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君を見ると元気になるよ♪
原作寄りの現代の2人です
色々無理矢理設定です
前作の続きに本誌の展開をねじ込みまして、白蘭だけが負傷して骸がお見舞いに行っています;




ほんの少しの時間であろうと、会うならば今しかない。骸は幻術を解いてとある部屋の前に音もなく現れると、目の前の木製のドアを静かに開けた。先ほど入江正一と真6弔花のデイジーがこの部屋から出て来るのを見たばかりであるので、もうしばらくの間は戻って来ないはずだ。骸は小さく頷くと、そっとドアを閉めて部屋の中へと進んだ。


「白蘭…」


窓際に置かれた天蓋付きの大きなベッドの中で白蘭は静かに目を閉じていた。上質な掛け布団から覗く手や腕には包帯が幾重にも巻かれ、顔にも大きなガーゼが貼られている。多分見えない場所にもたくさんの怪我があって、同じように包帯が巻かれているはずだ。目の前の白蘭の痛々しい姿に胸がきりきりと痛んで、ただ苦しくて仕方なかった。代われるものなら今すぐにでも代わってあげたいのに。骸はベッドの脇に移動すると、先ほどまで行われたのであろう治療のおかげで随分と穏やかそうになっている寝顔を見つめた。



*****
自分の目的の為に代理戦争を生き残って、さらに新たな楽しみの1つとなった白蘭との戦いを続けるには他のチームの動向もある程度は把握しておかなければならない。そう考えた骸は白蘭と別れて黒曜ランドに戻った翌日、戦闘時間中に小さな弟子を偵察に向かわせた。フランは小生意気な性格でその扱いにはほとほと手を焼いているが、幻術の腕だけは申し分ない。だからこそ身を潜めて行う偵察には自分以外には彼が適任であった。師匠に偵察を命じられ思い切り嫌そうな顔をして出て行った弟子は、しばらく経った後に珍しく神妙な顔付きで帰って来た。今日はどのチームとも戦わず時間一杯逃げ続けようと考えていた骸は、そのまま黒曜ランドに残っていた。戻って来たフランから報告を受けようと出迎えると、彼は骸の頬に視線を向けて何やら言いにくそうな表情を見せた。骸の白い頬にはまだ白蘭からの絆創膏が貼られていて。傷が治っていないことを建て前にこのようなふざけた絆創膏を貼り続けていることに呆れているのかもしれない。周囲を見張らせている犬や千種達も驚いた顔をしていたのだから。この絆創膏のことは気にしなくて良いですよ。特に意味などありませんから。そう言って何でもないのだと笑ってみせたが、仲間達はどう考えても腑に落ちないままだろう。骸だって何をやっているのかと自分に呆れてはいる。少し前までの自分ならば、こんなことをするなど絶対に考えられないからだ。だが骸は、もう自分の中に生まれた気持ちをしっかりと見つめることにしたのだ。偽りたくないと決めたのだ。白蘭への想いを育んでいこうと。だからこそ今日くらいまではこの大切な絆創膏を貼っていようと思った。僕が好きでやっているのですから、おチビさんは黙っていなさい。そう言おうと骸が口を開くより先に、フランがゆっくりと言葉を発した。


「…師匠、あのーすごく言いにくいんですけどー、師匠が貼ってる絆創膏のチーム、どうやら負けちゃったみたいですー。…師匠のお気に入りの彼、酷い怪我しちゃったようで…」

「…っ、白蘭が…怪我を!?それにミルフィオーレが、敗退…」


昨晩の自分に向けられた嬉しそうな白蘭の笑顔が頭の中に浮かんで消えた。一緒に話をした時の自分達を包んでいた優しい空気。抱き締められた時に感じた吐息と温もり。それが赤い色で塗り潰されていく。白蘭の血の色で。実際に白蘭が負傷する場面を見た訳でもないのに、純白の翼を血に染めながら静かに落ちていく白蘭が瞼の裏に映り込んだ。全身が冷たくなり、額に冷や汗が浮かびそうになる。怪我の具合はどうなのだろうか。ちゃんと意識はあるのか。今も怪我の痛みに耐えているのだろうか。白蘭のことが心配で堪らず、骸の頭は混乱して何も考えられなくなりそうだった。


「師匠、落ち着いて下さいー、すっごく怖い顔になってますー。せっかくの綺麗な顔が台無しですよー。…顔しか取り柄がないのに。」

「…フラ、ン。」


大きなリンゴの被り物が目に入り、次いでつぶらな瞳がまっすぐに骸を見つめた。ゆっくりと気持ちが落ち着いていき、骸は小さく息を吐いた。小さな弟子の皮肉に助けられるなんて少しばかり癪だったので、余計なお世話ですよと目の前の頭を小突いた。心配してあげたのにと、ぐちぐち文句を言いながら自分の部屋に戻って行くフランを横目で見ながら、骸は白蘭の様子を見に行こうと決めた。ここでただ何もしないで白蘭のことを心配し続けていても意味がない。少しの時間で構わないから白蘭に会いたい。会いたくて堪らない。戦闘時間外に白蘭に会う訳であるので必然的にミルフィオーレファミリーの屋敷に潜入することになるが、様々なスキルを持つ自分ならば問題ない。骸は窓辺まで歩くと、空を見上げて白蘭を想った。大空のような笑顔をくれる彼のことを。



*****
包帯やガーゼは怪我の酷さを物語ってはいたが、白蘭は骸の思っていた以上に顔色も良く、怪我の痛みに悩まされることもなく静かに眠っていた。本当に良かった。本当に。骸の心の中はただそれだけだった。白蘭の顔が見られたのだから、もうそれだけで十分だ。骸がベッドから離れようとしたその瞬間、眠っていたはずの白蘭がパチリと目を開けてこちらを見た。藤色の瞳が驚きに見開かれ、少し高めの声が2人だけの部屋に響いた。


「嘘!?やっぱり、むくろく…」


今ここで大きな声を出されては困る。骸は素早く白蘭の口元に手を当てた。骸の手によって口を塞がれたことに白蘭は目を白黒させていたが、静かにしなさいと骸が小声で囁くと、大人しくうんと頷いた。骸が手袋をはめた手をゆっくりと離すと、白蘭は少しだけ顔をしかめながらベッドから半身を起こしてじっと骸を見つめた。


「骸君…」

「白蘭…」


怪我を負って養生の為に眠る白蘭を起こす訳にはいかないと思って、完璧に気配は殺していたはずなのに。やっぱり骸君だったと、白蘭は嬉しそうな顔をした。どんなに隠そうとしても彼には自分の気配が分かってしまうのかもしれない。骸の中にある未来の記憶の中の白蘭もそうだったのだから。いつかのある日。部屋の中でうたた寝をしてしまった白蘭に体が冷えないようにと、未来の自分はすやすやと眠る白蘭を起こさないようにブランケットを手に持ってそっと近付いたことがあった。ぐっすりと眠っていたはずだったのに白蘭は突然目を覚ますと、幸せそうな顔をしてこっちの方がずっと温かいからと骸を優しく抱き締めたのだ。いつもそうだった。白蘭は骸の気配に敏感で、骸が近くに居るとすぐに分かってしまう。大好きな骸君の気配がしたら、眠気なんてどこかに吹き飛んじゃってそのまま抱き締めるに決まってるでしょ。そんな風に未来の彼は笑っていた。遠い未来の記憶を再び心の中にしまい込むと、骸も白蘭を見つめ返した。白蘭は骸の視線を嬉しそうに受け止めたが、すぐに眉根を寄せて困ったように笑った。

「…ごめんね、骸君。僕、負けちゃった。」

「白、蘭。」

「僕さ、どうしても…ユニちゃんの心を守りたかったんだ。」


白蘭が小さな声で呟いた。骸に向けられる藤色の瞳は真剣そのものであり。白蘭がユニを守ろうとしたことにはちゃんと意味があるのだと思えた。だからユニを守って白蘭が酷い怪我を負ったとしても、ユニを責める気持ちなど微塵もありはしなかったし、白蘭に対しても何故そのような無茶なことをしたのだと詰め寄る気もなかった。骸はそうですかと頷くと、白蘭にそっと微笑んだ。


「白蘭、あなたがユニを守ろうとしたこと…あなたの中で何かしら思うことがあって、そのようなことをしたのでしょう?でしたら僕は、別に構いません。…あなたのことは信じても良いと思っていますから。」

「骸君…うん、ありがとう。…ユニちゃんはね、僕達にとってすごくすごく大切な人なんだよ。」


一旦言葉を切ると、白蘭はベッドの中から骸を見上げた。キラキラと輝く瞳の中に制服姿の骸が映り込む。白蘭が今から大切なことを語り掛けようとしていることが分かって、自然と骸の背筋が伸びた。


「…これは多分、僕しか持ってない記憶だと思うんだけどね、戦いの後、未来の僕はずっと覚めない悪夢の中でひとりぼっちだったんだ。僕の周りには誰も居なくて、大切な人が居たことさえもすっかり忘れてしまって。ほんと何もかもどうでも良くなってさ、ず〜っとこのままだと思ったんだ。」


白蘭だけが持つその時の記憶が彼の中で蘇ったのか、ベッドの中の体が小さく震えた。骸は声を掛けようとしたが、白蘭は大丈夫だよと小さく笑った。


「ずっとひとりぼっちだと思ったんだ。…けどね、気が付いたらいつの間にか僕の隣にユニちゃんが居たんだ。孤独で悲しかった僕の側に居てくれた。そしてね、彼女は笑って僕に言ったんだ。『あなたの大切な人を1人にしては駄目です』って。早く行って抱き締めてあげてと僕の背中を押してくれた。…だから多分、どこかの未来で僕は骸君の隣で幸せそうに笑ってると思うんだ。それに未来の僕だけじゃない。今の僕だってそうなんだよ。ユニちゃんが未来の記憶をくれたから、骸君に会いに行こうって思えた。…勿論実際に骸君に会って、骸君に触れたから君が大好きなんだって強く思ったけどね、ユニちゃんがきっかけをくれたのも確かなんだ。だから僕は、僕達を結び付けてくれたユニちゃんを守ろうと思ったんだよ。」

「白、蘭。」

「…でも、もう骸君と戦えなくなっちゃった。もっともっと一緒に居たかったのに。ユニちゃんはさ、そりゃあ大切な子だけど、それ以上に骸君の方がもっともっと大切で愛しい人なのに。…ユニちゃんを守ったことは後悔はしてないけど、大好きな骸君と、もう…」


すごく残念だよ。悲しみに耐えるようにシーツを強く握り締める白蘭の手が骸の視界に広がる。代理戦争で使用する腕時計を守ろうとしたせいか、白蘭の右手は包帯が何重にも巻かれ、包帯の先から覗く指先は傷だらけだった。骸は腕を伸ばすと、シーツを握っていた白蘭の右手をそっと掴んだ。突然のことにどうしたのと訝しむ白蘭の視線を感じたが、骸は黙ったままもう片方の手を制服のポケットの中に入れた。そしてポケットから絆創膏を取り出すと、特に傷が酷かった白蘭の右手の人差し指に巻いた。白蘭は右手の人差し指に巻かれた絆創膏をまじまじと見つめた後、再び骸に視線を移した。


「早く傷が治りますようにと、僕の気持ちを…込めました。」

「……」

「…黙ったままでいるのは、やめなさい。…恥ずかしいではないですか。」

「骸君、すっごく嬉しいんだけどさ…せっかくなら僕があげたやつみたいに『骸クンLOVE』とか、それが駄目なら『僕の白蘭』とかでもいいから何か書いて欲しかったよ〜。そしたらお揃いになったのに。…まぁ、骸君はもう僕の絆創膏貼ってないけどさ。」

「生憎書く物を何も持ち合わせていなかったので。無理です。諦めて下さいね。」


絆創膏を貼ったのは骸の中では先日の感謝とお返しのつもりだったが、さすがに気恥ずかしくて何も書くことはしなかった。白蘭はざんね〜んと口を尖らせたが、その瞳にははっきりと嬉しそうな色が浮かび、視線は骸が貼った絆創膏に注がれていた。


「…白蘭、あなたがユニを助けたことは正しかったと思いますよ。」

「骸君…」


ユニは未来でも、そして今現在でも僕と白蘭を繋いでくれたということなのでしょう?それならばあなたのしたことは間違いではありませんよ。ですがやはり、あなたと戦えなくなってしまったのは僕も残念です。骸は心の中で呟くと、屈み込むようにして白蘭と視線を合わせた。


「白蘭、良いですか、今は怪我を治すことが最優先ですからね。何も考えずに当分の間、ゆっくり休むのですよ。」

「でも、僕、ずっと骸君に会えないのは…」

「僕に会えなくて寂しいと言うのでしたら…さっさと怪我を治して僕をまたあのファミリーレストランにでも連れて行けば良いではないですか。…だから今はその為にもしっかりと休んで下さい。」

「骸くん。」


白蘭は分かったよと頷いて、静かに骸の頬に触れた。白蘭から与えられる優しいまでの温もりにこのままいつまでも浸っていたかった。だが不意に部屋に近付いて来る複数の気配がして、骸は白蘭から距離を取った。多分入江正一達が再び白蘭の様子を見に来たのだろう。どうやら時間のようですねと呟くと、骸は静かに三叉槍を出現させ、何もない空間を切り裂いた。


「骸君、今日は僕に会いに来てくれて本当にありがとう。君の顔を見たら、もう元気になっちゃったよ♪」


ふわふわと笑う白蘭は、ベッドの中からまたねと手を振る。けれども白蘭が笑顔の裏で自分への名残惜しさを押し殺すのが分かってしまって、胸が締め付けられそうになった。自分だって同じだ。白蘭ともっと一緒に居たい。白蘭が大切だから。少しだけその想いを伝えたくなり、骸は白蘭に想いを込めて精一杯微笑んだ。するとすぐに綺麗な笑顔が返って来て。また会いましょうと別れを告げ、白蘭に背を向けるように空間の裂け目に足を掛けた骸の口元は、それは満足そうに綻んでいた。






END






あとがき
原作と〜以下略シリーズ第5弾です。これを書いている現在(2012年4月上旬)、本誌では復讐者が目的も分からないままに登場していますが、そこら辺は思い切り無視して好き勝手に書きました(´`)不定期更新で同時進行じゃなくなってしまってすみません;;


白蘭が怪我をした時、白骸大好きな方なら絶対に妄想したであろう骸のお見舞いを書いてみましたが、何の捻りもなくて…本当にすみません;とりあえず2人がいちゃいちゃしていればそれでいいと思います^^


読んで下さいまして、どうもありがとうございました!

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