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不器用だらけの僕ら 3(完結)
もうこれで最後にしたい。白蘭ときちんと話せないまま、このままずるずると時が過ぎていくのは今日でもう終わりです。僕が終わらせる。


仕事を早めに切り上げた僕は前回と同じように勝手に白蘭に会いに行くことにした。屁理屈になってしまうのかもしれないが、僕はまだ白蘭からはっきり別れるという言葉は聞いていない。それはつまり、僕はまだ白蘭の恋人な訳であるから、会いに行っても彼に文句を言われる立場ではないのだ。だから大丈夫だと何度も自分自身に言い聞かせた。夜空に白く浮かび上がるミルフィオーレファミリーを象徴する超高層ビルを見上げて僕は深呼吸をすると、白蘭が居るであろう執務室を目指した。


僕は白蘭の恋人ということで、ビル内では以前から比較的自由に行動できていた。僕は顔見知りとなってしまった受付の女性に、話をしたらすぐに帰るので自分が来たことは白蘭に特に伝えなくて良いですからと告げた。女性の方も毎回のことだと心得ているようで、分かりましたと綺麗な笑顔でお辞儀をした。こんな風に白蘭の部屋に向かう際には、煩雑な手続きは特に必要なかった。こういうのは恋人権限になるのだろうと思いながら、僕はエントランスの奥にあるエレベーターに乗り込んだ。まだこの特権が使えたことに心底安堵しながら。


全面ガラス張りのエレベーターの中で僕は今日こそ白蘭に自分の言えなかった本当の気持ちを知ってもらおうと考えていた。そして彼に謝って、傷付けたことを許してもらって、また一緒に笑いたいのだと伝えたい。ただそれだけだった。


エレベーターの扉が開き、僕はこれまで何度も通ったことのある執務室を目指した。そして目的の部屋の前まで来ると、ジャケットのポケットから1枚のカードキーを取り出した。付き合い始めた頃、僕が仕事中の時はこれ使って勝手に会いに来てくれて全然構わないからね、そう言って白蘭が渡してくれた物だった。僕はカードキーを一度握り締めると、認証システムの差し込み口に通した。ピッと小さな電子音がして、続いて近未来的なフォルムの白い扉がゆっくりと左右に開かれた。


「骸、君…!?何しに来たの?もしかして、また話でもしに来たの?」


僕の突然の来訪に白蘭は椅子に座ったまま驚いた顔を見せたが、すぐに元の表情になると、何度も言ったよね、僕は君と話すことはないって、と呟いた。


「あなたになくても僕にはあります。」


今日こそ絶対に僕の話を聞いてもらわなければならない。僕の気持ちを白蘭に知ってもらわなければならない。僕は真っすぐ白蘭に向かって歩いた。


「僕、今からすぐにパーティーに行かなくちゃならないから、君に付き合ってる暇なんてないんだ。」


白蘭が僕の側まで来て感情のない声で話した。だがそんなことは僕には関係なかった。


「白蘭、今まではっきり言ったことがありませんでしたが、僕は、あなたのことが…」


静かな室内に携帯の着信音が突然大きく鳴り響いた。白蘭はスーツのポケットから携帯を取り出すと、そのまま僕の目の前で話し始めた。


「……」


好きなんです。そう言おうとして口を開けたまま、僕は為す術なく白蘭を見ることしかできなかった。ごめん、すぐ行くよ、申し訳なさそうに相手に謝る白蘭の声が耳に入る。白蘭は電話を切ることなく、そして僕の方を見ることもなく、そのまま部屋を出て行こうとした。


「待って下さい!」


僕は咄嗟に遠ざかる彼の背中を追い掛けた。でも白蘭は話に夢中なのか、こちらを見ようとはしなかった。嫌です、僕を見て、白蘭。


「待って下さい、白蘭!」


ほんの一瞬だけこちらを向いた白蘭と目が合った気がした。だがそれは僕の気のせいだったのかもしれない。既に白蘭は僕に背を向けていて、ドアの向こうに消えていた。


「白、蘭…」


きっと今の僕は、酷い顔になっていると思う。泣くのを我慢するような、何とも情けない顔をしているのだろう。


「すみませんね、雲雀君。…もう、駄目みたいです。」


同じことの繰返し。また彼に追い縋ることができなかった。不甲斐ない自分のことを笑おうとしたのに段々鼻の奥がツンとして、目頭まで熱くなってきて、僕は我慢できずにその場にうずくまった。


どうして上手くいかないのだろうか。こんなはずではなかったのに。



*****
自分の部屋に戻って来ても僕の心は重く沈んだままだった。リビングのソファーに無理矢理体を沈める。心だけでなく、体までも重く感じてもう何も考えたくなかった。 いっそもうこのまま白蘭との関係を終わらせた方が良いのだろうか。その方が白蘭は幸せな未来を歩めるのだろうか。本当は、そんなことしたくない。白蘭が好きだから諦めたくなどない。だけれど、もう。


その時、玄関のドアを少し乱雑に叩く音が部屋に響き、深い思考の海に沈みかけていた僕に来訪者の存在を告げた。だが僕は、最早玄関まで歩く気力もなかったので、聞こえないふりをしてそのままやり過ごそうとした。それでもなおドアを叩く音は続き、その音に混じって僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「今のは…まさか。」


耳に馴染む少し高めの声は僕の大切な彼のものだ。何故白蘭がここに?だって彼は…。 頭で考えるより早く、僕は慌てて玄関のドアを開けていた。僕の目の前には複雑な表情をした白蘭が立っていた。僕は酷く困惑したが、立ち話をする訳にもいかず、彼を部屋に招き入れた。


「白蘭…どうしてあなたがここに?…パーティーに行っていたのでは?」

「…あんな表情の骸君を見たら、ほっとける訳ないじゃん。今にも…泣きそうだった。君は僕に本気じゃないんでしょ?なのにどうしてあんな…」

「…本気じゃない?…そんな訳ないでしょう!」


僕は白蘭の両肩を掴むと、体重を掛けて強くソファーに押し付けた。いきなりの僕の行動に体勢を崩してそのままソファーに座り込む白蘭に跨るように体を密着させると、今すぐ口付けができそうな距離まで顔を近付けて彼の瞳を見つめた。


「もう逃がしませんから。…これで、やっと僕の話を聞いてもらえますね。」

「……分かったよ。…ちゃんと聞く。」


観念したように白蘭が小さく頷いた。もう自分の気持ちは伝わらない、無理だと思っていた。だが、白蘭は今ここに居る。ならば今こそ、僕も素直に自分の気持ちを伝えよう。


「…あなたが好きです。今まではっきり言ったことがなくて、あなたを不安にさせたかもしれません。…僕は今もこれからもあなたが好きです。好きなんです。」


白蘭の紫色の瞳が大きく揺れた。僕は彼を見つめたまま言葉を続けた。


「結婚しないのか…あれは、あなたのことが好きだからこそ、あなたのことを考えて口に出してしまいました。あなたを傷付けたことは謝ります。…僕と居ることで、あなたの未来を奪ってしまうのではないかと思ったのです。子供や妻との幸せな未来を。…ですが叶うのならば、僕はずっと一緒に居たい。あなたの未来を奪っても隣に居たいくらい好きなんです。」


僕はそのまま白蘭に抱き付いた。僕の本当の気持ちが彼に届けとばかりに。きつく抱き締め続けていると、馬鹿だなぁ、君は、と耳元で嬉しそうに囁く声が聞こえた。


「僕の未来は、骸君そのものなんだよ。君が居なければ、僕の未来はないのと同じなんだ。…骸君じゃなきゃ駄目なの。僕の方こそ離してなんてあげないよ。」


甘くて幸せに溢れた声で、白蘭は僕が一番欲しかった言葉をくれた。嬉しくてこのまま泣いてしまいそうだった。それにさ、と白蘭が僕の体から少しだけ離れて真っすぐに視線を合わせた。


「心配しなくても、パラレルワールドのどこかの世界で、ちゃんと結婚してる僕も居るかもしれないじゃない?」

「確かにそうかもしれませんね…」


僕が頷こうとすると、白蘭は、あっ、と声を上げた。


「違う違う、やっぱり今のは、ナシ。ナシだよ。」

「え?」

「どの世界の僕も、絶対骸君に恋をするから、骸君以外を選ぶなんてあり得なかったよ。君が隣に居ない未来なんて考えられないもの。」


白蘭の言葉に僕の頬が熱くなる。あなたはどうしてそんなことを簡単に言ってしまえるんでしょう。僕だって、あなたの居ない未来なんて考えられませんよ。


「という訳で骸君、君は僕の未来なんだから、これからも僕と一緒だよ。ずっとだよ?」


甘えるような笑顔で白蘭は僕に笑い掛けると、仲直りのキスしようよ、と僕の唇を優しく奪った。僕も応えるように再び体を寄せ、彼の甘い口付けに心を震わせた。


僕があなたの未来。そんなことを言われたら、ますます好きになってしまうではありませんか。どれだけあなたのことを好きになれば気が済むんです?ねぇ、教えて下さいよ、白蘭。






END






あとがき
今回は、人の話を聞かずに勝手に自己完結しちゃう白蘭×なかなか自分の気持ちを上手く伝えられなかった骸のお話でした。


白蘭が、骸君なんて僕に本気じゃなかったんだ、と思い込んで全然骸の話を聞かないことを繰り返すという、くどい感じのお話を書きたかったんですが、白蘭がうざかったらすみません(^^;)あと白蘭と付き合っている骸が白蘭の幸せを考え過ぎて女々しくなったりしたら萌えるなと^^


この後無事仲直りを果たした骸は雲雀さんに報告して、君、顔がにやけてて気持ち悪いよとか言われてたら可愛いなぁと思います。ディノヒバも好きなのでちょっぴり書かせてもらいました( ´∀`)大人雲雀さんの口調が迷子になりました…


骸は白蘭に未来を全部あげてしまえば、何も問題ないってことですよね^^そして作品を越えてしょた護君が2人の子供になっちゃえばさらに問題解決ですねv


ここまで読んで下さいましてありがとうございました♪

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あきゅろす。
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