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午前1時に誘われました
午前1時に会いましょうの続編です(20000HITリクエスト)




午前1時。それは僕達だけの甘い甘い時間。



そういえば昨日読んだ論文の内容を纏めておかなきゃいけないんだったと、僕は研究室でパソコンのキーボードを叩いていた。いくら集中していたとしても、こういった地味で単調な作業を長々とやっていると段々飽きてきちゃうんだよね。僕はキリのいい所でパソコンを閉じると、ちょっと行儀悪いけどキャスター付きの椅子に座ったまま部屋の端にあるロッカーの前に移動した。そして中から1冊の本を取り出すと、同じようにして長机の前まで戻った。僕の反対側に座って分厚い専門書を読んでいた正チャンが、ちゃんと歩いて下さいよと言いたげな視線を向ける。だけど僕は気にせず笑ってやり過ごすと、そっとページを捲った。


「白蘭サンって息抜きする時、良くその本を読みますよね。」

「うん、そうだね〜。前に話したことがあると思うけど、僕の大好きな作家さんの本なんだ。」


僕はにっこり笑顔で、綺麗に装丁された本の表紙を正チャンに見せた。この本は骸君のデビュー作で、スイーツをモチーフにした色々な物語の短編集になっている。もう何度となく読んでいて内容は頭に入ってるんだけど、僕は骸君の表現する世界が大好きで堪らないから、こんな風にまた読んじゃうんだ。


「六道…骸ですか。美形の作家で、チョコレートでしたっけ?確かそれが好きだったような…」

「あれ?正チャン、詳しいね。」

「いえ、そんなことないですよ。結構前にテレビで特集されたのを偶々見たことがあるくらいで。チョコレートが大好きっていうのが、綺麗な見た目とのギャップだとか言われてたような…」


正チャンの言葉に、僕は初めて骸君に会った時のことを思い出した。確かあの時も、深夜なのに夜食とかじゃなくてチョコレートだけを買っていたんだよね。僕は思い切り骸君に一目惚れだった。だけどまだ彼のことを良く知らなくて、チョコ買うなんて可愛いなぁって思ったくらいだったんだ。


「…確かにギャップだよね。でもすごく可愛い。」

「白蘭サン?」

「ふふ、正チャンには内緒♪」


別にいいですけどね。正チャンがちょっとだけ拗ねた顔で再び専門書に目を落としたので、心の中でごめんねと謝っておいた。悪いけど骸君は僕だけの大切な人なんだよ。さぁ、僕も骸君の本を読もうかなと、机の上の本に微笑み掛けた。本の表紙に書かれている彼の名前を愛おしむように、そっと指でなぞりながら。


*****
大学院の講義や自分が進めている研究やらが終わってマンションに帰って来ると、もう夕方かぁと思ってしまうことが多い。僕は今日も空が茜色に染まる頃に自分の部屋に帰って来た。そのまま簡単に夕食を作って、テレビを観たり好きなことをやってごろごろしていると、バイトに行く時間が迫ってくる。骸君との甘くてとろけるような時間が。この甘美で秘密めいた逢瀬は、骸君が決めた午前1時からは変わってないんだけど、実は僕のバイトは大体午後10時過ぎくらいから始まる訳で。あのコンビニは立地的にあまり人が来ないから、相変わらず1人でのんびりできる。だけどね、付き合うようになった今でも、骸君が会いに来てくれるまではいつも心が寂しくて堪らない。会いたい気持ちがどんどん膨らんでしまう。だから1時になって骸君が僕に会いに来てくれると、どうにかなりそうなくらいに幸せなんだ。




レジの後ろの壁にある時計の針が午前1時に近付くと、僕は誰も居ないコンビニの中でそわそわし出してしまう。腕時計を何度もチラッと見ちゃったり。本当に余裕ないんだよ、僕。あっ、あと少しで1時になる。今日も僕はレジのスペースに立って、骸君はまだかなぁと悶々としていた。骸君と想いが通じ合って、恋人同士になって2週間が過ぎていて。骸君は言葉通り毎日僕に会いに来てくれる。僕はバイト店員だけど、恋人が毎晩自分の職場に来てくれるのって、すごくきゅんとするよね。僕って骸君にどれだけ愛されてるの!僕以外に誰も居ないことをいいことに思い切り頬を緩めてにやけていると、入り口の自動ドアが開いた。


「あっ、むっくろく〜ん!会いたかったよ。毎日会ってるけど、今日もすっごく綺麗だね。」

「こんばんは、白蘭。あの、言われ慣れたと言っても、やはり…そう言われるのは、気恥ずかしいです。」


いやいや骸君は美人さんなんだから、褒めるのは当たり前なんだけどな。僕はそんな風に思いながらも、レジの中から骸君に手を振った。骸君ははにかんだように微笑むと、ゆったりとした足取りでスイーツが置かれているコーナーに向かう。僕はどんな時でも骸君を見ていたくて、どれにしようと一生懸命選んでいる彼の横顔を眺めた。もう僕の毎日の日課になっちゃったんだよね、スイーツを選んでる時の骸君観察。


「そういえば、報告が遅れてしまいましたが、今度雑誌で新しく連載が決まったんですよ。」


今だけ限定で生クリームとブラウニーが盛り付けられたチョコレートプリンをレジに持って来た骸君が嬉しそうに話した。仕事に頑張ってる骸君は、いつも僕には眩しいくらいにキラキラして見える。


「本当!?おめでとう、骸君。僕も自分のことみたいに嬉しいよ。お祝いに新発売のチョコ、プレゼントするね。」


喜ぶ骸君に頷いて、僕はポケットからチョコレートの箱を取り出した。そのままチョコレートプリンと一緒に袋に入れようとして、あれっ?と手が止まってしまった。良く見るとプリンは2つ重ねられていたから。2個買うなんて珍しいな。もしかして骸君、連載が決まったご褒美にいつもより1個多く買ったのかも。あぁもう本当に可愛いなぁ。骸君は会計を済ませて袋を受け取ったけど、そのまま何か言いたそうな表情で僕のことをじっと見た。そして口を開こうとして、恥ずかしそうにまたキュッと噤んでしまった。


「骸君?どうしたの?…良かったら話してくれると恋人としては嬉しいかな〜。」

「あっ、そうですよね。…すみません。あの、確かアルバイトは3時まででしたよね?」

「うん、3時過ぎまでだよ。時給は魅力的だけど、あんまり長くやって次の日起きられないと学校あるし困るからほどほどにしてる。まぁ、仕送りも十分あるから、そこまでお金が必要って訳じゃないし。」


僕のバイト時間を気にするなんてどうしたのかなと思っていると、骸君がそっと僕の名前を呼んだ。


「僕達はもう付き合っている訳ですし、もし白蘭が良ければ、ですが…アルバイトが終わったら、僕の部屋に…来ませんか?少しだけで構いませんから。僕、毎日この時間にこの場所であなたと過ごせることは堪らなく幸せですが、もっと一緒に甘い時間を過ごしたいといいますか…」


ど、どうしよう!骸君から部屋に来ないかって誘われちゃった。行く行く!絶対行くに決まってる!僕も骸君もこのコンビニの近くに住んでるから簡単に会うことはできるんだけど、なかなかお互い都合が合わなくて、付き合っている割に部屋の行き来はまだなかった。絶対行きます!と、僕が嬉しさを表すように首を縦に振ろうとしたら、真っ赤になった骸君とバチリと目が合った。その瞬間、さらに骸君の顔がぶわっと赤くなって。僕はそんな骸君に心臓を鷲掴みにされてしまった。骸君って、何でこんなに可愛いんだろう。今すぐ食べちゃいたいくらいなんだけど。


骸君は僕達を包み込む甘い雰囲気にとうとう耐えきれなくなったみたいで、そろそろ帰りますねと俯くように呟いた。僕はレジのスペースから出ると、入り口まで骸君を送ることにした。


「骸君、誘ってくれて本当に本当に嬉しいんだけど、君の仕事の邪魔になったりしない?」

「それは大丈夫です。来て頂けて、僕も嬉しいですから。…僕のマンションは、ここからも見えますが、あの建物です。」


骸君は夜空に浮かび上がる高層マンションを指差す。僕の住んでるマンションは住宅街の通りのもう少し先にあり、このコンビニからは見えない。僕も一応機能性の高いマンションに住んでるけど、骸君の綺麗な指の先にある建物は所謂高級マンションで。1つしか年齢は違わないけど、社会人は学生とは違うなぁと感心してしまった。やっぱり作家さんってのはお金持ちなのかもしれない。


「僕、3時を過ぎたら1階のエントランスで待っていますから、あなたのこと。」


見送って下さってありがとうございますね。僕に小さく手を振る骸君がただ愛しくて。早くバイト終わらないかな。早く早く。僕の頭の中はそればかりだった。



*****
バイトが終わって急いで着替えを済ませた僕は、骸君との時間が待ちきれなくて駆け足でマンションへと向かった。エントランスで待っていた骸君に案内されて、そのまま骸君の部屋に入った。うわぁ、ドキドキする。だって大好きな骸君の部屋だよ。興奮しちゃうよね。


「お疲れ様でしたね、白蘭。どうぞソファーに座って下さい。」

「うん。ありがとう、骸君。」


骸君に促されて、黒い革のソファーに座る。想像通りに綺麗な部屋で、リビングのレースのカーテンの向こうには寝静まった夜の街の灯りが仄かに見えた。骸君の部屋に来たら何となく仕事部屋があるのか気になっちゃって、僕はそれとなく尋ねてみた。だけど骸君は、あり得ないほど汚いから絶対に見せられないと言い張った。そんなに拒否するなんて、一体どれくらい汚いのかな。骸君は山のような資料を片付けた時に中を見せると約束してくれて。またこの部屋に来ることができる嬉しさが僕の胸に広がった。骸君はそんな僕にちょっと待ってて下さいと言うと、ダイニングキッチンに移動した。そしてトレーを持って戻って来ると、僕の隣に座った。


「これって、今日骸君が買った…」

「いつも僕1人ですから、一度くらいあなたと一緒に食べたいと思いまして…今日誘おうと決意して2個買ったんです。」

「骸君!」


可愛過ぎる恋人の行動に僕は叫び出しそうだった。骸君から紅茶と共にチョコレートプリンを渡されて、僕はスプーンを使って口に運んだ。チョコレートの程良い甘さを堪能する僕の横で、骸君も同じく美味しそうにプリンを味わっている。骸君の唇の端に子供みたいに生クリームが付いているのが目に入って、僕は引き寄せられるように骸君にキスをしていた。


「びゃく…ン…」


骸君の唇はそれは柔らかく、熱を帯びた舌はそれは魅惑的で、まるで甘く痺れるようなキスだった。ゆっくりと唇を離す時、骸君の唇の端の生クリームを舐め取ることも勿論忘れなかった。骸君は呆けたような顔をしていたけど、我に返って恥ずかしそうに僕を見つめた。


「…チョコレート味のキスは、こんなにも甘いのですね。僕、以前チョコレート味のキスの話を書いたことがあるのですが、されたのは初めてです。……いえ、違いますね。チョコレートだからではなく、白蘭、あなただから。あなたとのキスだから、こんなにも甘く感じるんですね。」

「…っ、骸君は本当に無自覚に僕を煽るよね。…困っちゃうよ。」


だけど、そんな骸君が大好きで大好きで。僕は骸君の背中に腕を回して、ありったけの大好きを伝えた。



*****
次の日の午前1時過ぎ。いつものように僕に会いに来た骸君は、なかなか中に入ろうとしないで入り口の自動ドアの近くでうろうろしていた。


「骸君、どうしたの?いつまでもそんな所に居ないで中に入って入って。」

「…は、い。」


骸君はどこかぎこちない足取りでスイーツコーナーに向かうと、良く見もしないで目についたチョコレートムースのカップを手に持って僕の所に来た。


「骸君…何か今日は変だよ。大丈夫?」

「…昨日、あのような大胆なことをしてしまったせいで、あなたに会うことがどうにも恥ずかしくて。ですが、会わないというのは、絶対に嫌ですし…」


骸君は僕から視線を外して赤い顔を隠すように俯いた。何なの、骸君。昨日から本当に可愛くて堪らない。


「それと、昨日の…忘れ物です。」

「あれっ?僕、骸君の部屋に何か忘れたっけ?」


骸君が僕の手の上に差し出した物を見て、思わずこれでもかというくらいに目を見開いてしまった。僕の手の中には確かに骸君の部屋の合い鍵があった。幸せで、ただ幸せで。僕は自分の中の溢れそうになる想いに「幸せ」としか名前を付けられなくて。語彙力のある骸君なら、もっともっとぴったりの言葉をくれるのかな。


「骸君。実はさ…バイトの前に明日の講義が休講になったってメールが来て。だったら研究も休もっかなと思ってさ。だから明日は休みだし、朝までずっと一緒に居たいなって…駄目かな?」

「駄目じゃ…ないです。」

「ほんと?やったぁ。骸君、大好き♪」


だったらチョコレートムースをもう1つ、と慌てて取りに戻ろうとした骸君の腕を掴むと、僕はレジから出てそのまま優しく抱き締めた。嬉しそうに目を細める骸君に僕もそっと微笑み返して。



午前1時。それは僕達だけの甘い甘い時間。


僕達2人だけの時間は、これからもずっとずっと続いていく。






END





あとがき
このお話は、千歳様から頂きました「午前1時に会いましょうの続編」のリクエストで書かせてもらったものです。


午前1時は勿論ですが、それ以外の時間でもらぶらぶしたいと思った骸が頑張ってくれました^^1時になると毎日骸が来てくれて、本当に幸せ者ですよね、白蘭(´∀`)


コンビニスイーツやチョコレートが出て来ますので、今回も甘い2人を目指したつもりです。その雰囲気が少しでも伝わるといいなと思います。


この度はリクエストして下さいましてありがとうございました!

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