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君を迎えに来たよ♪
キーノ様から頂きました40000HITリクエストです

『君が大好きだよ♪』のその後の2人です




ずっとずっと待っている。愛しい人が迎えに来てくれるその日まで。


ずっとずっと待っていられる。必ず迎えに来ると笑顔で約束してくれたのだから。


『君を迎えに行くよ。』

『待っていてあげますよ。』


青い空の下で抱き締め合って共に交わした小さな、けれども何よりも大切な約束は、あの日からずっと自分の心の支えだった。愛おしいものだった。その約束があったから、遠く離れていても生きていけた。いつでも繋がっていると感じられた。


ずっとずっと待っている。ずっとずっと待っていられる。いつか来るであろう、その日まで。


だから、どうか早く早く迎えに来て欲しい。



*****
「…必ず迎えに行くから待ってて、でしたね。」

人は、いつまで約束を覚えていられるのだろう。人は、いつまで待ち続けることができるのだろう。骸は読んでいた本を静かに閉じると、窓の向こう側の空を見上げた。あの日と同じ色が骸の両の瞳に映り込む。空の青さは月日が流れても何ら変わることはないのに、自分は随分と変わってしまったと、骸はガラス窓に映る自身に目を向けた。後ろで纏めた髪は腰の長さにまで伸びており、顔や体つきも成人を迎えて数年経った今ではもう10代の頃とは違っていた。成長した自分を見て、彼は酷く驚くのだろうか。骸は一瞬そんな風に考えたが、彼も自分と同じように別の未来の記憶を持っていたことを思い出して、小さく首を振った。


「ずっと待っていられると思っていたのですがね。」


いつからだろう、待ち続けることがこんなにも苦しくなったのは。こんなにも不安になったのは。白蘭はあの日の約束を今でも覚えてくれているのだろうか。いつ迎えに来てくれるのだろうか。どうして愛しい姿を早く見せてくれないのだろうか。気が付けば、ただそのことばかりを考えるようになっていた。いつからだろう、こんなにも弱くなってしまったのは。10年前の自分はそうではなかった。ずっとずっと待っていると笑って頷いたはずだったのに。骸は窓から視線を外すと、切なさに耐えるようにきつく眉を寄せた。今の自分は何とも情けない顔をしているのだろう。骸は己の不甲斐なさに笑い出してしまいそうだった。こんな気持ちになってしまえば本の続きを読む気にもなれず、骸はソファーにその身を沈めた。今の現実から逃れるように瞼を閉じてみても、白い翼が残像のようにちらついて、ただ苦しいだけだった。何故今日は馬鹿みたいにこうも白蘭のことばかり考えてしまうのだろう。陽だまりのように温かい彼にただ会いたくて堪らないのだろう。骸はゆっくりと目を開けると、ガラスの向こうの晴れ渡った空を再び見つめた。


「…僕も大概ですね。」


今日の空が、10年前のあの日と同じ色をしていて。白蘭に抱き締められた時に見上げた空と同じ青さで。だから、彼を強く思い出してしまった。強く焦がれてしまったのだ。骸は自嘲気味に口元を緩めた。白蘭には知らせていないが、骸は現在彼が住んでいる国、イタリアに居る。会おうと思えば会える距離だ。不可能ではない。けれども骸は怖かった。不安だった。白蘭は今も変わらず約束を覚えてくれているのだろうか。そう考えたら再会することが怖くなっていた。白蘭は真剣な瞳で骸を見つめ、必ず迎えに行くと言ってくれたが、この日に迎えに来るとはっきりと日付を指定した訳ではなかった。勿論10年前の骸は、それで構わなかった。いつまでも白蘭を待ち続けられる自信があったからだ。そうして骸は心の奥に白蘭への想いを抱えて、お互いに会うこともなく今まで過ごしてきた。過ごしてこれた。けれども。10年の月日が流れて、骸はいつしか思うようになっていた。白蘭は約束を忘れてしまったのではないだろうかと。自分だけが今もあの日の約束を覚えているのではないだろうかと。白蘭から全く音沙汰のないあまりにも静か過ぎる日々。骸は皆の前では常に平静を保っていたが、本当は不安で押し潰されてしまいそうだった。お互いに進むべき道があるのだから、手紙や連絡は要らないと強がらなければ良かったのかもしれない。けれどもそんな風に言ってしまった以上、こちらから連絡することは今さらのような気がしてどうしても躊躇われたのだ。それなのに今こんなにも白蘭への想いが溢れ出してしまいそうで。想いは募るばかりなのに、骸は白蘭へと続く道を自分から踏み出すことはできなかった。


「白蘭…」


どうして今、彼は隣に居ないのだろう。10年待ち続けた。けれどももうこれ以上は無理なのかもしれない。骸はそう思うようになっていた。白蘭への愛は雪のように静かに降り積もっていたが、白蘭も自分と同じだけの愛を忘れずにいてくれたのだろうかと確かめることが怖くなっていた。白蘭が好きで堪らないからこそだ。だからこそ、10年の歳月は骸にとっては大きな物になっていた。


「白蘭。」


待ち続けることがこれほど切なくて、苦しい胸の痛みを伴うものなのだと骸は初めて思い知ることになった。目に焼き付いている眩しいまでの青とその時に見た白蘭の笑顔をこれ以上思い出したくはなくて、骸は顔を背けるように目を閉じた。それでもどうしても瞼の裏から愛しい人は消えてはくれなくて。自分はこれからも彼を待ち続けることができるのだろうか。骸は軋むような胸の痛みを感じながら、音のない静かな部屋の中で強く強く唇を噛み締めるしかなかった。



*****
10年前。春を過ぎた頃に白蘭を見送った。青葉の眩しさとそれに負けないくらいの元気な笑顔を骸は今でもはっきりと覚えていた。


『骸クン!これから当分君と離ればなれになっちゃうなんて、考えただけで僕、寂しくて死んじゃう!…うぅ、ぐすん…』

『まったく…あなたはウサギですか。それから、下手な嘘泣きはやめなさい。』

『えへへ、ばれてたか。……でもね、本当に寂しいんだよ。胸が苦しいんだよ。大好きな君との、お別れなんだから。』

『…別に、安心して良いですよ。待っていてあげますから。』

『うん!骸君、大好き♪』


絶対に迎えに行くからねと、笑顔で手を振る白蘭に骸は静かに頷いた。少しの間会えないだけなのだ。これがさよならという訳ではない。ちゃんと分かっている。彼のことを待ち続けられる。それでも愛しい人が遠くに行ってしまうことには変わりはなくて。骸は遠ざかる白蘭の背中をいつまでも見つめ続けたのだった。柔らかな木漏れ日の中、強くその心に刻み込むように。


9年前。骸は黒曜の街を拠点にしつつも仲間と共にヨーロッパを中心に海外を飛び回るようになっていた。自分達の活動の都合で同じ場所に長く留まらないだろうから、これからは手紙や連絡は必要ないことを白蘭に伝えた。白蘭は電話越しにそんなのやだよと駄々っ子のような声を上げたが、最終的には骸の意志を尊重して頷いてくれた。その時の骸は強く思っていたのだ。離れていても自分の心はいつも白蘭に寄り添っているのだと。だから寂しくなどないと信じて疑わなかったのだ。


5年前。骸の20歳の誕生日の日だった。長く帰っていなかった黒曜ランドに戻ってみたら、骸の誕生花であるスイートピーのブーケが届けられていた。贈り主の名前もメッセージもなかったが、白蘭からだとすぐに分かった。骸は嬉しさにじわりと胸が熱くなって、どうしようもないくらいの幸福を感じたのだ。離れていてもやはり自分達はお互いを想い合っているのだと。だが振り返ってみれば、約束を交わして別れた後の白蘭からの誕生日の贈り物は、実はこれが最初で最後だった。


2年前。骸はミルフィオーレファミリーが大々的なパーティーを開催したと風の噂で聞いた。恐らく大学を卒業した白蘭が本格的にファミリーの運営を担うことを内外に知らせる為の物だったのだろう。骸は遠く離れた地に居たが、ユニの隣で微笑む白蘭を写真で見た。成長した彼は想像以上に凛々しく、そして悔しいほどに格好良くなっていた。写真越しの白蘭に触れて、改めて彼が好きだと思った。だが骸はそれと同時に気付いてしまったのだ。今の白蘭は自分以外のたくさんの人間に囲まれて、本当に楽しそうに笑っているのだと。そんなことは気付きたくはなかったのに。それからだ。それからだったのだ。その日を境に骸の心はじわじわと不安に蝕まれていき、白蘭を待ち続ける自信がなくなってしまった。もう随分と白蘭に会っていない心の寂しさは耐え難い苦痛となり、骸を苛むようになっていた。


北イタリアの都市部から遠く離れた小さな街。骸はその街の片隅に1年ほど前から住んでいた。ヨーロッパに広がる骸の活動拠点の1つであり、仕事で身を隠しながら情報収集するのにはうってつけだったのだ。だがこの頃の骸は、別の国に行くべきだと考えるようになっていた。白蘭のことを強く心に描いて、けれどもそのせいで引き裂かれるような、拭い去ることのできない胸の痛みを感じている今の状況が馬鹿みたいだと思えたからだ。仕事柄同じ所に長く留まるべきではなかったのだ、ましてや白蘭が居る場所になど。今さらそう思ってみても、結局の所はずるずると1年近くもイタリアに住んでしまっていた。だからもう決めなければならないのだ。骸の決断を促すつもりではないだろうが、骸の側を離れてヴァリアーの一員となっていたフランからちょうど数日前に連絡があった。任務でフランスに居るから、暇だったら会いに来ないかと。これはそろそろ潮時ということなのだろうか。そう思えるほどには骸はどうすれば良いのか、自分でも最早分からなくなっていた。それでもただ1つだけはっきりと分かっていることは、いつの間にか待ち続けることに疲れてしまった弱く脆い自分という存在だった。



*****
午前中の時間を使って市場で買い物をした骸は、午後になって家に帰って来るなり、リビングのソファーに座ってぼんやりとしていた。昨日部屋を綺麗に片付け、いつでもすぐに出て行けるように荷物もまとめた。もうこのまま白蘭に会うこともなく、遠くに行ってしまいましょうか。骸は心の中で静かに呟いてみたが、それは不可能なことなど自分自身が一番良く分かっていた。あの笑顔から離れられるはずがないではないか。ずっと傍らに居たいに決まっているではないか。心にもないことを考えてしまえば、ただ悲しさが増すだけなのに。深い思考の海に溺れ掛けていた骸の耳に不意に玄関のドアをノックする音が届き、骸は弾かれたように意識を外に向けた。


「誰でしょうか…?」


骸は隣近所とそれなりに交流はあったが、仕事上、家に訪ねて来るほど親しい付き合いはしていなかった。だからこうして昼間から訪ねて来る人物に心当たりはなかった。だがそのまま無視する訳にもいかず、骸は白蘭の笑顔を無理矢理瞼の奥から消し去ると、玄関へと向かった。そして外に居る来客を待たせてはいけないと急いでドアを開けた。


「っ、」


赤い薔薇が骸の視界一杯に広がり、その深紅に隠れるようにして紫がかった白い髪が見えた。


「迎えに来たよ、骸君。」

「びゃく、ら…」


白蘭が目の前に居ることが俄かに信じられず、骸は肩を震わせながらその場に立ち尽くしていた。白いスーツを身に纏った白蘭は記憶の中の彼と全く同じ端正で大人びた顔をしていたけれども、今の骸が愛してやまない彼だった。


「どうして、ここが…」

「それは勿論愛の力とか愛の力とか愛の力とか、あとは僕の財力?」

「白…蘭…」

「骸君、君がどこに居たとしても、僕なら絶対に見つけられるに決まってるでしょ♪」


ああ、やはり会えてこんなにも嬉しい。どうしてもっと早く迎えに来なかったのですか。ずっと苦しかったのに。あの日の約束をちゃんと覚えていてくれたのですね。言いたいことはたくさんたくさんあったはずなのに。白蘭を目の前にした途端、想いが溢れて止まらなくなり、骸は何も言葉にすることができなかった。


「…来るのが、遅いですよ。」

「ごめんね、骸君。骸君に相応しいって胸を張れる完璧な男になってから、君を迎えに行こうと思ったんだ。いつもいつも会いたくて堪らなかったけど、僕、頑張ったんだよ。…それにね、君を迎えに行くなら、今日にしようってずっと前から決めてたんだ。」

「今日、は…」


白蘭の言葉に骸も今日が自分達にとってどのような意味を持つ日であるのかを思い出した。白蘭が骸を迎えに来た今日この日は、もう訪れることのない未来で2人が初めて戦った日だった。白蘭に三叉槍を折られ、右目を抉られて敗北した日。自分ではない自分と彼ではない彼の初めての邂逅。その時の記憶があったから、再び自分達が繋がることができた大切な日。今日がその日だったのだ。白蘭は骸の反応を見て、嬉しそうにふふっと笑った。


「だから今日、迎えに来たんだ。僕達は今日からまた始まるんだよ、骸君。」

「あなたは、」

「骸君?」

「あなたは大馬鹿です。…僕を、不安にさせて。」


こんなにも自分を振り回して離さないのはこれから先も彼だけだと、骸は思った。彼だけ、なのだ。


「本当に、馬鹿です。」

「骸くん…」


ごめんね、ごめんね、骸くんと耳元で何度も何度も謝りながらぎゅうぎゅうと抱き締めてくる腕の強さは、10年前と何ら変わっていなくて。骸は白蘭がくれる心地良い安らぎに酷く安心できた。心が満たされて、ただ幸せだった。


「こんな花束程度で許してやるものですか。」

「骸君っ…」


白蘭が10年前と全く変わずに骸を好きでいたのと同じように、なかなか素直になれない骸の性格はそう簡単には変わってはいなくて。けれども、今は白蘭との幸せな未来を素直に喜べる。嬉しくて、泣きそうになるほどに幸福な気持ちで。だから。骸は手渡された花束を見つめると、白蘭にそっと微笑んだ。


「許してあげません。ですから、あなたはもう二度と僕から離れないで下さい。」

「骸君!」

「いいですね?」

「誓うよ、骸君。」


嬉しさに今にも泣き出してしまいそうな真っ赤な顔で白蘭は大きく頷くと、ふわりと花のように笑った。その笑顔があまりにも綺麗で。骸は思わず見とれてしまっていた。骸は白蘭の笑顔に目を奪われていたが、伸ばされた腕に体を引き寄せられ、そのまま優しく口付けられた。白蘭の想いに応えるように背中に腕を回して、骸は白蘭と自分が歩む新しい未来に思いを馳せた。


「骸君、ずっとずっと愛している。」

「僕も、同じ気持ちですよ。」


2人の誓いの口付けは、甘い甘い幸せの味がした。






END






あとがき
キーノ様のリクエストで『君が大好きだよ♪』の続編を書かせて頂きました。10年後に白蘭が迎えに来たお話です。これで本当に2人は幸せになったということですね(*´`*)


私が書く骸は乙女が通常運転で申し訳ないのですが、どこか少しでも気に入って頂けた所があれば幸せです。


キーノ様、この度は素敵なリクエストを本当にありがとうございました!

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あきゅろす。
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