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happinessful
S様からの50000HIT記念リクエストで「朝起きた時に相手がまだ寝ていたので、その寝顔を見ながらしばらく寝起きのベッドタイムを満喫してる白骸」のお話です




ああ、こうしている今この瞬間も。


ひらり。ひらり。


幸せが心に降り積もっていく。




彼曰く元々の体質らしいが、骸は眠りが浅い。決まって必ず早い時間に起きていて、まったくいつまで寝ているのですか、といつも起こしてくれるのだ。けれども昨夜は少しだけ無理をさせてしまったせいだろう、カーテン越しに柔らかな朝陽が降り注いでいる今、骸は深く眠っているようだった。起きたらきっと愛しすぎたことを彼に怒られてしまうに違いない。白蘭はごめんねと小さく笑って布団の中で寝そべったまま腕を伸ばすと、骸の頭を優しく撫でた。眠る時はシルバーの髪留めは外されているので、骸の長い後ろ髪は白い羽布団の上とシーツの波間をたゆたっている。白蘭は絹糸のそれを指で梳くように撫でた。


「本当に綺麗な顔だよね。」


もう何度も何度も近くで見ているというのに骸の顔を見飽きることなどこの先もきっとありはしない。いつ見ても惚れぼれとしてしまう彫刻のような造形美だ。白蘭は眠っている骸のすぐ側まで移動すると、ふふっと口元に笑みを浮かべて顔を寄せた。


「君は気が強くて今まで周りに誰も人を寄せ付けなかったのに、僕だけには無防備な寝顔を見せてくれる。…いつもいつも思うんだけどさ、それってやっぱり、僕が君の特別、だからなんだよね?」


その事実が白蘭を堪らなく嬉しくさせる。ねぇ、そうだよねとその整った顔を覗き込んでみても、恋人は眠りに就いているので当然のことながら返事が返って来ることはなかった。小さな可愛らしい寝息が耳に届くだけだ。


「そうだ♪ほっぺツンツンしちゃおっかなー。」


大好きな恋人の寝顔を堪能していると、ほんの少しだけ悪戯心が芽を出して。白蘭は目の前の滑らかな頬に触れようとした。


「…ん。」

「む、骸くんっ…!?」


白蘭は思わず驚いた声を上げていた。それもそのはずだ。骸が布団の中から細い指を出して何かを探すようにシーツの海を彷徨い、指先に触れた白蘭の右手をそっと握ったからだった。骸は普段は全く甘えるようなことはしないので、恐らく彼の無意識の行動なのだろう。そろりと伸ばしたはずの白蘭の手は、目的の場所へと届く前に優しい温もりに包まれた。


「何このスーパー幸せタイム!」


骸の細く長い指がぎゅうっと力を込めてくる。夢の中で白蘭の手の温もりを感じたからだろうか、骸のどこか安心したような寝顔に白蘭の心は震えた。鳩尾の辺りがきゅっとして、嬉しくて頬が緩んでしまった。手を繋いでいるだけなのに、こんなにも幸せで、こんなにも骸と深く繋がっていると感じられた。


「もう!骸君大好き!」


骸への想いが溢れて止まらなかった。白蘭は上体を起こすと身を乗り出して、骸の額にちゅっとキスを落とした。寝ている彼に手を出してはいけないと思ったが、我慢できるはずもなかった。


「骸君…」


申し訳ないけれど、そろそろ恋人には起きてもらおうか。早くその瞳に自分を映して欲しいから。


「骸君、起きて起きて!」


右手は繋いだまま、もう片方の手で骸の肩を軽く揺さぶってみると、形の良い眉がきゅっと寄せられ、骸が布団の中で小さく身じろいだ。次いで瞼がそっと開かれ、赤と青の瞳が白蘭を迎えてくれた。


「おはよう、骸クン♪」

「…びゃく、ら…あ、おはようございます。」

「ねぇねぇ、僕の右手見て♪」

「…なっ、これは…」


先ほどまで寝起き特有のぼんやりと可愛らしい雰囲気を纏っていた恋人は、今ので一気に覚醒したらしい。骸は驚いて慌てて手を離した。照れちゃって本当に可愛いなぁと思いながら、白蘭は目を細めて骸ににっこり微笑んだ。


「君から握ってくれたんだよ。わー、骸君ったら、だいたーん!」

「僕は……っ、僕は、昨夜の…あなたのせいで、疲れていますから…まだ寝させてもらいます。ですから…あなた1人で勝手に起きてなさい。」

「もう、素直じゃないんだから君は。うん。僕も一緒に寝るー♪」


布団を被り、こちらに背を向けて黙ってしまった恋人の体を包み込むように腕に抱いた。白蘭も黙ったままで骸を抱き締めていると、骸がそっとその身を預けてきた。君は、僕という存在に安心してくれているのかな。恋人の体にぴたりと寄り添い合いながら、白蘭はそんなことを思った。頬に触れる骸の髪から清廉な香りが漂ってきて。白蘭は骸の腰に回した腕に力を込めて、それからゆっくりと瞳を閉じた。




ひらり。ひらり。


ああ、幸せだ。



*****
ああ、こうしている今この瞬間も。


ふわり。ふわり。


幸せが心を漂っていく。




仕事で連日遅くまで起きているせいか、白蘭は眠りが深い。いつもは白蘭のベッドに横になって読書をしながら彼が寝室に来るまで起きているのだが、昨日は睡魔に勝てなかったらしい。ハッと気が付いたら射し込む光で部屋の中は薄ぼんやりと明るかった。手元に読みかけの本はなく、布団は被っていたが、すやすやと眠る白蘭に後ろから抱き締められていた。骸は驚いて声も出なかったが、白蘭が起きた時にこのままの状態では恥ずかしくて居たたまれなくなることは確実だったので、冷静な頭になると白蘭の腕の中からそっと抜け出した。白蘭は骸が移動しても起きることなく両腕を広げた仰向けの体勢で半分ほど布団を被り、そのままぐっすりと眠っていた。


「昨日も遅かったみたいですね。」


白蘭は普段寝間着にしている白のスウェットではなく、白のスーツ姿で眠っていた。勿論ネクタイは外され、上着も脱いでジレと黒のカッターシャツを着ているだけだった。着替えないで寝るとシャツが皺になるというのにと思いながらも、骸はファミリーを束ねる若きボスとしての恋人の頑張りをきちんと認めていた。


「……一番あどけない顔を、あなたはいつも僕だけに見せてくれるんですよね。」


その事実が骸を何とも面映ゆくさせる。あなたはどこまで僕を困らせるのですかとその端正な顔を覗き込んでみても、恋人はすっかり気持ち良く眠っているので、当然のことながら返事が返って来ることはなかった。小さい子供のような寝息が耳に届くだけだ。


「馬鹿みたいに幸せそうな顔ですねぇ。一体どんな夢を見ているのやら。」


ベッドに寝そべったまま頬杖をついて、骸は隣にある寝顔を眺めた。甘い物に囲まれた夢だろうか。きっと彼のことだ、大好きなあの白いお菓子の山の夢でも見ているのだろう。


「むくろ、くん…」

「…っ、僕の、夢ですか…」


幸せで堪らないとへにゃりと笑った白蘭の寝顔。頬にじわりと熱が広がっていく。骸は赤くなっているであろう顔を隠そうと思わず枕に突っ伏してしまう所だったが、今は別に誰にも見られることはないではないかと我に返った。


「白蘭、あなたは本当に…」


いつも一緒に居るというのに、夢の中でも会いたいというのか。白蘭はそれくらい自分のことを好きでいてくれるのだ。それがくすぐったくて。夢に見てくれただけなのに、こんなにも幸せで、こんなにも白蘭と深く繋がっていると感じられた。


「…あなたに敵う日は来るんですかね。」


白蘭への想いがゆっくりと心の中を満たしていた。骸は上体を起こすと身を乗り出して、白蘭の髪を愛おしげに撫でた。寝ている彼を起こしてしまうかもしれないと思ったが、今はただそうしていたかった。


「白蘭…」


申し訳ないけれど、そろそろ恋人には起きてもらおうか。早くその甘い声で自分の名前を呼んで欲しいから。


「起きなさい、白蘭。」


骸は羽布団からはみ出ている白蘭の肩を軽く叩いた後、いい加減に起きなさいと今度は少し力を込めてその肩を揺さぶった。


「おはようございます、白蘭。」

「…むくろ、くん?あー…うん、おはよう。」


大人しくベッドから起き上がって幼子のように目を擦っている白蘭に向き直ると、骸は恋人を見つめて小さく息を吐いた。


「着替えてから寝るようにといつも言っているというのに。」

「だったら、骸君がアイロンかければいいじゃん。どうせ僕の奥さんになるんだし♪」

「白蘭。」

「だって、着替える時間が勿体なかったんだもん。1秒でも長く骸君を近くに感じたかったんだよ。」

「…そういえば、あなた、ボスの威厳など全くない顔で眠っていましたよ。」


これ以上歯の浮くような台詞は勘弁だと、骸は話題を変えることにした。


「あはは。僕、何か寝言とか言ったりしてた?」

「……いえ、別に。」

「そっかー。」

「あのしまりのない顔は…そうですね、どうせお菓子に囲まれている夢でも見ていたのではないですか?」

「ううん。骸君の夢だよ、絶対に。」

「白…蘭。」

「夢の内容は覚えてないんだけど、起きる直前までね、ふわふわって幸せな気持ちになってたことはちゃんと覚えてるんだ。だから、君の夢を見たんだよ。」


真っすぐな瞳が柔らかな朝陽に輝いて見えて、骸はその紫色が眩しくてどうしようもなかった。こういうことを臆面もなく言ってしまえるから、本当に始末に困るのだ。先ほども口に出してしまったが、彼に敵う日は来るのだろうか。いや、きっと来ないのだろう。愛しいと思う人には降参するしかないのかもしれないと、骸は心の中で困ったように小さく笑った。


「あのね、骸君。君だけがどんな時でも僕を幸せな気持ちにさせてくれるんだよ。起きてる時も、眠ってる時もね。」

「白蘭…」


白蘭の温かな想いを感じて再び頬がじわりと熱くなった。骸は咄嗟に俯いて誤魔化そうとしたのだが、そのいじらしさが白蘭に伝わってしまったのだろう。優しい笑みと共に伸ばされた手に俯こうとした後頭部を包み込まれ、引き寄せられるがままに口付けられた。啄むような白蘭からのキスはどこまでも甘くて。骸は瞳を閉じると、応えるようにゆっくりと恋人の背中に腕を回した。




ふわり。ふわり。


ああ、幸せだ。






END






あとがき
S様から頂きましたリクエストを基にそれぞれ別の日の寝起きの2人のお話を書いてみました。あまりらぶらぶしていなくて申し訳ないですが、2人共お互いがすごく大切で愛しいと思ってます(*^^*)


朝起きてベッドで微睡む白骸は想像するだけで大変萌えますね(*´ω`*)寝ている時の無防備な感じが堪りません!大切な人だから安心して傍らで眠ることができるんだなぁと思うと、白骸のベッドタイムは幸せで溢れてますねv


S様、この度は素敵なリクエストを本当にありがとうございました!

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あきゅろす。
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