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不器用だらけの僕ら 2
ディノヒバな雲雀さんが登場しますのでご注意下さいませ




白蘭が好きだという真剣な気持ち。ついこの前、喧嘩別れのようになってしまった時のどうしようもなく辛い気持ち。いつかきっと訪れるであろう、僕と白蘭の別々の未来を考えて、身を切られるような悲しい気持ち。そのような様々な気持ちを抱えたまま、白蘭と会えない日々が続いた。そして今日、ボンゴレから何とか休みを貰うことができた僕は、白蘭に会おうと思っていた。普段の喧嘩ならば僕からメールで謝ることもあったけれど、やはり直接会って話したい。白蘭には機嫌を直していつもの笑顔を見せてもらいたかったし、僕もこのままは嫌だったから。


僕は自室のリビングの窓辺に立つと、手にした携帯電話で白蘭に電話を掛けることにした。今日会いたい。少しの時間で良いから話したい。そう告げる為に。携帯からは無機質な呼び出し音がいつもより長く続く。もし仕事中ならば、また時間を見計らって掛け直すしかないかと電話を切ろうとした僕の耳に、もしもし、とどこか冷たく硬質な声が響いた。


「…白蘭、お久しぶりですね。」


白蘭の声の冷たさを覆い隠すように、僕は努めて明るい声を出した。けれども携帯を持つ僕の手は、小刻みに震えていた。


『骸君、何か用かな?』

「あっ…あの、少し話したいことがありまして。」

『そうなんだ。…だけど無理だよ、それ。』


突き放すように喋る白蘭は、いつもの彼からは考えられなくて、僕は困惑した頭のまま何とか会話を引き伸ばそうと必死だった。


「仕事でしたら、終わるまで待っていますから。あなたに合わせて…」

『僕、今から女の子とデートなんだよね。だから無理。ごめんね♪』


一瞬白蘭が何を言ったのか理解できなかった。我に返って、白蘭、と呼び掛けたが、既に電話は切られていて僕の声は届かなかった。


「…デートに行く。」


確かに白蘭はそう言いましたよね?まだ怒っているのでしょうか。だから腹いせに?あの時の白蘭の悲しそうな悔しそうな顔を思い出す。本心だとしてもあのようなことなど言わなければ良かった。結婚しなくて良いのかなどと。今さらながら僕は自分の言葉に激しく後悔していた。自分の存在が白蘭の足枷になるなら、離れた方が良いと思ってしまうくらい心が弱ってしまっていたのだろう。あの日偶然見たウエディングドレスには、それくらいの衝撃があった。本当はその時が来れば白蘭と離れたくなくて、みっともなく縋り付いてしまうだろうに。


「白蘭。」


僕は手の中の携帯をじっと見た。走った訳でもないのに呼吸は浅く乱れ、全身が冷えていくような感覚に襲われた。このままではまずいことになる。白蘭はきっと大きな勘違いをしている。僕があのようなことを言ったせいで、今まで僕が本気でなかったと思っているに違いない。だからすぐに誤解を解かなくては。あれはあなたに何気なく訊いただけ。特に深い意味などなかった。そう言って後はひたすら謝るしかない。ウエディングドレスを見て白蘭の未来に僕は居てはいけないと思ったからだなんて言える訳がないから。だから。


「僕は…」


今から電話を掛け直したとしても、あの様子では多分駄目だろう。だったらここは僕が勝手に会いに行くしかない。僕は白蘭が好きだから、このまま彼が僕から離れていくことが怖くて堪らない。あの柔らかな木漏れ日のような笑顔が早く見たかった。



*****
どうして?何故?何故です?僕の頭の中は、ただそれだけがぐるぐると駆け巡っていた。


「僕、もう君のことなんて知らないって言ったよね。…僕だって分かってて一人芝居するのは嫌なんだよ。…僕ばっかりだったじゃない。好きだよって言ってたの。」


白蘭の執務室で2人きりという僕にとって願ったりな空間なのに、僕達には今までに感じたことがないほどに大きくて圧倒的な温度差があった。


「あの時のことを話したくて、今日勝手ながらあなたに会いに来たんです。迷惑だったとは思いますが、僕の話を聞いて下さい。」

「僕は君とは話したくないし、話すことなんてない。」


取りつく島もないとはまさにこのことで、白蘭は上質な革張りの椅子に座ったまま僕から視線を外した。だが僕も怯む訳にはいかなかった。


「あの言葉に深い意味などないんです。ですが、あなたを怒らせてしまったのなら…」

「本当にそうなの?」


椅子から立ち上がった白蘭が目を細めて僕を見た。だけど笑ったその顔は、明らかに僕を拒絶していた。


「本当は違うんじゃない?君は君が好きな僕を厄介払いしたかったんでしょ。じゃなきゃ、あんなこと言わないじゃないか。」

「違います。」

「違わないよ!」


ああ、これではまた繰り返しだ。白蘭に分かって欲しいのに、どうして空回りしてしまうのだろう。


「…僕の気持ちが分かる?今まで僕が頑張ってたことって全部意味なかったんだよ。君に届いてなかったんだ。」


何言ってるんですか。勝手に自己完結しないで下さい。僕は白蘭に手を伸ばした。けれども僕の手は白蘭の腕を掴むことはできなかった。それよりも早く彼は僕のすぐ横を通り過ぎて、部屋の入り口へと足を向けていたからだった。


「僕、この後仲良くしてる社長の一人娘とお食事なんだよね。だからもう帰ってもらえるかな。」

「白、蘭。」

「帰って、骸君。」


白蘭は最後まで冷たい笑顔を貼り付けて僕を近寄らせなかった。そうですか。分かりました。もう僕は、あなたの中で終わってしまったんですね。手を伸ばしても届きはしないのですね。


「……分かりました。」


僕は入り口に立つ白蘭を見ることもなく部屋を出た。ただ腹立たしかった。悔しかった。悲しかった。


「そうですか…白蘭、あなたのことなんてもう知るか。勝手にデートでも何でもすれば良い。」


閉じられてしまったドアに向かって小さく呟いた僕の声は驚くほど震えていて、どれだけ白蘭のことが好きだったのか、僕は自分自身に思い知らされたのだった。



*****
白蘭に会いに行って、けれど結局何もできなかったあの日から時間を置かずに僕は急に2週間ほど出張することとなり、白蘭との関係を修復できないままずるずると時だけが過ぎて行った。帰って来てからも忙しさは変わらず、今日もいつものように本部で書類整理の仕事をこなしていた僕は、ボンゴレに処理を済ませた書類を手渡し、これまたいつものように遅い午後の休憩を貰った。


僕は年代を感じる洋館を出て、建物のすぐ横にある小さいけれども良く整えられた庭園に行くことにした。ここ最近はずっとこうだ。1人でぼんやりと花や緑を見ていれば、余計なことを考えなくて済む。綺麗な薔薇のアーチをくぐろうとした僕は、ちょうど雲雀君が本部の洋館から出てくるのに気付いた。彼は大きめなキャリーケースを手にしており、どうやら長期の仕事でも入ったようだった。


「雲雀君、これから出張ですか?」


僕の声に気付いて、振り返った雲雀君がこちらに歩いて来た。僕も庭園を出て彼の所に向かう。


「当分の間、跳ね馬の所にね。」


雲雀君は特に表情を変えることなく淡々とそう言ったが、彼からはどことなく嬉しそうな雰囲気が漂っているように僕には感じられた。


「…君達は本当に幸せそうですね。」


思わずそう漏らしてしまった。言葉が勝手に滑り落ちてしまうくらいに雲雀君が羨ましかった。僕と白蘭の今の状態とは正反対な彼らのことが。


「君さ、ミルフィオーレの白い彼に何かしたの?」


不意打ちのような雲雀君の言葉に、僕の肩が小さく揺れた。


「別に…僕は…雲雀君が心配するようなことは…」

「それじゃあ何で、そんな辛そうな顔をしているの?」

「僕は、そんな顔なんて…」


しているよ。しているから言っているんだけど。雲雀君が少し面倒そうに僕を見た。


「君、もう少し素直になりなよ。素直に自分の気持ちを伝えなければ、相手は何も分からない。勘違いすることだってあると僕は思うけど。」

「雲雀君…」

「僕は昔よりもちゃんと伝えられるようになった。僕は跳ね馬のもので、跳ね馬は僕のものだとね。」


雲雀君は昔に比べて随分と丸くなったと思う。それは大切な恋人が隣に居るからなのだろう。だが、僕は。


「雲雀君、僕は術士で霧の守護者なんですよ?…そう簡単に、自分の気持ちをさらけ出す性格ではありません。」


それが災いして結果的に白蘭に酷い勘違いをさせて。彼の未来を奪うかもしれないと思ったら、側に居たいのに一緒に居たいと言えなくて。考えてみれば好きだとすらきちんと言っていなくて。白蘭のことなどもう知らない、そう思ったけれど、やはりどうしても彼が好きで。だが今さら自分の気持ちを素直に伝えたとしても、白蘭はもう僕を見てくれるかどうか。


「君はこのままでいいの?自分の本当の気持ちを伝えなければ、ずっと後悔すると思うけど。」


僕は弾かれたように雲雀君を見た。雲雀君の言葉が僕の中で大きく膨らんでいった。そうですよね、僕は伝えなければならない。白蘭に本当の気持ちを。あなたとはその程度の関係ではないのだと。白く輝くウエディングドレスを偶然見て、あなたの幸せな未来を奪うのではないかと馬鹿みたいな不安に駆られたのだと。それでもやはり僕はどうしようもない人間だから、あなたが好きで一緒に居たいのだと。あの時言えなかった全てを。


「僕、もう時間だから行くけど、君も早く彼の所に行きなよ。」


優しさを滲ませる雲雀君の言葉に僕は大きく頷いた。今度こそ僕は白蘭に伝える。彼が話を聞かないと言うのなら、聞いてもらえるまで居座り続ければ良いだけです。


「雲雀君、ありがとうございます。背中を押してくれて。…気を付けて、恋人とも楽しんで来て下さいね。」

「君に言われなくてもそうするけどね。」


僕がいつもの調子を取り戻したことが分かったからか、雲雀君は不敵に微笑んで僕に背を向けた。僕は雲雀君を見送ると、白蘭に会おう、そう強く決めて青く澄んだ空を見上げた。

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あきゅろす。
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