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廻りめぐる 1
転生パロのお話です

前世では恋人関係、現世では高校生設定です




ここ最近、僕はよく同じ夢を見る。もう何度となく繰り返し同じ夢を。


夢の中ではいつも、僕の知らない誰かが僕に背を向けて泣いている。深い海のような色をした長くて綺麗な髪が、彼が嗚咽する度に切なく揺れる。僕はその姿に胸が苦しくなって、慰めてあげようと腕を伸ばすんだ。だけどいつも届かない。もどかしくて堪らず、僕は諦めずに必死に腕を伸ばし続ける。そして。彼が僕の方を振り向こうとした瞬間に、ハッと目が覚める。


いつもいつもこの繰り返し。だけどきっと何か意味があるんだと僕は思っている。悲しいこの夢は、僕に何を伝えたいんだろう。僕は夢の中の彼には泣いてるんじゃなくてただ笑って欲しいのに。


今日もまた僕は同じ夢を見る。ああ、早く君を救ってあげたい。



*****
夏休みも随分と前に過ぎ去って、秋がすっかり身近になった頃、僕のクラスに転校生が来ることになった。この時期に転校生なんて少し珍しい気もしたけど、別にそこまで関心がある訳でもない僕は、その転校生が教室に入ってきても彼を見ることなく窓の外の青空を見ていた。だけど急に教室がざわつき出して、女の子達の甲高い声が耳についた。そんなにカッコいい子なのかな。気になって前を向いた僕は、突然心臓を掴まれたみたいに激しい動悸に襲われた。


「はじめまして、六道骸といいます。どうぞよろしくお願いしますね。」


教壇の前に礼儀正しく立って爽やかな笑顔を生徒達に向ける彼、六道骸君に何故か一瞬だけ夢の中のあの彼が重なって見えた。それがどうしてなのか、僕は全然分からなかった。骸君とあの彼は年も違うのに。髪の色が同じだったから?ううん、そうじゃない気がする。何だろう、何となくだけど、骸君と彼って雰囲気が似てる気がするんだ。本当に何となくなんだけど。


骸君は先生に指示されて、僕の斜め前の席に座った。僕は骸君の背中をじっと見つめる。さっきから骸君のことが気になって仕方がない。骸君を見ていると、胸がぎゅっとなったように感じるんだ。誰かのことがこんなに気になるなんて、僕には生まれて初めてのことだった。



*****
骸君の机の周りには昼休みになるとクラスの大部分の子が集まっていて、可哀想に彼は質問攻めに遭っていた。さすがの僕もあの輪の中には入れそうになくて、友達とお昼ご飯を食べながら離れた所で骸君を観察していた。彼は綺麗な笑顔で、1つひとつ丁寧に質問に答えている。きっといい子なんだろうなと思った。


「骸君、か…」


骸君はすごく整った顔だし、物腰も柔らかいから好感が持てる。実際、骸君の周りに集まっている女の子達のほとんどが、彼にうっとりと熱い視線を向けていた。まぁいいや、骸君とは放課後にでも話せばいいもんね。僕は微笑んでいる骸君をもう一度見つめると、昼食のパンをかじった。





今日の授業も全部終わって待ちに待った放課後になったので、僕は帰る準備をしていた骸君の前に立った。


「骸君、ちょっといいかな?…あっ、僕のことは白蘭でいいよ。僕、君とさ、色々話してみたいんだ。だから良かったら途中まで一緒に帰らない?」


僕の言葉に、骸君は一瞬眉根を寄せて困ったような顔になった。昼休みはあんなに笑顔を振りまいていたのに。それがほんの少しだけ僕の心に引っ掛かったけど、今は気にしないことにした。それに僕の見間違いかなと思うほど僅かな変化だったし。骸君は返事を待っていた僕を見ると、分かりました、良いですよ、と静かに答えてくれた。僕は周りに立っていた女の子達に、そういう訳だからごめんね、と爽やかに謝って骸君と2人で教室を出た。


通い慣れた通学路のはずなのに、骸君と一緒に歩いているだけで、何だか新鮮に見えてしまうから不思議だった。僕の隣をゆっくりとした足取りで骸君が進む。その綺麗な横顔が視界に入り込む度に、僕は訳もなく胸が高鳴るのを感じた。だけど僕がドキドキしている一方で、何だか骸君はぎこちなかった。まるで僕と距離を取ろうとしているように感じられた。


「もしかして、緊張してる?骸君、転校してきたばかりだし。」

「そんなことないですよ、大丈夫です。」

「そう?…ならいいんだけど。」


綺麗に微笑む骸君にそれ以上訊けない気がして、僕は口を噤んだ。それから一旦気持ちを切り替えると、心を決めて骸君の方を見た。最初に彼を見た時に感じたことを伝える為に。その為に彼を誘ったんだから。左右で色の違う瞳と視線が絡んで、鼓動が嫌でも速くなった。


「あのさ、骸君。君とは今日初めて会ったばかりじゃん?」

「はい、そうですね。」

「…なのに僕、君のことがすごく気になるんだ。」


勇気を出して骸君にそう告げた。すると小さく息を飲む音がして、骸君はそのまま下を向いてしまった。青い髪がサラサラと流れて、彼の表情を覆い隠す。骸君がどんな顔をしているか分からないのをいいことに、僕はそのまま言葉を続けた。


「今日1日中ずっと考えてたんだ。君のことが気になって仕方ない理由を。…多分僕、君に…一目惚れしちゃったんだと思う。一緒に居る今もドキドキしてるんだ。」


口に出して僕は確信した。そうなんだ、僕は会ったばかりなのに骸君にときめいちゃったんだ。骸君のことが気になって仕方なかったのは、彼を好きになってしまったからで。


「僕、もっと骸君のことが知りたいんだ。男の子のことが気になっちゃうなんて初めてで、自分でも戸惑ってるんだけど。」

「…白、蘭。」


俯いていた骸君がゆっくりと顔を上げた。その顔には驚きや戸惑いが浮かんでいたけど、それらとは違う別の感情も読み取れるように僕には見えた。良かった。もっと嫌そうな顔されたらどうしようかと思ったよ。


「難しく考えなくていいよ、骸君。僕は君ともっと仲良くなりたいんだ。一緒に笑ったりさ、そういうことでいいんだ。」

「…それならば、その…大丈夫だと思います。」


骸君は小さく息を吐くと、そっと頷いてくれた。僕はもうそれだけで嬉しかった。今すぐ骸君とどうこうできなくても、今はこれで十分だった。


骸君の返事を何度も思い出しながら幸せを噛みしめるように歩いていると、僕の学校の生徒の多くが利用する駅に着いた。何だかあっという間で少し残念だった。僕は電車通学だから、そのまま改札口に向かおうとすると、骸君の足が止まった。僕が振り向くと骸君は、すみませんと小さく呟いた。


「僕、バス通学なので、 ここで…」

「そっかぁ、うん。じゃあ骸君、また明日ね。」

「ええ、また明日。」


本当はもっとずっと骸君と話していたい気持ちで一杯だった。だけど、骸君が僕に手を振ってくれただけで、それだけで舞い上がってしまって、不満はどこかに飛んで行ってしまった。骸君にはまだどこかぎこちなさは残っていたけど、それでも僕に心を開こうとしてくれているのが分かって堪らなかった。


骸君ともっとたくさん話して、仲良くなって、そしてずっと僕の隣で笑ってて欲しいな。そう考えて、不意に夢の中のあの彼のことを思い出した。これは僕の直感に過ぎない。だけど、いつか骸君が僕の隣で笑顔を見せてくれるなら、夢の中の彼も泣き止んで笑ってくれる。何故だかそんな気がしたんだ。

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あきゅろす。
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