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融愛セピア
未来編の2人です

色々と捏造しております;;




「ねぇ、骸君。ぎゅうってしてもいい?僕、今ね、すっごく君のことを抱き締めたい気分っていうか、君を近くに感じたいんだ。」


青い青い海。どこまでも真っすぐに続いていると錯覚してしまいそうになるくらいに、目の前には綺麗な青が静かに広がっている。視界を遮る物は何もなく、白い砂浜には自分達以外に誰も居ない。あぁ、確かそういえば。あなたは海が良く似合いますねって、君に言われたことがあったな。そんな風に思いながらじっと返事を待っていると、不意に肩の辺りに愛しい人の温もりを感じた。ふふ、さっきまでは少し離れて座っていたのにね。恋人の可愛らしい行動のせいで、思わず口元に笑みが浮かんだ。


「白蘭…そのようなこと、わざわざ…聞かないで下さい。」


愛しい彼の方から寄り添ってくれるなんて、こんなに幸せなことはないと思う。こんなに心満たされることなどないと思う。本当に幸せで。幸せ過ぎてどうにかなってしまいそうで。君も僕と同じように思ってくれるなら、僕はもっともっと幸せなんだよ。隣にある温もりを感じながら、心の中で呟いた。


「骸君。骸君、大好きだよ。」


さらに距離を詰めて、そのまま彼の腰に優しく腕を回した。いつも思うことがある。こんな風に抱き締める度にいつもだ。まるで初めからそこにあるのが当然だとでもいうように、彼の細い体は自分の腕にぴったりなのだと。愛しい存在を確かめるように優しくぎゅうっと抱き寄せる。彼は嬉しそうに小さく息を漏らすと、そっと背中に腕を回してくれた。


「…知っていますよ。僕も、あなたが好きですから。」


幸せというのは、多分きっとこういうことなんだろう。


僕には君が居れば、ただそれだけで十分だ。





「どうして僕達は、『そう』じゃないんだろうね。」


目を閉じて、そしてゆっくりと瞼を開く。先ほどまで頭の中にあった幸せに満ち足りた映像は一瞬で消え去り、白蘭の視線の先には血塗れの青年が仰向けで力なく床に倒れ伏していた。体中のあちこちが傷だらけで、端正な顔を苦しそうに歪め、辛そうに肩で息をしている。白蘭はゆっくりとした動作で青年の側にしゃがみ込むと、返り血一つない綺麗な顔を彼の目の前まで近付けた。


「……僕は、骸君のことが好きなんだ。君が好きなんだよ。なのに、どうして君が望まないことしかできないんだろうね。どうして君を悲しませることしかできないのかな?」


どこかの世界の自分は傍らで微笑む骸に嬉しそうに頬を寄せ、彼の腰に腕を回していた。どうすればいい?どうすればあんな風に優しく彼を抱き締められるのだろう。分からない。白蘭にはどうしてもそれが分からなかった。骸に腕を伸ばしたとして、それからどうすればいい?次に何をすれば、あんな風に彼を近くに感じられるのだろう。笑顔の裏で必死に考えてみても、答えは一向に見つからなかった。それでも骸を抱き締めたくて堪らず、白蘭はゆっくりと腕を伸ばした。その手は骸の肩にあった傷に触れる。だが白蘭はそのまま指を動かすと、抉るように傷口に深く爪を立てていた。


「――っ、」


白蘭は、骸が唇を噛んで声を上げまいとひたすら痛みに耐える様を黙って見ていることしかできなかった。本当は彼のこんな姿を見たい訳ではないのに。それでもどうしていいか分からず、白蘭は宙にさまよわせていた手で骸の長い髪を掴むと、無理矢理顔を上げさせた。骸は黙って息を殺し、白蘭のされるがままだったが、真っすぐに藤色の瞳を見つめていた。顔の右半分を血に染めている骸は、それでも息を飲むほどに美しかった。好きなのに。好きなのに。どうして自分は彼を傷付けることしかできないのだろうか。



*****
『骸クン!放課後さ、パフェ食べて帰ろうよ。僕、骸クンとデートしたい!』

『仕方がないですね。あなたの奢りでしたら、考えてあげましょう。』

『そんなの勿論だけど、ふふ、骸クン、耳赤くなってるよ。あぁもう可愛い!』




『先生、僕、今回のテストで約束通り満点取ったんだ。だから、分かってるよね?』

『分かっていますよ。…ご褒美は…キスまで、ですよ、白蘭。それ以上は、卒業するまで…お預けです。』




『お誕生日おめでとうございます、白蘭。…これからもずっとずっと僕の隣に居なさい。いいですね?』

『勿論だよ、骸君。僕は絶対に君を離さない。うん、君と出会えて本当に良かったな。僕、すっごく幸せだよ。』




『骸くんの分からず屋!骸くんなんて大嫌い。』

『そうですか、ならばもう…別れましょう。僕もあなたの顔を見なくてせいせいしますから。』

『えっ…やだ!ちょっと待ってよ、骸くん!やだよ…僕は…』

『…っ、今のは…その、言い過ぎました。すみません。僕だって…あなたとは…別れたくない。』

『うん。僕の方こそごめんね、骸くん。僕には君が必要なんだ。』

『僕もです。僕も、あなたが必要です。』




『骸君、キッチンに行くならホットチョコレート作ってよ。君が作るのって、ほんとに美味しいからさ。』

『僕の分だけ作って独り占めしようと思ったのですがね。…あなただけ、ですよ。僕がこんな風に一緒に飲みたいと思うのは、あなただけ…なんですからね。』




『骸君。明日も明後日も、これからもずっと、ううん、それだけじゃなくてね、生まれ変わっても、こことは違う世界でも、僕達2人は絶対に幸せでいようね。』

『あなたは欲張りな人ですね。ですが、僕もあなたと同じ気持ちです。僕もあなたが隣に居るだけで…幸せなんです。』




『骸君。』

『白蘭。』





ゆっくりと瞬きをすると、流れ落ちる血で汚れた骸の顔がすぐ近くにあり、白蘭は何が起こったのかと一瞬戸惑った。あぁそうだ、自分は彼の髪を無理矢理掴んで、それで。状況を思い出した白蘭は骸の髪を掴んでいた指を乱雑に解き、彼を突き放すように解放した。突然自由にされて床に倒れ込んだ骸は、ぼろぼろの体を引きずるようにして腕を伸ばすと、白蘭が着ている隊服を掴んだ。白い隊服に骸の血でじわりと赤い花が咲いていく。骸はそのままゆっくりと起き上がると、乱れていた呼吸を整えて白蘭に顔を近付けた。


「…僕が好きだと言うのなら、これくらいはしてみせなさい。」


全ての者を虜にしてしまいそうな不敵で妖艶な笑みが白蘭の目の前に広がったかと思った瞬間、そのまま深く深く口付けられていた。目眩がするかと思った。それくらいに骸の口付けは白蘭の心を奪い尽くしていた。頭が上手く働かないままに白蘭は唇を離して強引に骸の顎を掴むと、自分から骸の唇を奪い返した。2人だけの空間にどちらの物か分からない悩ましい水音が響いた。骸の唇を存分に味わい尽くし、白蘭から先にそっと唇を離すと、赤く染まった銀糸がまるで2人を繋ぐ鎖のように糸を引いた。


「骸君、どうして…」


口付け終えた後、考えるよりも先に白蘭は言葉を発していた。骸の突然の行動は白蘭を困惑させるには十分だったからだ。白蘭の問いに青い瞳が揺らめき、次いで骸はどこか困ったような表情を見せ、そのまま静かに言葉を紡いだ。


「あなたは本当に馬鹿な人ですが、僕も…あなたと同じでしてね。見るなと言われれば、見たくなる。行くなと言われれば、その先へと進みたくなる。…絶対に惹かれてはいけないものほど…惹かれてしまうのですよ。」

「骸…君。」


僕自身もどうしたら良いのか分からないんですよ。骸は自嘲気味に呟き小さく笑おうとしたが、口元の傷が引きつったのだろう、辛そうに眉を寄せた。痛々しい骸の姿に彼を酷く傷付けてしまったことを今さらのように感じてしまい、白蘭は唇を噛んで自分の行動を後悔するしかなかった。


「骸、君。ごめん。痛かったよね。…怖かったよね。」

「…別に、何ともありませんよ、これくらいの傷など。痛みは感じますが、僕の体では…ないですからね。」


心配しなくても大丈夫ですと、骸は何でもないことのように口にすると、ロングコートの袖で頬にこびり付いていた血を拭った。


「…そうだったね。君のその体って、借り物の器だったよね。」

「そうです。限りなく僕という存在ですが、厳密には僕ではありませんね。」


彼は今、自分の目の前に居るけれど、本当の意味ではまだこの手に掴んでいないのだ。白蘭は骸を見つめると、ゆっくりと手を伸ばして赤く染まっている彼の指先に触れた。


「僕が、きっと出してあげるよ。君をあの冷たい水牢から。」

「…そう、ですか。ここは、ありがとうございますと言うべきですかね。」


自分のことを好きだと言ったが、白蘭がまさかそのようなことまで言うとは思っていなかったのだろう。骸は驚きに目を見開いたが、期待せずに待っておきますよと、フッと笑んだ。骸が何よりも愛しく感じられ、白蘭はさらに骸に近付いた。


「ねぇ、骸君。ぎゅうってしていい?僕、今ね、君を感じたいんだ。」

「な、何を、いきなり… 」


羞恥心からか、骸は上擦った声を出し、白蘭から距離を取ろうと座ったまま後ずさった。


『白蘭、僕を抱き締めてくれませんか?』


どこかの世界の彼がいつも言っていた。恥ずかしそうに、でもとても幸せそうに。どこかの世界の自分に優しく微笑みながら。


「骸君、好きだよ。」


もう迷うことはなかった。どうすればいいのか分かったからだ。白蘭は骸をそっと胸に抱き寄せると、その腰に腕を回した。腕の中で骸は一瞬体を強ばらせたが、すぐに安心しきったように体を預け、白蘭の肩に頭を乗せた。


「僕もあなたも、本当に馬鹿です。」


ゆっくりとだが、骸も白蘭の背中に腕を回した。穏やかな温もりに白蘭は静かに目を閉じた。彼が言った通り、今自分が抱き締めているのは彼であって、彼でないのかもしれない。


「今だけは、本当の僕です。」

「うん、骸君。大好きだよ。」


それでも。腕の中の骸は泣きたくなるほどに温かかったから。白蘭は確かに幸せだった。






END





あとがき
標的169の雰囲気でシリアスっぽく書いてみようと思ったのですが、何とも中途半端な感じですみません;


どの世界でも2人は幸せなのに、自分達だけがそうではないことに焦る白蘭という、ありきたりな設定ですが、すごく好きな設定です。白蘭にボコボコにされても白蘭が好きって、骸がただのMになってしまいましたが、恋は盲目!ということで^^


読んで下さってありがとうございました!

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あきゅろす。
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