隣り合わせの恋 3
コンコンと、ドアをノックする音が部屋に響く。
…何ですか、日曜日の朝から。というか、確か前にもこんな事ありましたよね。あの時の失態を思い出し、鏡で髪や服装を整えてゆっくりと玄関へ向かう。
まぁ、多分彼だろう。何となくだが、あのノックの仕方は白蘭ではないかと思ったのだ。ドアを開けると、案の定そこには白蘭が立っていた。
「おはよ〜骸君。僕、今日久しぶりのお休みなんだよね。だからさ、一緒に土いじりしようよ!はい、これ。」
そう言って白蘭は僕に青いスコップを手渡す。よく見れば彼は手には軍手を嵌め、白いつなぎを着て、前髪を赤いヘアクリップでまとめていた。普段の彼からは想像もできないような格好だ。こんな白蘭を見たら、彼の指名客の女性達は驚いてしまうだろう。もしかして僕だけが彼の意外な一面を見られているのかもしれないと思うと、何だか不思議な気分だった。
「分かりました。ちょっと着替えてくるので、先に花壇に行ってて下さい。」
「は〜い♪」
白蘭は嬉しそうな顔をして階段を駆け下りていく。その顔があまりにもキラキラしていて、眩しかった。
*****
「大家のおじいちゃんに話してみたらさ、花壇好きに使っていいよって言ってくれたから、色々植えたいなぁと思って。」
白蘭はてきぱきと肥料を撒きながら、土を整えていき、この花どこに植えようかなぁ〜、と唸っている。
僕は花を見るのは好きだけれど、白蘭のように詳しい訳ではない。園芸の知識も人並み程度だ。だけど手際良く、楽しそうに花を植えている白蘭の姿を見るのは悪くないなと思った。
「これ、パンジーとビオラですね。」
僕は白蘭が植えていた花に目を落とす。知らない名前の花も植えられていたが、僕でも知っている花もあった。
「うん、今5月だし、ちょうどいいかなって。」
「それに、これはアネモネですね。」
僕が指を差すと白蘭もその花を見たが、一瞬だけ寂しそうな顔をした。
「…どうしたんです?」
「え、あぁ、…今の僕ってアネモネみたいだなぁと思って。」
「どういう意味です?」
「ううん、何でもないよ。独り言〜。あれ、骸君僕のこと気にしてくれるの?」
白蘭は嬉しそうに近付いてくる。…これは深く追及しない方が良いみたいですね。僕は彼を軽くあしらうと、
「いいから花の苗を貸しなさい。僕も植えますから。」
「は〜い、じゃあこれよろしくね。」
いつもの彼に戻ったようだ。僕はホッとして作業を続けることにした。
*****
2人で作業をしていたので、お昼過ぎには花を植え終わった。
「綺麗ですね。」
「うん、そうだね。」
2人並んで花壇の花を見る。様々な色が風に踊っていた。
「骸君、顔が土で汚れてるよ。」
白蘭はつなぎのポケットからタオルを取り出すと、僕の頬を拭ってくれた。
「…白蘭、あなたもです。」
僕も軍手をとって白蘭の頬に触れ、そっと土を払い落とす。
「くすぐったいよ、骸君。」
「我慢しなさい。」
2人とも同じように汚れていたのが何だかおかしくなって、僕らは小さく笑い合った。
*****
片付けも終えて部屋に戻ろうかという所で、白蘭が僕に何かを差し出してきた。
「これは…」
「スズランの花だよ。ちょうど花の苗を買った時に見付けて。どうしても骸君に渡したくって。」
「そうですか。どうもありがとうございます。」
白蘭からスズランの鉢を受け取る。小さくて白い可愛らしい花だった。
「今日は付き合ってくれてありがとね。とても楽しかった。」
「僕の方こそ、あなたと花を植えるのは存外楽しかったですよ。」
そうなのだ。白蘭と過ごして少なからず楽しいと感じる自分が居た。
少しずつだが、彼との関係が変化していっていることを僕は感じていた。
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