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ファンタスティック・ロマンチック
原作寄りの2人です




「『歩く彫刻像』ねぇ。ボンゴレの皆もなかなか上手い表現をするなぁ。確かに本当に綺麗だもんね。」


ミルフィオーレファミリーの本部があるタワービル、その1階のエントランスの白い壁に身を隠すようにして、白蘭はゆっくりとこちらに歩いて来る人物の様子を窺っていた。壁に沿うように隠れている自分に気が付いた部下の何人かが、何で白蘭様がここに居るのかと驚いて声を上げそうになる。白蘭は彼らに笑顔を向けると、ちょっと静かにしててねと、口元に人差し指を当てた。コクコクと頷く部下達にいい子だねと微笑んで、エレベーターに乗り込む彼らを見送る。そして白蘭は着ているスーツの襟元を正すと、軽やかな足取りで目指す人物の前まで歩いて行った。


「骸く〜ん♪」

「白蘭。」


彫刻のように整った端正過ぎる顔が、特に表情を浮かべることなく白蘭を見つめる。硝子細工の煌めきを放つ双眸。すっきりとした鼻梁。形の良い薄桃色の唇。夜の闇のように艶めく長い髪。彼の全てが完璧なのだ。白蘭は目の前に立つ骸に言葉もなくただ目を奪われていた。彼が仲間の守護者達の間で彫刻のように綺麗だと言われているのも頷けるといえる。けれども、しかし。


「会いたかったよ、骸君。僕ね、君が来るのをここでずっと待ってたんだよ。」

「僕は別にあなたに会いたくなどなかったのですがね。仕事ですから、こればかりは仕方がありませんけれど。…それと、わざわざこのように待って頂かなくて結構です。ファミリーのボスだというのにあなたも相当暇のようですね。」

「うわぁ、今日も相変わらず手厳しいね、骸君は。」


彫刻像は美しい外見であるけれども、触れてみるとひやりと冷たい。骸もまさしくそれと同じなのだ。見た目は瞬きを忘れるほど美しく綺麗であるというのに、彼は他人に無関心で冷たい。それは例に漏れず、他ファミリーのボスでしかない白蘭に対しても同様で。だからこそ彼は、その美しさと他人に対する冷たさから、ボンゴレ内で彫刻のようだと囁かれている訳なのだ。


「ねぇねぇ、骸君!良かったらさ、今日一緒にディナーでもどう?」

「結構です。」

「じゃあさ、今度の週末にデートのお誘いをしてもいいかな?」

「嫌です。お断りします。あなたとデートなどあり得ませんね。」


うっ、骸君、冷たい。でもこれくらいなんかじゃ、僕はめげないもんね。視線を合わせようとすることなく隣を歩く骸を見つめながら、白蘭は心の中で呟いていた。初めて見た時から、何となく骸のことが気になってしまった。心惹かれるものがあった。彼に近付きたいと思った。だから白蘭は、能力を使ったのだ。パラレルワールドの知識を共有し、他の世界を覗くことができる力を。別の世界では、自分と骸はどうなっているのだろうかと興味が湧いたからだ。そして白蘭は知った。どの世界でも自分と骸は恋人までとはいかない場合も勿論あったが、友人以上の特別な関係にあった。どの世界でも、骸は自分に優しく微笑んでいた。どの世界でも、骸は自分に幸せをくれた。それなのに、この世界の骸だけが、自分に微笑んではくれない。自分の隣で笑ってはくれない。だからこそ、白蘭は骸に振り向いて欲しくて堪らないのだ。自分の物になって欲しいと強く強く思ってしまう。


「ねぇ、骸君。」

「先ほどからしつこいし、うるさいですね。…白蘭、あなたはまるで羽虫みたいです。顔の周りで飛び回られると苛つくあの虫と同じですよ。」

「む、虫って!酷いよ、骸君。虫はあんまりだよ。」

「だったら少し静かにしていなさい。」


骸はブーツのヒールの音を響かせて先を歩く。白蘭は遠ざかる黒いショートコートの背中を切ない思いで見つめた。虫扱いはさすがにヘコみそうにはなったが、ここでへこたれる訳にはいかないのだ。まとわり付く虫だろうと何だろうと構わない。骸が自分に振り向いてくれるまで、絶対に諦めてはいけないのだ。


「骸君、待ってったら!ここからは僕がエスコートするんだから。」


1人でさっさとエレベーターに乗ろうとしている骸が目に入り、白蘭は急いで想い人を追い掛けたのだった。



*****
あぁ、またやってしまった。木製の机に力なく突っ伏した骸の口から溜め息が零れ落ちた。


「…虫だなんて、酷過ぎですよね。」


骸が今居る場所は、ボンゴレ本部の洋館の中にある、それぞれの守護者に与えられた部屋の中だった。白蘭にボンゴレからの書類を手渡した後、骸は部屋の中に閉じこもっていた。続きの書類仕事をする気も起きず、先ほどの白蘭とのやり取りを思い出しては憂鬱な気持ちになっていた。


骸は白蘭に会う度にあのような物言いをしてしまうが、白蘭のことは嫌いではない。寧ろ彼のことが気になっていた。だからこそ、上手く行かないことがもどかしくて堪らなかった。彼が自分に向けてくる真っすぐな愛情は、大切な仲間達が自分を家族のように慕う感情とは違うということは頭では良く分かっている。けれどもどうして良いのか分からない。どのように接すれば良いのか分からない。自分から誰かを愛するということが、骸は今でも良く分からないのだ。幼い頃に汚い大人達に何度も虐げられ、少年期の長い時間を辛く寂しい水牢の中で過ごした。だからこそ自分は、本当は愛情を求めている。心の奥では誰かに強く想われることを望んでいる。白蘭が自分に注ごうとしてくれている愛情を受け取りたいと思っている。それなのにどうして良いのか戸惑ってしまい、その焦りや動揺からいつも思ってもいない正反対のことばかり言ってしまう。望んでなどいないのに白蘭に悲しい顔をさせてしまう。そして自分の言動に後悔して、こんな風に自己嫌悪に陥るのだ。その繰り返し。変わりたくても変われない。愛が欲しいと望んでいるのに、愛し方が分からなくて心にもない言葉で傷付けてしまうだけ。


「白蘭。」


骸の声が静かな部屋に響き渡る。名前を呼んだ彼のことを思い出すと、心が切なくて苦しかった。本当は、嬉しかった。ふわりと優しく微笑んでくれることが。好きなのだと全身で惜しげもなく伝えてくれることが。骸はゆるゆると顔を上げてそっと目を閉じると、瞼の裏に白蘭の隣に居る自分を思い描いた。できるならば、白蘭とディナーに行ってみたい。彼はきっと美味しいイタリアンの店を知っていて、自分を楽しませてくれるに違いないだろうから。勿論デートだって。本当は白蘭と一緒に綺麗な夜景を見てみたいと思う。彼と過ごす日々は穏やかで幸せなのだろう。骸はその温かな時間を容易に想像することができた。けれども現実はこうもかけ離れていて。


「どうして、いつも…」


上手く行かないのだろう。あのような態度を取ってしまうのだろう。白蘭の愛情を無碍にしてしまうのだろう。小さく呟いた言葉は、いつまでも悲しく骸の胸に響いていた。



*****
先ほどからずっと待ち構えていた人物が趣のある古い洋館の扉を開けて出て来た瞬間、白蘭は行き先を塞ぐかのように骸の前に立ちはだかった。何故あなたがここに居るのです。今から僕があなたの所に行くはずでしたよね。そんな風に目で訴えてくる骸にありったけの笑みで応えると、白蘭は楽しげに両腕を広げてみせた。


「骸君、さぁ行こう!今すぐ行こう、僕と一緒に!」

「あの、あなたが僕のことを呼び出したと先ほどボンゴレから聞かされたので、今からあなたの所に行こうとしていたのですが、まさか迎えに来た訳ではないですよね?…それにしても僕に用とは…全く勘弁して欲しいですよ。これでも僕も忙しいのですから。」

「まぁ怒らないでよ、骸君。詳しいことは後でってことでさ。とりあえず僕と来てよ♪」


白蘭は骸について来るように促すと、笑顔を浮かべて歩き出した。綺麗に整えられた庭園を横切り、洋館から伸びる小道を抜けて通りに出ると、白蘭は道路脇に停車してあった1台の白い高級外車の前で足を止めた。そのままゆっくりと骸に視線を向けてみる。車にそれほど興味のなさそうな骸でも、白蘭の隣で僅かに目を見開いていた。


「さぁ、乗って乗って♪」

「ちょっ、白蘭。」


戸惑う骸の腕を掴むと、少し強引ではあるがドアを開けて助手席に座らせた。驚いてこちらを見つめてくる骸に、シートベルトは忘れちゃ駄目だよと優しく声を掛けて、白蘭は軽快にアクセルを踏んだ。


「僕を呼び出したのは、仕事に関することではなかったのですか?」

「うん、仕事といえば仕事かなぁ。」

「白蘭、はぐらかさないでちゃんと答えて下さい。」

「僕とドライブを楽しむ…これが君に頼みたい仕事だよ。骸君とドライブだなんて、僕、嬉しくてどうにかなりそうなんだから!普段は部下の子に運転させてるんだけど、骸君を乗せるなら自分の車で運転したかったんだよね。」


これのどこが仕事ですか。僕には立派な骸君との仕事だよ。いいじゃない、こういうのもさ。そんなやり取りをしばらく続けたが、白蘭の言葉を受けて骸の眉間に皺が寄った。白蘭はその嫌そうな表情を見ないように前を向いてハンドルを握ったまま、隣に座る骸に話し掛けた。


「骸君、そんな顔したらさ、せっかくの綺麗な顔が台無しだよ。もっと嬉しそうにして欲しいけどな。」

「こんな狭い空間にあなたと2人きりだなんて、考えただけで虫酸が走るんですよ。」

「酷いなぁ。そんな心にもないこと言わないでよ。…骸君って僕に会う度いっつも怖い顔してるけどさ、笑った方が絶対に可愛いよ。うん、その方が絶対いい。」


白蘭は片手を伸ばすと、皺が残っちゃうよと骸の額にそっと触れた。白蘭の指が陶器のように白い肌に触れた瞬間、骸の肩が大きく跳ねた。伸ばした手は絶対振り払われてしまうと思ったのに。予想外の骸の反応は白蘭には不意打ち以外の何物でもなかった。


「骸君、照れてるでしょ?」

「照れてなどいません。」


骸は視線を合わせたくないのか、慌てて白蘭に背を向けると窓の向こうを眺め始めた。あぁ、彼は自分の耳がうっすらと赤くなっていることに気付いているのだろうか。多分気付いてなさそうだなぁ、本当に可愛いね。自分の気持ちと同じように車のスピードも加速していく。骸君、僕は君が大好きなんだよ。白蘭は骸に聞かれてしまわないように、心の中で呟いた。


白蘭は愛車をゆっくりと走らせながら緑溢れる市街地を抜けると、海岸沿いの道に出てしばらくしてそのまま車を停めた。海に連れて来るなど我ながらベタ過ぎだとは思ったのだが、骸と一緒に青く輝く綺麗な海を見たかったのだ。骸は相変わらず白蘭に一度も視線を向けることはなかったが、静かに凪ぐ海を眺めながら綺麗ですねと、小さな笑みを浮かべてくれた。それだけでもう白蘭の心は幸せだった。骸のことが、ただ愛しくて愛しくて。切ないくらいに好きで好きで。この世界の骸は自分に微笑んではくれないけれど、白蘭は骸が愛しくて大切で仕方がなかった。



*****
あのドライブですっかり気を良くしたのか、白蘭は所構わず骸を誘うようになっていた。骸が仕事で白蘭の執務室を訪れる時は勿論、ボンゴレの本部に居る時にも、白蘭は骸君!と笑顔で会いに来た。自分に愛情を示してくれることが嬉しくて堪らなかったのに、骸は素っ気ない態度で白蘭を冷たくあしらうことしかできなかった。このままではいけないことなど分かりきっている。それでもどうしても、骸には無理だった。優しい言葉を掛けることも、笑顔を向けることも。





「いい加減にして下さい。毎回毎回ここにやって来て…本当に迷惑なんですよ。分かりますか?」

「骸君…」


今日も仕事を抜け出して会いに来た白蘭を部屋から出すと、骸はそのまま小さな庭園へと彼を連れて来た。他の守護者達は皆仕事で忙しく、自分達に構う者は居なかった。骸は今度こそ白蘭を傷付けないように話すつもりだった。それなのに骸の口からは、いつもと同じ言葉が零れ落ちていた。


「やっぱり、迷惑だったのかな?僕は骸君にとって…」

「そうですよ。いい迷惑に決まっているでしょう?」


違う。違うのだ。本当は白蘭と一緒に居たい。彼がくれる温かな幸せが欲しい。それなのに、想いが音になることはなく。骸はもどかしさに唇を噛み締めた。


「ごめんね、骸君。僕、もう帰るよ。」

「白蘭。」

「君を困らせたかった訳じゃないんだ。僕はただ…君が好きなだけだったんだ。」

「白蘭!」


白蘭は悲しそうに笑って骸に背を向けると、静かに歩き出した。白蘭がどんどん遠くなる。骸の心はこれ以上ないほどの悲しみや焦りで一杯だった。骸は白蘭の名前を呼んでそのまま後を追い掛けようとしたが、心の動揺が体にも伝わったのか、足がもつれ、音を立ててその場に倒れ込んでしまった。


「骸君っ!?だ、大丈夫?」



派手に倒れ込んだ骸に気付いたようで、振り返った白蘭が慌てて骸に駆け寄って来た。白蘭は骸のすぐ側にしゃがみ込むと、心配そうに骸の顔を覗き込んだ。穴があったら入りたい。もう駄目だ。恥ずかしくて死んでしまう。骸の頭の中はそればかりで、もう何もかも分からなかった。


「骸君、「どうすれば良いのですか。」

「え…?」

「どうすれば、あなたの想いを受け取ることができるのですか。」

「骸君。」


目の前にある藤色の瞳がゆっくりと見開かれていく。白蘭は小さく瞬きをすると、座り込んだままの骸を見つめた。その口元は嬉しそうに綻んでいて。


「僕の手を取ればいいんだよ。」


白蘭は骸の手を取ると、その指先にそっと口付けを落とした。


「ね?簡単でしょ?」


そしてそのまま骸の体を引き寄せて腕の中に閉じ込めると、骸の瞼に優しくキスをした。突然のことに何もできないでいる骸がおかしかったのか、ふふと笑うと骸の背中に腕を回して、そっと耳元で囁いた。


「骸君、愛してるよ。君が僕の全てなんだ。ずっと僕の隣で笑っててよ。」

「白蘭。」


あぁ、そうか。こんなにも簡単なことだったのだ。愛しい人の手を取って、その背中に腕を回せば、それだけで良いのだ。骸はゆっくりと腕を上げて白蘭を抱き締めると、自分も同じ気持ちなのだと、精一杯の想いを込めて囁いた。






END






あとがき
素直になれないツンな骸はとても可愛いと思います。そしてそんな骸を包み込む白蘭は格好良いと思います。捏造が甚だしいですが、どんな白骸でも本当に大好きです^^


読んで下さいまして、どうもありがとうございました!

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あきゅろす。
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