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クリスマスイブのお話です




ここ最近何故か毎日のように白蘭が会いに来た。君への贈り物だよと花やリボンで綺麗にラッピングされた箱をその手に携えて。恋人が毎日飽きもせずに嬉しそうな顔で自分を訪ねてくれることは何とも言えずくすぐったかったが、どうしてこうも毎日毎日会いに来てはプレゼントをくれるのだろうと骸は心の中で訝しみながら、大小様々な大きさの箱を受け取っていた。すっかり最近の日課になってしまっていたが、玄関先で白蘭を見送って部屋に戻り、包装紙を丁寧に広げて箱を開けてみると、恋人からの贈り物がそっと顔を覗かせてくれた。火曜日は履き心地の良い黒のスリッパ。水曜日は白いクッション。木曜日は肌触りの良いコットンのルームウェア。金曜日はシンプルなデザインのマグカップ。土曜日は骸の名前がアルファベットで彫られた銀のフォークとナイフ。そして今日、日曜日は本革のキーケース。改めてテーブルの上に並べてみなくても分かる通り、恋人からの贈り物は実に様々な種類の物だった。


このプレゼント尽くしの日々は振り返ってみれば12月18日から始まっていた。そしてその日から数えてちょうど7日目にあたる明日の月曜日。その日は24日、つまりクリスマスイブだった。もしかして白蘭はイブに急な予定が入ってしまったことを言い出せず、せめてもの罪滅ぼしのつもりでプレゼントを贈り続けていたのだろうかと思ったりもした。だが骸は数時間前の白蘭とのやり取りを思い出して、それは自分の思い違いだったのだと知った。白蘭は別れ際に眩しい笑顔でこう言ったのだ。明日は2人っきりで幸せに過ごそうね、と。だからこのプレゼントの山には何か別の意味があるのだろう。この数日間で骸なりにその意味を考えてみたのであるが、結局日曜日の夜になっても答えに辿り着くことはなかった。けれども別にそれはそれで良いと思う。白蘭がこんな風に理由も明かさず優しくしてくれることは彼の愛情表現の1つであり、別に不安になる必要などないのだから。そして白蘭が自分を想って贈り物をくれたことは決して悪い気分ではなく、寧ろ嬉しかったのだから。だから、答えが見つからなくても良かった。それに彼のことだ。きっと時間を掛けて悩みながら一生懸命選んでくれたに違いない。そうであるからありがたく使わせてもらおう。骸は白蘭からのささやかな愛の贈り物に対して、そんな風に考えていた。



*****
クリスマスイブ当日、骸は去年と同じように白蘭の部屋で穏やかな時間を過ごし、彼が買って来てくれた高級店のチョコレートケーキといつもより随分と豪華な料理を味わった。昨日もその前の日もここ毎日ずっと顔を合わせていたというのに、例え今日会えなかったとしても十分過ぎるくらいに会っていたというのに、隣で白蘭を感じられる今が堪らなく愛おしかった。自分は本当に現金だなと思ってしまう。それでも。こうして特別な日に特別な人と居ることは、骸にとって何よりも幸せだった。


他愛のない話に花を咲かせながらお気に入りのケーキを食べた後、骸は白蘭に促されてリビングへと移動することとなり、2人並んでソファーに腰を下ろした。白ですっきりと統一されたリビングの窓辺には子供の背丈ほどのホワイトカラーのクリスマスツリーが置かれていた。骸はクリスマスツリーから視線を戻すと、隣に寄り添う白蘭の横顔をそっと見つめた。愛しい人に見つめられているからなのか、この後渡すつもりであろう贈り物も喜んでもらえると思っているからなのか、白蘭は明らかにそわそわとしていた。そんな白蘭を小さな子供のようだと思いながらも、骸は恋人の可愛らしさに笑みを浮かべた。一方、先ほどまで視線をあちこちにさまよわせていた白蘭は何かを決意したように深呼吸をして骸の方へ向き直ると、骸君、と甘く優しい声で骸の名前を囁いた。


「骸君、手出して♪」


プレゼントだよ、と白蘭はニコッと笑顔を見せた。白蘭がくれたクリスマスプレゼント、それは手のひらの中にすっぽりと収まってしまう銀色の鍵だった。数日前から散々贈り物を貰っていたし、別に豪華な物が欲しかった訳ではなかったが、予想外のプレゼントに骸は思わず鍵をじっと見つめてしまった。プレゼントの鍵はラッピングされた箱に入っている訳でもなければリボンで飾り付けられている訳でもなく、多分白蘭からプレゼントとして贈られた物の中で一番シンプルな形だと言えた。骸の左手の薬指に光る指輪も、綺麗なビロードの箱に入っていたというのに。だが、ポケットから何気なく取り出して自分に渡してくれたこの鍵は、多分白蘭にとって大きな意味のある贈り物なのだろう。骸にはそう思えた。


「白蘭、この鍵は…」


白蘭の部屋の合い鍵は付き合い始めた頃に手渡されて、もう随分と経っている。だからこの鍵は彼の部屋の物ではないことだけははっきりと分かった。ならば…と、骸は手の中にある鍵の意味を求めて白蘭を見つめた。白蘭は骸の視線を真っすぐに受け止めると、嬉しそうにふふっとはにかんだ。


「これはね、僕と骸君が一緒に住む部屋の鍵だよ。」

「僕と、あなたの…!?」


2人が一緒に住む部屋の鍵。鍵を渡された時点で可能性として十分考えられることではあったが、白蘭が自分達のこれから先の未来のことまで真剣に考えていたことに対する驚きの方がずっと大きかった。あまり動じない骸が驚いていることが嬉しかったのだろう、白蘭の笑みが深くなった。


「うん、そうだよ!僕と骸君の!本当はさ、婚姻届を渡そうって思って…って、痛っ!痛いよ、骸君!ちょっ、いきなりグーパンとか酷くないっ?」

「…あなたが馬鹿なことを言うからです。何が婚姻届、ですか。冗談も大概にしなさい。」


嬉しさや恥ずかしさが体の中をぐるぐると駆け巡ってどうして良いのか分からなくなり、骸は誤魔化すようについ手を出してしまっていた。えーっ、結構本気だったんだよ。これでも直前までどっちにするかすっごく迷ったんだから。骸君酷いと白蘭は嘘泣きの表情で右頬をさすっていたが、気を取り直したように骸に近付くと、骸の腰を優しく引き寄せた。


「高層マンションの最上階の部屋だから夜景は綺麗だし、遠くには海も見えるんだよ。きっと君も気に入るよ。」


大好きな君ともっともっと一緒の時間を過ごしたいんだ。だから僕と一緒に暮らして欲しい。真剣な声と真剣な瞳が間近にあった。骸は自分の頬がどうしようもなくじわじわと熱くなっていくのを感じた。恋人達の為の聖なる夜にこのようなことを言われて、心が震えないはずがなかった。


「ねぇ、骸くん。クリスマスイブになるまでに僕が君にあげた物、覚えてる?」

「白蘭…?」


突然の白蘭の問い掛けを疑問に思いながらも、骸は頭の中でこの数日間に彼から贈られた物を思い描いた。履き心地の良い黒のスリッパ。白いクッション。肌触りの良い黒のルームウェア。シンプルなデザインのマグカップ。自分の名前が彫られた銀のフォークとナイフ。本革のキーケース。


「一緒に住む為に必要な物を少しずつ君に贈ってたんだよ。気付いてた?」

「わざわざ別にそのような…後からいくらでも買い揃えることはできたのに。」

「僕にとっては大事なことなの。骸君にね、どうして僕が君にこんな物を贈ってるんだろうって色々考えて欲しかったんだよ。」

「白、蘭。」


確かに骸は白蘭の言葉通りにどうして連日恋人が色々と贈り物をするのか真剣に考えていた。誕生日でも記念日でもないのに何故なのだろうと。結局答えは見つからず、イブである今日この日に白蘭に答えを教えてもらった訳だが、その答えは骸の心に大きく大きく響く物だった。白蘭が骸に贈った品々は一見すると関連性がない物だが、一緒に暮らす為に必要な物の一部だった。2人が新しい道を歩き出す為の。


「あ、骸君に贈った物はね、全部僕と色違いのお揃いだからね♪」

「…そうですよね、やはり。」


骸は気恥ずかしくて堪らなかったが、白蘭のやりそうなことだと諦めるしかなかった。勿論気恥ずかしさは消えないが、だからと言って別に嫌だという訳ではなかった。白蘭と一緒に住む実感がいよいよ湧いてきて、嬉しかったりドキドキしたりと感情が忙しなく揺れ動いていた。


「とにかく、すっごくいいマンションだから!骸君はこの鍵と僕があげた物とあとは服とか必要な物だけ持って来ればいいからね。広い部屋だから快適だよ。」

「白蘭、1つ質問しても?」

「いいよ。なあに?」

「広いと言うのでしたら…寝室は、別々、ですよね?」

「やだなぁ、恥ずかしがらなくていいんだよ?当然一緒に決まっ「別々にしなさい!」


僕は骸君を抱き締めて朝まで一緒に寝たいし、優しく君を愛してあげる気満々なんだよ。白蘭はむぅと不満げに頬を膨らませた。骸も白蘭とずっと一緒に居ることは嬉しくて堪らないが、それとこれとは別問題だった。心臓が保たないに決まっている。


「骸君が嫌だって言っても知ーらない♪」

「ん、びゃく…ら…」


掠め取るような白蘭からの不意打ちのキスは段々と甘さを増していき、頭がクラクラして骸は何も考えられなくなりそうだった。僕だってもう知るものか。もうどうなってもいい。これからもずっとずっと白蘭が隣に居てくれるならば。降参ですね、と心の中でどこか嬉しそうに呟いて、骸は白蘭の首に両腕を回した。





EMD






あとがき
クリスマスイブ×白骸のお話です^^2年目は、イブの前からこっそりと頑張る骸大好きな白蘭と結局そんな白蘭に勝てない骸にしてみましたVv


今年も2人きりですごく幸せなイブを過ごしているといいなと思います!幸せな白骸を考えるだけで私も幸せです(*^^*)


読んで下さいましてありがとうございました!

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