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君の色で世界は輝く 2
膠絵の具や岩絵の具、筆に和紙、陶磁器の筆洗などの画材が置かれた室内で、骸君は辺りを物珍しそうに見渡していた。



「ここはまだ綺麗な方だよ。洋画専攻の教室なんか、油絵の具が床に転がっててすごい有り様なんだから。」


僕の言葉にどれだけ汚い教室を想像したのか、骸君は綺麗な顔をひきつらせた。





僕と骸君の授業の都合で、毎週金曜日、講義が終わった夕方から数時間、骸君に来てもらうことになった。コンクールの締め切りまであと2ヶ月弱。骸君がここに来てくれるのはそれほど多くはないけど、何とかなると思っている。僕はどちらかといえば描くスピードは速い方だし、1度ノっちゃうと、どんどん描けてしまうタイプなんだよね。



僕はとりあえず骸君を椅子に座らせた。今日は初日だったから、まず骸君にはリラックスしてもらって、モデルに慣れてもらおうと考えていた。


「あの、僕…このままじっとしていれば良いんですよね?…こういうこと、初めてですから。」


僕が心配した通りに、少しだけ不安そうな瞳で骸君が尋ねてきた。


「大丈夫。普通に動いていいし、喋っても大丈夫だよ。まずはこのスケッチブックに骸君のデッサンを描いて、本番は向こうに置いてある和紙に描くから。」


簡単に言えば、下書きみたいなものだよ。僕が微笑むと、骸君は安心したような顔になった。


「じゃあ、今日からよろしくね。絶対いい絵を描くって約束するよ。」

「僕の方こそ、頼まれた以上あなたの力になれるように頑張りますよ。」


僕は骸君に頷くと、彼をまっすぐに見つめて手を動かし始めた。骸君が僕のすぐ目の前に居て、嫌でも気持ちが高揚する。僕の視線と骸君の視線が絡み合い、離れていくことが繰り返されていった。



*****
ふと窓の外を見ると、辺りはすっかり暗くなっていた。今日はもうこのくらいにしようと、僕はスケッチブックをカバンの中にしまい込むと、骸君に声を掛けた。


「骸君、今日はこのくらいにしよう。まだまだ時間はあるし、骸君も疲れたでしょ?」


僕の言葉にそうですね、分かりました、と骸君も帰る準備を始め、僕達は一緒に教室を出た。





僕は骸君と駅までの道を歩いた。駅に着くまでの間、僕は日本画の話、骸君はイタリア語の話をした。僕達はまだ会ったばかりで、お互いのことを詳しく知らなかったら、骸君が色々話してくれることがすごく嬉しかった。楽しそうにイタリア旅行の話をする骸君を、僕は愛しい想いで見つめた。1つに纏めた骸君の髪が、月明かりを浴びて青黒く光っていた。昼間とはまた違うその輝きに、僕は触れたくなる衝動をぐっと抑え込んだ。


僕と骸君は利用する電車の線が違うので、駅に着くと、その場で別れた。手を振る僕に、骸君はまた来週ですね、と小さく笑ってくれた。





骸君と別れて駅のホームに立っていた僕は、午後の講義での先生の話を思い出していた。僕は今回出品する絵は、人物画だと思っていたんだけど、どうやら人物を中心にしてあれば、目立たない程度に色々描き込んでもいいようで、僕の得意な花や蝶々も大丈夫らしい。先生の話を聞いて、今日改めて骸君を間近で見て。僕の中でぼんやりとだけど、イメージが膨らんでいた。


藍色。深い青でもいいかもしれないけど、これは絶対に外せない色かな。僕が初めて骸君を見て、惹かれたのが綺麗な彼の髪の色だったから。


そして白のオリエンタルリリー。凛として清涼な空気を纏う骸君を見てたら、この花が頭に浮かんだ。花言葉も「高貴」で、彼の持つ雰囲気に合ってると思う。


それからアオスジアゲハ。あの蝶々のラピスラズリみたいな羽の色ってすごく素敵だから、絵の中の骸君の髪に留まらせてあげればきっと似合うと思う。


まだ構図やデザインは全然決まってないけど、何となく描きたいものが見えてきたような気がした。骸君のことをもっともっと知って近くに感じれば、上手く描けそうだよ。


…君のことが好きだから、本当は毎日でも来て欲しいんだけどね。



骸君…僕の想いを絵に込めたら、完成した時にその想いを受け取ってはくれないかな?



課題とかコンクールの為なんかじゃなく、君の為に、君のことを想って描くから…

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あきゅろす。
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