すき きらい すき
花にまつわるお話です
机に向かって仕事をし続けていると集中力がプツリと途切れてしまって、どうしても途中で飽きてしまうのは仕方がないことである。好物のマシュマロを食べてみても一向に満足した気分にはなれなくて。だから白蘭は気分の乗らない仕事を早々に放り出して、大好きな恋人を呼び寄せることにしたのだった。
白蘭に呼び出された彼の恋人である骸は白蘭の執務室の中央に置かれている黒の革張りのソファーに脚を組んで座り、部屋の中で適当に見つけた洋書を読んでいるのだが、先ほどから少し不機嫌な表情をしていた。仕事で忙しいというのに今すぐ僕の所に来てよと呼び出されれば、そんな表情になったとしても無理もない話だった。
『骸君、会いたかった!』
『あなたは本当に自分勝手ですね。人の都合を全く考えないのですから。』
『だってどうしても君に会いたくなったんだよ。』
骸は執務室に入って来るなり溜め息を零したが、骸に会いたくて堪らなかった白蘭は強引で自分勝手だと思われようが構ってなどいられなかった。骸の好物で彼をもてなして、そのまま2人で甘い時間を過ごそうと頭の中で思い描いた幸せな計画を実行に移そうとした。だが、骸は白蘭の誘いをするりとかわすと、遊んでいないで真面目に仕事をしなさいと白蘭を机に押し戻してしまったのだ。執務机のガラスの天板の上には友人で部下である正一から手渡された未決裁の書類が積まれているが、白蘭は骸の言葉通りに仕事に戻る気にはなれなかった。骸はこちらを見ることもなく黙って読書に集中している。白蘭は骸の横顔をちらりと見て視線を戻そうとしたが、机の上に飾られていた花に意識が向いた。そのまま花瓶に手を伸ばすと、生けられていた白いマーガレットの花を一輪引き抜いた。
「…花占いでもしよっかなー。」
「また子供のようなことを。ミルフィオーレのボスが仕事をさぼって花占いとは。部下が可哀想ですね。」
読書の手を止めた骸が呆れた顔で白蘭を見上げた。
「だって仕事したくないんだもん。君も僕のことほったらかしだし。」
白蘭は骸の言葉に構わず、白い花びらを指先でそっと摘まんだ。
「骸君は僕のこと、好き…嫌い…」
骸は自分のことを好きかどうか。告白を受け入れて恋人になってくれたのだから、彼もそれなりに好意を寄せてくれているとは思うのだが、白蘭はどうしても自分の方が好きな気持ちが強いと思っていた。だからくだらない子供の遊びのような花占いだとしても、こんな風に骸の本当の気持ちを確かめたくなってしまったのかもしれない。
「好き、嫌い、好き…」
花占いを始めた白蘭に骸が複雑な表情で視線を向けた。自分が白蘭に遊ばれていると感じたのだろう。白蘭は恋人の非難めいた視線を笑顔で受け流し、花びらがはらはらと舞い落ちていく様を眺めた。
「嫌い…好き…嫌い…好き…嫌い…好き……」
白蘭は花びらを舞い散らせ続けていたが、唇をキュッと噛んで不意に黙り込んだ。藤色の瞳に映る残された花びらは、あと1枚だったからだ。
「骸君は僕のことが、きら……えっ、何で?花びらが、1枚…増えてる…!?」
「僕は、」
静かな声が耳に届いて、白蘭は愛しい人へと視線を移した。
「骸君?」
「僕は何事も事実とは異なる結果になることが嫌いでしてね。」
「骸くん…その目の数字って…もしかして幻術で、僕の為に?」
一の数字が見えたのはほんの一瞬のことで、赤い瞳の中にはいつもの見慣れた六の文字が浮かんでいた。
「骸君。」
決して見間違いではない。目の前の2枚の花びらを見れば、骸が幻術を使ったことは明白だった。
「骸君、僕、嬉しいよ!君がそんなに僕のことを想ってくれてたなんて!」
「…違います。あなたの為などではなく、先ほどの言葉通りの意味です。別に、それ以上深い意味など…ありませんから。」
愛しさが溢れ出すように胸の内に広がって。白蘭は、ソファーに座ったままそっぽを向く骸にえーいと勢い良く抱き付いた。
「白…蘭、離しなさい。」
「やだ、離さない♪」
間近で赤く輝く宝石のような瞳が堪らなく綺麗だと思えた。
「仕事に戻りなさい。」
「えー。」
いいから早くと声を上げる骸の耳がうっすらと桜色に色付いているのが目に入って。
「…うん、やっぱり敵わないなぁ。」
大好きな骸君が言うなら仕事に戻らなくちゃいけないね。幸せそうに小さく呟いて、白蘭は骸から離れて立ち上がった。だが、そのまま机に戻ろうとした白蘭は歩みを止めてくるりと振り返った。そして、どうしたのですかと綺麗な瞳で見上げてくる骸を抱き締めるように屈み込むと、花占いのお礼だよとそっと微笑んで、愛しい人の右目の目尻に優しく口付けを落としたのだった。
END
あとがき
結局ただのバカップルのお話です。ふわふわした白蘭なら花占いをしても別におかしくないなと思いまして^^骸の幻術は白骸妄想に色々と便利ですね(*^^*)
読んで下さってありがとうございましたv
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