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きらきら煌めく
5555HITリクエストで夏祭りデートしています




今日は白蘭と地元の神社の夏祭りに出掛ける日だ。白蘭と付き合うことになって、初めてこういった場所に出掛けるので、骸は少しドキドキしていた。



玄関の壁にある鏡でもう一度自分の姿を確認する。そこには藍色の絞り染めの浴衣に身を包んだ自分が映っていた。そっと浴衣に触れてみる。2人で一緒に選んだ浴衣は、自分でも良く似合っているように思われた。


白蘭も浴衣を着てくると言っていたので、彼とお揃いだ…そう考えて骸は少しの恥ずかしさを胸に抱えて部屋を出た。白蘭との待ち合わせまであと少し。心も足取りも軽く弾んでいた。



*****
様々な屋台が立ち並ぶ神社の入り口が、待ち合わせ場所になっていた。骸自身時間より早く出ていたが、既に白蘭が先に来ていた。彼は白い浴衣の胸元を少しだけ寛げてネックレスを身に付けおり、彼らしい着こなしをしているようだった。


「こんばんは、白蘭。今日は誘って頂いてどうもありがとうございます。」

「……」

「あの、白蘭?どうかしましたか?」

「……」

「白蘭?」

「あっ、えっと…ごめん。骸君、今日髪結い上げててすっごく綺麗だから…見とれちゃった。」


白蘭の言葉に骸は頬が熱くなった。そうなのだ。せっかく浴衣を着たのだから、髪型もいつものように後ろで纏めたものではなく、アレンジを加えて結い上げてみたのだ。白蘭が気に入ってくれたので、良かったと骸は思った。慣れないことをするのは大変だが、白蘭が喜んでくれるのなら、いつもと違う自分を見せることも悪くはない気がする。そんな風に骸が思っていると、これ買ってきて良かった〜と嬉しそうな白蘭の声が届いた。白蘭の手には青い花があしらわれた簪が握られていた。


「骸君、後ろ向いて。これ挿したらもっと綺麗になるから。」

「それ、女性物の気がするんですけど…」

「細かいことは気にしない!ね?お願い。」


骸の返事も待たずに強引に、白蘭は骸の髪に簪を挿した。恋人のこういった性格は骸も良く理解しているので、彼の好きにさせてやることにした。


「うわぁ、やっぱりすごく良く似合う♪それに骸君のうなじ、とってもセクシーだよ。他の人に見せるのなんてもったいない!」


背中越しに白蘭の声を聞きながら、気恥ずかしさから、そうですか…と答えるので精一杯だった。



浴衣で夏祭り。そして白蘭がいつも以上に褒めちぎるというこの状況は、早くも骸に試練を与えていた。自分はこのまま最後まで普通でいられるのだろうか。自分の心臓が心配だった。



*****
土曜日で世間が夏休みということもあって、夏祭りにはたくさんの人が訪れていた。屋台が立ち並ぶ通りは人で溢れ返っていて、かき氷1つ買うのも大変というほどだった。


そんな中、白蘭は人ごみを器用にすり抜けて、綿あめを買ってきてくれた。彼に促されるように口に運ぶ。懐かしいような甘さが口にふわりと広がり、甘いですね、うん美味しいね、と2人で笑い合った。


次はヨーヨーすくいしてみたい〜と白蘭が言うので、骸は挑戦する彼の隣で、その様子をじっと見ていた。屋台の店主から釣り上げるひもを貰った白蘭が、真剣な顔でヨーヨーすくいに夢中になっていた。少年のようなその横顔は、彼には申し訳ないが可愛らしくて、骸は微笑みと共にその顔を見ていた。





「う〜ん、難しいもんだね。」

「ああいったものはコツが必要ですからね。」

「やっぱりそうだよね。取れなかったのは残念だけど、楽しかった。夏祭りって、ついついこういうものにお金使っちゃったりするんだよね〜。」

「ふふ、そうですね。でも僕もあなたも楽しんでいるのだから、良いではないですか?」

「僕ばっかりやってて、骸君何も遊んでないけど大丈夫なの?何かやりたいのがあったら言ってね。」

「大丈夫ですよ。」


僕はあなたが楽しんでいるその顔を見るだけで、とても嬉しい気持ちになるんです。だから別に平気なんですよ。その気持ちを込めて、骸は白蘭に優しく微笑んだ。



*****
骸は白蘭とそのまま通りを歩いていた。せっかくお祭りに来たのだから、屋台をじっくり楽しみたいと思ったのだ。通りの左右に目を向けていると、隣を歩いていた白蘭が耳打ちをしてきた。


「ねぇ、骸君。手、繋いでもいい?」

「な、何馬鹿なこと言ってるんですか!嫌です、恥ずかしい。」

「え〜、大丈夫だって。別に知り合いとか居ないし。ばれないよ。」

「嫌なものは嫌です。」

「ちぇっ、そこまで言われちゃったら…我慢するしかないかぁ。」


白蘭の申し出には断固拒否に決まっていた。手を繋ぐ?そんなことをしたら、恥ずかしさで確実に死ねるのではないかと思えた。白蘭には悪いが隣で一緒に歩くのでさえ、今でもドキドキすることだってあるのだ。今はまだ勘弁して欲しい。骸は心の中で白蘭にそっと断りを入れた。


少しだけ拗ねて先を歩いてしまった白蘭に追いつこうと、歩を速めた骸は足に走った痛みに思わず顔をしかめた。そのままその場にしゃがみ込んで自分の足、特に痛みがした指を確認した。浴衣に合わせて下駄を履いていたのだが、履き慣れていないせいで、鼻緒の部分で靴擦れを起こしてしまっていたようだ。


一旦意識し出すと、ズキズキと痛みが酷くなり、骸は少し休んでも良いか白蘭に尋ねようと、ゆっくりと立ち上がった。そしてそのままそこから動けなくなってしまった。何故なら、先ほどまで居たはずの白蘭がどこにも居なかったからだ。


「白…蘭。」


はぐれてしまった、白蘭と。辺りを見渡したが、たくさんの人が居るのに、白蘭だけが見付からなかった。どうしよう。どうしましょう。普段だったら走って白蘭を追い掛けることなど容易い。だが引きずる足では、そのようなことは無理だ。痛む足をゆっくり動かして白蘭を探す。なのに白蘭はなかなか見当たらない。骸は急に1人で居ることに心細さを覚えた。白蘭、どこに居るんですか?早く出てきて下さい。…すごく不安なんです。


白蘭を探すことや痛みのせいで、骸は周囲に注意が散漫していた。誰かと肩がぶつかったと思った時には、いかにも頭の軽そうな2人組に囲まれていた。


「痛っいなぁ〜。あれ?君、…女の子じゃないの?」

「男でも別に良くね?だってすげ〜綺麗だぜ。ねぇねぇ、良かったらさ、俺達とこれから一緒に遊ばない?」

「結構です。僕、人を探しているので失礼します。」


普段なら、一瞥することもなく、こんな頭の悪そうな輩など無視して通り過ぎるのだが、足の痛みや白蘭が居ない不安感からか上手く対応ができなくなっていた。連れなんていいじゃん、ほっといて行こうよ、と男達は骸の腕を強引に掴んだ。このままではどう考えても大変なことになる。



嫌だ、怖い。誰か……白蘭!




「僕の骸君に触るな。」


不意に背中から抱き締められた温もりを感じて、骸は息が止まりそうになった。


「白、蘭。」

「何だよ、お前。」

「俺達今イイとこなんだから邪魔すんなよ。」

「もう一度言わないと分からないのかな?…骸君に触るな。」


骸は抱き締められていたので白蘭の表情は分からなかったが、低く冷たい声だった。喧嘩して怒った時ですら、こんな声は聞いたことはなかった。白蘭の迫力に気圧されたのだろう。男達はそのまま後ずさるようにしてその場を去っていった。骸が安心するより先に白蘭は骸の目の前に移動して、顔を覗き込むように近付いた。


「ヘンなことされてない?」

「はい、大丈夫です。」

「そっか、良かった。でも僕、心配したよ。骸君急に居なくなっちゃうんだもん。携帯にも出てくれないし。」

「携帯…」


そうだった。自分は携帯を持っていたのだから、すぐに連絡すれば良かったのだ。だが、白蘭と離れ離れになって、携帯の存在を忘れてしまうほど動揺していたようだ。


「すみませんでした。迷惑を掛けてしまって。」

「何言ってるの!骸君は僕の大切な恋人なんだから。もっと頼っていいんだからね。」


優しく頭を撫でられて、骸は泣きたくなるほど切なくなったのだった。



*****
夜風に吹かれながら、骸は神社の境内へと続く石段に座っていた。そのすぐ横には白蘭が居て、水で濡らしたハンカチを骸の足の傷に当てていた。骸は自分でできると言ったが、白蘭は僕が手当てすると言って手際良くやってくれたのだった。


「今はこれくらいしかできないから、帰ったらちゃんと消毒とかしないといけないね。」

「…本当に今日はあなたに助けられてばかりで。」

「お姫様を守るのが僕の役目だもん。…そういえば、骸君を探している時に女の子達が話してるのを聞いたんだけどさ、この神社って伝説があるんだって。」

「伝説ですか。」

「うん。ずっと昔だけどこの辺りに住んでた貴族のお姫様が村の若者と恋人になって、一緒に夏祭りに行ったんだって。それで人が多くてはぐれちゃったんだ。だけど若者がちゃんとお姫様を見付けて。その後も2人は身分の違いも超えてずっとずっと一緒に幸せに暮らしたんだって。」


僕達もさ、はぐれてもちゃんと出会えたから、まぁ身分とかは関係ないけど、その伝説みたいにずっと一緒に居られると思わない?そう白蘭は嬉しそうに言った。


ずっとずっと一緒。


「そうですね、僕もあなたと、」


ずっと一緒に居られたら幸せです。骸はそう告げようとしたが、その言葉は打ち上げられた花火の音に遮られていた。


「あ〜、花火始まっちゃたね。」


白蘭が夜空を見上げるようにして呟いた。2人が座っている場所は、花火の場所から少し離れた神社の近くの為か人の気配はなく、周りも木々に囲まれていて花火も良く見えなかった。


「場所、移動します?ここでは花火が見えないでしょう?」

「駄目だよ。骸君、足怪我してるんだから。無理しなくていいよ。」

「ですが、せっかくの花火が…」

「そんなに見たいんなら、僕がおんぶかお姫様抱っこして連れて行ってあげようか。」

「全力で遠慮しますよ。…分かりました。無理はしません。」


花火を見たい気持ち以上に恥ずかしさが勝ったので、骸はそうまま座っていることにした。花火の音が遠くに感じるほど、自分達の周りは静かで、時折虫の声がするだけだった。


「…今日は本当にありがとうございました。簪を頂いたり、女性用というのはこの際目を瞑りますけどね。それに、はぐれた時見付け出して助けてくれましたし。今も傷の手当てをしてくれた。まぁとんだ夏祭りになってしまいましたがね。」

「僕、骸君を1人にさせて、怖い思いもさせちゃって、謝らないといけないんだけど。…でも僕の方こそありがとう。どんな形でも、また1つ骸君との思い出ができたんだ。すごく嬉しいよ。」


静かに笑う白蘭に骸も微笑み返した。家を出た時にはまさかこんなどたばたしたデートになるなど微塵も思っていなかったが、白蘭の言うようにこれも2人の思い出の1つになることは間違いなかった。


「あ、良いことを思い付きました。帰りにコンビニでも寄って、花火買いませんか?2人でやるのはどうです?」

「それいいね。賛成!仕掛けのあるやつとか線香花火とか、僕楽しみ。」


今すぐ買いに行ってもいいけどさ、少しだけ、そう言って白蘭が距離を詰めたかと思うと、優しく腕を回して骸を抱き寄せた。突然のことに驚いたが、自分を抱き締める腕があまりにも優しくて、骸はその腕から逃れることができなかった。


「人も居ないし、何か我慢できなくなっちゃった。ごめんね、あと少しだけ。」


白蘭の腕を解いて、花火を買いに行こうと立ち上がることもできた。白蘭に手当てされて、傷の痛みもすっかり引いていたからだ。だが、骸はそうはしなかった。自分も白蘭と同じ気持ちだった。


僕ももう少しだけ。もう少しだけこのままで居たいです。



白蘭の腕の中で、骸はじっとその優しさを感じていた。



愛しい人がくれる幸せな温もりに包まれていた。





END






あとがき
このお話は5555HITでサヤ様にリクエストして頂いた「夏祭り」を元に書かせてもらったものです^^


私の好きなようにやらせてもらいましたが、どこか少しでも気に入って頂けた所がございましたら嬉しい限りです(^^)

今回は夏祭りネタには多分定番であろう途中ではぐれてしまうシーンを入れました。王道で何の捻りもなくて申し訳ないのですが、個人的に王道大好きなんです(^O^)


そして骸には浴衣で髪をアップにしてもらいました。絶対似合うと思っています^^私は、浴衣+うなじ+後れ毛は夏の3種の神器と勝手に思っていますので、骸に体現してもらいました♪髪が長くて美人じゃないと無理ですが、骸なら何ら問題ないと思いますv



個人的な趣味に走ったものになってしまい、申し訳ないですが、リクエストして頂いて本当にありがとうございました(^▽^)

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