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君の色で世界は輝く 1
美大生白蘭×外大生骸




筆を持って、目の前の真っ白な空間に僕だけの、僕だけしか出せない色で、世界を生み出していく。



そのわくわくするような心躍る瞬間が、僕は堪らなく好きで。



僕にとって絵を描くことは、大袈裟に聞こえるかもしれないけど、呼吸をするのと同じように、それなしではいられないもので。




ー―君と出会うまで、君という色が、僕が描く世界を今まで以上に色鮮やかにしてくれるなんて、僕には思いもよらなかったんだ。



*****
スケッチブックを脇に挟み、パンツのポケットに濃さの異なる鉛筆を数本入れて、僕は石畳の道をゆっくりと歩いていた。たくさんの木々が植えられたその道は、左右にオシャレなカフェやインテリアショップなんかが並んでいて、いつも近くの大学の学生達で賑わっている。


「あっ、小鳥だ…」


僕のすぐ横の木の枝に綺麗な色の小鳥を見付けて、僕はスケッチブックを捲ると腕を動かした。こんな風に街に出て、色々なものを描くことが、僕の趣味というか、もう習慣といえるかな。





僕は、大学で日本画を専攻している。派手な見た目のせいなのか、大抵の人に僕が美大生で日本画を描いているようには見えないと言われてしまう。全く失礼しちゃうよね。


日本画を専攻しているといっても、僕は美人画とかは描かないんだ。僕が描くのは、主に花や蝶々なんかをモチーフにした風景画だ。だからこうして街でスケッチする時の対象は、花や動物、風景などが多くて、実は人を描くことは滅多になかったりする。あっ、勿論描けない訳じゃないし、気に入った人がいたらスケッチしちゃうと思うけどね。



小鳥が飛び立ってしまわない内に描き終えると、僕はページを捲ってまたゆっくりと歩き出した。木漏れ日が柔らかく僕の上に降り注いで、とても気持ちが良かった。



*****
あのお店のお花、綺麗だな。描きたいかも…あるカフェの前で僕の足が止まる。お店の横にきちんと手入れの行き届いた花壇があって、可愛いらしい黄色の花が揺れていた。僕はその花に吸い寄せられたように近付くと、その場にしゃがんでスケッチを始めた。あらかた描き終えて満足した僕は、スケッチブックから顔を上げて…そのまま目を見開いて固まってしまった。


僕のすぐ目の前、花壇の向こう側に造られたカフェテラスで、静かに本を読んでいる青年に僕は惹き付けられていた。青?…いや藍色かな?…すごく綺麗だ。彼の髪が陽の光を受けて、まるで輝きを放っているようだった。それに髪だけじゃない。本を読むその横顔も、彼の雰囲気も、とにかく全てが僕を魅了していた。


気が付くと、僕はカフェテラスまで歩いて彼の目の前に立っていた。急に影ができて不思議に思ったのか、彼が本から視線を上げた。


「…あの、描かせて下さい!」

「え…?」


彼は驚いた顔をした。僕は初対面で、いきなりこれはないな、と再び言い直した。


「僕、君に一目惚れしちゃったみたいで…えっと、僕は白蘭。この近くの美大の2年生で、日本画を専攻してるんだけど、実は今度課題でコンクールに絵を出さなくちゃいけなくて…ぜひ君にモデルになって欲しいんだ。」


僕は彼を描いてみたい気持ちで一杯だった。今、彼にも告げたけど、実はもうすぐコンクールがあって、そのコンクールに出す絵を描かなければならなかった。いつもなら得意の花や蝶々を描くんだけど、今回は人物を中心に描かなければならなくて、僕は密かに困っていた。


だけど僕は君を見付けた。凛とした彼なら日本画にもぴったりだし、何よりも僕は彼に一目惚れしちゃった訳で。好きな人をモチーフにした方が、断然創作意欲も増すしね。


「僕が、モデル…?」


彼は不審そうな目で僕を見た。う〜ん、信じてもらうには何か描いた方が早いかな。僕はちょっと強引かと思ったけど、彼の反対側に腰掛けると、持っていたスケッチブックに彼の似顔絵を描くことにした。僕がいくつかの鉛筆を使い分けて陰影をつけていくのを、彼はじっと見ていた。


「じゃ〜ん。君を描いてみたよ。これで少しは信じてもらえたかな?」


僕は彼にスケッチブックを差し出した。描いたのは、さっき見た読書中の彼の横顔。僕が一目惚れした時の彼の表情を思い出して描いてみたんだ。


「…すごい、です。」


彼が小さく呟いて息を飲んだのが僕にも分かった。


「僕にそっくりで驚きましたが、この絵の中の僕、今にも本のページを捲り出しそうといいますか…動き出しそうで…あなた、すごいです。」


彼は感動したような声を出すと、分かりました、と僕を見た。


「良いでしょう。モデルをお引き受けしますよ。…僕は六道骸といいます。あなたの大学の隣の外国語大学で、イタリア語を専攻している3年生です。」

「へぇ〜イタリア語!すごいね。…僕もちょっとは知ってるよ。ティアーモとかグラッツィエとか。」

「発音がなってませんよ。まぁ美大生なら仕方ないですね。」


彼、骸君がおかしそうに笑った。うぅ、恥ずかしいなぁ。僕、絵は好きで得意だけど、それ以外はね…


「こうして会ったのも何かの縁ですし…これからよろしくお願いしますね。」

「うん、よろしくね。骸君!」



*****
骸君は別れ際に、そういえば1つだけ良いですか、と僕に尋ねてきた。


「何?何?」

「あなた、僕に一目惚れしたとか言ってましたけど、あれは冗談ですよね?」

「ううん、冗談じゃないよ。僕、君のこと好きになったから。」


僕が思った以上に真剣な瞳をしていたからか、骸君は恥ずかしそうに、あなた変ですよ、と呟いて僕に背を向けた。


「でもまぁ、1度やると決めたので、モデルのことは最後までやりますから、ご心配なく。」

「…分かった。ありがとう、骸君。」


僕は骸君に手を振った。骸君が通りを曲がって見えなくなると、急に僕の胸はドクドクと脈打ち始めた。僕、骸君と話してる間、緊張し過ぎてたみたい。…でも君を見付けられて良かった。骸君がモデルなら、きっと素敵な絵が描けるに決まってる。



僕は心の中でそう強く確信していた。

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