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メロウ
キーノ様から頂いた3周年記念リクエストで『白蘭が任務疲れで倒れた骸を看病する』お話です

恋人未満な設定にさせて頂きましたが、傍から見ればらぶらぶです^^




白いスーツを着た、真っ白という言葉がぴったりの彼は仕事で会う度に君に会えて嬉しいよと、何故かいつも甘い笑みを浮かべてこちらに微笑んでくる。今日はそれがまた一段と顕著だと思いながら、骸は両手を広げて自分を出迎えてくれた人物に小さく会釈をした。


「骸クン!会えて嬉しいよ。こうして会うのは結構久しぶりだね。」

「最近は仕事で非常に忙しかったので。確かに、あなたの言う通り久しぶりですね。」

「うん、久しぶり過ぎて嬉しくて泣きそうだもん。それにしてもやっぱり君は今日も綺麗だね!」

「……白蘭、早速ですが、ボンゴレからの報告事項を…」


ボンゴレファミリーの若きボスである沢田綱吉はミルフィオーレファミリーと定期的に連絡を取っており、彼の有能な守護者であり、その報告係に選ばれている骸はこうして任務の合間に同盟ファミリーのボスである白蘭の執務室を訪れることが多かった。綱吉から話を聞かされた時には内心こんな面倒な仕事はご免だと断りたかったのだが、白蘭から熱烈な指名を受けてしまえば上司の手前、引き受けるしかなかった。


骸は人当たりが良く、さらに頭の切れる白蘭のことは別に嫌いではなかった。ただここ最近になって大きな任務ばかりの休みのない日々が続いており、白蘭の所へ報告書を届けることは今の骸には余計な仕事だとしか思えなかったのだ。さらに任務疲れの疲労が溜まっていたのか、実は数日前からあまり体調が良くなかった。白蘭と並んで立ち話をしている今この瞬間も体調はどんどん悪くなる一方であり、多分大丈夫だろうと朝から気にしないようにしていた微熱のせいで意識が朦朧とし始めていた。だが骸は自分が無理をしていることなど絶対に白蘭に悟らせないように振る舞っていた。何故かはっきりとしないが、彼にはどうしても弱味を見せたくはなかったのだ。だから骸は優雅な微笑を浮かべつつ、白蘭からの報告内容とは名ばかりの他愛のない話を聞いていた。


「…それでね、僕がその時に……骸君?僕の話聞いてる?」

「…あ、ええ…勿論ですよ。」


気分が悪い。体が熱くてだるかった。骸は基本的に何でもそつなくこなすことのできる人間であるが、いくら完璧な人間でも長時間体調不良の状態に耐え続けることは不可能だった。何でもないように白蘭に相槌を打ったが、本当は立っていることさえ限界だった。


「骸君っ…!?」


もう駄目だった。視界がぐらりと大きく揺れ、骸は自分の体がそのまま白い大理石の床の上へと倒れる覚悟をした。だが床へと叩き付けられる衝撃は訪れず、代わりに感じた肩を抱く柔らかな温もりに骸は思わず閉じていた瞼を開いた。


「骸君!大丈夫!?怪我は…してないよね?」

「びゃく、ら…」

「もしかしなくても具合悪いのにずっと無理してたの?」


心配な色に大きく揺れるアメジストの瞳にじっと見つめられてしまえば咎められた気分になり、骸は観念したように小さく頷くしかなかった。


「隣、僕の寝室だから。」

「え…?」


すぐ耳元で艶やかな声がしたかと思うと、足と体が宙に浮いた。白蘭に抱き抱えられたのだと瞬時に理解して骸はハッと目を瞠ったが、弱った心には驚きや羞恥心、拒否の気持ちよりもしっかりと支えてもらっている心地良さの方が大きかった。


「大丈夫だよ、骸君。」


白蘭は骸を落ち着かせる為か、優しさを滲ませた声で何度もそう呟いた。そしてそのまま執務室を出て寝室に向かうと、綺麗にベッドメイキングされているキングサイズのベッドに骸をそっと横たえた。ちょっとごめんねと耳元に唇が寄せられ、骸が動揺して肩を震わせるより早く、スーツの上着を脱がされ、シャツのボタンも外された。そして白蘭はそのまま細い指を滑らせて骸の首元のネクタイを緩めた後、革靴も丁寧に脱がしてくれた。申し訳ない気持ちを込めて白蘭を見つめれば綺麗な笑顔が返って来て、骸は自分の鼓動が速くなるのを感じた。


「とりあえずは骸君をベッドに寝かせたから…あとは…」

「…すみま…せん。」

「大丈夫だよ。つらい時はうんと甘えていいんだからね。」

「白、蘭…」


熱による全身の気だるさを抱えながら、骸はたった今頬に感じた別の熱さを誤魔化す為に周囲に視線を彷徨わせた。初めて入る白蘭の寝室。今現在自分は彼の最もプライベートな領域に居る。それは不思議な気分だった。そのまま柔らかな布団の中に顔を埋めてみると、ふわりと甘い匂いが鼻をくすぐった。もしかして彼は布団の中でも甘い物を食べているのではないだろうか。そんな風に思っていると、シーツから漂う白蘭の匂いがまるで自分を包んでいるかのように感じられた。何を考えているのだと骸はゆるゆると首を振ったが、その感覚に少しばかり安心している自分が居ることには驚くしかなかった。


「そうだった、どうしよう…僕の部屋、薬とか置いてないんだった。待ってて、骸君、今すぐ医療スタッフ呼ぶから。」


おろおろし始めた白蘭に現実へと意識を引き戻された骸は、これ以上気を遣って頂かなくていいですからと訴えた。


「大丈夫です。ただの過労ですよ。こうして寝かせて頂けるだけで十分ですから。」

「でも…」

「大丈夫ですから、白蘭。」


骸の強い瞳に圧倒されたのか、白蘭は分かったよと首を縦に振った。


「とりあえず綱吉君に抗議の電話しなくちゃ。僕の骸君をこんなになるまで働かせるなんて!」

「本当にただの過労ですから、電話はやめて下さい。…それから、僕はあなたの物ではないのですがね。」

「えっと、そのことなんだけどさ、本当は君とちゃんと話したいっていつも思ってるんだけど。…分かってる。今は無理そうだもんね。」


白蘭は困ったように微笑んで骸のすぐ側まで移動すると、軽やかな動きでベッドに腰掛け、片手を付いてそのままゆっくり骸へと視線を落とした。


「じゃあ、お菓子食べる?何か食べた方がいいんじゃない?あっ、勿論マシマロもあるよ♪」

「今はそんな気分ではないです。……というか、近いです。」


今にも睫毛と睫毛が触れそうな距離に骸の心臓が小さく跳ねた。整った顔が心配そうに覗き込んでくる。こんなことには慣れていなくて、骸は白蘭の労りの色が浮かぶ瞳から逃れるように目を伏せた。


「だって君のことが心配なんだよ。目の前で倒れたと思ったら熱もあるし。だから、僕…」

「…すみません。あなたには…迷惑を掛けてしまいました。」

「そんなこと気にしないで。大丈夫だから。ね?ゆっくり休んで。」

「…そうですね。」


少し前までは彼に弱味を見せたくないと思っていたというのに。これはきっと熱のせいなのだろう、今はもうそんなことはどうでも良かった。骸は白蘭の言葉に素直に頷くと、そっと目を閉じてゆっくりと意識を手離した。



*****
「ん……」

「骸君、大丈夫?気分はどう?」

「白…蘭。」


いつの間にか額に乗せられていた濡れたタオルのおかげで気分が良かった。骸は首だけを動かして、大分楽になりましたと白蘭に頷いた。近未来的な様相の高層ビル群を遠くに臨む大きなガラス張りの窓が起きたばかりの骸の目に映る。カーテン越しに射し込む光は綺麗な茜色になっていた。恐らく数時間眠っていたのだろう。どう考えてもこれ以上迷惑は掛けられなかった。まだ熱っぽさは残っていたが、骸はこのままではいけないと布団の中から起き上がろうとして、白蘭に手を握られていることに気が付いた。当たり前のように手に馴染む温もりにどうしていいのか分からず、この状況に曖昧に笑うしかなかった。だが思い返してみれば、熱にうなされながらも右手に確かに優しい体温を感じていたのだ。彼はファミリーを束ねるボスの立場であるというのに、大事な仕事を放り出してあれからずっと側に居てくれたに違いなかった。


「僕、誰かを看病したことなんてなくて。だから何していいのか分かんなくてさ。…これで、合ってる?」


骸の手を包んでいた白蘭の手がゆっくりと離れ、骸の額にある濡れたタオルへと伸ばされた。白蘭はローテーブルの上に置かれていた水の張ったガラスの器にタオルを掛けると、随分顔色が良くなったよ、いつもの美人な骸君だねと嬉しそうに笑った。白蘭の軽口に何と返せば良いのか言いあぐねていると、白蘭の指先が骸の頬に触れた。細い指が気遣うように頬の上を滑って、そっと離れていった。


「白蘭、」

「あのね、さっきまで熱でうなされてハアハアしてる骸君はそりゃもうすっごく色っぽくて!顔も赤くなってて乱れた感じがたまんなくて!手出したくて死にそうだったけど、僕、我慢したんだから。」

「……それは、賢明な判断でしたね。」

「でもやっぱり我慢できなかったから、今触っちゃった♪」

「…っ、」


やはり彼は見た目通りにふざけた男だった。僕に勝手に触れてもらっては困る。先ほどからあなたに振り回されて、僕はおかしくなってしまっているのだから。そう言おうとして骸は布団から上半身を起こしたが、目の前で綺麗に笑う白蘭と目と目が合った。アメジストの強い輝きに、骸は目を逸らすことすらできなかった。静かな沈黙が2人を支配する。どうしようと俯きかけた骸の耳に自分の名前を呼ぶ涼やかな声が響いた。骸君、と名前を呼ばれて返事をするより早く、伸ばされた腕の中で口付けられていた。骸は突然のことに驚いて抱き寄せてくる体を突っぱねようとした。けれどもささやかな抵抗は簡単に封じられて、口付けが一層深くなった。白蘭に優しく唇を食まれたが一向に不快な気持ちになることはなく、抵抗はしてみたものの、骸の心は自分でも驚くほどに穏やかだった。


「えへへ、元気出たー?」

「…出ませんよ、キスされて元気なんて。……ですが、あなたの優しさは…伝わったかも、しれません。」


最後に零れ落ちた言葉は本心だった。太陽のような温かな彼の笑顔。心の奥底でこの笑顔が自分に向けられることを無意識に望んでいたのかもしれない。


「僕は……」

「骸君…」

「…そうですね、チョコレートと紅茶を出して頂けるのでしたら、今度仕事がない時に遊びに行ってあげても…いいですよ。あなたの話もちゃんと聞いてあげないといけないみたいですからね。」

「骸クン!…うん!熱が引いて元気になったら、絶対だよ!」


白蘭が早く元気になってもらう為にも口移しで薬飲ませてあげようかと艶っぽく笑った。残念ですが、それは間違った看病の仕方ですね。引き寄せられた腕の中でどこか楽しそうに笑って、骸はやがて訪れた唇から全身へと伝わる甘い痺れに目を閉じた。






END





あとがき
キーノ様から頂いたリクエストを基に白蘭が骸を看病するお話を書かせてもらいました。白蘭があまりに骸の看病していなくてすみません…このお話の白蘭は好きな子にはちゅーすることも看病になるよね♪とか思ってます^^ふわふわな感じになってしまいましたが、少しでも気に入って頂ければと思います。


2人の関係がこれから円熟したものになるという意味を込めてタイトルをつけてみました。この後2人で一緒に居る時間が少しずつ増えていくんだと思いますv


キーノ様、この度はリクエストして下さいまして本当にありがとうございました!

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あきゅろす。
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