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笑顔の仮面
白蘭の過去を色々捏造しています




『何でいつもそんな風に笑ってるの。我が子ながら…本当に気味が悪いわ!』

『お前は叱られている時でさえヘラヘラと笑うんだな…』


もう顔すら覚えていない両親に投げつけられた言葉。


僕が幼い時に2人は交通事故で死んじゃったからね。まぁ実際は2人のことはあまり良く覚えてないんだよ。


思い出の中の彼らは酷く歪んで見えるのに、何故かその言葉だけは僕の耳に残っていた。いつまでも。いつまでも。



*****
僕にもまともな頃があったんだよ。嬉しいことや楽しいことにちゃんと心を震わせていた頃が。だけどね、成長した今になって考えてみれば何でこんなことくらいで…っていう小さなことで、幼かった僕は変わってしまったんだ。


僕の家は割と裕福な方で、広くて綺麗な庭にたくさんの部屋、何人もの使用人を抱えるほどだった。僕自身も欲しい物は何でも手に入る、そんな満ち足りた生活をしていた。大抵の人は分かるだろうけど、そういう子ってさ、周りの子供達から嫌われる運命にあるんだよね。うん、僕も例に漏れずいじめられた。今じゃその子達をボコボコにしちゃうんだろうけど、幼い僕は弱かった。黙って我慢すれば、いつか終わるなんて馬鹿なことを考えていたんだよね。


そんな時に小さな事件が起きたんだ。子供の僕は、屋敷の近くの森の中に秘密基地みたいな物を作っていた。それは僕だけの小さな庭だった。両親には内緒で庭師に頼んでレンガや園芸用の土を分けてもらい、森に生えていた綺麗な花々を植えた。そして花壇の見張りと花達が寂しがらないようにと、左右の瞳が青と赤の宝石でできた珍しいクマのぬいぐるみをそこに置いていた。誰にも秘密で誰にも邪魔されない僕だけの場所だった。


だけどある日、僕がいつものように花達に会いに行くと、花壇が滅茶苦茶に荒らされていた。側には僕のお気に入りだったクマのぬいぐるみが手足がもげた状態で無残に横たわっていて。そして目の前には、学校で僕をいじめている子供達が立っていた。その光景に僕の中で色々な感情が湧き上がったんだ。怒り。悲しみ。虚しさ。そんな感情がね。だけど気が付いたら僕は大きな声で笑っていた。それは冷たい冷たい笑いだったと思う。自分の心を癒やしてくれる大切でかけがえのない物をなくして、多分きっともう何もかもがどうでも良くなっちゃったんだろうな。


僕が泣き喚くか、反撃してくると思っていただろう子供達は、僕が狂ったように笑い出したことに怯えていた。僕がニコリと笑い掛けると、何笑ってんだよ、お前頭おかしいよと叫んで彼らは僕の前から一目散に逃げて行った。


そっか、笑えばいいんだ。どんな時でも笑っていればいいんだ。笑ったら、あいつらは逃げて行った。大切に愛おしんでいた花壇やぬいぐるみを壊された悲しみよりも、僕の頭の中はそのことで一杯だった。


それからなんだ。僕が変わったのは。いつもどんな時でも笑顔の仮面を被るようになった。僕は単純だったから、黙って笑っていれば何でもやり過ごせるって思ったんだ。それに笑顔で居れば、僕は今笑ってるんだから、僕の心も同じように楽しいはずなんだと、そうじゃない時でも無理矢理自分の気持ちを偽ることもできた。


僕をいじめていた子供達もいつもただ笑っているだけの僕に近付くことはなくなり、ますます僕は笑顔で居るようになった。だけどある時、その仮面を剥がすことができなくなっている自分に気が付いた。笑顔の仮面は僕の顔にぴったりとくっついて、最早取れなくなっていたんだ。


僕は今も偽りの仮面を被り続けている。でも今はそれでいいじゃないかと思うんだ。だって笑顔で居るとさ、僕の明るい雰囲気に相手は隙を見せる。マフィアの世界を上り詰めようとしている僕には、笑顔だって武器になった。大きな大きな武器にね。


それに、僕だけじゃないでしょ?誰もが皆、本当の心を隠して仮面を被って生きているんだから。だからそれでいいんだよ。僕は間違ってないんだ。



*****
プライベートルームの中央で、ボンゴレの霧の守護者の六道骸君が僕にうっすら微笑んで立っていた。手には三叉槍とランクの高いリング。その瞳はキラキラと不敵に輝いていて、敵であるはずなのに僕を惹き付けて圧倒した。僕はその瞳にどこか見覚えがあり、どこで見たのだろうと必死に記憶の糸を手繰り寄せた。あぁ、そっか、ぬいぐるみだ。幼い頃の僕が大切にしていたあのクマのぬいぐるみと同じ瞳なんだ。その瞳は幼かった僕をいつも魅了した。それは今目の前に居る彼も同じで。


僕はこの時はっきりと骸君に執着めいたものを感じた。多分一瞬で好きになった。まぁ、後で骸君に、それって僕はクマの代わりですか?心外ですって拗ねられちゃうんだけど、それは僕達が恋人になった後の話。あ、勿論骸君は代わりなんかじゃないよ。まっすぐに僕を射抜く君の視線にやられたんだよ、僕は。ううん、視線だけじゃない。君の全てにね。


骸君を好きになってしまったから、僕はなるべく彼と戦いたくないなぁと思ったけど、骸君は否応なく攻撃してくる訳で僕も応戦するしかなかった。骸君は僕が思っていた以上に強くて、段々僕もリングに込める炎が大きくなっていった。その時、僕の攻撃をかわしていた骸君が物憂げな瞳で僕をじっと見た。その綺麗な瞳に捕らわれた一瞬の隙に彼は僕に近付くと、耳元で小さく呟いた。


「白蘭…あなたは可哀想な人ですね。いつもそんな風に…笑っているのですか?」


骸君の声はどこか切なさが混じっていて、僕の心に大きく響いた。その言葉にいつかの両親の言葉が重なる。僕は頭が真っ白になって思わず骸君の肩を掴むと、彼の体を部屋の床に叩きつけていた。倒れ込んで小さく咳き込む骸君を覆うように床に両手をついて、僕は彼を見下ろした。骸君は仕事で取引する相手や格下のファミリーの幹部、顔だけ綺麗で頭の悪い女の子のように、僕の笑顔に簡単に騙されるようには見えない。だったら、君も僕を拒絶するの?笑うことしかできない僕を。


不意に骸君の腕が僕の方に伸びて、黒い革の手袋に包まれた指が僕の頬を優しく撫でた。その手の温もりに僕は小さく肩を震わせた。


「…ちゃんと泣けるではありませんか。」

「え…?」


骸君の言葉に頬に手を添える。もうずっと流したことのなかった涙が僕の頬を一筋流れていた。


「僕が姿を偽ってあなたに初めて会った時、あなたは僕に笑顔を向けてくれました。ですが、僕にはそれが笑顔には見えませんでした。…泣いているように見えたんです。悲しみを抱えているのに、それを無理矢理笑顔で隠しているように。まるで仮面を被って孤独に踊る道化師だと思いました。…僕はそんなあなたを見て、何故か苦しいくらいに胸が締め付けられました。」

「骸君…」

「それからです。自分でもどうかしていると思いますが…あなたの本当の笑顔が見たいと思うようになった。心の底からの笑顔を僕…だけに見せて欲しいと。…でも分かっています。僕とあなたは敵同士。それにあなたは、僕のことなど倒すべき相手としか思っていな…」


僕は骸君の言葉を飲み込むように、そのまま口付けた。骸君の背中に腕を通し、彼をゆっくりと抱き起こしても、口付けはやめなかった。骸君も僕に抵抗することなく、優しく舌を絡めてくれた。


「僕も…骸君のこと、好きになっちゃったんだ。最初はその綺麗な瞳に惹かれたけど。…骸君だけが、気付いてくれたんだね。僕が笑顔の仮面を張り付けていることに。骸君だけが求めてくれた。僕の本当の笑顔が見たいって。…ずっとこのままでいいやって思ってた。偽りの笑顔で笑い続ければいいんだって…」


そうすれば、上手く行く。今までがそうだった。でもやっぱりそれは間違ってるんだよ。嬉しくもないのに笑ったって、心が救われることはないんだ。


「ありがとう、骸君。」


僕は骸君に笑い掛けた。彼に僕の気持ちが伝わるように心を込めて。骸君は僕を見て、大きく目を見開くと、嬉しそうに頷いた。


「綺麗ですよ、白蘭。あなたのその笑顔。本当に…綺麗です。」


お互いの攻撃で瓦礫が散乱した部屋の中で、僕はもう一度骸君を抱き締めた。骸君も僕の胸に顔を寄せて、幸せそうに背中に腕を回してくれた。


あぁ、やっと仮面が外れた。これからもずっと必要だろうと思っていたけど、もう僕にはいらない。だって骸君に貰ったから、僕の本当の笑顔を。


僕はその笑顔で、ずっとずっと骸君に笑い掛けていくんだ。これからもずっとね。






END






あとがき
白蘭のニコニコ笑顔の裏には…みたいな妄想の産物です。原作寄りの雰囲気で書きました。公式で判明したように実際の白蘭はいじめられっ子ではないですので、本当に捏造ですみません(+_+)


今回の骸は、白蘭に母性本能くすぐられて好きになってしまい、悲しい顔じゃなくて笑顔が見たい、でも敵のボスだし戦いは避けられないし…みたいに見えない所で悩んでいました。ざっくり割愛で申し訳ないです。


お金持ちお坊っちゃん白蘭、可愛いだろうなぁと思って設定しました。振り返ってクマのぬいぐるみはないな…と。そりゃ骸も怒りますよね^^


読んで下さってありがとうございました♪

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