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終焉ラブソング
ハピエンではないです;




どこまでも見渡す限り真っ白な世界。白で塗り潰されたように、その色以外に何も存在しない世界。




気が付けば、僕は傷付いた体でその世界に1人横たわっていた。さっきまで白蘭と戦っていたはずだったのに。



「おっ、やっと目が覚めたみたいだね。」


音もなく僕の足元に白蘭が立っていた。まるで初めからそこに居たとでもいうように。


「…ここは?」


彼は僕の問いには答えずに、ただ笑っているだけだった。



恐らく、この世界は…



「骸君もさ、うすうす気付いてるんじゃない?」


楽しそうに笑いながら白蘭は口を開いた。ただその瞳は冷たく輝いて、僕をじっと見ていた。


「ここは、あなたの…世界。白蘭、あなたの精神世界に僕は居るのでしょう。」

「ご名答♪骸君はすごい術士だから、これくらいしないと逃げられちゃうでしょ。…どう?僕の中は?」


僕が何も言わず黙っていると、白蘭は別にいいけどね、と呟いて僕の顔の近くにしゃがみ込んだ。


「言っとくけど、そんな簡単に逃げられると思わないでね。」


顎を掴まれ、頬の傷を舐められる。這わされた舌の感覚がやけにリアルに感じた。…あぁ、そうだ。自分は今、精神体なのだ。感覚が敏感になっていて当然ですね。頬にあった白蘭の舌がそのまま唇をなぞったかと思った瞬間、彼に口付けられていた。だがそれは、恋人同士の甘いキスでも何でもなく、鉄の味のするキスだった。先ほどの戦いで彼から攻撃を食らった際、口の中を切ってしまったのだろう。


「あれ、骸君ってキスする時、目閉じないんだ。」


僕に口付けながら、器用に白蘭が話した。


「それに…嫌がらないんだね。」

「こんな…ことでっ、僕が…動じるとでも?見くびらないで頂きたいものですね。」


僕は力を振り絞って、白蘭の体から離れた。そんな僕に彼は酷薄な笑みを浮かべた。


「でも骸君は僕に負けたんだよ。それは忘れないでね。」


白蘭は手を伸ばすと、そのまま僕の体を突き飛ばした。支えを失った僕の体は簡単にその場に倒れ伏した。


「じゃあ…またね、骸君。」


その言葉を最後に白蘭の姿が段々霞んでいき、遂には見えなくなってしまった。



1人残された僕は、唇をコートの袖で拭った。それから意識を集中させてみたが、白蘭の言っていた通りに、簡単にはこの世界から抜け出せそうにはなかった。



僕は捕まってしまった。この世界に。白蘭に。



*****
時間の存在さえ忘れてしまうような、真っ白な世界。



僕はあの日と同じように1人横たわっていた。つい先ほどまで白蘭が隣に居たのだが、いつの間にかその姿は消えてしまっていた。



今日は何だか優しく僕のことを抱いた気がする。いつもは手酷く扱うのに。またね、と言った通り、白蘭は気まぐれに僕を訪れた。彼はいつも冷たく笑って、僕を無理矢理抱いた。最初の内は僕も抵抗した。だが今では、白蘭と体を重ねることにすっかり慣れてしまっていた。今日みたいに優しく抱かれ、行為の後に優しく抱き締められて、泣きそうになっている自分が居た。



勘違いしてはいけない。抱かれたくらいで絆されてはいけない。彼にされたことを忘れてはいけない。そんなこと分かっている。なのに、それなのに。僕は少しずつ、でも確実に白蘭に堕ちていっていると感じていた。


この真っ白な世界に閉じ込められて、頭がおかしくなったのかもしれない。だけど僕は自分でも白蘭に惹かれていく自分を止めることはできなかった。



*****
夢を見ていた。相変わらず僕の周囲は真っ白なことに変わりはなかったが、これは夢なのだとはっきり認識していた。



僕は夢の中で、この真っ白な世界を歩いていた。何もない世界をただひたすらまっすぐに歩き続けていた僕の目に、不意に人影が映った。


「あれは…白蘭?」


確かに僕の目の前には白蘭が立っていた。だが今の彼より4、5歳若い風貌だった。白蘭は僕に気が付くと、自分以外に誰かが居たことに驚いたような顔をした。


「君、誰?どうしてここに居るの?」

「ちょっと訳がありましてね。僕も早くここから出たいんですけど。」

「ふ〜ん。まぁ何でもいいや。ねぇ、君、今暇?」

「暇といえばそうですね。今僕には時間はたくさんありますから。」


僕がそう言うと白蘭は、僕の話を聞いてよ、と身を乗り出した。


「多分僕だけが感じてることだと思うんだよね。君さ、自分が居る世界って…キモチワルイと思わない?世界に違和感を感じたことってない?僕の目に映る世界はいつも色褪せてるんだ。」


だからさ、僕はいつか世界を壊したいって思ってる。僕の力で僕に相応しい世界を創り出すのさ。そう白蘭は語った。これが彼が目指す先にあるものなのだろうか。



…白蘭、あなたは孤独だったのですね。そしてそれは今もずっと続いている。どんなに優秀な部下や仲間を集めても、あなたは1人のままなのですね。



白蘭、僕はあなたを救いたい。僕があなたの隣で、1人じゃないと教えてあげたい。僕が居ますと。


「白蘭、今はまだ無理かもしれませんが、周りを良く見て下さい。あなたは1人じゃないんです。その意味が分かれば、世界を壊さずとも良いんです。」

「君の言ってること、いまいち分かんないや。僕が世界に違和感を感じる以上、そんなことしても無駄だと思うけどね。」


白蘭は、もういいよ、話も聞いてもらえたし、と僕に背を向けるとそのまま歩き出した。僕は白蘭を追い掛けた。まだ彼と話したかったから。だが彼はどんどん遠ざかっていく。僕は必死に走った。


「白蘭!」


あと少しで手が届く。白蘭の手を掴んだと思った瞬間、彼の体は煙のようにかき消えた。そこで夢は終わった。僕は瞼を開け、周囲を窺う。だが、ただただ白が広がるばかりで、世界に見放され、背を向けることを決意したあの白蘭は居るはずもなかった。


あなたの世界に閉じ込められて、僕はもう終わりだと思った。だけど、そうではなかった。あなたの心に触れることができた。…僕はあなたを助けたいのです。あなたが世界に背を向けるなら、僕も一緒です。僕も世界に辟易している身ですから。でもそんなことせずに2人で一緒に居ましょう。あなたが居る世界なら、僕は耐えられるのだから。



僕は段々白蘭に惹かれる自分を意識していた。だがこの時はっきりと、彼が愛しいと感じたのだった。



*****
時間が止まったように静かな真っ白な世界。


白蘭が久しぶりに僕の目の前に現れた。ここに来る時にいつも貼り付けている笑顔はそのままで。


「やぁ、骸君。元気にしてた?」

「白蘭…お久しぶりですね。」


僕は白蘭に自分の想いを告げようと思った。あなたを救いたい。彼に鼻で笑われたとしても構わなかった。


「白蘭。あなたの世界で、僅かですが僕はあなたの心に触れました。あなたは世界を壊して独裁者になろうとしています。ですがそのようなことをして、その先に何があるというのです?きっとあなたは満たされません。」


僕と一緒に行きましょう。僕と2人で変わりましょう。僕はそう告げようとしたが、白蘭の言葉に遮られて続けることができなかった。


「僕と君は相容れない。」

「びゃくら…」

「骸君にはボンゴレや君を慕うお仲間が居るじゃない。」


白蘭はニコリと笑った。それは僕を突き放す笑顔だった。



「僕とは違う。」



何もない真っ白な世界で、白蘭の言葉は一際大きく響いた。


「待って下さい!白蘭、僕の話を…」

「…骸君は、骸君だけは…僕の気持ちを分かってくれるって思ったのに。僕と一緒に世界を変えてくれるって思ったのに。」


白蘭は俯くと一旦言葉を切った。そして再び顔を上げて僕を見た。


「今度こそサヨナラだよ、骸君。僕、君に飽きちゃった。だからこのまま僕が終わらせてあげる。」


離れて立っていた白蘭が急に僕に近付いた。驚いて動けなかった僕は、そのまま彼に唇を奪われていた。白蘭とはもう何度もキスをしている。だが今までのキスの中で1番甘くて優しさの感じる物だった。


僕はそっと瞼を閉じようとした。だが突然感じた胸の痛みに、閉じかけていた瞼をそっと開き、視線を下に向けた。


白蘭の腕が、僕の左胸を貫いていた。彼の腕が引き抜かれた瞬間、僕は全身を走る痛みで立っていられなくなり、どさりと倒れた。



僕の想いは、僕の声は、もうあなたに届くことはないのでしょうか。あぁ、あなたと一緒にどこまでも行きたかった。



「びゃ、く…らん。」



僕は白蘭の方へと必死に腕を伸ばした。もう喋ることもできそうになかった。ならばせめて、彼の手を。僕のささやかな想いが通じたのか、それともただの気まぐれなのか、白蘭は膝をついて僕の手をそっと握った。痛みで視界が霞み、段々白蘭の顔がぼんやりとしてきた。僕は最後の力を振り絞ると、精一杯目を開けた。


そこには今にも泣き出しそうな、泣くのを我慢しているような、酷く歪んだ表情をした白蘭が居た。そして僕を見ている彼の頬に、一筋の涙が流れた…ような気がした。



白蘭、僕はあなたの心にーー



そこで僕の意識は、途切れた。





『骸君、僕も君のことを愛してた。愛していたよ。』






END





あとがき
たまにはシリアスを書いてみたいと思い立ちまして、見事に撃沈しました(^^;)私にはハードルが高かったです。


自分に向けられる愛が信じきれなくて、伸ばされた腕を振り払って、壊してしまった。そして本当に1人ぼっちになってしまうことに失って気付くことになる白蘭を目指したのですが、伝わりにくくてすみません;


書いてて思いましたが、やっぱり白骸は2人で笑い合っているのが1番ですね(^^)



色々有り得ない設定ですが、読んで頂きありがとうございましたv

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あきゅろす。
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