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fragrance
37巻を読んでの突発的小ネタなので短いです




「何かいつもいい匂いするよね、骸クンってさ。」


いきなり音もなく近付いたからだろう。活字を追っていた骸が少しだけ驚いた顔をして白蘭を見た。頭の中の大半が今まで読んでいた本の内容で占められていたせいか、骸は今し方白蘭が口にした言葉を思い出すように上を向いた。


「そう…ですね。僕、良い香りのする石鹸やシャンプーなどを好んで使うようにしていますから、多分それだと思います。…そういった物を探すのって、結構楽しかったりするんですよね。」

「へぇ、骸君って何だか女の子みた…「黙りなさい。」


違うって、可愛いって意味だよと慌てて笑い掛けると、僕は可愛くなどありませんと不満げな声が返って来た。白蘭はそんなことないんだけどなと思いつつ、隣に座る大好きで堪らない存在に腕を伸ばした。そのまま細い体を引き寄せ、彼が着ている制服の襟を掴んで広げると、露わになった白い項に鼻を近付けた。


「うん、やっぱりいい匂い♪これは…柑橘系かなぁ。」

「びゃ…白蘭!顔が、近いです。離れて下さい!」


抗議するように骸の腕が白蘭の体を引き剥がそうとするが、そんな些細な抵抗などどこ吹く風とばかりに、白蘭は骸の首筋に頬を擦り寄せ続ける。


「くすぐったい、ですよ。…白蘭、動物みたいなことはやめて下さい。まるで犬ではないですか。」

「やだ、やめないよ♪いい匂いがする骸君が悪いんじゃん。」


白蘭は大好きなご主人様に構って欲しいとじゃれる子犬のように、骸から一向に離れる気配を見せなかった。腰に腕を回し、ぴたりと身を寄せて息を吸い込むと、爽やかなオレンジの香りが胸一杯に広がる。それと同時に微かだが、骸自身の匂いもして。心がゆっくりと優しい安堵感のようなものに包まれていくのを感じた。


「あ〜、落ち着く。」

「この体勢で落ち着かれても…」


僕を困らせるのが本当に好きですね、白蘭。すぐ側で零れた溜め息にそっと顔を上げると、言葉とは裏腹に目を細める骸の横顔が見えた。


「本当は、こんな風に僕がくっつくと嬉しいんでしょ?」

「な、何を…」


もう黙っていなさいと、骸は再び白蘭から離れようと身を捩ったが、そうはさせないよと、愛しい人をきつく抱き締めた。紺碧の髪が揺れ動く度にふわりと香る香りに心満たされて、白蘭は満足そうに口許を綻ばせた。



*****
「あれ?骸君、この前と何か違う匂いだね。今日も勿論いい匂いだけど。」

「おや、気付きましたか。新しいシャンプーを試してみたのですよ。」

「骸君のことなんだから気付くに決まってるでしょ♪…これは何かの花の香りかな?」


ソファーに座ったまま後ろから抱き込むように腕を回し、骸の髪に顔を埋めて、白蘭はう〜んと思案した。凛としているのに自分を惹き付けて離さないこの香りは、多分きっと…


「蓮の花の香りですよ。」

「あっ、やっぱりそうだよね!僕もそう思ったもん。蓮っていいよね。」

骸の顔をひょいと覗き込むと、同意するように頷いていた。誰も寄せ付けないような静謐な雰囲気を纏って湖面に咲く花は、骸にとても良く合っていると思えた。自分はその花に魅せられ、誰にも渡さないように手折って手に入れてしまった訳だが、自分が与える愛情で今も枯れてしまうことなく咲き続けてくれることが嬉しかった。


「白蘭、この香りは…好きですか?」

「うん。骸君の匂いの中でこれが1番かな。すごくいいよ。」

「あなたにも…この香りは良く似合うと思いますよ。」

「えっ、ほんと!?嬉しいな♪」


ふふっと笑ってみせると、腕の中に居る骸と目が合った。その瞬間、赤くなった骸に思い切り視線を逸らされてしまい、白蘭は思わず戸惑った。


「…あなたって、時々酷く鈍い時がありますよね。」

「へっ?えっと、それは…」


分からないのかとばかりに、頬を朱に染めたままの骸が咎めるような表情を向ける。だがそんな顔しても、ただただ可愛いだけで。


「骸君…?」

「遠回しに…誘ったんですよ。今度一緒にお風呂はどうかと。……それくらい気付きなさい、馬鹿。」

「む、骸クン!」


骸は白蘭から体を離すと、さらに赤くなってしまった顔を隠すように立てた膝に額を押し付けてしまった。骸と同じ香りを纏う。それはつまり、彼と一緒に入浴しなければ不可能な訳で。骸の言葉が頭の中で意味を成していく中で、白蘭の中にじわじわと喜びが生まれた。


「入る!一緒に入るよ、骸君!今度じゃなくて、今すぐでいいから。」

「…昼間からなんて、結構ですよ。」


骸がゆるゆると首だけを動かして白蘭を見上げる。今さらながらに、とんでもないことを言ってしまった恥ずかしさで居たたまれないのだろう。少しだけ潤んだ瞳に胸が甘く疼いた。骸
君は本当に可愛いねと寄り添うと、だからいつも言っていますが、僕は可愛くなどありませんと、ぺしりと頭を叩かれてしまった。


「考えてみたら、僕もあなたの所もそれなりに大所帯ですから、ばれないように2人だけで入るのは無理でしたね。…先ほどのことは、やはりなかったことに。」

「恥ずかしいからって何言ってんの。だったらホテルとか2人きりで過ごせる所でも全然構わないから♪」

「…っ」

「あ〜、骸君、何か色々と想像しちゃったんでしょ。また顔が赤くなったよ。しかもさっきよりずっと赤い。」

「う、うるさいっ。」

「ちょっ…痛いよ、骸君。」


バシバシと叩いてくる骸を抱き留めながら、あぁ幸せだなぁと白蘭は思った。再び蓮の香りが鼻を掠めて、その香りに包まれる日が楽しみで仕方なかった。






END






あとがき
37巻の巻末にあった骸がいい匂いの石鹸やシャンプーを使っているという事実にすごく萌えてしまったので、短い駄文ですが書いてみました。確かに骸は、すごくいい匂がすると思います!そして骸だけでなく、白蘭もきっといい匂いしますよね^^

背景がログアウトで残念な感じですが、読んで下さいましてありがとうございました!

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