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触れ愛満たされる心
愛アイ傘の続編です(10000HITリクエスト)




今日の放課後はさ、ファミレスで勉強しようよ〜♪と、骸は昼休みの終わりに教室にやって来た白蘭にそう誘われた。こんな風に一緒に居られる時間が少しずつ増えてきて、骸は日々言葉にできない嬉しさを感じるようになっている。今日も白蘭と一緒だ。骸は放課後まで待てなくて、午後の授業もどこか上の空だった。


だが放課後になったのに、いつものように自分を迎えに来るはずの白蘭が一向に姿を見せなかった。骸は大人しく椅子に腰掛けて白蘭を待っていたが、もしかしたら、と立ち上がると、急いで教室を出てある場所へと向かった。



*****
「やはり、ここでしたか…」


骸は小さな声で呟くと、読みかけの本を広げたまま肘をついてうたた寝をしている白蘭の目の前に座った。白蘭は骸が来たことに気付いていないのだろう、そのまま静かに眠っている。図書室の窓から降り注ぐ夕陽を浴びて、白蘭の髪がキラキラと茜色に輝いていた。


「初めてあなたを見た時も、こんな風に寝ていましたよね…僕は、その時から…」


今でもはっきりと覚えている。入学して間もない頃、借りていた本を返却しようと放課後に図書室を訪れ、今のように夕陽に包まれて眠る白蘭に会ったのだ。


とても、綺麗だと思った。それはまさしく彼に恋に落ちた瞬間だった。それから骸は気付けば、廊下ですれ違う度に白蘭のことを目で追うようになったし、白蘭に会いたい一心で図書室にも足繁く通った。彼を遠くから見ているだけで良い。骸はそれだけで十分だと思っていた。


けれども、夏のあの雨の日。とうとう1歩を踏み出してしまった。白蘭のことを好きな気持ちが抑えられなくて、あんな大胆な行動を取ってしまった。だが、あの時の自分が居たからこそ、今の幸せな毎日があるのだ。骸は、自分と白蘭の関係を大きく変えたあの日のことは、きっと一生忘れないだろうと思えた。



「ぐっすり眠っているようですから、起こしてしまうのは…可哀想ですかね。」


骸は愛しさを込めた眼差しを白蘭に向けると、白蘭と同じように頬杖をついてそっと微笑んだ。今日は、このまま近くで白蘭の寝顔を眺めるのも悪くない。何せ自分は彼の寝顔が大好きなのだから。





骸が暫く目の前の愛しい人の寝顔を堪能していると、睫毛が小さく震え、白蘭がパチリと目を覚ました。


「う〜ん、あれ?…骸君?」

「漸く起きたようですね。」

「えっ?何?…もう夕方?」

「そうですけど。」

「…僕さ、今日骸君と初めての放課後ファミレスデートだから、楽しみ過ぎて授業が身に入りそうにないと思って、ここでずっと読書してたんだよ。」

「それで、読んでいた途中で眠くなって放課後まで眠ってしまったという訳ですね。」


骸がその後を引き継ぐように続けると、白蘭は多分そうだと思う、と申し訳なさそうに答えた。


「わ〜ん、僕の馬鹿!…今日せっかく骸君とファミレス勉強デートしようと思ったのに。」

「僕ならまた別の日で構いませんから。白蘭、そこまで気にしなくて良いですよ。」


骸は白蘭を慰めようと手を伸ばしたが、白蘭はその手を強く握ると、うんと大きく頷いた。


「骸君、勉強デートが駄目なら、普通のファミレスデートしよう♪…大きなパフェ頼んでさ、2人で一緒に食べよ〜。」


さっきまでしょんぼりとした顔をしていたのに、白蘭はいつもの元気を取り戻していて、早く行こうと骸を立たせた。


「白蘭、あなたという人は……そうですね、パフェを頼むのなら、僕はチョコレート味のアイスが乗ったものが食べたいです。」

「骸君の好きな物でいいよ。楽しみだね。」



夕陽を背に白蘭が弾んだ声と共に優しく微笑む。骸も嬉しさ一杯に笑って、頷き返したのだった。


*****
それから数日後、放課後になり、いつものように白蘭が骸を迎えに来た。骸の傘で帰ったあの日から、2人は毎日一緒に帰るようにしている。お互い少しでも幸せな時間を共有したいのだ。骸は笑顔を浮かべる白蘭の隣を歩いていたが、白蘭が校舎を出ても校門へ向かおうとしないことを疑問に感じ、足を止めようとした。だが目的地に着いたのか、それより早く白蘭が歩みを止めて骸に振り返った。


「むっくろく〜ん♪今日は一緒に自転車に乗らない?今、学校の先の土手で向日葵が満開らしいんだよね。歩くと少し時間が掛かるから、これ乗ってさ。」


白蘭はたくさんの自転車が並ぶ駐輪場で、制服のポケットから鍵を取り出しながら話した。骸も白蘭も電車通学であり、駅からは徒歩だ。白蘭が自転車に乗っている所など、今まで見たことはなかった。見慣れない自転車の前に立つ白蘭に少しだけ驚いていると、白蘭はあぁ、これね、と自転車に視線を落とした。


「僕のじゃないよ。クラスの子に借りたんだ。何でも彼女と駅でデートして一緒に帰るから、今日は自転車を学校に置いてくらしくて。だから向日葵見たら、またここに戻しておけば問題ないし。」


サドルを叩きながら、白蘭がニコリと笑う。自転車に乗って2人で向日葵を見に行く。白蘭はいつも自分の為に、自分を喜ばせる為に色々と考えてくれている。骸は白蘭の優しさに心がじんわりと温かくなり、満たされた気持ちになった。





夏の爽やかな風を受けながら、白蘭が軽快にペダルを漕いでいく。骸はそんな白蘭の肩に手を置いて、後ろから小さく叫んだ。


「白蘭、もう少しスピードを落として下さいよ。…僕、落とされないかと冷や冷やしてるのですから。」


骸が少しだけ白蘭を咎める。すると、だったらさ、と楽しそうな声を出して、白蘭はハンドルを離した左手で骸の腕を掴むと、自分の腰に回した。白蘭との距離が一瞬でなくなり、すぐ目の前に自分のことを守ってくれる背中があって、骸は胸がドキドキして止まらなかった。


「こうすれば大丈夫♪僕にくっついてたら心配ないよ。」


白蘭は再びスピードを上げて、風を切るように進んで行く。骸は躊躇いながらも、そっと白蘭の細い腰に両腕を回し、白蘭の背中に体を預けた。制服のシャツ越しに白蘭の温もりが伝わって来て、触れ合っている所が熱を持っているかのようだった。だがその熱は決して不快なものなどではなく、骸を安心させてくれる心地良い熱だった。白蘭に体を寄せたままそっと空を見上げると、そこには青い絵の具で塗ったように真っ青な空と白く眩しい入道雲が見えた。



*****
白蘭との大切な思い出がまた1つ増えていく。目の前に広がる黄色の絨毯を前に、骸は胸が甘く締め付けられていた。土手の斜面にはたくさんの向日葵が咲き誇っていて、皆真っすぐに太陽に届けとばかりに力強くその花を輝かせている。



「ね?…綺麗でしょ。向日葵見てると、何だか元気を貰えるよね。」


骸君もそう思うでしょ?白蘭が同意を求めるように骸に顔を向ける。白蘭は眩しいほどにキラキラとした笑顔で、それはまるで今、目の前に咲く向日葵のようだと骸は感じた。


向日葵…いえ、違いますね。…太陽です。あなたの笑顔は、いつも僕の心を明るく照らして満たしてくれる。向日葵はむしろ僕の方ですね…太陽を求め、焦がれてやまない…





向日葵を一頻り楽しんで、2人は来た時と同じように再び自転車に乗った。白蘭は帰りも自分の腰に腕を回すように言ってきたので、骸は羞恥心を感じつつも、大人しく白蘭に寄りかかった。そのまま2人で向日葵の感想を言い合っていたが、次第に白蘭も骸も先ほどの余韻を思い出すかのように静かになった。


向日葵を見て、白蘭の綺麗な笑顔に触れて、本当に自分は白蘭のことが大好きなのだと、骸は感じた。こうして1番近くで彼の体温を感じられることが幸せで仕方なかった。骸は白蘭から少しだけ体を離すと、額だけをコツンと白蘭の背中に付けた。そして白蘭に聞こえないように、小さく小さく呟いた。



「好きです。」

「…僕もだよ。僕も骸君が好きだからね。」


前を向いたまま白蘭が片手を伸ばして、腰に回されていた骸の手をそっと握り締めた。優しく包み込むように触れると、その手を離して再びハンドルを握った。白蘭には聞こえないように言ったつもりだった。だが彼には自分の全てが伝わってしまうらしい。骸は再び体をピタリとくっつけて、白蘭の耳元に唇を寄せた。


「あの…今日は、ありがとうございました。あなたとの大切な思い出がどんどん増えて、僕は幸せです。」

「これからも色々な所に行ってさ、2人でたくさん思い出作ろうよ。骸君が居るだけで僕も幸せで、毎日が輝いて見えるんだからね。」

「はい。」


肩越しに振り返った白蘭に、骸は想いを込めた笑顔を向ける。白蘭が自分に見とれているのがはっきりと分かってしまい、危ないですから前を向いて下さい、と恥ずかしさを隠すように告げた。白蘭も照れたように、うん、ごめんねと言って前を向く。お互い何をやっているのだろうと笑ってしまいそうだったが、確かに骸は今が幸せだった。


自転車の心地良い振動と、間近に感じる白蘭の温もりに浸りながら、骸はこれからずっと続いていく白蘭との幸せを噛みしめていた。






END






あとがき
ひまり様のリクエストで『愛アイ傘』の続編を書かせて頂きました^^


この2人は初々しいと言いますか、微笑ましい感じをコンセプトにしていましたので、今回もそんな雰囲気を目指してみました(^^)ほんの少しでも楽しんで頂けましたら、嬉しい限りです(*´∀`*)


好きな人との自転車2人乗りは、学生カプにしかできない王道かなぁと思いまして、詰め込ませてもらいました。白蘭の腰に腕を回して、恥ずかしそうにしがみついている骸を想像したら、きゅんきゅんしてしまいまして(^///^)共感して頂ける方がいらっしゃると嬉しいです(^^;)


ひまり様、この度はリクエストして下さいまして、本当にありがとうございました!

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