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確かな愛の詩 3(完結)
これが最初で最後だよ。そう言われたことを忘れた訳ではなかった。だが自分はあの時、分かったと頷きはしなかったのだ。だからこうしてまた会いに来たとしても、一応筋は通る。屁理屈だと罵られるかもしれない。それでも会いに行くのだ。ここ最近は、色々と依頼された仕事が立て込んでおり、白蘭のことを考える暇もなかった。骸は随分と久しぶりに感じる花の道を抜けて、白蘭の住む屋敷の玄関前まで来た。以前は偶然庭園に居た白蘭に案内されて中に入ることができたが、今回はそうもいかない。無視されたら裏口から入ってしまえば良いと、骸は玄関の扉を押してみた。予想外に扉はゆっくりと開き、不用心だと思いながらもこんなチャンスはないと屋敷の中へと体を滑り込ませた。白蘭はこの屋敷はボンゴレの物だと言っていたから、別に彼が盗られて困る物もないのかもしれないなと骸は思った。


緊張であり得ないほどに心臓が早鐘を打っていたが、骸は唾を飲み込むように喉を鳴らすと、執務室の扉を叩いた。しかし中からは何も反応がなかった。仕方がないと静かに扉を開けて、骸は思わず小さく叫んでいた。


「どこに…行ったんですか、白…蘭。」


机の上にあったノートパソコンや山のような書類は全てなくなり、ここに白蘭が居た痕跡を見いだすことはできなかった。というより、この屋敷全体から白蘭の気配が消えていた。目の前の光景が俄かに信じられず、骸はふらふらと机に近付いた。机の端の方に伏せられた写真立てがあることに気付いた骸は、吸い寄せられるように手を伸ばしていた。


「白蘭…」


机の上の少し歪なホールのチョコレートケーキを挟んで、恥ずかしそうにはにかむ自分と、両手でピースサインを作り、満面の笑みを浮かべる白蘭がこちらに微笑んでいた。骸がチョコレートが好きであることを知った白蘭が、顔や手をチョコレートまみれにしながら骸の為に作った時に撮ったものだった。白蘭と過ごした日々が頭の中を駆け巡る。初めて白蘭と戦った時、全身を痛めつけられ、右目を潰され、死を覚悟した。捕虜として無様に生きるならば、潔く死を選ぼうとした。なのに、好きになっちゃったんだと抱き締められて。包み込むような優しい温もりと太陽のように眩しい笑顔に知らず知らずの内に絆されていた。いつの間にか大好きで愛しく思うようになっていた。


「白蘭、白蘭…」

自分のことを何度も拒絶し、言葉の通り嫌いだというのならば、こんな写真をいつまでも持っているはずがない。込み上げてくる感情に骸は唇を噛んだ。どうしてすれ違ってしまうのだろう。捜し出したと思えば帰れと拒絶され、こうして今日また会いに来たら、もうこの場所に愛しい人は居なくて。骸は膝をついて机に突っ伏すと、嗚咽を我慢するように肩を震わせた。



*****
目の前の人物は、若き少年の頃の面影をまだ十分に残していて。ボンゴレのボスに頭を下げるのはこれで2回目だと思いながら、骸は机越しに綱吉に詰め寄った。


「白蘭は今どこに居るのですか。…あなたなら知っているのでしょう?」

「あれから随分と久しぶりなんだから、まぁ落ち着けよ、骸。白蘭は…あの白い部屋の中だよ。色々あってさ…今回は俺も力及ばずで。」


お前には悪いと思ってる。栗色の瞳が揺れて、申し訳なさそうに骸を見つめた。


「…お前、本当に白蘭のことが好きなんだな。」

「決まっているでしょう。そうでなければボンゴレ如きに頭を下げる訳がない。」

「ははっ、酷いな。…でも、お前になら全部任せてもいいかな。」


何をと骸が尋ねるより早く、綱吉が机の引き出しから何かを取り出し、骸の目の前に翳した。


「鍵…ですか。」

「白蘭の部屋の鍵だよ。お前に渡す。お前ならこんな物なくても、あそこに簡単に入れるだろうけどさ、この鍵で堂々と迎えに行って来い。」


綱吉は戸惑う骸に鍵を握らせると、楽しそうに笑った。手の中でキラリと光る大切な物。骸は渡された鍵を強く握り締めると、コートのポケットの中に忍ばせた。


「まぁつまりは白蘭が逃げ出したとしても、俺は何も知らない。鍵は元霧の守護者に奪われたから。悔しいが力及ばずに。」


悪いけど俺は責任逃れさせてもらう。骸、お前が抜けた穴は結構大きいからな。少しだけ意地悪く笑う綱吉を見て、ボスとして彼も逞しくなったのだなと感じた。


「骸、白蘭と幸せにな。」

「ボンゴレ…ありがとう、ございます。」

「骸にお礼を言われるなんて、何か変な感じだ。…お前達は行方知れずってことになるから、これがもう最後だな。」


骸はもう一度綱吉に頭を下げた。若きファミリーのボスは、窓から射し込む陽の光の中で元気でやれよと優しく微笑んでいた。



*****
またこの部屋に戻って来てしまった。白を好む自分でさえも、息苦しさを感じそうになるほどに真っ白だ。自分はこの白い鳥かごの中からもう一生出ることはできないのかもしれない。まぁそれだけのことはしたんだし。白蘭はベッドに仰向けになったまま小さく溜め息を吐いた。


ここ最近、ボンゴレファミリーの元霧の守護者が白蘭の屋敷の周囲で頻繁に目撃されるようになり、自分が骸を誑かして再び何かを企てているのではないかと疑われた。綱吉はきちんと調査してからでも遅くはないと訴えたらしいのだが、彼以外のボンゴレの上層部や同盟ファミリーのボス達は首を縦に振らなかったようだ。そういう訳で、白蘭は再びこの場所に居る。


「ま、信用されてなくて、当然だよね〜。」


白蘭はベッドからむくりと起き上がると、壁に体を預けてそっと目を瞑った。目を閉じる瞬間、嫌いだと言ってしまった時の骸の悲しみに満ちた瞳を思い出してしまい、白蘭は悲しみで潰れてしまいそうだった。





ふわりとした温もりを感じたような気がして目を覚ますと、白蘭の目の前に冴え冴えと輝く青い髪があった。自分を抱き締めている人物は肩に顔を押し付けていて、その表情は窺い知ることはできなかった。


「骸、君…」

「白蘭…」


ベッドに乗り上げ白蘭に腕を回したままの格好で、骸が白蘭に微笑む。それだけで心臓が掴まれたように苦しくなり、結局骸から離れることなどできないと思い知らされてしまった。骸への未練を断ち切ろうと、大切にしていた写真だって置いてきたのに。


「僕はもう、骸君を守れる力も何もない。君に不釣り合いな男になっちゃったんだよ。それでも…いいの?」

「好きに生きれば良いと言ったのはあなたでしょう?ですから、僕の好きなようにさせてもらいます。」

「骸君。」

「一緒に、来てくれませんか?」


切ない瞳を向ける骸を押し倒して、答えの代わりとばかりに唇を塞いだ。会いに来てくれたあの時から、ずっと触れたくて堪らなかった骸がすぐ側に居た。何もかもなくしたつもりだった。けれども、骸への想いだけは決してなくなってなどいなかった。


「うん…僕、骸君と一緒に行くよ。」


幼い少女がくれたこの命を今度こそ大切にして、大好きな人と共に生きていこう。骸を腕の中に感じながら、白蘭の心は晴れやかだった。



*****
部屋の中だけではなく、外壁までもが汚れを知らないかのように真っ白に染まった施設を出ると、爽やかな緑が広がっていた。白蘭は隣を歩く骸をチラリと見る。骸が手に持っている本革のスーツケースが先ほどから少しだけ気になっていた。


「ねぇ、骸君。その中って何が入ってるの?僕の部屋に来た時から持ってたよね。」


ベッド脇に置いていたスーツケースを片手に、骸は鍵を開けて白蘭に部屋を出るように促したのだ。何故骸がスーツケースを持っているのかとか、何故あの部屋の鍵を持っていたのか疑問だったりするが、これからずっと一緒に居られるなら別に何でもいいかなと、白蘭は気にしないことにした。


「この中には、あなたの新しい服が入っているんですよ。いつまでもその服では嫌だろうと思ったので。あなたがチョイスの時に着ていた黒いロングコートに似ていますが、僕好みの体にフィットする物を選びました。白蘭…あなた、あの服は僕とお揃いのつもりだったのでしょう?」

「えっ、いや、その……うん。」


楽しそうに笑う骸に図星を指され、頷くしかなかった。骸が颯爽と着こなしていたロングコートとお揃いになるような衣装がどうしても欲しかったのだ。あの頃僕達はもう恋人同士だったんだから、ペアルックしたかったんだよと説明すると、街に着いたら嫌というほどお揃いですがねと、少しだけ恥ずかしそうな声が返って来た。


「さて、白蘭。これからどこへ行きましょうか?この頃ずっと仕事続きでしたから、僕としてはゆっくりできる場所が良いのですが…」

「そうだね…骸君となら、どこへでもどこまでも♪」

「おやおや、そうですか。…僕もあなたと同じでしたよ。白蘭、あなたとならどこへでもどこまでもずっとずっと一緒に行けます。」


指と指を絡め合うように手を繋いで、白蘭と骸はお互いに微笑み合った。夜明けのまばゆいまでの光が、まるで新たな旅立ちを祝福するようにそっと2人を包んでいた。






END






あとがき
キーノ様から頂きました「未来編の終わり辺りで、すれ違いからのハッピーエンド」のリクエストをもとに書かせて頂きましたが、上手く表現できていなくて申し訳ありません(><;)お互いを想い合っているのに上手くいかない2人を目指して頑張ったつもりです(^^;)


相変わらず酷い捏造ですが、目を瞑って下さると嬉しいです。今後はバリバリ仕事で戦う奥さんな骸と、パソコンひとつでお金を稼ぎ、主夫も頑張る白蘭な感じになるんだと思います。


未来でも白骸の2人が幸せに笑っているといいなと思いますよね!素敵なリクエストをどうもありがとうございました♪

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