然別の言葉を紡いでいた。


「大事な話があるって君に言ったのに、ずっとずっと待たせちゃったね。…ごめんね、骸君。」

「白、蘭…」


もう1人の僕が話しているのをどこか遠くから見ているような不思議な感覚が僕を支配していた。目の前の骸君に視線を向けると、彼は黙ってじっと僕を見ていた。


「骸君、僕と家族になろうよ。家族になって、ずっとずっと僕と一緒だよ。…これが、君に話したかったことなんだ。僕達は恋人だけど、もっともっとお互いが大切な存在になりたかったんだ。恋人で家族で。ねぇ、素敵だよね?」


もう1人の僕は骸君に微笑むと、そっとその手に花束を握らせた。骸君の肩が震え、その綺麗な瞳から涙が流れた。あぁ、きっと彼はもう1人の骸君だ。


「…素敵に決まっているではありませんか。……ありがとうございます、白蘭。ようやくあなたの話が聞けました。僕、とても幸せです。」


気が付いたら僕は骸君を抱き締めていた。僕の腕の中で、白蘭、ここは公道なんですが、とすごく恥ずかしがってる骸君の声がする。いつの間にか僕の体はもう思い通りに動いていて、言われるままに骸君の体をそっと解放した。


「骸君、ねぇ、君も…覚えてる?僕達って前世で恋人で、今もまさにこれから恋人になろうとしてるんだよ!前世でも現世でも君と僕は恋人。これってすごいよね!奇跡だよ。」

「…あなたも…思い出してくれたのですね。」

「…骸君、君は最初から覚えてたんだね。うん、思い出した。そっか、さっきのあれは空耳じゃなかったんだ。……僕もやっと全部思い出したよ。」

「白蘭…」

「だけどね、骸君。僕はさ、前世の記憶も大切だと思うけど、それ以上に今の君が好きなんだ。だから、僕の側に居てよ。あの2人の分まで幸せになろうよ。」


僕の言葉に骸君は大きく目を見開く。そしてそのまま顔が赤く染まった。多分、骸君も僕と同じ気持ちなんだ。


「はい。幸せになりましょう、白蘭。」


紫色の花束を抱えたまま、骸君は僕の見たかった綺麗な笑顔で微笑んでくれた。



*****
骸君が僕の想いに応えてくれたその日の夜、僕は夢の中でもう1人の僕に会った。その隣には、もう1人の骸君が寄り添うように立っていた。


「ありがとう、君のおかげだよ。…僕達はこうしてまた一緒に居られる。」


もう1人の僕が嬉しそうな声で告げる。自分にお礼を言われるのは、何だかすごく変な気分だった。


「本当は君の生だから、僕はずっと眠っていようと思ってたんだ。君の人生は君のものだからね。…だけど、骸君にどうしても伝えたかったんだよ。」


そう言って、もう1人の僕が隣の骸君を見る。僕だって同じ立場なら、体を借りて想いを遂げるに決まってる。僕は2人に微笑むと、口を開いた。


「僕達は君達に負けないくらい幸せになるよ。だからさ、どこかで見守っててよね。」


僕の言葉に目の前の僕が強く頷く。骸君も同じように頷くと、そのまま僕に近付いた。


「僕達は救われました。ありがとうございますね。」


それは優しい優しい笑顔だった。君を夢に見るようになってから、僕はずっと願っていた。泣いている背中じゃなくて、笑った君の顔が見たいって。今、やっと見ることができたよ。君を救うことができたんだね。


僕が嬉しさで一杯になっていると、2人の体が光に包まれて、そのままゆっくりと溶けるように消えた。前世の僕達も、今の僕達も皆幸せなんだ。僕にはそう感じられた。そうだ、明日学校で骸君に会ったら、一番にこのことを話さなきゃいけないよね。骸君も喜ぶだろうな、そんな風に考えながら、僕は再び夢の世界を漂い始めた。夢の中でも大好きな君に会えることを願って。


「明日も、これからもずっと笑顔の君に会えるね。」






END






あとがき
2組の白骸が書きたくて、こんな感じになりました。前世は10年後の2人、高校生は現代の2人のイメージです。色々とおかしい所もたくさんありますが、雰囲気を味わって下さればいいなと思います(´∀`)


前世の白蘭が思い切り死んじゃってまして、苦手な方はすみませんでした(><;)マフィアのボスですが、白拍手とかできない一般人の設定でしたので。とにかく大人でも10代でも、白骸はらぶらぶなのが一番ですv


2話で骸が触れていましたが、正式に白蘭とお付き合いすることになって、白蘭に「実は僕は前世のあなたが好きだったことがありました」と告げると思います。こういうことはきちんとしておこうと思う訳です。それを聞いて白蘭も最初は動揺するとは思うのですが、「…でもね、僕の方が前世の僕よりずっとカッコいい男になって君を守るんだから、そんなの全然気にしないよ♪」と骸が喜ぶ言葉をあげるんだろうな^^結局ただの幸せカップルということですね///


ここまで読んで頂き、ありがとうございました(*^^*)

[*前へ][次へ#]

97/123ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!