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さよなら、またいつか 2(完結)
時間とは不思議なもので、幸せであったり楽しいとあっという間の僅かな時間に感じてしまう。だけど辛く苦しい時間は、それこそ永遠に続くのではないかと思わせる。



白蘭と別れて3週間が経った。まだ3週間であったが、僕には何年にも感じられるようだった。


だけど慣れとは恐ろしいもので、心は白蘭が居ないことをまだ全て受け入れることができた訳ではないのに、体はきちんと普段の生活をするようになっていた。きっといつか彼の居ない生活が、僕の当たり前の日常になる。



*****
買い物帰りに街を歩いていると、通りの向こうから見知った人物が歩いて来るのが目に入った。あれは確か…入江正一だ。僕は何度か白蘭を通して彼と面識があった。彼は白蘭の友人で、僕達が付き合った時も自分のことのように喜んでくれた人物だった。



「あ…六道サン。ちょうど良かったです。今から六道サンを訪ねようと思っていたので。」

「僕に何か用ですか?」

「はい、渡したい物がありまして…」


彼と話していたら、急に白蘭のことが知りたくなった。白蘭に別れを告げられてからは、電話もメールも一切していなかったのだ。


「あの…白蘭は、元気ですか?」


僕の言葉に彼の肩が跳ね、それからその顔がみるみる悲しそうに歪んでいった。



「白蘭サンは…白蘭サンは、2週間前に……亡くなりました。」




白蘭が死んだ…それは、もうこの世界のどこにも彼が居ないということ?


そんなこと、そんなこと…



「信じられません。何かの冗談では…」

「白蘭サンにはずっと口止めされてたんですけどね……白蘭サンは先天的な大きな病気を抱えてて、昔から長くは生きられないと言われていたそうです。それで、今までは薬や通院で病気の進行を抑えてたらしいんですが、最近になってまた…再発して。今度のは医者も手の施しようがなくて、少しでも延命できるように入院を勧められたんだそうです。でも白蘭サンはそれを断り続けました。六道サン、あなたと少しでも長く一緒に居たかったからだと思います。だけどそれも限界になって、入院したのですが、それから間もなくしない内に…」



目の前の彼の瞳にはうっすらと涙が溜まっていた。黙っていてすみませんでしたと謝った彼の泣き顔を見て、本当に白蘭の死が事実なのだと受け入れるしかなかった。


2週間前…僕に別れを告げてそうもしない内に、彼はこの世界にも別れを告げていたのだ。だけど白蘭が病魔に蝕まれていたことなど全く知らなかった。一緒に居ても、薬を飲む姿を1度も見てはいない。…僕に心配掛けまいとしていたのだろうか?


「六道サン、これ白蘭サンが生前まで書いていた日記です。彼には家族が居ないので、僕が代わりに色々と整理させてもらった時に見付けました。きっとあなたのことが書かれていると思うので、持っていて下さい。」


涙を拭いて笑った彼から手渡されたのは、白い革表紙のシンプルなデザインの日記帳だった。



*****
入江正一と別れてから気が付くと、僕は自分の部屋に居た。彼と別れてからどうやってここまで帰って来たのか、全く覚えていなかった。白蘭の死はそれほど僕にとっては衝撃的だった。



目の前にある日記帳を手に取る。これを読めば、きっとあの日別れを告げた白蘭の気持ちも分かるはずだ。どんなに願っても、もう彼に直接尋ねることはできないのだから。僕は思い切って日記帳を開いた。



彼の日記は僕に対する想いで溢れていた。僕と一緒に居るだけで幸せで、自分が病気であることも忘れてしまうのだと書かれていた。水族館や遊園地のこと、喧嘩したことや誕生日の思い出など僕と過ごした日々は、どれも大切な宝物なのだと。



読み進めていく内に、視界がぼやけてきたことに気付いた。もう泣かないはずだったのに。



ふと、あるページで手が止まった。そこには2人でプラネタリウムを見に行った日のことが書かれていた。あれはちょうど白蘭から別れを告げられる3日ほど前のことだった。白蘭との最後の楽しい思い出。だけどその時の彼との会話が印象的で、心のどこかに残っていた。




『最近体が思うように動かないし、発作の回数も増えている。もう薬じゃ抑えられない。僕もそろそろ限界みたいだ。でも骸君だけには知られないようにしないと。彼の辛そうな顔だけは、絶対に見たくないから。



プラネタリウムは本当に最高だった!星を見ていて思ったけど、僕は死んだら夜空の星になってずっと骸君の幸せを見守っていたいな。骸君の幸せを導ける星になりたいよ。』



白蘭とのプラネタリウムでの会話が鮮明に蘇った。暗い中だったので、彼の顔は良く見えなかったのだが、今までにない真剣な声で、僕はいつか星になってずっと骸君を照らし続けるよ、と告げたのだった。その時は彼の言葉に隠された深い意味までは分からなかった。でも今ならはっきり分かる。あの時点でもう白蘭は、自分の死を覚悟していたのだろう。



震える手で次のページを捲った。日付は彼が僕に別れを告げる前日のものだった。




『3日後に入院することになっちゃった。もう骸君の側に居られないのか。ずっとずっと君と一緒だと思っていたのに。離れるのはとっても辛い。心が泣いてるよ。だけど僕と居たら、骸君を悲しませることになる。僕が今死んじゃったら、きっと骸君は悲しい顔になる。それだけは嫌なんだ。僕は骸君にはいつも笑っていて欲しいから。だから骸君、僕は君の幸せの為に最後の嘘をつく。本当は違うよ、でも別に好きな人ができたって言って、君に別れを告げようと思う。骸君ならきっと僕と別れても新しい幸せをすぐに見付けられるから。僕の我が儘を許してね。』




白蘭は僕の為を思って別れを告げた…本当は誰か他に好きな人など居なくて。ただ僕を悲しませないことだけを考えていたのだ。白蘭と別れて新しい幸せを見付ければ、彼の死を知らなくて済むのだから。



あぁ、僕は馬鹿だ。彼の言葉に動揺して、自分を守る為に結局、彼を追い掛けなかった。もしあの時追い掛けていたならば、何かが変わっていた?


天地がひっくり返ったとしても、あの日に戻ることなどできない。だけど時間が巻き戻せるのならば、あのまま白蘭を追い掛けて無理矢理でも別れを撤回させて、そして最後には悲しくても笑顔で、彼を見送ることができたのかもしれないのに。考えてもあの日は戻ってはこない。だけどそう思わずにはいられなかった。



そのまま心を押し殺すように次のページに目を通す。それは僕と別れてからの入院中に書かれたものだった。今までは綺麗な文字で綴られていたのだが、ペンを握ることも辛かったのだろう、このページだけ文字が大きく乱れていた。




『骸君へ
これが最後の日記になると思う。


まずは君を傷付けたことを謝りたい。君の為を思ったとはいえ、一方的に別れを告げてしまったんだから。ただの言い訳だけど、あの時の僕はあれが1番だと思ったんだ。君と離れることで、君の幸せを守りたかったんだ。


それから僕が死んだら、僕のことは忘れて欲しい。僕のことなんか忘れて、君には新しい幸せを掴んで欲しい。僕は死んじゃってまで君を縛りたくはないから。これはきっと時間が解決してくれると願ってる。


そして本当に最後だけど、骸君、僕には今までもそしてこれからも、ずっと君だけだから。さっき忘れてねって書いたばかりだけど、僕には骸君だけだから。だからさ、もし僕達がいつか生まれ変わってどこかで会えたら、また君に恋していいかな?君の隣で今度こそずっと笑ってていいかな?僕はそう考えるだけで、死ぬことも怖くはないんだよ。


だから骸君、さようなら、またいつかーー』




ページはそれで最後だった。



「…当たり前じゃないですか。僕だって必ずあなたを見付けて、あなたに恋しますよ。あなたが嫌がっても、今度こそ死ぬまで側に居てやりますから。」



僕は涙を拭い、白蘭の日記帳をそっと閉じると、机の引き出しへと入れた。



*****
白蘭、僕はまだ少しの間は、あなたのことを忘れられないと思います。あなたは僕の1番でしたから。


だけどこの日記帳を読むことができたから、あなたの言っていたように、いつかきっと時がくれば、あなたとの幸せだった日々も大切な過去の思い出として受け止められるでしょう。



それから、これが最後ですが、僕が生まれ変わるまで向こうでちゃんと待ってて下さいね。



だから白蘭、さようなら、またいつかー―






END






あとがき
死ネタが苦手な方には、本当にすみませんでした。

私がただ好きなだけです。白骸でもやってしまいました(^^;)


白蘭も骸も、相手を想い過ぎて愛が重くなっちゃいましたね。だけどいつかまたどこかで、2人は幸せになるんですよ、白骸はそういう運命です(^∨^)


ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました(^^)

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