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愛アイ傘
高校生白骸
骸(→)←白蘭




はぁ…夏の夕立ほど、厄介なものってないよね。どうしよう、困ったなぁ。



外はバケツをひっくり返したように激しい雨が降っていた。それは白い線になって見え、目の前の風景を隠してしまうほどだった。白蘭は溜め息を吐くと、一旦校舎の中に引っ込んだ。そのまま辺りを見回してみたが、とうに下校時間を過ぎていた為か、下駄箱に続く廊下には誰も居なかった。それにこんな日に限って、皆置き傘持ってちゃってるんだよね〜。


白蘭は下駄箱の横の傘立てをチラリと見る。いつもなら、誰の物か分からない傘がたくさん突っ込まれているのに、突然の雨で傘立ては空っぽになっていた。まぁ天気予報を見ないで、傘を忘れた僕が悪いんだけど。白蘭は再び入り口に立つと、ドアを開けぴょこんと頭だけを出して外を確認した。


「うわっ、何かさっきより雨が強くなってる!何でこんな日に限って僕、寝ちゃってたんだろう。」


白蘭は再び溜め息を吐く。図書室で本を読むことに熱中し、気が付けばいつの間にか寝てしまっていたようで、図書委員の生徒に鍵を掛けるからと揺り起こされて、慌てて図書室を出て来たのだった。


「仕方ない。これはもう濡れて帰るしかないよね…よし!」


白蘭は、降りしきる雨の中、足を踏み出した。その瞬間、視界が青く染まる。そっと上を見上げると、青い傘が雨を遮るように自分を守ってくれていた。


「君は…六道骸君!え…どうして?」


傘の持ち主を振り返って、白蘭は声が裏返るほど慌てた。自分の隣に、密かに片思いしている相手が立っていたからだ。白蘭は骸とクラスが違うので、今まで1度も話をしたことはない。それでも自分は、骸のことが好きだった。入学式で骸を見掛けてから、彼のことを好きになってしまった。所謂一目惚れだった。


「あの…骸君。これは一体…?」


白蘭は頭の中に疑問符を浮かべながら、骸にそっと尋ねた。自分としては、雨に濡れないで済む上に、今まで遠くから眺めているだけだった好きな人が近くに居るという何とも美味し過ぎる状況だった。


「…あなた、傘持ってないのでしょう?濡れては風邪を引いてしまいます。」


黙ったままだった骸は、そう呟いて、歩き始めた。白蘭も傘からはみ出さないようにして骸の隣を歩く。男子高校生2人で1つの傘では、さすがに白蘭の体全てを雨から守ることはできず、傘を伝わって落ちてきた雫が時折シャツの肩口に小さな染みを作っては消えた。


「…骸君も濡れちゃうから、僕のことは気にしなくていいよ。駅までは走ればいいんだし。それに雨が降る前に帰れば良かったのに、図書室で寝ちゃった僕が悪いんだからさ。」

「知って、います。」

「……え?」


骸が小さく呟いた言葉の意味が、一瞬理解できなかった。彼は今、知っていると言った?自分が図書室で寝ていた所を見たのだろうか?


「あなたが寝ていた時に、僕、本を返しに来たんです。あなたはぐっすり眠っていたので、多分閉館時間まで居るだろうと思って……教室で待っていました。」


骸は白蘭を見ることなく、少し下を向いてそのまま続けた。


「知り合いでもないのに、一緒に帰りたいだなんて…そ、そんな大それたこと考えていた訳ではありません。あなたが帰る姿を見られれば良いと思っただけです。…でも傘を持っていなかったので、……だからこれは、僕が勝手にやっているだけですから!…あなたが気にする必要など…」


骸はそのままフイと顔を逸らしてしまったが、首筋が赤く染まっていた。


多分きっと、僕の考えは合ってる。…少なからず骸君も僕のこと、気になってくれてるってことだよね。


「すごくすごく嬉しいよ。ありがとう。」

「…それは良かった、です。」


骸は白蘭の方を見ると、照れたように笑った。その顔が、息を飲むほど綺麗で。骸の笑顔に惹き付けられて、一瞬激しく降る雨の音さえも聴こえなくなった。


「骸君、あのさ…もし良かったら、明日も…ううん、明日だけじゃない。これからもこんな風に一緒に帰らない?僕、君のこともっと知りたいんだ。」

「僕も今、同じことを考えてました。」


少し驚いた顔をした後、骸は嬉しそうにキュッと目を閉じた。


「そうだ。骸君、傘貸して。僕の方が背が高いんだから、傘持つよ♪」

「そんなに変わらないですよ!僕の傘ですから、僕が…」

「いいの。僕が持ちたいから〜。」


白蘭は骸から傘を取り上げると、そっと彼の頭上に翳した。骸が恥ずかしそうにする姿を、白蘭は温かい気持ちで見つめた。



先ほどまで夕立なんて最悪だと思っていた。だけど今はその雨が、自分に骸を連れて来てくれた。このままずっと雨が降り続けばいいのに。そうすれば君といつまでも居られるのにな…



あれほど激しく降っていた雨は、いつの間にか優しく傘を揺らす程度になっていた。



「これからよろしくね、骸君。」

「…はい。」



傘に落ちて来るその雨音は、まるで優しいリズムを刻むように踊って、2人の間を駆けて行くー―骸の隣で白蘭は、そんな風に感じたのだった。






END






あとがき
初々しい2人を書いてみたのですが、これ…初々しいか謎です(^^;)


骸が乙女なのは、通常運転です、すみません(><)


夏の夕立は本当に困りますよね;特に洗濯物とか危険です^_^;



読んで下さってありがとうございました♪

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