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午前1時に会いましょう 3(完結)
「骸君、最近嬉しそうだね。」

「顔に出ていましたか…僕の尊敬する作家と対談ができたんですよ。色々な話をして頂いて、今、創作意欲が増してるんです。」

「うわぁ、良かったね!じゃあこれ食べてもっと頑張らなきゃだよ。」

「今日のおまけはビスケットですね。美味しそうだ。」



骸君と会うようになって随分経った。僕はこの穏やかな時間がとても心地良かったけど、それと同時に心のどこかで、骸君とそれ以上の関係になりたいと思うようになっていた。


骸君と会って他愛のない話を重ねていけばいくほど、彼への想いが強くなってしまう。本当は毎日でも会いたい気持ちで一杯なんだよ。骸君は僕のこと、どう思ってくれてるのかな?良く行くコンビニの、ちょっと仲の良い店員なんてままじゃ僕はもう満足できそうになかった。



*****
「じゃあこっち頼みます。」

「オッケ〜。僕この雑誌から並べるね。」


僕はバイトの大学生の男の子と一緒に、新しく届いた雑誌のビニールを開けて、雑誌コーナーに並べる作業をしていた。本来この時間の子が体調を崩しちゃったから、僕が代わりに入ることになったんだ。週刊誌やファッション雑誌を棚に並べていき、次の雑誌を手に取った僕は、表紙の下の方に書かれていた名前に目が釘付けになった。


骸君の名前がそこにあったのだ。その雑誌は恋愛や占い、仕事のことなどが特集されるもので、OLさんを中心に支持を集めている雑誌だった。僕は読んだことはないけど、書店で立ち読みしている女性をよく見かけたことがあったから、雑誌の名前は知っていた。


今月号は「恋とスイーツ」が特集されているらしく、骸君の名前の上に「作家六道骸の恋とスイーツの甘い物語をどうぞ」という見出しが踊っていた。この雑誌に骸君の書いた物が載っているなんて知らなかった。僕が骸君の本を読んでるって知ってから、彼は新しく出る本などを教えてくれるようになった。骸君の本や記事は読んでいる方だけど、さすがに全ての雑誌までは細かくチェックしていない。…もしかして女性誌だったから、僕に気を遣ったのかな。確かに女の子に混じって読んでたら、じろじろ見られちゃうかもだけど。


そんなことは今はどうでもいいんだってば。この雑誌、後で読まなきゃ。だって骸君が恋について書いているんだもん、気になって仕方なかったんだ。



*****
休憩時間になったので、僕はさっきの雑誌を買うと、従業員の控え室に入って早速読み始めた。美味しそうなケーキやプリンなどがたくさん載っていたけど、僕は骸君のページだけを探した。


「あった!」


骸君のページは綺麗にレイアウトされていた。小説というより、エッセイみたいで僕の友人の話なのですが、という文章で始まっていた。



内容は、骸君の友人が体験した話という形だった。彼の友人は夜遅くに仕事をしていて、息抜きに近くのコンビニで甘い物を買うのが唯一の楽しみなのだという。そこである日、1人の店員に出会った。今まで会ったことがなかったから、新しく入って来たのだろうなと思っていると、その店員に話し掛けられ、ひょんなことから知り合いになった。そして店員は仕事がない日でも来て欲しいと言ってきた。友人は仕事で何日も外に出ない日もあったから、話し相手にぴったりだと思い、コンビニを良く利用するのが午前1時だったので、その時間に来ることを約束した。友人はなかなか人と打ち解けるのに時間が掛かる性格であることを自覚していたが、それほど掛からずに、その店員と仲良くなれたことに自分でも驚いたのだった。それから少し経って、いつものように甘い物を買って会計を済ませると、店員がポケットからお菓子を取り出して友人に差し出した。友人は悪いと思いながらも甘い物は好きだったので、ありがたく貰うことにした。それが続いていく中で、ある時友人は、もしかしたらあの店員が笑って色々なお菓子をくれるのは、自分だけなのではないかと思い始めた。自分だけが特別…そう考えて友人はとても嬉しい気持ちになった。だけど、面と向かって聞くことは気恥ずかしくて、結局できないままだった。それからまた少し経った。友人は大きな仕事をいくつか抱えることになり、頑張ってこなしていたのだが、遂に壁にぶつかってしまった。考えても良いアイデアは出ず、どうしようと思っていると、不意にあの店員の顔が浮かんできたのだ。気付いたら友人はコンビニの道を歩いていた。店員の、自分を迎えてくれる笑顔を見た瞬間、訳もなく安心してしまった。友人はこの気持ちだけは伝えたくて、店員にあなたの笑顔が元気をくれるのだと告げた。店員の笑顔のおかげだろう、友人はちゃんと仕事を終わらせることができた。友人は自分にとって、あの店員が自分に力をくれる大切な存在になっていることを理解した。そしてコンビニで甘い物を買うことは二の次で、というよりただの口実で、本当は店員に会いたいだけなのだということにも。友人にとっては、午前1時の逢瀬が何よりも甘い甘い物なのだ。それこそどんなスイーツでも勝てやしない。もう友人にとって、コンビニで買う甘い物は、甘いと感じられないのだろう。友人はこれからも甘い時間を過ごす為に、そのコンビニへと向かうに違いない。



僕は雑誌を読み終わって、顔が真っ赤になっているのを感じた。


だって、だって。この「友人」と「コンビニ店員」ってーー


他の人が読んでも多分分からないだろうけど、これは僕達が過ごしてきた時間なんだ。ここに書かれている骸君の気持ちが本当ならば…僕、少しは自惚れてもいいのかな?


骸君も僕のことを、って。



*****
僕ってやっぱり運がある。骸君の記事を読んだ日の深夜が、ちょうど彼が会いに来る日だったんだ。僕は骸君に告白しようと決めた。この先に進む為にも、骸君を信じて…



「今日も頑張っているようですね。」


1時を少し過ぎて骸君が来た。今日も僕に笑い掛けてくれる。あんなの読んじゃったら、その笑顔が眩しくて、骸君の顔をまともに見るなんてできなかった。


骸君は、今日はパイナップルゼリーにしようかと思いまして、と言ってゼリーやプリンが並べられたコーナーに向かい、目的の商品を手に取って戻ってきた。僕は袋を骸君に手渡そうとしたけど、そのまま台の上に置いて、話があるんだと、彼に告げた。


「僕、実は偶然ある雑誌を読んだんだ。」

「はい…」

「恋とスイーツ」


その言葉に骸君の肩が大きく跳ねる。その表情は明らかに狼狽していた。


「読んだんですか…女性誌だから大丈夫だとばかりに思ってたのに。…迂闊でした。コンビニにも置かれていますものね。」

「骸君、あれに書かれていたことって…君の気持ちなの?」


僕は恐る恐る骸君に尋ねた。もし否定されたら、きっと告白する勇気はみるみる萎んでしまう。骸君は僕の問いにさらに表情を歪めて、そして苦しそうに呟いた。

「…そう、です。あれは僕のあなたに対する気持ちです。本当はずっと黙っておくつもりでした。」

「え?どうして…」

「あなたに嫌われたくなかったからです。あなたに僕の気持ちを伝えて、それで、もうここに来るな、なんて言われたらと思ったら…でも自分でも、あなたに惹かれていくことを止められなくて。気持ちを隠していることが段々辛くなって、自分の気持ちを吐き出したくて、あの文章を書いたんです…」


「骸君!」


僕はカウンター越しに骸君を強く抱き締めた。骸君は信じられないって顔をしてたけど、それからゆっくりと僕の背中に腕を回してくれた。僕は彼から少しだけ体を離して、真剣に彼を見た。


「僕も骸君のことが好きなんだ。初めて会った時から。骸君と同じで、こうやって会って話をする時間が、僕にとっても甘い物だよ。今まで辛い思いをさせてごめんね。これからも2人で誰にも負けない甘い時間を過ごそうよ。」


僕の告白を聞いて、骸君の顔が赤くなった。彼は恥ずかしそうにしてたけど、僕にとびきりの笑顔を向けてはい、と頷いてくれたんだ。





「白蘭、1つ良いでしょうか。」

「うん、何かな?」


骸君の方から言ってきたのに、彼はその先をなかなか言おうとしない。


「あの…迷惑でなければ、毎日来ても…良いでしょうか?」

「うん!来て来て!僕も骸君に毎日会いたいもん。」

「あと、その、もう1つ…」

「うん?」

「こちら側に出て来て、ちゃんと…抱き締めて欲しいんです。」

「…っ!」


僕はカウンターを出て、ゆっくり骸君に近付くと、大切な物を扱うように優しく抱き締めた。さっきよりも骸君が近くに感じられて、幸せで堪らない気持ちになっていた。




骸君、これからもずっと、甘い甘い時間を君にーー






END






あとがき
まずは最後の方で、骸が別人になっててすみません(T△T)


私はコンビニでバイトしたことがありませんので、想像で書きました。深夜でもちゃんとお客さんは来るとは思うので、ここだけの設定ということで、なんちゃってコンビニバイト店員白蘭と思って頂けると助かります^^2人の甘々な感じが少しでも伝われば、幸いです♪


ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました(*´∀`*)

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