隣り合わせの恋 4
窓の外に目をやると、いつの間にか雨が降っていた。
今日の天気予報は、晴れだったのに。傘なんて持って来ませんでしたよ。仕方ありませんね、バイトまでまだ時間もありますし。
雨足が弱まるまで僕は、大学の図書館で時間を潰すことにした。ちょうど課題のレポートの提出日も近かったので、ついでに仕上げてしまうことにしたのだった。
*****
集中していると時間なんてあっという間だ。レポートの終わりも見えてきたので、ちょっと休憩しようと本を閉じて目を休める。ぼんやりしようと思ったが、不意に彼の言葉を思い出した。
『今の僕ってアネモネみたいだなぁと思って。』
最近、少しだけ気になっていた。この言葉を聞いたのは、もう2週間以上も前なのに、僕の心のどこかに引っ掛かっていたようだ。あの時一瞬だけ見せたいつもと違う寂しそうな、切なそうな彼の顔。
きっと何か意味がある。…花が好きで詳しい白蘭のことだ。もしかしたら。
僕は席を立つと、花言葉の本を探すことにしたのだった。
*****
1つの花にも色々な花言葉があるんですね
…
僕はパラパラとページを捲りながら、目的の花を探す。
「あっ、ありました。」
アネモネも他の花と同様に、複数の花言葉が書かれていたが、僕はその中でも1つの言葉に目が留まる。
恋の苦しみ
その言葉にあの時の白蘭の顔が重なった。彼は苦しい恋をしているということなのだろうか。
まさか、僕にでは、ありませんよね…
僕はあの時の告白は今でも一種の冗談か何かではないかと疑っていた。白蘭の方も、あれから僕にそういった素振りを見せるようなことはなかったように思う。では、別の誰かに…?
そう考えた瞬間、胸がほんの少し苦しくなった。何です?今のは?白分でも良く分からない。…白蘭だって人間だ、恋に悩んで当然だと、僕は胸の苦しみの訳は今は考えないことにした。
目的も果たしたし、本を片付けようかと思ったが、小さい白い花が脳裏をよぎった。白蘭から貰ったスズランだ。今はテーブルに飾ってある。折角ですし、花言葉を調べてみましょうか。
そこには『幸福の再来』と書かれていた。親しい人や愛する人にこの花を贈ると、贈られた人に幸福が訪れるという。
『どうしても骸君に渡したくって。』
僕は複雑な気持ちになる。白蘭の本当の思いが分からない。だがそれ以前に、自分の気持ちが自分でも掴めていない。白蘭と向き合っていけば、自分の中で何かが見えてくるのかもしれない。僕はそんな風に思えて仕方なかった。
*****
図書館を出ると雨はすっかり止んでおり、綺麗な青空が広がっていた。僕はその青さを眩しい思いで見上げた。
自分のこれからの為に、ちゃんと白蘭の気持ちを見つめなければならないと、僕は心に決めて駅へと歩き出した。
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