[携帯モード] [URL送信]
エトワール
原作風味な10代の2人です

骸が白蘭に相応しくないと劣等感を感じている乙女です;;




彼のそのような顔を見るのは初めてのことだった。僕が静かに紡いだ言葉に心底驚いたという顔。いつでもどこでもニコニコとあどけなく笑っているから、僕は彼の笑顔しか見たことがなかった。つまり僕の中で彼はいつも笑顔だという印象が強かったのだ。だから、あなたもそこまで驚いた顔ができるのですねと、僕も少しばかり驚いてしまった。けれども、たった今彼に告げた言葉を訂正する気はなく、僕は再び同じ言葉を吐き出した。


「ですから、僕は、あなたが思っているほど…綺麗な人間では、ないのですよ。」

「骸クン…」


日本に来た彼を初めて見た時、僕の中に未来の記憶が、感情が、想いが確かに息づいていると感じた。いつかの未来の僕と同じように僕も彼のことを愛しく思ってしまった。そして程なくして、彼も僕と同じ気持ちでいることを知った。嬉しかった。嬉しくて本当にどうにかなってしまいそうだった。彼の歩く道と僕の進む道が再び交わったのだ。今度こそ絶対に間違えたくはない。ずっとその温もりを感じていたい。強くそう思った。けれども、だからこそ。僕はこれ以上彼の隣に居ることは、できない。できやしない。


「骸クン、どうしちゃったの?何でいきなりそんなこと…」

「白蘭、それは…」


廃ビルの屋上は僕達以外に人影はなく、遮る物が何もないからだろうか、地上よりも随分と強い風が吹き、僕の髪と彼の翼を揺らして行った。どうしてそんなこと言うの?と、僕を見つめる彼の顔がくしゃりと泣きそうに歪んでいく。あぁ、その顔も初めて見ました。伝えなければならない言葉をなかなか口にできず、僕は彼の視線を黙って受け止めることしかできなかった。


「…骸クンは、綺麗だよ。美人さんだし。勿論そんな表面的な美しさだけじゃない。君は心だってすっごく綺麗だ。骸クンはね、全部が綺麗なんだよ。だから、そんな風に自分を卑下するようなことなんて…」

「事実なんです。」


静かに呟いたはずなのに、音になったその言葉は僕と彼の間に立ち塞がるように一際大きく響いた。彼が目を見開いて口を噤む。僕は心を殺しながら彼に悲しげに微笑んだ。僕が彼の過去をあまりよく知らないのと同じように、彼も僕の過去を知らない。僕がこれまでに歩んできた道を知らないのだ。振り返ったその道が真っ赤な色で血塗られていることなど。


「…裏切り、欺瞞、虚構、殺戮、破壊、血と憤怒の声…幼い頃からずっと僕の隣にあった物です。とあるファミリーさえ潰したこともあります。僕の…この手は、夥しい血で染まっているんですよ。けれども、あなたは真っ白です。眩しいくらいに…真っ白だ。」

「むくろ、くん…」


このまま彼の側に居続けたら、いつか僕のせいでその穢れのない笑顔が赤く染まってしまうかもしれない。その穢れを知らない翼が真っ赤な色を吸って、二度と飛べなくなってしまうかもしれない。僕と関わることで、彼が酷く傷付くかもしれないのだ。僕は革手袋に包まれている自分の手のひらをじっと見つめた。この汚れきった手で、これからも彼に触れ続けて良いはずがないのだ。真綿のようにまっさらな彼の隣に、僕のような人間は相応しくない。そのままゆっくりと視線を戻すと、光を浴びて少しだけ紫がかって見える白い髪が僕の瞳に映り込む。僕は耐えるようにグッと唇を噛んだ後、続きの言葉を彼に紡いだ。


「あなたには、その白い翼がある。その翼でどこへなりとも行くことができるのですよ?僕の隣に居なくても…良いのに。こんな僕の隣になど…居てはいけない。」

「そんな悲しいこと言わないでいいんだよ、骸クン。」


優しく手を引かれ、気が付けば僕の体は白い翼と温かな腕に包まれていた。彼をすぐ近くに感じてしまい、とにかく体中が熱くて堪らなかった。動揺する僕を抱き締めたまま、大丈夫だよと、まるで愛を囁くように彼が耳元で何度も囁く。身を切られるような思いで絞り出すように口にした言葉さえも、彼はふわりと包み込んでくれたのだ。言葉にできない嬉しさに、泣いてしまいそうだった。どうすることもできずにそのまま彼の腕の中でじっとしていると、柔らかな羽根が僕の頬をくすぐった。彼が成長するにつれてこの翼も一緒に大きくなるのだろうか。ぼんやりとそんな風に考えていると、体温の通った白い翼と彼の腕が静かに離れた。次いで藤色に輝く優しい瞳が間近で僕を見つめてきたので、僕はあまりの近さに動くことができなかった。


「泣かなくていいの、骸クン。」

「…っ、僕は、泣いてなどっ…」

「嘘ばっかり。」


僕の前では強がらなくていいんだよ。労るような言葉と共に、よしよしと頭を撫でられた。僕は絶対に泣いていないはずなのに。彼の言葉に酷く困惑してしまった僕は、思わず彼から距離を取ろうとした。けれども再びふわりと腕の中に捕らえられ、彼の舌が僕の目尻から零れ落ちた透明な雫を掬い取るのが感じられた。


「ねぇ、骸クン。」

「はい…」

「ちょーだい♪」


彼は目を細めて笑うと、僕に綺麗な笑顔を向けた。


「白、蘭…!?頂戴とは、一体何を…?」


突然何を言い出すのだろうか。彼が発した言葉は短すぎて、何を伝えたいのか分からなかった。僕が訝しげな表情になったからだろうか、変な顔だよと、彼は僕の頬をそっと撫でた。そしてゆっくりとその手を離すと、それはね、と真っすぐに僕を見つめた。


「骸クンが抱えてる物だよ。悲しいとか、苦しいとか、痛くて辛いとか、そういう物。それを僕にちょーだい。」

「……」

「僕と君が半分こすれば、君は1人で背負わなくてよくなるでしょ?抱えきれなくなって押し潰されちゃうなんてこともなくなる。僕は骸クンと一緒に歩いていくよ!君の側から離れるもんか。君が…大好きなんだもの。」

「白…蘭。」

「だから、君が今までどんな道を歩いて来たかなんて全然関係ないよ。そのせいで僕がどうにかなっちゃうようなことも、絶対にないんだからね。」

「白、蘭。」


彼は僕の言わんとしたことを全て分かって、それでも僕を好きでいてくれる。僕が隣に居ることを求めてくれる。僕と居ることが幸せだと笑ってくれる。だから僕は、これからもずっと彼を好きでいて良いのだ。彼の温もりをこの手で感じても良いのだ。これからも、ずっと。


「好きな人の全てをどーんと受け止めて、ビシッと守るのが恋人ってヤツでしょ?いい?僕は骸クンの彼氏なんだよ!しかも完璧な彼氏!」


それにさ、僕は君より強いし♪未来では何度も君に勝っちゃったからね、僕。彼はそう言って茶目っ気たっぷりのウインクを僕にくれた。心配しなくてもいい、ただ自分の傍らに居ればそれでいいと、キラキラ輝くアメジストの瞳が語っていた。


「…そう、でしたね。」

「骸クン?」

「僕が不安になる必要など…なかったんですね。そこまで自信たっぷりに言われてしまったら、ウジウジ悩んでいたのが馬鹿らしくなってきました。…僕は、これからも…あなたと居ますよ、白蘭。」

「むくろくん!」


彼はぱあっと明るい顔になると、真っ白な翼を広げて僕に抱き付いてきた。勢い良く抱き付かれた僕はバランスを崩して幸せそうな顔をした彼と共にコンクリートの地面に座り込んでしまった。そうだよ、心配なんかしないで、僕と一緒に居ればいいんだよ。彼の嬉しそうな声が僕の耳元で甘く甘く響く。その想いに応えるように彼の背中にゆっくりと腕を回しながら、僕は幸せ過ぎて再び泣きそうになってしまったのだった。






END






あとがき
標的396のちょーだい♪な白蘭が可愛過ぎまして、この台詞を使って白骸を書いてみました。骸が女々しくてすみません。

白蘭は骸クン好き好き大好き!と積極的だと思うのですが、実は骸の方が表面に出さないだけで白蘭のことをすごくすごく想っていると萌えるよね!という妄想のお話です。2人共お互いが大好きでいるといいなと思います(*^^*)


読んで下さいましてありがとうございましたVv

[*前へ][次へ#]

78/123ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!