[携帯モード] [URL送信]
見つめる瞳のその先に 3(完結)
今日も骸は社長室で、手帳に視線を走らせつつ、白蘭に1日の予定を伝えていた。白蘭も楽しそうな顔で骸の話を聞いている。骸は手帳からそっと視線を外し、チラリと白蘭を見る。ふわふわとした彼の髪が目に入って、骸はこの前のことを思い出してしまった。白蘭の髪の感触が蘇りそうになり、骸はこのままでは仕事どころではなくなってしまうと、自分の心を押し隠すように手帳を閉じた。



「僕、いつも思ってるんだけど…」

「はい、何でしょうか、社長。」


白蘭は不意に革張りの椅子から立ち上がると、ゆっくりと骸に近付いた。すぐ目の前に優しく微笑む白蘭が居て、鼓動が速くなる。


「骸君は僕の為に、本当に良く頑張ってくれてるなって。骸君が支えてくれるから、僕も楽しく仕事ができるんだよ。…本当にありがとう。」


あまりに突然のことに骸は息が止まるかと思った。白蘭が腕を伸ばして、骸の頭を愛おしむように撫でたからだ。骸君は本当にいい子だね、そう呟きながら白蘭が優しい手つきで骸の髪に触れる。あぁ、ずっとこのままで居たいのにと骸は強く思ったが、ほどなくして白蘭の手は離れてしまった。


白蘭に名残惜しさを感じながらも、恥ずかしさや嬉しさで大変なことになっている顔を見られないようにお辞儀で誤魔化して、骸は急いで社長室を出た。


白蘭が頭を撫でて褒めてくれた。こんなことは初めてだった。泣きそうになるほど嬉しかった。自分だけが、白蘭にとって特別な存在のように感じられて。特別だと思うことを許されたような気がして。だがそう思うほど、胸に切なさが広がる。白蘭に、あなたが好きなのだと告げてしまいたくなる。



様々な感情で混乱しそうになるのを骸は頭を振って無理矢理落ち着かせると、今は白蘭に喜んでもらう為にも仕事だと、自分の心を奮い立たせた。


*****
それから数日後。白蘭に昼食と食後のデザートを運んだ骸は、自分も昼食にしようと社員食堂へと向かった。昼休みも終わって随分と過ぎていたので、食堂の中はそれほど人は多くなかった。骸はパスタとサラダのセットを選ぶと、ロビーが良く見える窓側の席に腰掛けて、いつもより遅い昼食を取り始めた。





何気なくふと窓の向こうを見ると、白蘭がロビーを歩いてくる姿が見えた。確か今日は、午後から懇意にしている会社へ訪問することになっていたはずだ。本来は白蘭を玄関まで見送らねばならない立場なのだが、仕事が立て込んでしまって昼食を食べそびれていた自分に、僕のことはいいからお昼食べてきて、と気遣ってくれたのだった。


後でもう1度きちんとお礼を言おう。そう考えて骸は再び食事を再開しようとしたが、フォークを持つ手は止まり、視線が白蘭に釘付けになっていた。


書類を手にした1人の女子社員が白蘭に近付いて、彼と話をしていた。白蘭は社員に分け隔てなく接し、自分に遠慮することなくいつでもどんどん話し掛けてくるようにと、オープンな態度を取っている。今、書類を熱心に説明している彼女も、多分良い企画を思い付いて、すぐにでも社長に見せたくなってしまったのだろう。こんな光景は、この会社では良くあることなのだ。白蘭が楽しそうに女子社員と話している姿に、どんなに胸が痛んでも割り切らなければならない。


そのまま真剣に女子社員の話を聞いていた白蘭は、会社を出なければならない時間が迫っていたからか、話を切り上げて歩き出そうとした。そして別れ際に彼女の頭に軽く手を置いて微笑むと、玄関へと向かった。


見たくなかった。自分ではない誰かに優しくする白蘭など、見たくはなかった。胸がズキズキと痛んで、息をすることすら辛かった。


自分だけではなかったのだ。骸は自分の思い上がりに笑いたくなった。優しい瞳で見つめられて頭を撫でられて、もしかしたら自分は彼の特別になれるかもしれないと勘違いしていた。考えてみれば、白蘭は社員に優しい。自分も白蘭の「秘書」に過ぎないのだ。


「僕、何を勝手に勘違いしていたのでしょう。…ただの秘書でしかないのに。」


小さく小さく呟かれた言葉は悲しみに満ちていて、骸はきつく目を閉じた。



*****
白蘭から頼まれていた書類を提出する為に、骸は社長室の前に立っていた。だが目の前の扉を開けたくなかった。昼間、見たくもなかったのに見てしまった光景が頭の中をぐるぐると駆け巡っていて、気持ちがこれ以上ないほどまでに沈んでいた。このままの状態で白蘭に会えば、確実に心は悲鳴を上げるだろう。でもだからといって仕事を放り投げて良いことにはならない。骸は小さく息を吐くと、いつもの表情を顔に貼り付けて、社長室に足を踏み入れた。


「社長、先ほどの訪問はお疲れ様でした。お疲れでございましょうが、書類ができましたので持参致しました。」


震えそうになる声に鞭打って、いつも通りに白蘭に書類を手渡す。白蘭もいつも通りに骸から書類を受け取り、簡単に目を通している。大丈夫だ。不自然な所などない。


「忙しいのにありがとう、骸君。僕は大丈夫だけど、骸君の方が何だか疲れているように見えるよ…大丈夫?僕、心配だよ。」


無理しちゃ駄目だよ。そう言って白蘭が包み込むように骸の手を握った。だが骸は、その手を拒絶するように振りほどいていた。白蘭が少しだけ傷付いたような顔をした気がしたが、骸は構っていられなかった。せっかく作った表情も動揺で崩れ落ち、苦しさに耐えられないという顔で、骸は絞り出すような声を出した。


「これ以上、僕を苦しめないで…下さい。」

「骸君、僕は…」

「…社長、あなたを…好きになればなるほど、辛いんです。…だからこれ以上…」

「……僕だって…僕もそうだよ。骸君が…ずっと君のことが、好きだった。初めて君を見た日からずっと。」


白蘭が耳元で熱く囁く。気が付けば、骸は白蘭の腕の中に居た。彼の言葉が俄かに信じられなくて、けれども自分を強く抱き締めてくる腕の温もりは確かなもので。


「社長、本当に…本当に僕のことを?」

「うん、僕は骸君が大好きで愛してる。それから、骸君…僕のことは社長じゃなくて、白蘭って呼んで欲しいんだけどな。…もう僕達は恋人でしょ?」


骸を抱き締めたまま、白蘭が甘い声で骸にねだる。そんなこと突然言われても無理に決まっている。たった今、自分の想いが通じたばかりなのに。骸は恥ずかしさで白蘭の胸に顔を埋めていたが、観念したように白蘭を見た。


「社長、名前で呼ぶのは…まだ、その…抵抗が…」

「社長呼びはだ〜め。白蘭って呼んで。」

「……白、蘭。」


骸は小さな声で呟いた。だが白蘭に対する想いをたくさん込めて。僕、すっごく嬉しいよ。今までで1番幸せだよ。白蘭はそう言って輝く笑顔を見せた。幸せで堪らないと笑う白蘭に、骸の心も幸せな気持ちで溢れていた。



*****
それから数日後の昼下がり。骸はこの後急に入った会合の予定を知らせる為に社長室を訪れていた。だが骸は今、白蘭の膝の上に跨るように座っている。予定を伝えていたら、隙をつかれて白蘭に腕を引っ張られ、彼の膝の上に座らされてしまった訳だ。骸にこんなことをした張本人は、骸を離さないとでもいうようにその体を抱き締めて、骸の長い髪を指で梳くように触っている。



「社長、もうすぐ会合の時間ですよ。こんなことをしている場合ではないと思うのですが。」

「だって〜、両思いって分かったら、我慢してた分、骸君に触りたくて仕方ないんだもん。いいでしょ?」


白蘭はニコリと笑うと、これキスする時に邪魔だから取っちゃうね、と言って骸が掛けているシルバーのフレームの眼鏡を外した。そしてそのまま骸の頬に手を添えると、味わうように口付ける。骸が白蘭の口付けの甘さに酔っていると、骸の腰に回したのとは反対の方の手で、白蘭が器用に骸のネクタイを緩めた。はらりとネクタイが床に落ちる。躊躇うように肩を震わせた骸を優しく抱き締め、白蘭はそのまま指を動かして骸のシャツの襟元のボタンを外すと、露わになった透けるような白い首筋をきつく吸った。


「…骸君は、有能な僕の秘書だけど、それと同時に大切で可愛い僕の恋人だから、誰にも渡さない僕だけのものだっていう証。」

「…っ、」


ふふっと笑う白蘭に何も言えず、頬の熱さを感じながら、骸は首筋をそっと触った。まだそこには白蘭の唇の熱が僅かに残っていた。どうして彼はこんなにも自分を煽るのだろう。


「…会合までは、まだあと少しだけありましたね、白蘭。」


骸は小さく笑うと、白蘭に体を寄せて自分から口付けた。骸から口付けてきたことに驚いて赤くなった白蘭にもう1度綺麗に微笑むと、骸は愛しい恋人の首にそっとその腕を回した。






END






あとがき
このお話は、藍琉様から頂いた骸の片思いからの社長×秘書パラレルのリクエストを元に書かせて頂いたものです^^私の文章力だとこんな感じになってしまってすみません(>_<)どこか少しでも気に入って下さる所があれば、嬉しい限りです♪


それにしてもオフィスラブって良い響きですよねo(^▽^)oおふぃすらぶ。最高です!白骸の2人は本当にスーツが似合うと思います(^^)断言できます!個人的に白蘭はいつもの白スーツで、骸はグレーのスーツのイメージで書きました。骸の眼鏡は趣味です(*^^*)仕事中だけ掛ける設定です♪


頂いた設定を忘れないように書いていたのですが、色々自分の好きなようになってしまって申し訳ないです(^^;)


本当に素敵なリクエストをありがとうございました(*´∀`*)

[*前へ][次へ#]

54/123ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!